バレンタインは、おそろコーデでハルカスへーー『アリス展』で開催中、バレンタインコーデ大賞参加者のSNS投稿を紹介、学芸員の解説も(2月14日更新)

レポート
アート
2023.2.14

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3月5日(日)まであべのハルカス美術館にて開催中の展覧会『アリス -へんてこりん、へんてこりんな世界-』。同展では、2月14日(火)までステッカーのプレゼントキャンペーンと「ベストカップル!バレンタインコーデ大賞」を実施している。そこで今回は、あべのハルカス美術館の横山志野学芸員の解説とともに、バレンタインコーデ大賞参加者のSNS投稿を紹介していく。(キャンペーン期間中、随時更新!)

まずこのページでは、横山学芸員の解説をお届けする。キャンペーン内容や参加者のSNS投稿は次ページへ。記事の最後には内覧会レポートと、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(以下、V&A)のダニエル・スレーター展示部門責任者のインタビュー記事も紹介しているので、あわせてチェックしてみてほしい。

約160年の時を経てもなお色褪せることのないアリスの魅力とは?

『不思議の国のアリス』は、ルイス・キャロル(本名チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)が、知人の娘アリス・リドゥルとその姉妹たちに即興で創作したお話が元になり、1865年に誕生しました。それ以来、ルイス・キャロルが紡ぎ出す幻想的な世界とそれに呼応するように描かれたジョン・テニエルの挿絵は、現在に至るまで人々の想像力を刺激し、児童文学の世界に留まらず、美術、映画、舞台、ファッションなどあらゆる分野のアーティストたちにも影響を与え続けています。

本展は、物語が誕生した背景と19世紀から現代にかけてさまざまな分野で表現されてきたアリスの世界を約300点の作品や資料、映像演出により紹介するものです。2021年、英国のヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で約20万人を動員した『Alice-Curiouser and Curiouser』の国際巡回展として日本にやって来ました。

初版が刊行されてから一度も絶版になることなく、現在では170以上の言語に翻訳される『アリス』の物語。人々を吸引し続ける魅力はどこにあるのでしょうか?

《ルイス・キャロルが紡ぎ出すへんてこりんな世界》

時間も空間もへんてこりん、急に身体が巨大化したり、登場する個性的なキャラクターたちは人間の言葉を流暢に話しちょっとグロテスク。数学者でもあったキャロルは、難解な言葉遊びやパズル、時に皮肉の効いたジョークを織り交ぜながら、アリスという少女が不思議の国で繰り広げる冒険の物語を創造力豊かに紡ぎ出しました。次から次へとアリスに襲いかかる奇想天外な出来事に読者は一喜一憂し、気が付くと自分も不思議の世界に迷い込んだような感覚を味わうことができるのです。ヴィクトリア朝に生まれた児童文学でありながら、国や時代をこえて共有できる面白さ、謎めいた魅力がアリスの世界にはあるのだと感じます。

そんなアリスの世界が、サルバドール・ダリなど20世紀初頭の急進的なアーティストたちの想像力も刺激する題材であったことをご存じでしょうか?夢や深層心理といった無意識の状態がもたらす偶然の力に、新たな創造の可能性を見たシュルレアリストたちは、まるで夢の世界に足を踏み入れた少女の、大胆でナンセンスな物語にアイデアの源を見出していったのです。1960年以降はサイケデリック文化とも結びつき、アリスの世界は更なる創造の翼を広げていきます。彼らが表現するアリスの世界が次世代のアーティストたちの想像力を刺激し、新たな創造を生み出していく……会場では、映画、アート、舞台、ファッションに至るまで、さまざまな分野で表現されてきたアリス作品を堪能することができます。進化を続けるアリスの世界は、きっと作品を鑑賞するみなさんの想像力も刺激してくれるはずです。

《主人公アリスの魅力》

『アリス』の物語には、行き先を指南してくれるやさしい大人も、一緒に冒険を楽しんでくれる仲間も存在しません。たった一人で冒険に挑むアリスに、不思議の国の住人たちは「お前は誰だ」と問い詰めたり、アリスの存在を否定したり意地悪な質問で彼女を困らせます。7歳の女の子が冒険するにはあまりにも不条理で厳しい世界。戸惑い不安を抱くのは無理もありません。しかしアリスが不思議の国で涙を流したのは一度だけ。次第に持ち前の好奇心を発揮し、自身のアイデンティティを探求しながら、この不条理な世界で戦う力を身につけ成長を遂げていくのです。

そんなアリスの姿は、いつの時代も人々の目に頼もしく映り、勇気を与える存在でした。ある時は、女性の地位向上を訴えるプロパガンダとして、またある時は、権力に立ち向かう人々とともに戦うヒロインとして。時代によって社会が抱える問題は異なります。人々はアリスを身近な代弁者に仕立て、さまざまな表現を生み出してきました。現代においては、ジェンダーや人種問題など自立や平等を訴え行動を起こす人々にも影響を与えているのです。

本展の最終章《アリスになる》では、「アリスのように好奇心、独立心、学ぶ心を持ちさえすれば、今日では誰もがアリスになれる」と来館者に語り掛けます。作品から放たれる躍動感や力強さは、それぞれが抱える課題と向き合い、現状から一歩を踏み出す勇気を持つことの大切さを教えてくれます。

ここ数年、私たちが生きる世界は一変しました。日常が当たり前でなくなる怖さ、不安や孤独を感じながら自分にできることを模索する日々。そんな世界で生き抜くためには、私たちも自身のアイデンティティを見つめ、アリスのように好奇心を抱き、学び、そして時に戦う勇気を持つことが必要なのだと感じます。今を生きる私たちがアリスに憧れを抱くのは自然な事なのかもしれませんし、勇気を持って一歩を踏み出しさえすれば、アリスはいつでも時空をこえて会いにきてくれるのです。

約160年の時を経てもなお色褪せることのないアリスの世界。本展でアリスの誕生から今日に至るまでの文化現象を辿ったのち、みなさんの心に勇気や好奇心が生まれ、新たな発見や創造の世界が広がっていくことを願っています。

文=横山志野(あべのハルカス美術館 学芸員)

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