牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』初顔合わせの光永&水井ペアにインタビュー~等身大の掛け合いに期待

2023.2.11
インタビュー
クラシック
舞台

水井駿介、光永百花

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2023年2月17日(金)・18日(土)・19日(日)の3日間、文京シビックホール(東京・文京区)で牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』公演が行われる。バルセロナの街を舞台に、キトリとバジルのカップルを中心に繰り広げられるコメディで、登場人物たちの生き生きとした掛け合いや民族舞踊、バレエならではの大技の応酬、チュチュをまとった華麗で幻想的なコールド・バレエなど、バレエの醍醐味がぎゅっと詰まっている演目だ。

今回バレヱ団では青山季可&清瀧千晴(17日)、阿部裕恵&大川航矢(18日)、そして光永百花&水井駿介(19日)の3キャストによる3公演を上演する。主演の光永をはじめ、森の女王やキューピッドなど、随所に初役も配された、熟達の技と若々しいエネルギーが融合する舞台が期待できそうだ。そこで今回は『ドン・キホーテ』本公演初主演の光永と水井の両名に話を聞いた。(文章中敬称略)

 

■ペアとしては初顔合わせ。新鮮な相乗効果に期待

 

――光永さんは『三銃士』(2019年)や『くるみ割り人形』(2022年)、子ども向けにアレンジした『ドン・キホーテ』公演(2019年)での主演や、『アルルの女』(2021年)のヴィヴェットなどを踊られましたが、本公演の『ドン・キホーテ』では今回が初めての主演ですね。

光永 子ども向けの公演では、実は牧阿佐美先生が「百花はキトリが似合うと思う」と仰ってくださっての抜擢だったと聞いています。その頃は入団して3年目くらいで、セギジリアやファンダンゴなど、コールド・バレエを学んでいたときでした。キトリは子ども向けのアレンジ版とはいえ、初めていただいた大きな役であること、また牧先生に似合うと仰っていただいたことがとても印象に残っています。きっと今回も先生は天上からご覧になっていると思うので、気を引き締めてしっかり踊りきりたいと思います。

――水井さんは2022年秋に行われた地方公演でバジル役のデビューを飾り、東京の本公演では今回が初めての主演となりますね。

水井 地方公演では(青山)季可さん、(阿部)裕恵ちゃんがパートナーで、今回の百花ちゃんはまたタイプが違うため、ゼロから構築してリハーサルしている感じです。みんなそれぞれ踊り方とか、音の取り方や間の使い方など魅力や個性も違う。百花ちゃんはパッと目を引くものがあるので、細かいところを突き詰めながら、うまい具合に相乗効果を狙っていければいいなと思います。

実は百花ちゃんとは今までガラなどでも組んだことがなく、今回初めて組むんですよ。だから互いにパートナーとしては全然未知数なんです。裕恵ちゃんや季可さんとはこうきたらこういう感じかなっていうのをある程度頭に描きながらリハーサルを進めていけるけれど、今回は全く新しい感じなので、とても面白く、毎回フレッシュさを感じます。

光永 私は今回、駿介君と組ませていただいて、見直すことが本当に多いです。今まではどちらかというと内面の表現を優先しがちだったので、今回は基本に立ち返りながらリハーサルを進めています。

撮影:山廣康夫

 

■『ドン・キホーテ』という作品の想い出。バリシニコフとルグリ、両極の「バジル」に刺激を受ける

 

――『ドン・キホーテ』はバレエダンサーであれば、バレエ教室に通われていた頃から様々な形でふれてきた作品ではないかと思います。それぞれの『ドン・キホーテ』についての想い出を聞かせていただけますか。

水井 男性にとって「バジル」はもう憧れの役の一つなんですよね。とにかくカッコイイし、男性ダンサーの見せ場も多く、「バジルを踊りたい!」と思うバレエ男子は多いと思います。

