辻井伸行が語る『富士山河口湖ピアノフェスティバル2023』 オフィシャルインタビューが到着
(C)Tomoko Hidaki
ピアニストの辻井伸行をピアニスト・イン・レジデンスに迎え、富士山の麓と河口湖という大自然の中で繰り広げられる世界的な音楽祭『富士山河口湖ピアノフェスティバル2023』が2023年9月15日(金) 、16日(土) 、17日(日) 、18日(月・祝)に山梨県の河口湖ステラシアター、河口湖円形ホールなど4会場で開催される。 今年は、2021年にデビュー40年の節目を迎えたピアニストの清水和音、トルコのピアニストで作曲家のファジル・サイなどレジェンドを迎え、メインの3公演が全てガラコンサート形式になるなど、自然の中で豊かな音楽を楽しむことができるぜいたくな内容になっている。
3年連続3度目となる今年の音楽祭に向け、辻井のオフィシャルインタビューが到着。音楽祭への思い、さらに「音楽のまちづくり」を目指し、毎年続けてきた児童との交流について語られた。
―ー今年も「富士山河口湖ピアノフェスティバル」が開催されます。見どころが盛りだくさんですが、各日に出演するアーティストとのエピソードをお話しいただけますか。
レ・フレールさんと初めてお会いしたのは『THE PIANIST』というツアーでした。その時に聴いた『ブギウギ』がとても楽しそうで、僕も弾いてみたいなと思い、即興で弾いていたら、お2人がそれを聴いていたみたいで、「一緒にやってみる?」と誘ってくれました。飛び入りでアンコールに入って、3人で演奏したことがあり、とても楽しかったですね。ファジルさんは、中学生のときにコンサートに行った際に、楽屋で挨拶させてもらえる機会がありました。初対面した楽屋でピアノを弾かせてもらったのが出会いでした。確かクラシックと自作曲を演奏したと思います。コンサートでは『ブラックアース』を聞いて、変わった内部奏法(手や指でピアノの弦を弾く)にとても衝撃を受けたのを覚えています。
――2組の演奏で楽しみにしていることはありますか。
久しぶりの共演で、しかも自然の中で2組の演奏を聞けるのが楽しみです。もしかしたら、一緒に何か演奏するなどフェスならではのことが起きるかもしれないですねー。
――2組と登場するコンサートで辻井さんは『リスト!リスト!! リスト!!!』と題したステージを行います。『巡礼の年 第2年への追加《ヴェネツィアとナポリ》』『コンソレーション 第2番』『メフィスト・ワルツ 第1番』の3作を選ばれていますね。選曲理由や聴きどころを教えていただけますか。
リストは大好きな作曲家の1人で、彼の作品を国内外でも数多く演奏し弾きこんでいるので、河口湖でも是非演奏したいなと思い選曲致しました。『ヴェネツィアとナポリ』は、3曲の構成で特に最後のタランテラは技巧的な部分が出てくるので聴き応えのある曲です。『コンソレーション』は技巧的と言うよりは、ゆったりとした楽曲で聴きやすいと思います。『メフィスト・ワルツ』はリストらしさが詰まっている感じです、それぞれ色のある曲なので聴きやすい楽曲ばかりだと思います。
(C)Tomoko Hidaki
――17日に開催する『ショパン GALA』についてうかがわせていただきます。2部構成のステージでは、前半に『12のエチュード』を演奏されます。選曲理由や聴きどころを教えていただけますでしょうか。
2年前くらいに、「プレミアム・リサイタル」というツアーで、ショパンの『エチュード:作品10』と『作品25』、作品番号のない3曲のエチュードを含めた全曲に挑戦したことがありました。作品10は昔から演奏していますが、今回演奏する作品25はそのツアーのときに取り組んだ作品でし。ショパンGALAということで、前回の演奏から約2年間が経ち、自分の中で変わっている部分もあると思い、また改めて挑戦してみたいと思い選曲しました。体力勝負ではありますが、後半になるにつれて盛り上がりが聴きどころだと思います。
――休憩を挟んだ後半は、親しくされている奏者の方々とショパンの『ピアノ協奏曲 第2番[室内楽版]』で共演されます。同曲の魅力についてお話しいただけますか。
この作品はショパンが若い頃に作曲した曲で、「ショパンらしさ」が詰まっている曲だと感じています。今回は室内楽版ですが、自分なりのショパンらしさを伝えられるように演奏したいと思っています。
――同曲では、プライベートでも仲良しのヴァイオリン奏者・三浦文彰さんも出演されますね。辻井さんにとって、三浦さんはどのような存在ですか。
