『ルーヴル美術館展 愛を描く』が京都で開幕ーー欲望から慈愛まで、73点の作品から様々な愛を知る

レポート
アート
2023.7.19
ルーヴル美術館展 愛を描く

ルーヴル美術館展 愛を描く

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6月27日(火)から、京都市京セラ美術館にて『ルーヴル美術館展 愛を描く』が開催中だ。同展覧会は、今年3月から6月まで国立新美術館で行われた東京会場からの巡回展。「愛」をテーマに、73点の作品がフランス・パリのルーヴル美術館より来日した。言わずと知れた世界最大級の美術館の珠玉の作品が国内では4年ぶりに観られるとあって、東京展では45万人の来場者数を記録。今回SPICEでは、一般公開に先駆けて行われたプレス内覧会と開会式の模様をレポートする。

『ルーヴル美術館展 愛を描く』

『ルーヴル美術館展 愛を描く』

テーマは「愛を描く」

京都市京セラ美術館 青木淳館長

京都市京セラ美術館 青木淳館長

メディア内覧にあたり、京都市京セラ美術館の青木淳館長が挨拶。青木館長は「2020年のリニューアル前までは美術館の本館で展覧会をしておりました。今回は新館の東山キューブも使い、倍の広さになりました」と話す。現に、ひとつの部屋に数点の作品が十分な間隔を伴って展示されているため、ゆったりと観やすい構成となっていた。

テーマは「愛を描く」。「時代によって、あるいは画家やそれを観る人たちの愛に対する関心や気持ちによって、考えていることが変わってきますよね。絵画の歴史もそう。特に愛の始まりと終わりがクローズアップされている。非常に面白く、色々考えさせられる展覧会だと思います」と、愛の持つ複雑さや多様性を示唆して挨拶を終えた。

ルーヴル美術館 絵画部門学芸員や京都市長も出席した開会式

本館・光の広間で行われた開会式には、門川大作 京都市長、読売テレビ 大橋善光代表取締役社長、ルーヴル美術館 ソフィー・キャロン絵画部門学芸員、野村證券 コーポレート・ファイナンス担当 竹平健一執行役員らをはじめ、協賛企業の代表者や来賓が登壇。

門川大作 京都市長

門川大作 京都市長

門川市長は、今年は京都市とパリ市が友情盟約を締結して65周年にあたるとして「待ちに待ったルーヴル美術展。愛をテーマにしたことに、嬉しく心強く感じております」と喜びを口にした。また今年3月に文化庁が全面的に京都に移転したことに触れ、「150年ぶりに京都が日本の文化の核になる。文化を通してより世界から憧れられるように、京都もしっかりと皆さんと一緒に役割を果たしていきたいと決意を新たにしております」と意気込んだ。本展覧会については「長引いたコロナ禍、孤立、孤独、世界は分断。様々な社会課題が顕在化しております。そうした時に、本当に人類の大切なテーマである愛を多くの方にご覧いただいて、より良い社会を作っていきたいと改めて実感いたしました」と挨拶を締め括った。

読売テレビ 大橋善光代表取締役社長

読売テレビ 大橋善光代表取締役社長

読売テレビ 大橋善光代表取締役社長はビートルズの「All You Need Is Love」を引き合いに出し「今世界中が愛に飢えている。愛の本場のフランスからたくさん愛を運んでくださって、私たち関西の人間がその愛を受け止められる、そんな美術展かなと楽しみにしております。素晴らしい絵画の中に、私なりに愛を探したいと思いますので、皆さんもぜひ探してみましょう」と述べた。

ルーヴル美術館  ソフィー・キャロン絵画部門学芸員

ルーヴル美術館 ソフィー・キャロン絵画部門学芸員

続いて本展覧会の学術監修を担当した、ルーヴル美術館のソフィー・キャロン 絵画部門学芸員が挨拶。本展では「西洋の方たちの眼差しの歴史をご紹介したいと思いました。その眼差しは、ギリシア神話やキリスト教で語られる欲望と衝動、誘惑と策略などに気づかせてくれます。この傑出した展覧会の意図を示すために、ルーヴル美術館の主要作品が運ばれてきました。ヨーロッパの国々のあらゆる時代、あらゆるスタイルの作品を通して愛を語ります。ルーヴルとその名品を愛する皆様にとって、美しく、そして心に残る展覧会となりますことを願っております」と、関係者への感謝とともに展覧会の意図を語った。