僕が小学生の時にずっと見ていたのはバリシニコフや熊川哲也さんのバジルだったので、『ドン・キホーテ』というと、そのイメージがすごく強いんです。

またウィーンに留学していた時、当時は(マニュエル・)ルグリさんが芸術監督だったので、ヌレエフ版の『ドン・キホーテ』を上演していたんです。その時、僕は舞台には出ていないのですが、リハーサルに参加させていただいたことがありました。その時に見たヌレエフ版のバジルは、僕がずっと見てきたバリシニコフや熊川さんのバジルとはまた違う魅力があり、おしゃれで、音楽の使い方もキレがあるというよりは、とてもエレガントだったんです。これもまたすごくかっこいいなぁと思いました。
だから『ドン・キホーテ』という作品については、このふたつが、僕にとってはとても印象に残っています。

――そうしたなかで、水井さん自身のバジル像は。

水井 昨年の地方公演ではそのままの自分――今の自分の精神年齢や身の丈に応じたものを出していった感じです。でも今回百花ちゃんと組むに当たって、自分の精神年齢よりもちょっと上の、色気のあるようなバジルを目指していきたいなというのはあります。百花ちゃんと最初のリハーサルをした時に、そう思ったんです。理屈でもなんでもなく、直感かもしれません。

 

■強烈だったザハロワの「赤」。パケットやオニールの踊りを間近に体験

 

――光永さんのキトリ、あるいは『ドン・キホーテ』の想い出は。

光永 小さい頃、バレエ雑誌を読んでいた時に見た、スヴェトラーナ・ザハロワさんが真っ赤な衣装を着てアティチュードをしている写真がすごく強烈でした。いったいこの演目は何だろうと思って調べてみたら、『ドン・キホーテ』のキトリでした。そしてバレエを習っていくうちに、キトリの一幕のヴァリエーションを自分で練習したり、お教室の先生にも「キトリが似合うから」と言っていただきコンクールにはキトリで出場したりと、昔から関わってきた作品になりました。

また京都のバレエ専門学校に通っていた時に、パリ・オペラ座の方と一緒に舞台で踊る機会がありました。その時の主演ゲストがカール・パケットさんとエロイーズ・ブルドンさん。お二人の生のやり取りやリハーサル、本番の舞台裏も見られるというとても貴重な経験ができました。

その後の2016年、京都にもう一度カール・パケットさんと、オニール八菜さんがいらっしゃって『ドン・キホーテ』を上演した時、私は森の女王を踊らせていただきました。オニール八菜さんと夢の場で、隣で並んで踊るという、これもまた貴重な経験をさせていただきました。

今回はパリ・オペラ座のオーレリー・デュポンさんの映像などを参考に、ちょっと大人っぽく演じたいと思っています。

 

■街がそのままにある、すべてが馴染むセットや衣装。登場人物の掛け合いなどにも注目

 

――牧阿佐美バレヱ団の『ドン・キホーテ』の魅力について教えてください。

水井 バレヱ団の『ドン・キホーテ』のセットはとても大きいんです。1幕のバルセロナなんて本当に街の中にいるような感じがするんですよ。また衣装も細かいところまでこだわって作られていて、それがセットと馴染んで、主張しないけれど綺麗で、全体的に品がある。舞台装置も含めていろいろなものが馴染んでいて、本当に街がそこにあるっていう感じなんですよね。

光永 1幕広場の舞台のセットが本当に2階建てになっているんです。2階に登れて、そこで演技をしていたりするので、空間が立体的に見えます。

私はこの作品の、全体を通して振付が音に合っていてまとまりがあるところがとても好きです。キューピッドをはじめ子役もかわいらしいし、2幕の夢のシーンはガラッと変わって幻想的で美しくて、3幕はキャラクターが多く登場し華やか。そういう場面ごとの魅力も見ていただけたらなと思います。

水井 バジルとキトリだけでなく、いろんな役柄の人が活躍するので、そういうところに注目してもらっても面白いと思います。エスパーダ、森の女王、キューピッド、キトリの友人、ドン・キホーテ、ガマーシュやサンチョ・パンサなど、いろんなところにキャラクターの個性が出ていて、そのみんなが物語を展開する。初役の方々もいるし、目が一つじゃ足りないくらいです。

撮影:山廣康夫

 

■キトリとドルシネア姫の踊り分け。観客の期待をさらに越えるバジルを魅せる

 

