反田恭平「水野優也(チェロ)は大きく活躍していく奏者の一人」 デビューアルバムリリース記念ロングインタビュー~レコーディング秘話から聴きどころまで

インタビュー
クラシック
2023.8.25

ショパンの超難曲、チェロ・ソナタの魅力とは

——ショパンの作品にはピアノ独奏曲が圧倒的に多く、ピアノ以外の室内楽には歌曲、ピアノ三重奏曲、そして2つのチェロ作品がありますね。数少ないピアノ以外の作品のうち、2つもチェロのための曲というわけですが、ショパンのチェロへの思いや、書法の特性などはどう感じておられますか?

反田:ショパンがチェロを選んだのは、親しい友人や知り合いにチェリストがいたということもあり、楽器の魅力を知っていたからでしょう。おそらくショパンは、先々にヴァイオリン・ソナタや交響曲なども書きたかったのだと思います。ピアノ以外の器楽作品の先駆けとしてこのチェロソナタを作った。だから本当に綺麗なソナタ形式で書かれていて、ハイドンやベートーヴェンの時代の形式がきちんと取り入れられていますし、4つの楽章すべてのキャラクターもはっきりと分けられています。

ショパンは晩年に対位法的な書き方もしていたし、バッハやモーツァルトへの尊敬も示していました。ソナタ形式に対して、真面目に向き合って作曲したかったのだと思います。このチェロ・ソナタは本当に情報がたっぷりと詰まっていますね。僕が個人的に特に好きなのは、第2楽章の中間部、チェロが歌うところかな。レコーディングはすんなりできてしまったのだけど、もう一度聴きたくて、水野くんに「もう一回弾いて」と言ったりしましたね。

水野:チェロの中音域って本当にいい音が鳴るんです。ショパンの作品には、それを活かしたフレーズが多いです。でもやはり、ピアノの曲をたくさん書いた人なので、何かこう、ピアノっぽいメロディーだなぁと感じる部分はありますね。たとえば、第4楽章の最初のチェロのメロディーは、ピアノ的だと感じます。ピアノだったらもっと良く弾けるのかなぁ、なんて思ったり(笑)。僕はショパンの音楽が持つ幻想的な世界観がとても好きなので、作品全体を通してそれを表現できるので、とても充実感を覚えます。

——ピアノ・パートには、ピアノ独奏曲とは違った特性を感じられますか?

反田:優れたピアニストが書いた作品なので、ラフマニノフのチェロ・ソナタもそうですが、ピアノパートはめちゃくちゃ難しいんですよね。個人的にはラフマニノフよりも難しいと感じます。ラフマニノフはやや勢いでいけたり、和声感を大事に弾けばなんとか形になるのですが、ショパンはそうはいかない。やはりメロディーが主体で、右手主体でメロディーを作るのは古典的でもありますが、左手が指揮者のような役割を果たすというか、左手を基準にしながらメロディーを作らなければならない部分が多々ある。考えなきゃいけないポイントが多いというのが、やはりショパンの難しさですね。

水野くんが言うように、チェロにピアノらしい旋律が出てきたりもしますが、逆にショパンはピアノ一台でチェロやヴァイオリンのような旋律も表現しようとした人ですから、多彩な楽器の音色が要求されます。室内楽で言うと、リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタのピアノパートはダントツで難しいですが、このショパンの作品も3本の指には入る難しさかな。

水野:ピアノパートの難しさというのは、僕はこれまでも感じてはいました。でも今回は、音楽的な内容を最優先にして表現を作ることができたと感じています。

デュオの作品では、ピアニストから受ける影響というのは本当に大きいので、特にこうしたピアニスティックな音楽で、ポロネーズ風のリズム感などを反田くんが演奏で示してくれたのは、とても勉強になりました。

反田:「序奏と華麗なるポロネーズ」も、僕がずっと演奏したかった大好きな作品です。ポロネーズのリズムやフレーズの終わり方などは、宮廷舞曲の儀礼的なしきたりを感じさせる演奏がしたいですよね。水野くんもポーランドの音楽のスピリットを理解していて、さらに僕ができることがあれば、ピアノでカバーしたいという気持ちで演奏しました。

——若き日のショパンが書いた「序奏と華麗なるポロネーズ」は、冒頭にピアノの駆け上がるような印象的なパッセージが登場しますね。

反田:あそこは本当に大変で、うまく弾けたらラッキー!的な、「賭け」みたいなフレーズです(笑)。ワルシャワ時代のショパンの作品ですから、小さな頃から馬に乗ったり、駆けっこしたり、彼の元気な少年時代を感じさせますね。

水野: この曲はピアノが主体だと感じます。チェロがピアノに寄り添う音楽です。

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