三浦くんとはもう長い付き合いで、何度も共演させてもらっています。いつも公演の後や、プライベートでも食事に行ったりして男同士で色々な話をする、友だちでもあり、尊敬する音楽家でもありますね。
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――18日には、生誕150年を記念し、ラフマニノフをフィーチャーします。辻井さんにとって、ラフマニノフはどのような存在ですか。
ラフマニノフは、自分にとって大事な作曲家です。中でも『ピアノ協奏曲2番』は2009年に優勝した『ヴァン・クライバーンコンクール』でも演奏した作品で、思い入れがあります。彼の人生を考えてみると、苦悩したときもあったと思いますが、『ピアノ協奏曲2番』で人生が晴れたようなイメージがあり、どこか自分と重なる部分があると感じています。彼の作品は技巧的で演奏は本当に難しいですが、メロディーなど弾けば弾くほどに素晴らしさが染み込んできます。
――『ラフマニノフGALA』には、清水和音さんが出演しますね。
日本を代表する素晴らしいピアニストである清水和音さんと、今回一緒の舞台で演奏できることは光栄ですし、尊敬するピアニストの演奏を是非楽しんで頂けたらと思います。
――『ラフマニノフGALA』では、『ピアノ協奏曲 第3番』を、ロッセン・ゲルゴフさんの指揮、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏とともに披露されます。聴きどころについて教えていただけますか。
この作品は、協奏曲の中でも特に難しい作品と言われていて、ピアニストとして1度はオーケストラと一緒に演奏してみたいと憧れる作品だと思います。僕も大好きな作品で、何度も演奏させていただいていますが、難しさの中にラフマニノフらしさを感じられて、技巧的な部分や壮大な部分があったりと、弾く方も聴く方も体力と集中力が必要な45分間だと思います。だからこそみなさまと一緒にこの曲のスケールの大きさを感じられればと思います。
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――15日に河口湖円形ホールで行われる『プレミアム・リサイタル』は100名限定の貴重な公演です。ドビュッシー『月の光』、バッハ『フランス組曲 第5番』、ショパン『ノクターン 第8番』など選曲した5曲は人気の曲ばかりです。演奏曲目を見ただけでもワクワクします。
100名限定のコンサートは、普段味わえないような距離感で、演奏しながらお客さまとの息づかいが聞こえるほどです。距離が近いと一体感も増すので自分自身もこの空気感を楽しんでいます。河口湖の自然や空気、そして距離の近さを感じてもらえるような選曲にしてみました。
――野外のコンサートです。演奏面での難しさなどはありますか。
野外コンサートは、海外でも、この河口湖でも経験させてもらっています。日本は天気に左右されることがあり、日にちが変更になったりしたりお客様には大変さもあるかもしれません。ですが、自然の中で音を伝えることはとても心地よいですし、野外フェスならではのハプニングやサプライズも楽しみの1つだと思います。出演者とお客さまとスタッフのみんなで育てるコンサートですね。
――公演は3年連続、3度目の開催です。コンサートが行われる山梨県は、辻井さんにとってどのような場所になりましたか。
自然の中でゆったりとした時間を得られる場所になりました。見え隠れする富士山を感じたり、鳥の声や風の音など自然が作り上げる「曲」のようなのを毎回楽しみにしています。もちろん、ご飯もたくさん行かせていただいて現地の名物を食べると『帰ってきたなー』と感じますね。
――フェスティバルの開催はもちろんですが、「音楽のまちづくり」に関連し、地元の小学校などで子どもたちと交流する企画も続けておられますね。
毎年行っている小学校での「音楽教室」は今年も開催する予定です。子どもたちと音楽について一緒に考える時間は発見が多くあります。間近で演奏すると、楽しそうな表情や気持ちも伝わってきます。共演をする時間もあるのですが、これをきっかけに演奏会に足を運んでくれたらいいなと思いますし、将来の音楽家が現れるかもしれないと思うと今からワクワクしますね。今後も続けていきたい活動です。
公演情報
河口湖ステラシアター
河口湖円形ホール/河口湖総合公園/河口湖美術館