「普通に優しい人と一緒にいるのが一番だけど」eillが明かす意外な恋愛観ーー恋愛リアリティ番組『ラブ トランジット』と主題歌「happy ending」を語る
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eill 撮影=ハヤシマコ
テレビアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディング主題歌「ここで息をして」、月9ドラマ『ナイト・ドクター』のオリジナルナンバー「hikari」など、さまざまな映像作品の世界観を表現した楽曲の数々を発表している、eill。6月14日(水)にリリースされたデジタルシングル「happy ending」も、話題沸騰中の恋愛リアリティ番組『ラブ トランジット』(Amazon Original)の主題歌に起用されている。同番組は、元恋人も参加するなか、新たな恋愛と復縁の狭間で揺れ動く10人の男女を映し出している。そこで今回はeillの恋愛観をまじえながら、「happy ending」と『ラブ トランジット』の注目ポイントについて話を訊いた。
eill
ーーeillさんの楽曲「happy ending」が主題歌となっている番組『ラブ トランジット』ですが、元恋人同士が復縁するかどうかなど、いろんな展開があっておもしろかったです。
自分は「復縁なんてありえない!」というタイプだったけど、『ラブ トランジット』を観て考え方がちょっと変わりました。もともと「ヨリが戻ったら戻ったで、きっと同じことが繰り返されちゃう」と思っていたし、女性は特に「思い出フォルダ」が上書きされていくものだから。ひとつの恋愛が終わったらしっかりクールダウンしちゃうんですよね。でも番組を観ていたら「逆にありじゃない?」と思えるようになりました。
ーーどういう場面で「あり」になったんですか。
出演者のみなさんの表情です。元恋人のことを恋しく感じているような、そういう表情。しかもあの場には、新たな恋人候補の男女もいるじゃないですか。出演者が、別の人と仲良くする元カレや元カノを見て、耐えられなかったり、複雑な感じになっていたりする様子が興味深くて。そうなるとやっぱり「この人と戻りたい」となるのかも。
eill
ーーそんな『ラブ トランジット』をイメージした「happy ending」ですが、すごく素直な恋愛感情を歌っていますよね。アルバム『PALETTE』リリース時にインタビューをさせていただいたとき、eillさんはそういった恋愛ソングの作り方について「友だちの恋愛話を参考にしている」とおっしゃっていました。
今回は<psycho>というワードがまさにそうですね。ギャルの友だちが実際によく使っているんです。「私の彼氏ってサイコじゃない? ありえなくない?」とか。というか同時期に5人くらいが「彼氏がサイコ」「上司がサイコで」とか言っていて、「え、流行ってんの?」と。すごく印象的な言葉だったので歌詞に取り入れました。
ーー恋愛における「サイコ」というのはどんな感じなんでしょうね。
私の近くには明確に「こういう人」というのがいるんです。友人の恋人……というか好きな人が、抜け出せなくなるような優しさらしいんです。もう「その人がいなくなると生きていけない」と依存しちゃうほど。そこまで支えてくれるのに、その相手の男性は「自分は彼氏じゃない」と平気で言ってくるらしくて。依存させるのが上手くて、しかも全員に優しくできる。しかもそういう態度を意識せずにとれるところが「サイコ」なんです。
eill
ーー「happy ending」では、そういう相手とは「別れてしまえ」と自分に言い聞かせようとしていますけど。
でも、なかなか抜け出せるものではないですよね。感情的な部分だけではなく、「この人が会ってくれなくなったら、明日のランチを誰と食べたら良いんだろう」とか考えちゃったりするはず。それは情なのか、それとも自分で自分を呪っている感覚なのか、単なる寂しさなのか。そういう意味で『ラブ トランジット』でおもしろかったのが、メンズのみなさんの方が心残りが多いところでした。まなざしとかに気持ちが出ている気がしました。つまり全然、上書き保存できていなくて、別々のフォルダで相手の思い出を保存しちゃっているんだなって。
