ウエンツ瑛士「原作の持っている力も含め、絶対おもしろくなる作品」~宮沢りえと挑む、舞台『オーランド』への心境とは
ウエンツ瑛士
360年もの時を翔けて生き、男性から女性へと転身を遂げる美貌の人オーランド。20世紀モダニズム文学を代表する作家の一人であるヴァージニア・ウルフが1928年に発表した『オーランド』は多くのクリエイターたちを魅了し、数々の舞台や映画を生んできた。この度PARCO劇場で上演される『オーランド』は、『ひばり』や『カリギュラ』の翻訳を担当したことでも知られるフランス文学者で詩人の岩切正一郎が翻案を、栗山民也が演出を手がける。宮沢りえがタイトルロールに扮し、オーランドを取り巻く数多の人々をウエンツ瑛士、河内大和、谷田歩、山崎一の4人で演じ分けていく趣向だ。ウエンツ瑛士に作品への意気込みを聞いた。
ウエンツ瑛士
ーー出演のお話があったときのお気持ちは?
『オーランド』という小説自体はよく知らなかったんですが、栗山民也さんの演出で、宮沢りえさんを筆頭とする素晴らしい方々とご一緒できるということで、絶対やりたいなと思いました。ファンタジーの部分と、ファンタジーとは完全に捉えることができないような、現代にも通じるような言葉だったり、自分の固定観念に引っかかるようなところもいっぱいあったので、そこを行き来するような物語になるんだろうなというのが最初の印象でした。今って、当たり前とされてきたことがすごく見直されているタイミングだと思っていて。本当はこう思っていたであるとか、いろいろな価値観が出てきていますよね。時代が進むにつれ、いろいろなことがよくなっていっているという認識ではあるんだけれども、ここでもう一段階あるんだろうなと、僕はここ数年思うことがあるので、そういう一つひとつに引っかかることがある作品になるだろうなと感じました。
ーー栗山さんの演出についてはいかがですか。
僕の周りの仲良くさせてもらっている友達と話していると、みんな栗山さんの演出を経験して、本当に勉強になったとか、もう一段階新しいステージに行けると言っていたので、うらやましいなというところと、当然、怖いなというところと両方あって。現場に行けば勝手に次のステージに行けるわけじゃなく、そこでの努力も当然必要でしょうし、さらけ出して何かを得た、そういう人たちが次のステージに行けたと言ってるので、作品をやればパッと次の段階に自動的に行けるわけじゃないっていうのはわかっているんですね。リスクとリターンみたいなもので、そこはリスクを取っていこうと思います。栗山さんの演出作品はいろいろ観ています。小池徹平と柿澤勇人が出た『デスノート THE MUSICAL』(2015)はもちろん観させていただきました。今ではイギリスでも上演される作品になりましたが、そうやって輸出されるような作品に昇華させたのは初演での栗山さんの演出の力が大きいと思うんです。原作漫画のもっているメッセージ性であったり、真に迫ってくるものであったり、そういうものを丁寧にお客様に届ける演出をされる方だというイメージはそのときからすごくありますね。山西惇さんが出た『木の上の軍隊』(2016)もめちゃくちゃおもしろかった。演出や出演者をあまり気にせず観に行ったりするんでが、観劇していると、あっ栗山さんだと思うことが多いですね。
ウエンツ瑛士
ーー宮沢りえさんの印象は?
まずは人としての分厚さですよね。舞台で共演するのは今回が初めてですが、舞台上での立ち居振る舞いって、生きてきた道だったり、これまで積み重ねてきたものの中から絶対出る部分があるので、見習いたいなと。その瞬間の技術を見習うというよりかは、どういう風に過ごされて日々を重ねてきたんだろうというところを拝見するのがすごく楽しみです。舞台は何本か拝見させてもらっていますが、存在感もすごいですし、りえさんが出てきたとき、この人を観たいというパワーというか、お客様の熱の上がり方を感じるんですね。今回、このオーランドという役と重なったときにどうなるんだろうって、共演がすごく楽しみで。バラエティ番組の企画でご一緒したことはあるんですが、緊張していてあんまりよく覚えていないんですよね(苦笑)。りえさんには、歳をしっかり重ねられて、その魅力が積み重なっているというイメージがあります。歳を重ねることをポジティブに受け止めて、自分が生きてきた道をすごく肯定しているように見えるんです。いろいろなこともあったしというのを全部自分で受け止めて、なかったことにもしていない、そんな気がする。意外にできないことだと思うんですが、それがたぶん人からの信頼感につながっていると思いますね。
ーー共演者についてはいかがですか。
僕は皆さん初対面なんです。ビジュアル撮影でお会いしたんですが、「この4人でどうなっていくんだろうね」という話をしていて。他の方々はそれぞれ共演経験があるので、……なかなか話せないな、独りぼっちだな、みたいな。そういうとき、台本があるってすごくありがたいですよね、必然的に話しかけることができるので(笑)。
ウエンツ瑛士
ーー演じられる役についてはいかがですか。
どこまで何をやるか、現段階では本当に何もわかっていないんです。とにかく、いろんな形で舞台上に立たせてもらいますし、僕も当然ジェンダーが変わる瞬間があると思います。ジェンダーが変わるのも、昔だったらジェンダーが変わるからこう演じなきゃというものがあったと思いますし、今の時代にもそれはあるのかもしれないですが、いろいろな性を持っている方がいらっしゃる中で、そこももっと幅広く演じられるなというのが、僕自身の考えとしてはすごくありますね。もちろん、正式な台本が上がって、栗山さんの演出が入ってからの話にはなりますが、それぞれの役として舞台に立ったとき、出てくる言葉がどのようにお客様に受け取ってもらえるか、楽しみですね。出演者の中で一番年下なんですが、これまで学んできたことがありますし、皆さんは違う角度から人生を重ねられてきて演じられると思うので、それぞれの演じ方の違いも、今までの『オーランド』にないような幅広さになるのかなと想像しています。
