「新しいサイコパスヒーローが誕生してしまった」[Alexandros]川上洋平、夢見る少女が凶暴なシリアルキラーへ変貌していく様を描いた『Pearl パール』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】
『Pearl パール』より
■「もしかしたら自分にもこういう要素があるのかもしれない」と深層心理を試されるところに醍醐味がある
僕が思うのはシリアルキラー映画って、「なんて酷いことをするんだろう」って思いながらも、「もしかしたら自分にもこういう要素があるのかもしれない……」と深層心理を試されるところに醍醐味があると思っているんです。『Pearl』もそこがしっかり味わえました。
──そうですよね。
『アメリカン・サイコ』もそうだけど、殺戮シーンがぶっ飛びすぎてて不謹慎だけどちょっと笑ってしまう過剰さがあるんですよね。引かれると思うけどさ。
──わかります。『X』も笑えましたけど(笑)。
おー、同志ですね(笑)。前作の『X』は何の予備知識もなく見始めて、しばらくして違和感があったんですよね。その後どこかのタイミングで、「主人公と老婆が一人二役やん!」って気付いた時にゾワッとしました。でも映画を見終わってもまだもやもやした感じがあって。そうしたら3部作だってことを知って合点がいきました。あまりにもまだ説明されていない箇所があったし、エンディングはまだまだ続きがありそうな雰囲気がありましたから。例えば『スター・ウォーズ』的な感じ。
──サーガ的な。
そう(笑)。その空気はありましたね。
──そうですよね。『X』で若者たちが牧場でポルノ映画を撮影するわけですけど、それを恨めしそうに覗いていた老婆=パールは若い頃、映写技師にポルノ映画の走りであるスタッグフィルムを見せられ、「いずれこの映画は合法化され、ビジネスになる」と伝えられる。そこも伏線でしたね。
確かに。あと、パールが涙を流すシーンがありますけど、マスカラが滲んていてちょっとジョーカーぽいなって思ったのは僕だけでしょうか。
──確かに!
さすがにオマージュとかではないだろうけど、ピエロを表しているのかもね。
──あそこがスイッチが切り替わった瞬間なのかもしれないですね。
うん。映画に出てくる殺人鬼って、悪いことをしてるんだけど、どこか魅力的。ダークヒーロー的なところがありますよね。
──そうですよね。魅力的な悪役ランキングみたいな企画もよくありますから。ジョーカーもそうですけど、ハンニバル・レクターとか。
大好きですね。『アメリカン・サイコ』のクリスチャン・ベールもエロティシズムを感じるし。ミア・ゴスもそういう魅力を持っていますよね。だから、新しいダークヒーローならぬ、サイコパスヒーローが誕生してしまったなと。ラストのずっと笑ってるシーンもすごく不気味だった。あれは歴史に残るエンディングだわ。
──ジョーカーも笑いがキーになってますからね。
ね。ちなみに、海外の映画サイトによると、「パールのわかりやすい作り笑顔は、誰でも仮面をつけていることのメタファー」って書いてありますね。
──ああ、なるほど。
やっぱりジョーカーのオマージュ?(笑)。いや、そんなことはないな。というのも『Pearl』はどちらかというと『オズの魔法使い』のオマージュですよね。カカシとのダンスシーンとかめっちゃ不気味で素敵だったな。そして、ミア・ゴスはすごい役者だなと思いました。かわいいけど怖い。
──脚本とエグゼクティブ・プロデューサーとしても参加しているので、ミア・ゴスありきの映画って感じですよね。
間違いなく代表作ですよね。そして新たなるサイコパスキラーの金字塔。令和のサイコパスヒーロー、ここに誕生。
取材・文=小松香里
※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!
上映情報
監督:タイ・ウェスト/脚本:タイ・ウェスト、ミア・ゴス/出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ
あらすじ:スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、敬虔で厳しい⺟親と病気の⽗親と⼈⾥離れた農場に暮らす。若くして結婚した夫は戦争へ出征中、⽗親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの⽇々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相⼿にミュージカルショーの真似事を⾏うのが、パールの束の間の幸せだった。ある⽇、⽗親の薬を買いに町へ出かけ、⺟に内緒で映画を⾒たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、町で地⽅を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、⺟親に「お前は⼀⽣農場から出られない」といさめられる。⽣まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の⽗が⾒る前で、⺟親に⽕をつけるのだが──。
配給:ハピネットファントム・スタジオ
7/7(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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アーティストプロフィール
ロックバンド[Alexandros]のボーカル・ギター担当。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を手がける。毎年映画を約130本以上鑑賞している。「My Blueberry Morning」や「Sleepless in Brooklyn」と、曲タイトル等に映画愛がちりばめられているのはファンの間では有名な話。
ツアー情報
5月17日(水)神奈川 KT Zepp Yokohama w/SUPER BEAVER
5月18日(木)神奈川 KT Zepp Yokohama w/Vaundy
5月26日(金)北海道 Zepp Sapporo w/WurtS
6月14日(水)福岡 Zepp Fukuoka w/Creepy Nuts
6月15日(木)福岡 Zepp Fukuoka w/マキシマム ザ ホルモン
6月22日(木)大阪 Zepp Osaka Bayside w/yama
6月23日(金)大阪 Zepp Osaka Bayside w/WANIMA
6月29日(木)愛知 Zepp Nagoya w/WANIMA
6月30日(金)愛知 Zepp Nagoya w/go!go!vanillas
全会場 OPEN 17:30 / START 18:30