市川團十郎『若き日の信長』会見レポート~父から受け継いだ祖父の当り役で5月歌舞伎座公演「十二世市川團十郎十年祭」へ

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2023.4.27
市川團十郎

市川團十郎

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歌舞伎座の5月公演『團菊祭五月大歌舞伎』で、『若き日の信長』が上演される。戦国武将の織田信長が、うつけ者呼ばわりされていた、若い頃の孤独や葛藤を描くドラマだ。「十二世市川團十郎十年祭」と銘打ち、市川團十郎が信長を勤める。

「大佛次郎先生が祖父・十一代目市川團十郎にあてて書き下ろした作品です。祖父の代表作であり、父から教わった作品。十年祭にふさわしいのでは、とのお話をいただき上演することとなりました」

團十郎が会見に登壇し、父への思い、作品の見どころを語った。

■父・十二世團十郎は明るく大らかな人だった

十二世團十郎が逝去して10年。その人柄を明るく大らかな人だった、とふり返る。

「親になると、あれをしなさい、これをしなさい等、つい言いたくなるものです。しかし父は必要以上には言わない人でした。言わないことの大変さを、教えてくれたと思います。深くものを考える人でした」

『若き日の信長』を十一世團十郎から受け継ぎ、十二世團十郎が信長を初めて勤めた公演では、大佛次郎が「歌舞伎役者は神経質ではいけない。明るく大らかな方が大成する。彼は大らかで明るい。十二代目團十郎の信長に期待している」と言及したという。團十郎は「どんな時代にもその時代に必要な團十郎が現れる。初代も二代目もそうでした。父もまた、そのように團十郎を生きたと私は思っています」と振り返る。

團十郎は昨年11月、12月の襲名披露興行を機に、「走馬灯のように」父との記憶がよぎることも多かったと明かす。よく思い出したのは『勧進帳』の弁慶、『助六由縁江戸桜』助六を習った頃のこと。

「弁慶の初演の時は、(南座に出演中の)父に教わるため京都へ行きました。若かった自分は、当時父の言葉を分かりきれていなかったところもありました。45歳になり、3月に巡業(『十三代目市川團十郎白猿襲名披露巡業』として全国15都市)で『勧進帳』をやっていて、ふと“こういう事を言っていたのかな”と感じたりもします」

『若き日の信長』には、信長の父親の法事が執り行われる場面がある。「大勢が集まり念仏を唱えて、かしこまってやっている。けれども信長は、そのようなかしこまったものはいらない。ひとり心の中で偲ぶことが一番大事なのだ、と考えています。私もそのような考えを持っています」と思いを重ねていた。

■『若き日の信長』、今にフィットした古典として

團十郎は幼い頃から祖父の『若き日の信長』に触れていたこともあり、「子どもの頃から信長には親近感を抱いていました」と明かす。本作で信長を演じるのは、新之助時代から数えて4回目だ。

「昭和27年、大佛先生は、祖父の信長だけでなく、他の役も当時の俳優にあて書きされて、この芝居を作られました。内容が素晴らしいのはもちろん、時代時代の素晴しい先輩方がなさってきました作品です。でも、あらためて台本を読むと、祖父の時代、父の時代には早すぎた。私がやらせていただいた時でさえ早かったのではないか。それほど先を見通した作品だということです。全人類がコロナ禍を経験し、皆様が触れる情報量が増え、考えが深まった今なら、時代にフィットした古典としてご覧いただけるように思います」

タイトルの通り、信長の若い頃にフォーカスしたドラマになる。信長の魅力を次のように語る。

「彼の原点は、若い時期に集約されています。大成してくると、周囲はその人の話をよく聞くようになりますが、大成する前は『やめておけよ』『上手くいかないよ』と言われることが多いもの。若い頃の信長も、うつけ者や野武士など散々の言われようでした。けれどもそれは、周りの人々が自分の物差しでは測りきれない信長を、うつけと錯覚してしまってのことだったのではないでしょうか。信長はそれでも桶狭間の戦いへ突き進んでいきました」

戦国武将の中でも、特に高い人気の信長。「信長は、時代にあわせてイメージが常に変化する、稀有な人物です」と分析。團十郎もTVドラマで2度、信長を演じた。他の俳優による信長への感想を求められると、「大河ドラマでは、やはり高橋幸治さん(1965年『太閤記』、1978年『黄金の日日』)の信長。当時の信長像として、つかみきれないほどの大きさを魅力的に表現されていました。その後、信長の大きさを説明しようとする時代があり、見せないようにする時代もあった。皆さんがそれぞれにお考えになった信長を拝見するのは、やはり楽しいです。時代にあわせて各々が理想とする信長を追いかけ、新しい信長像を作るんですね」

