ピアニスト・石井琢磨インタビュー 最新アルバム&6都市ツアー『Szene』に込めた想いとは
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◆クラシックピアニストとして、ジャンルの垣根なく良い音楽を届けたい
——内容の濃いアレンジだからこそ、名曲の魅力をあらためて発見できるように思います。
実は、そこはこのアルバムのもう一つのコンセプトなのです。僕のYouTubeチャンネル「TAKU-音TV」でお届けしている作品には、映画やミュージカルの音楽も多いです。自然と選曲していたのですが、少し調べてみましたら、モリコーネやマンシーニといった作曲家たちも、やはりクラシック音楽にルーツがあり、基礎的な教育をしっかりと受けているんですね。マンシーニはジュリアードを出ていて、お父様はフルーティスト、モリコーネはサンタ・チェチーリア音楽院で学んでいる。
でも彼らの音楽はこれまで、「映画音楽」と括られられることで、本格的なクラシックの奏者が取り上げるということはほとんどなされてこなかった。僕は自分が本当に素敵だなと思う曲は、ジャンルにとらわれずに、みなさんにお届けしたい。理想論かもしれないけれど、映画音楽もポップスもクラシックも、良い音楽は分け隔てなく扱っていきたいし、そうした風潮をクラシック業界の中で少しでも作っていけたらと思うのです。
そう考えていた矢先、昨年12月のジャパンビルボードで、前作『TANZ』がクラシック部門の5位に入りました。ありがたいことです。そして上位を見てみると……なんとあのベルリン・フィルが、ジョン・ウィリアムズの『スターウォーズ』で第4位に入っているではないですか。え!とびっくりしたけれど、クラシックカテゴリーでも、やはりそうしたニーズがあるということを知りましたし、そして天下のベルリン・フィルは柔軟な姿勢で、ボーダーレスに音楽を取り上げているという事実にも感動しました。日本の市場でも、映画音楽に正面から向き合うピアニストがいてもいい。そんなお墨付きをベルリン・フィルからいただいたような気持ちになりました。
僕はウィーンで10年以上暮らしてきましたが、やはり「外国人」としてのボーダーや制約からは逃れることはできません。でも音楽の世界でならば、枠組みや境界線を超えた活動ができると思うのです。自分が異質な存在である時に、周りから親切にしてもらい、助けてもらった経験は忘れられません。だから僕も人に優しくありたいし、人を傷つけず、みんなが幸せになれるような活動をしていきたい。
クラシック音楽業界は、日本でもかなり成熟し、ある意味完成しきっていると思います。外からみると、「入り口」がなかなかわからないと感じられるかもしれません。でも僕は、クラシック音楽を括ってしまうのではなく、これまで触れて来なかった人たちにとっての「入り口」になりたいのです。そのためにも、今ある形にあえて揺さぶりをかけ、入口となるような隙間を作り、ある種の未完成に持っていき、そして再び完成に向かうエネルギーを創出したい。
——石井さんがジャンルの垣根を超えた音楽に向かうのも、クラシック音楽への思いがあるからこそなのですね。
古き良き伝統は大切にしながらも、常に新たな創造していきたいと思っています。
>(NEXT)つぎつぎ生まれるアイディアを、ファンの皆様とともに形に