ーーロンドンに留学されていましたが、その経験は今回の舞台にどう活きそうですか。
まだわからないですね。自由さについて言えば、向こうに行ったとき、日本人に比べるとやっぱり自由に生きている人たちが非常に多いなと思ったんです。だから、羽を広げているときの自分は忘れずに向き合いたいなと思いますね。右から左へ、上から下へ、なんでそんなに動くのって怒られるぐらいの覚悟では行きたいと思います。
ウエンツ瑛士
ーー留学から戻ってご自身で感じる変化はありますか。
一番感じるのは、周りの見る目が変わったということですね。僕自身はそんなに変わったと思っていないんですが、それが一番大きな変化だなと。そこに引っ張ってもらうということもあるし。帰ってきてから3年経って、沁みてきている部分と、忘れてきている部分とがあるんですが、そうやって見てもらうことで、また引っ張られて思い出せることもある。あのタイミングで行くのはいろいろなことが大変でしたけど、決断をした自分を今ならポジティブに振り返ることができるなと。それでどうなったという結果を自分で知るのは非常に難しいんですが。技術的なことはわからないですが、留学を経て、いろいろなことが落ち着いたなとは思います。一つひとつの仕事終わりに、「やることはやった」という気持ちになれるようになったのは、その経験が生きているような気がします。帰ってきてからもバラエティの仕事をやっていますが、先日も現場で「なんでまだここにいるの?」みたいな話になって、でも、その質問がある時点で、イギリスに行ったことを含めて認識してもらえているんだなと。それだけでも違いますよね。お芝居も含め、自分の人生や人間としての自分を豊かにしたいなって思って、背中を支えてもらっている状態でバラエティ以外の仕事にも挑戦できる、それも落ち着いてやれている。自分自身で納得できる状態になっているんですよね。そこはだいぶ違うかなと。
留学に行って、究極、そこにいればいいんだっていう風に思えるようになりましたね。行く前は、こうでなきゃいけないとか、こうあるべきだとか、ここをもっと伸ばさないといけないとか、いろいろなことを考えていたし、帰ってからも思うんです。5年後、10年後の目標ももちろん大切ですし。でも、向こうで一番言われたのは、そのままでそこにいてくれたらそれで十分なのに、それに、4歳から仕事をやってきたんだから、それをもっと自分の中に落とし込んで、そのままいるっていうことだけで自分の中にエネルギーがどれだけあるか、自覚しなさいということだったんです。それってあまり日本ではもらわない言葉かなと思って。時代的にも移り変わりが激しくて、若い人が出てきたとか、今はトレンドがこうだとか、そういうこともある、でも、あなたはそこからもう離れたでしょ、そんな言葉を誰も日本ではかけてくれないの? みたいな話があったんです。だから、この作品に限らず、その場にいて、立っているだけで何かこう伝えられるとか、それを自分自身で信じられるっていう風になったというか、それはひとつ持って帰れたかなと思いますね。
ーー現時点で感じる物語の魅力とは?
僕は、男性から女性への変化や、時代を越えて生きていくというこの物語を読んだとき、「本当に好きに生きよう」って思えたんです。オーランドも、いろいろなことを飛び越えても、感じることはけっこう似ていたりして、そこに差異はあんまりないんだなと感じたんです。別の人生どうだったかなとか、たまに考えることあるじゃないですか。この選択肢を取ったらどうだったかなとか。でも、意外とそんなに変わらないんだなって、この話を読んでちょっと心が楽になったというか。何も考えないっていうのはあんまりよしとされないような時もありますよね。もうちょっとちゃんと考えなさいとか、人に対してこうしなさいとか。でも、何にも考えない方が人に対してちゃんとまっすぐに正直に接することができるんじゃないかなって。そのままのあなたでいいというか、いろいろ装飾する必要はないんだなということを、最初に読んだときにすごく感じたので。この5人で演じて、そこに音楽も入ってきたとき、どういう形でお客様に伝わるのかなって、楽しみです。僕を昔から知っている友達、知人たちに見てほしいなと思っていて。そして、わからなかった部分も含めて感想を聞きたいですね。それぞれ思うことが違う作品になるんじゃないかなと思います。公演を重ねていくと舞台が変わるというのもすごく楽しみで。いつも思いますけど、千秋楽のときに、「ああ、こういうことだったか」と思う、それを、初日に思いたいなと(笑)。基本的に、始まる前はけっこう不安が大きいタイプなんですけど、今回、原作の持っている力も含め、絶対おもしろくなる作品だと自信を持てているというのが何だか違うなと思いますね。
ウエンツ瑛士
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=武田敏将
公演情報
『オーランド』
翻案:岩切正一郎
演出:栗山民也
出演:宮沢りえ、ウエンツ瑛士、河内大和、谷田歩、山崎一
埼玉公演:2024年6月29日(土)~30日(日)彩の国さいたま芸術劇場大ホール
東京公演:2024年7月5日(金)~28日(日)PARCO劇場
愛知公演:2024年8月1日(木)~4日(日)穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
兵庫公演:2024年8月8日(木)~11日(日)兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
福岡公演:2024年8月16日(金)~18日(日)キャナルシティ劇場
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