野村證券 コーポレート・ファイナンス担当 竹平健一執行役員

野村證券 コーポレート・ファイナンス担当 竹平健一執行役員

野村證券 コーポレート・ファイナンス担当 竹平健一執行役員は、生でアートに触れる感動を述べ、「我々が生きていく上で愛は力になると思っております。この展覧会を通じて、混迷の時代だからこそ愛を持って、次の時代、次の幸せにつながるような機会にしていきたいと考えております」と力強く挨拶を終えた。

テープカットの様子

テープカットの様子

その後全員でテープカットを行い、いよいよ『ルーヴル美術館展 愛を描く』が開幕した。

プロローグ「愛の発明」

ここからはソフィー・キャロン学芸員による解説も交えつつ、各章の内容を紹介しよう。

フランソワ・ブーシェ「アモルの標的」1758年

フランソワ・ブーシェ「アモルの標的」1758年

展示室に足を踏み入れると1番最初に出迎えてくれるのが、フライヤーのビジュアルにも使われているフランソワ・ブーシェの「アモルの標的」。可愛らしいキューピッドたちがおおらかな筆致で描かれている。

ヨーロッパ世界は、古代ギリシア・ローマとキリスト教というふたつの大きな源流を辿ることができる。ルネサンス以降の西洋の画家たちは、古代神話、聖書や聖人伝から題材を得ながら、愛という複雑な感情を絵画に表現した。

プロローグ「愛の発明」では、これらふたつの文化における「愛の起源」の象徴的な表現を観ることができる。ギリシアの哲学者が分類した愛の概念のひとつが「エロス(性愛・恋愛)」。愛を司る神は、ギリシア神話ではエロス、ローマ神話ではキューピッド(またはアモル)の名で呼ばれた。「アモルの標的」には、キューピッドが放った矢により、道徳的に正しい愛が誕生した瞬間が描かれている。

ピーテル・ファン・デル・ウェルフ「善悪の知識の木のそばのアダムとエバ」1712年以降

ピーテル・ファン・デル・ウェルフ「善悪の知識の木のそばのアダムとエバ」1712年以降

キリスト教における愛の起源は、旧約聖書の「創世記」で神が最初につくった夫婦・アダムとエバ。子孫繁栄の意味合いが大きく、愛とは表現されていないものの、まさしく始まりと言えるだろう。

第1章「愛の神のもとにーー古代神話における欲望を描く」

第1章展示風景

第1章展示風景

第1章展示風景

第1章展示風景

第1章は、古代ギリシア・ローマ神話における欲望を描いた作品を展示。古代神話の愛は、愛する者の身も心も所有したいという強烈な欲望が渦巻いている。欲情、暴力と魔力、誘惑。神話の登場人物と言えど、非常に人間的でもあるようにも思えるのではないだろうか。

フランソワ・ブーシェ「プシュケとアモルの結婚」1744年

フランソワ・ブーシェ「プシュケとアモルの結婚」1744年

第1章展示風景

第1章展示風景

恋人たちの結末を描いた作品も展示されている。フランソワ・ブーシェの「プシュケとアモルの結婚」など幸せな結末を迎えたカップルもいれば、片方が命を落としたり、道ならぬ恋に落ちてどちらも死を選ぶといった悲劇的結末も多く描かれた。

第2章「キリスト教の神のもとに」

第2章展示風景

第2章展示風景

キリスト教はギリシア・ローマ神話と対照的な、慈愛や親子愛、自己犠牲に至る愛が重要とされる。

第2章展示風景

第2章展示風景

聖母マリアが幼いイエスを胸に抱くサッソフェラートの「眠る幼子イエス」や、獄中の父の命を救うために娘が授乳して栄養を与えたシャルル・メランの「ローマの慈愛」をはじめ、「放蕩息子」などキリスト教の主題としてよく描かれる作品が展示されている。

第2章展示風景

第2章展示風景

また、キリストの磔刑も犠牲の死であり、人間への神の愛の表れ。さらに官能的な精神的愛「法悦」をマグダラのマリアを主題にした作品で紹介する。

第3章「人間のもとにーー誘惑の時代」

第3章では、17世紀オランダ絵画と18世紀フランス絵画で盛んに描かれた、現代社会に生きる人間たちの愛を見ることができる。

第3章展示風景

第3章展示風景

オランダでは、酒場で顔を寄せ合う男女や、取り持ち女と取引する若者など、人々の生活の中で生まれる様々な形の愛の駆け引きを生き生きと描きつつ、性愛の寓意を作品に入れ込んだ。