――キトリ役はドルシネア姫との2役を踊りますがその点については。

光永 役の心情はもちろん、装置や音楽、物語も含めた全ての雰囲気を壊さない踊り方をしなければならないので、そこも含めて踊り分けができればと思っています。今回は今までと会場の規模も空間も違う。体力も相当準備しておかないといけないかなと思っています。

撮影:鹿摩隆司

――バジル役について踊り方、見せ方で考えていることは。

水井 バジルの3幕のヴァリエーション――ソロの部分はとても有名ですが、実はパートナーと踊るところが多いので、全幕ではキトリとの掛け合いに重点をおいてリハーサルをしています。全幕を通してバジルとキトリの人間模様があり、最後のグラン・パ・ド・ドゥで華やかに盛り上げていけたらなと思っています。

地方公演では初めてバレエをご覧になるお客様も多かったのですが、東京公演にいらっしゃるお客様は何度もバレエを見ている方も多く、次に何が来るかわかっていらっしゃる。ヴァリエーションの前などは、お客様の期待感という独特の空気もあります。

――そういうお客様の期待感は、踊っていてわかるのですか。

水井 僕自身がお客様の立場になると、やはり「来るぞ来るぞ」と期待してしまうので(笑) そうしたお客様の気持ちもわかるから、僕も期待に応えたいと思うし、そういうふうに持っていかなければと思うし、さらにその期待を越えていくようにしていかないと、きっとお客様も物足りないだろうなと思うんです。
よく知られている演目は、そうした客席の期待をどれだけ越えていけるかというのも大変な作業であり、ダンサーの課題かなと思います。そのためにはやはり日々の稽古しかないし、積み重ねだなと思います。

今回は3公演が組まれていますが、振付が変わるわけではないけれど、踊る人や見る人の気持ちなどで違ったり変わって見えたり、オーケストラのテンポやその日その時の空気感など、同じ舞台は何ひとつない。3公演3キャスト、みんな違うと思います。

光永 できれば全キャストを見て楽しんでいただきたいです(笑)。

撮影:鹿摩隆司

 

■内側から出てくる自然な表現を目指して

 

――光永さんは今回演技面で心掛けていこうとすることは。

光永 表現を内側から出すことに気をつけてみようと思っています。三谷先生からもアドバイスをいただいたのですが、内側から出るナチュラルな、溶け込めるような演技にしたいなと思います。

以前『アルルの女』のヴィヴェットを踊った際に、振付スーパーバイザーのルイジ・ボニーノさんに「踊り一つひとつには全てに感情があるんだ」というアドバイスをいただきました。そういったことを自然にできるようになれば、1人の役になりきれるんじゃないかと思うんです。目標が高すぎるかなとは思いますが。

――上を目指すのは全然ありだと思います。牧先生の指導で印象に残っている言葉などは。

光永 阿佐美先生にいただいた大切な言葉の一つに「リハーサルをしてできないことがあったら、できるまで帰ってはダメ」というのがあるんです。
最初は「そんなこと言われても、1日でできるはずがない」と思っていたんですが、でも「できないものには理由があるのだから、そこを突き詰めてからお稽古場を出なさい」という意味だったのかなって。

水井 「違うわよ。勝手に解釈しないでよ」って今、天で仰っているかもしれない(笑)。

光永 仰っているかもしれないね(笑)。

――すぐそこに先生がいらっしゃるような感じがしますね。ありがとうございました。

撮影:鹿摩隆司

 

取材・文=西原朋未

公演情報

牧阿佐美バレヱ団
「ドン・キホーテ」(全幕)

■日時:2023年2月17日(金)18:30、18日(土)15:00、19日(日)14:30
■会場:文京シビックホール 大ホール
■指揮:末廣 誠
■演奏:東京オーケストラMIRAI
■演出・改訂振付:アザーリ・M・プリセツキー、ワレンティーナ・サーヴィナ(プティパ、ゴルスキー版に基づく)
■音楽:レオン・ミンクス
■美術・装置:川口直次
衣装:川口弘子
■出演:
17日(金):青山季可(キトリ)、清瀧千晴(バジル)
18日(土):阿部 裕恵(キトリ)、大川航矢(バジル)
19日(日):光永百花(キトリ)、水井駿介(バジル)
牧阿佐美バレヱ団