ーーそれは情が影響しているかもしれませんよね。ただ、情が膨らみすぎると恋愛感情が薄くなる気がしませんか。
確かに、もはやそれが愛なのかどうなのかと考えてしまいますよね。最初は純粋に好きで付き合っていても、どこかのタイミングから「私がいないとあなたは生きていけないだろうし、私もあなたがいないと生きていけない」みたいになることも多い気がします。
ーーそうそう。
きっと付き合いたてのフレッシュなときは、相手がまだ自分の手のなかに収まりきれていないんだと思います。でも付き合いが長くなると手に収まりすぎてしまうというか。そうなると飽きちゃうのかも。
eill
ーーそういえばeillさんは『PALETTE』のインタビューのとき「自分は飽きっぽい性格だ」とおっしゃっていました。それは恋愛にも当てはまるんじゃないですか。
恋愛に関しても飽きっぽいところがあるかもしれません。先ほどのサイコ系とは別で、普通に優しい人っているじゃないですか。まっすぐ自分を見ていてくれる人というか。そういう人と一緒にいる方が精神状態的にも良いに決まっている。そしてきっと満たされるはず。なにかの記念日に花束をくれるとか、毎日迎えにきてくれるとか。だけど私の場合、幸せすぎたり、満たされすぎたりすると曲が書けなくなる気がするんです。自分が感じたことをそのまま曲にするから。だからどこか欠けていたり、危険だったり、ちょっと不満を持つくらいが曲を書く上ではちょうど良いんじゃないかなと思ったりします。
ーー『ラブ トランジット』では出演者のヤキモチや嫉妬も映し出されていますよね。先ほど話にもあったように、元恋人が別の人と仲良くしているところを見たりして。eillさんは、嫉妬、ヤキモチはどうですか。
嫉妬はあまりないんです。小さいときから「一番になりたい」とか、順位にはこだわりがなくて。とりあえず自分のベストが尽くせたら良いので。でもヤキモチはめっちゃ焼きますね。たとえばなんですけど、マネージャーさんやスタッフさんたちが、自分以外のアーティストの現場に行っていて、私のところにいなかったりすると超寂しい!
ーーこの場にいる関係者全員が笑っていますけど!
恥ずかしい……(笑)。そういうときにヤキモチを焼いちゃいます。マネージャーさんが別のアーティストの話とかしていたら、なんか、新入りに飼い主をとられたワンちゃんみたいな気持ちになるんです。「なんでそっちばっかり可愛がるの」って。
eill
ーーめちゃくちゃ可愛いじゃないですか(笑)。そんなeillさんの今後についてお話を訊きたいのですが、新しい曲も準備されていらっしゃるんですよね。
自分ではあまりやったことがないジャンルで、摩訶不思議な曲を作っています。私はいつも歌のニュアンスを大事にしていて、『PALETTE』は特にそっちの感じでした。でも今後リリースする曲はニュアンスを消して歌うというか、全部がまっすぐでフラットなんです。別の人に曲を提供する感覚に近いです。それが新鮮で、なおかつ夏にぴったりの内容。歩いているときにしっくりくるというか、聴く人の歩幅に合うビート感の曲です。
ーーそしてロンドンにも渡ると聞きました。
7月中旬から行きます。現地のミュージシャンの方たちとなにかやったり、あと「フィナーレ。」が主題歌になったアニメ映画『夏へのトンネル、さよならの出口』(2022年)もロンドンで公開されるので、上映会場で待ち伏せして路上ライブしようかなと。カメラマンの友だちにも来てもらって撮影もする予定で、ロンドンで曲を作るところや路上ライブの様子を記録してもらいます。たとえば路上ライブで卵とか投げられたとしても、それはそれで撮ってもらって(笑)。そういった映像もこれから出して、みなさんに楽しんでもらいたいなと思っています。
eill
取材・文=田辺ユウキ 撮影=ハヤシマコ