トマス・ゲインズバラ「庭園での語らい」1746-1747年

トマス・ゲインズバラ「庭園での語らい」1746-1747年

フランスでは、理想化された美しい田園で繰り広げられる、農民や羊飼いの牧歌的な恋が描かれた。

ギョーム・ボディニエ「イタリアの婚姻契約」1831年

ギョーム・ボディニエ「イタリアの婚姻契約」1831年

そして今回の目玉でもある、26年ぶりに来日した18世紀フランスの大巨匠・ジャン=オノレ・フラゴナール作の「かんぬき」が展示されている。

ジャン=オノレ・フラゴナール「かんぬき」 1777-1778年頃

ジャン=オノレ・フラゴナール「かんぬき」 1777-1778年頃

ソフィー・キャロン学芸員は「男性がかんぬきを閉めようとしている瞬間ですけれども、魅力的でありながら同時に謎めいている作品です。男性が抱擁しながらドアを閉めていますが、それが愛なのか、女性にとって危険なものなのか、非常に曖昧です。赤色のドレープ、ベッドの上のドレープから続く女性のドレスの黄色などで大きな緊張感と激しさが示されています。倒れた椅子やリンゴ、テーブルなど、全てが愛なのかもっと激しいものなのか。この場面のエロティシズムは18世紀フランスの典型と言えます」と解説した。

第4章「19世紀フランスの牧歌的恋愛とロマン主義の悲劇」

第4章展示風景

第4章展示風景

「19世紀フランスの牧歌的恋愛とロマン主義の悲劇」と題された最終章では、フランス革命後の身分制解体も影響して流行した、手つかずの自然の中で純朴な若者たちが愛を育むセンチメンタルな牧歌的恋愛物語と、古代神話の男性同士の愛を題材にした悲劇的な新古典主義の絵画たちが展示されている。

フランソワ・ジェラール「アモルとプシュケ」 1798年

フランソワ・ジェラール「アモルとプシュケ」 1798年

フランソワ・ジェラールの傑作「アモルとプシュケ」は牧歌的恋愛物語の代表作。作者のジェラール男爵は、18世紀初頭にパリで活躍した新古典主義の有名な画家。ソフィー・キャロン学芸員は「本作品は翼を持ったアモルとプシュケの若い2人の愛を描いています。アモルは神様でプシュケは人間ですけれども、色々ありまして最後には結ばれてハッピーエンドになります。2人の肌は陶器のように滑らかで白く、人間というよりは彫刻に見えるように描かれています。ジェラールは技巧が巧みで、例えばテキスタイルの描き方が非常に柔らかく、透明感がある。そして非常に綺麗な色で結んでいる。こういったところに彼の素晴らしさがあったと見えます」と述べた。その言葉通り、あまりの透明感と純粋無垢な雰囲気はいつまでも眺めていたくなる美しさだった。ちなみに、アモルとプシュケの結婚式を描いた作品も第1章に展示されているのでこちらもチェックしてほしい。

続いては、許されない愛で結ばれた恋人たちの悲劇の作品。神話、ダンテ、シェイクスピア、バイロンといった文学作品に着想を得て、悲劇をドラマティックに描き出した。

クロード=マリー・デュビュッフ「アポロンとキュパリッソス」 1821年

クロード=マリー・デュビュッフ「アポロンとキュパリッソス」 1821年

クロード=マリー・デュビュッフの「アポロンとキュパリッソス」は、古代ギリシャ神話の物語。太陽の神・アポロンが愛する美少年キュパリッソスが可愛がっていた牡鹿を誤って殺してしまう。キュパリッソスは慰めようもないほど悲しみ、その悲しみから彼を救うため、アポロンが糸杉に変えてあげるというお話。

「先ほど見ていただいた18世紀前半の特徴を引き継ぐものです。透明感のある花や完璧主義。男性が中性的に描かれています。彼らの体は非常に優雅で、眼差しは洗練されていて、同時にアポロンの愛と悲しみを描いています。背景には大自然が描かれていまして、その後ろに夕日が描かれている。風景と人間の体の描き方の調和もまたこの19世紀ロマン主義の新古典主義の大きなスタイルでもあります」とソフィー学芸員は解説した。2人の体躯のしなやかさと滑らかさはもちろんながら、アポロンの横顔やまつげなど、細部にわたるまで描きこまれた繊細さも見ていただきたい。

アリ・シェフェール「ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」1855年

アリ・シェフェール「ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」1855年

そして、アリ・シェフェール「ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」。アリ・シェフールは皇帝ナポレオン3世に好まれた作家。同作品は「古代ギリシアではなく中世イタリアのお話」とソフィー・キャロン学芸員は語る。学校の授業で必ず登場する、14世紀イタリア詩人ダンテの『神曲』が題材だ。その「地獄篇」に出てくるパオロという男性とフランチェスカという女性が主人公だが、実はフランチェスカはパオロの兄と結婚しているという、結ばれない関係性。

