破滅描く繊細な筆致、音読と芝居で~桜花浪漫堂 朗読劇『人間失格』ゲネプロレポート
桜花浪漫堂 朗読劇『人間失格』が2023年10月27日(金)、東京・I’M A SHOWにて開幕した。文豪・太宰治の代表作を、吉田武寛による脚本・演出にて笹森裕貴らが熱演。初日直前に行われたゲネプロの模様をお届けする。
「桜花浪漫堂」は、劇団飛行船が贈る純文学ステージブランド。本作が旗揚げ公演となる。大庭葉蔵役を笹森、堀木正雄・マダム役を井澤勇貴、竹一・ツネ子役を平賀勇成、Wキャストのシヅ子役は北村健人と伊藤昌弘(ゲネプロは伊藤が出演)、ヨシ子役を佐奈宏紀が演じる。
会場に響くのは、カモメの鳴き声と寄せては返す波の音。冷たく、荒々しい渦の中へ次第に飲み込まれていくような心地に。もの悲しい鍵盤のメロディーに導かれ、『人間失格』の物語が始まっていく。
東北の裕福な家庭で生まれ育った大庭葉蔵は、人間らしい感覚を理解することができなかった。周りと違うことに不安を覚え、子供ながらに道化を演じることでやり過ごすようになる。家族や同級生らの機嫌を取る姿は健気で、どこか痛々しい。
自分自身の“正体”を隠す術を覚えた葉蔵だが、年齢を重ねるにつれ様々な人々と出会っていく。中学では貧弱な同級生・竹一から道化を見抜かれ、東京で出会った先輩の堀木からは都会の遊びを教わる。酒や煙草、女性との関係――世間を知り、生きる術を知るたびに破滅へ進んでいく。
美丈夫ゆえ、そしてどこか憂いのある葉蔵に魅了される女性たちも多様だ。人妻のツネ子、女手一つで子を育てるシヅ子、バーのマダム……幸福に触れる瞬間はありながらも、安定や平穏に怯え続ける葉蔵。やがて煙草屋のヨシ子の純粋さに惹かれ結婚するが……。
台本を片手に持ちながらも、身体を使った芝居も盛り込みながら表現されていく朗読劇。巧みな声色の変化はもちろん、心情の機微が現れた表情も見逃せない。音読には、一文字ごとに厚みを持って綴られる原作の質感がしっかりと込められていた。男性キャストが女性役を演じる本作では、艶やかさが抽出されて引き立っている。葉蔵と女性たちの幸福と悲劇が形作られていく様に、すっかり心奪われてしまった。
葉蔵という、ある一人の男の人生が描かれる本作。役へのアプローチについて「あまり余計なものを詰め込みすぎず、一人の人間として、役者として、素直に向き合った先に何かが待っていると思った」と語っていた笹森だが、美しく悲しい生のグラデーションもまた際立っていた。幼少期から学生時代までの揺れ動く危うさと儚さにはハッとさせられ、年齢を重ねるごとに増す焦燥は禍々しさを放つ。
津軽三味線と尺八が効いた生演奏により煽られる不穏さ、シルエットや映像の効果的な使い方も抜群。三森すずこ、難波圭一をはじめとした声のみで聞かせる芝居にも注目してほしい。10月30日(月)の12:00公演、17:00公演についてはそれぞれイープラスの配信プラットフォーム「streaming+」でも視聴できるので、ぜひ自宅でも余韻に浸ってほしい。
取材・文・撮影=潮田茗
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