歌舞伎座新開場十周年『團菊祭五月大歌舞伎』昼の部『若き日の信長』

歌舞伎座新開場十周年『團菊祭五月大歌舞伎』昼の部『若き日の信長』

先日公開された特別ポスターには、柿を握った信長の姿が載っている。父から柿の食べ方も教わったことを明かし、「祖父はかたい柿を用意させていたのですが、ある日本物の柿を用意できなかったのか、かじってみたら和菓子だったことがありました。祖父はこれに怒り、劇場にこなかったとか」と今では笑える逸話を披露。「私も生の柿がいいんですが……どうなりますか?」と関係者に目線を送ったので、記者たちはさらに笑いに包まれた。

團十郎の『若き日の信長』は、歌舞伎座で2023年5月2日(火)から27日(土)まで昼の部での上演。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

歌舞伎座新開場十周年
『團菊祭五月大歌舞伎』
■日程:2023年5月2日(火)~27日(土) 【休演】10日(水)、17日(水)
■会場:歌舞伎座
 
<昼の部> 午前11時開演
 
一、寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)

工藤左衛門祐経 中村梅玉
曽我五郎時致 尾上松也
曽我十郎祐成 尾上右近
小林朝比奈 坂東巳之助
化粧坂少将 坂東新悟
八幡三郎 中村莟玉
梶原平次景高 中村吉之丞
近江小藤太 中村亀鶴
梶原平三景時 大谷桂三
鬼王新左衛門 大谷友右衛門
大磯の虎 中村魁春


十二世市川團十郎十年祭
大佛次郎 作
守屋多々志 美術原案

二、若き日の信長(わかきひののぶなが)

織田上総之介信長 市川團十郎
木下藤吉郎 市川右團次
弥生 中村児太郎
五郎右衛門 市川男女蔵
甚左衛門 大谷廣松
監物 市川九團次
林美作守 片岡市蔵
僧覚円 市川齊入
林佐渡守 市村家橘
平手中務政秀 中村梅玉
 
今井豊茂 脚本
尾上菊五郎 演出

三、音菊眞秀若武者(おとにきくまことのわかむしゃ)
岩見重太郎狒々退治
初代尾上眞秀初舞台


岩見重太郎 初舞台尾上眞秀
弓矢八幡 尾上菊五郎
長坂趙範 尾上松緑
藤波御前 尾上菊之助
大伴家茂 市川團十郎
渋谿監物 坂東彦三郎
趙範手下鷹造 坂東亀蔵

腰元梅野 中村梅枝
村の若い者萬兵衛 中村萬太郎
同 光作 坂東巳之助
同 佑蔵 尾上右近
重臣布勢掃部 市川團蔵
局高岡 中村時蔵
重臣二上将監 坂東楽善
 
 
<夜の部> 午後4時開演
 
一、宮島のだんまり(みやじまのだんまり)
 
傾城浮舟太夫実は盗賊袈裟太郎 中村雀右衛門
畠山庄司重忠 中村又五郎
典侍の局 中村梅枝
悪七兵衛景清 中村歌昇
相模五郎 中村萬太郎
大江広元 尾上右近
白拍子祇王 中村種之助
御守殿おたき 中村歌女之丞
浪越采女之助 中村東蔵
平相国清盛 中村歌六
 
萩原雪夫 作
守屋多々志 美術原案

二、春をよぶ二月堂お水取り達陀(だったん)
 
僧集慶 尾上松緑
青衣の女人 中村梅枝
幻想の集慶 尾上左近
練行衆 片岡市蔵
同 中村松江
同 中村歌昇
同 中村萬太郎
同 坂東巳之助
同 坂東新悟
同 尾上右近
同 大谷廣太郎
同 中村種之助
同 中村児太郎
同 中村鷹之資
同 中村莟玉
同 中村玉太郎
同 市村橘太郎
同 中村吉之丞
堂童子 坂東亀蔵
 
河竹黙阿弥 作
三、梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)
髪結新三
 
髪結新三 尾上菊之助
弥太五郎源七 坂東彦三郎
手代忠七 中村萬太郎
お熊 中村児太郎
車力善八 尾上菊市郎
下剃勝奴 尾上菊次
家主女房おかく 市村萬次郎
家主長兵衛 河原崎権十郎
加賀屋藤兵衛 中村錦之助
後家お常 中村雀右衛門
 
 
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