宮藤官九郎、ウーマンリブvol.15『もうがまんできない』2023年版に取り組む気持ちを語る
――新たに参加されるお三方についておうかがいできますか。
太賀くんにやってもらう「沢井」という役は、すごく自分が投影されています。客観的に見たら、「俺、こんないやな奴なところがあるよな」という(笑)。例えばライブの前はものすごくナーバスになって、相方にあたることで自分を保っているところとか、「俺たちが売れないのはお前に向上心がないからだ」と思わないと自分が人前に立てない、正当化できないとか。自分としては自分の正義でやっているんだけれど、でも、今思えば、それって青臭い考え方だなと思ったんです。だから、3年前は(柄本)佑くんに演じてもらったんですが、今回は、これから世に出ようと思ってるけどくすぶってるお笑い芸人というイメージで、若い役者にと思いました。太賀くんはそういうナーバスなお芝居がとてもいい。かわいげもあるし、暗くならないんですね。
絢斗くんとは一回舞台をやっていて、力いっぱいバカなことをやってくれるところがすごく好きです。初演では要(潤)さんが演じた「隅田」(※太賀演じる沢井の相方)の、黙っていればいい男に見えるけどしゃべると途端にバカっぽい、みたいな感じが合うんじゃないかなと。
皆川くんとは、いろんな舞台を一緒にやっていて、今回、松尾さんが出演できないとなったときに、皆川くんしかいないなと。僕と同い年の50代半ばで、これから父親としての哀愁みたいなものもやっていかなきゃいけないと考えると、悪くないんじゃないかなと思ってます。
■稽古場と本番のズレが好き
――ワンシチュエーションで進む物語です。
僕はもともと制約がない方が好きなんですが、世の中の人は、制約の上に成り立っている僕の作品をすごくほめるので、どちらが良いのかよくわからなくなってきています(笑)。
ワンシチュエーションの会話劇って、場面転換や演出の工夫ができないぶん、常に何かしら動いてないともたないから大変なんですけど、できあがった作品は毎日やってても飽きないんですよね。ギミックがないからその日の調子がダイレクトに出るし、セリフに頼るところも多いし、間とか、役者にかかる負担も大きい。2時間弱のお芝居だけど飽きなくて、役者としてはすごく好きなんです。もちろん、長い芝居じゃないとできない表現もあるとは思っています。ただ僕自身が昔、2時間駆け抜けて、お腹いっぱいになるようなお芝居をやってたので、歳をとってもそれはやり続けないとなと思うところもあって。
宮藤官九郎(撮影:三浦憲治)
――「ウーマンリブ」の稽古場はどんな感じですか。
僕、どこでもだいたい同じです。よく笑ってるけど、俺が笑ったからってお客さんが笑うとは限らないし。目の前で役者がおもしろいことをやってる中に入っていってあれこれ言ってる時間が好きなだけなんですよね。稽古場では毎日毎日同じくらい笑いたいから、そういう意味では役者さんは疲れるかもしれないです(笑)。
「ウーマンリブ」の稽古は特に、うち(大人計画)の役者さんが多いし、昔は稽古場でみんなずっと皆川くんの芝居観て笑ってたのに、本番になってみたら「あれ、お客さんは笑わないんだな」とかあったりして。でも、お客さんが全部稽古場と同じところで笑うようになったら、やっていく意味がなくなるんじゃないかって思うんです。稽古場と本番のズレが好きで、それは永遠にあってほしいズレなんですよね。伝わらなかった理由を考えて持ち帰ることで次につながるから。稽古場は、つまんないことや失敗しそうなこともあるけど、だめな自分を出せる場所、粗削りなものをおもしろがる場かなと思います。