ソフィー学芸員は「ルーヴル美術館で有名な作品でありながら、実は最も奇妙な作品の1つで、非常に悲劇的な場面を描いています。事実に基づいたお話なんですけれども、画面右側の2人は、イタリアの詩人・ダンテとウェルギリウスです。この2人は、亡霊となって何世紀もさまよい続けるパオロとフランチェスカの2人を見ているわけです」と解説。さらに「この作品のオリジナル性をお話しするならば、非常に暗くて抽象的にも見える背景、そして亡霊の姿が斜めに描かれていてコントラストが非常に強いということかと思います」と締め括った。

全体の作品数はそこまで多くはないが、内容の濃さはさすがルーヴル。愛という普遍的なテーマを実に多様に捉えて作品を選び、私たちが生きていく中で出会う愛の、豊穣で複雑な一面に気づかせてくれる展覧会だった。

満島ひかりと三浦大知、SOIL&“PIMP”SESSIONSによる本展覧会のテーマソング「eden」は音声ガイドで

展覧会を廻る時には、ぜひ音声ガイドの利用をオススメする。今回の案内人をつとめるのは俳優の満島ひかり。声優・森川智之とともに音声ガイドも担当する。彼女の柔らかで包容力のある落ち着いた声は、絵画作品の世界へと意識を導き、愛を深く知るための一助となる。

「eden」のグッズも販売

「eden」のグッズも販売

特筆しておきたいのが、満島ひかりが作詞を、SOIL&“PIMP”SESSIONSが作曲を手がけ、満島と旧知の仲である三浦大知が歌唱した楽曲「eden」が展示室で聴けることだ。本展覧会のテーマソング「eden」は、満島が設立したレーベル・Rhapsodiesの第1弾作品として、ひかりとだいち love SOIL&“PIMP”SESSIONS名義でリリースされている。

音声ガイドでは、楽曲制作の裏話も聴くことができる。YouTubeやサブスクなどでも楽曲を聴くことはできるが、美術館の展示室で聴く体験は格別で記憶に残り続ける。そんな楽曲はなかなかないと思う。ファンは必聴と言えるだろう。

シノビー、すみっコぐらし、鎌倉紅谷などのコラボグッズも多数登場

ミュージアムショップにはグッズが充実

ミュージアムショップにはグッズが充実

ミュージアムショップでは、本展オリジナルグッズが揃う。公式図録やクリアファイル、ポストカードといった定番のアイテムをはじめ、キャンバスやマット付額絵、展覧会ロゴがあしらわれた傘、ハート型やキューピッドがモチーフのグッズが多く並んでいた。

そしてコラボグッズも充実。読売テレビのマスコットキャラである少年忍者の「シノビー」や、日テレのマスコットキャラ「そらジロー」、「すみっコぐらし」とコラボした限定アイテムも。

さらに銘菓「クルミッ子」でおなじみの鎌倉紅谷や、GRANNY SMITHとのクッキー、フランス流紅茶専門店マリアージュ フレールが本展のために創出したフレーバードティー、猿田彦珈琲が「アモルとプシュケ」をモチーフに焙煎したブレンドドリップ、フランスを代表するヘアアクセサリーブランド「アレクサンドル ドゥ パリ」のベロアカチューシャなど、実にバラエティ豊かなグッズばかりで目移りすること間違いなし。来場の記念に購入してみてはいかがだろう。

『ルーヴル美術館展 愛を描く』は6月27日(火)から9月24日(日)まで京都市京セラ美術館にて開催中。京友禅のスマホ拭き付や、京都のお香付の企画も発売されている。

取材・文・撮影=久保田瑛理

イベント情報

展覧会『ルーヴル美術館展 愛を描く』
会期:6月27日(火)~9月24日(日)
時間:10:00~18:00(入場は閉場の60分前)
会場:本館 北回廊1階 | 新館 東山キューブ
休肝日:月曜日(祝日の場合は開館)
●通常
一般 2,100円(1,900円)
高大生 1,500円(1,300円)
小中学生 1,000円(800円)
*小学生以下の方は、保護者同伴にてご来場ください
*未就学児は入場無料
*( )は団体料金、団体は20名以上
(前売は6月26日23:59で販売を終了しました)
*障がい者手帳等ご提示の⽅は本人及び介護者1名無料
(学生証、障がい者手帳等確認できるものをご持参ください)
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