福岡『CIRCLE'24』ええ感じのフェス日和を締めくくったトリのくるり、レジェンド大貫妙子、ずっと楽しいネバヤンら初日レポート
CIRCLE'24 2024.5.18(SAT)福岡・海の中道海浜公園 野外劇場
博多ポートタワーが目印でもある博多ふ頭から市営渡船に乗って、西戸崎渡船場まで約15分。そこから海の中道海浜公園を超えて、野外劇場まで徒歩約20分。この行き方を去年2日目に経験したので、やはり海の中道海浜公園というくらいだから、今年も海を体感したいと思って迷わず市営渡船に乗る。ただ去年炎天下の中、乗船するまで1時間も並んで待った事もあり、念には念を入れて8時15分博多ふ頭発市営渡船に乗るも、まったく混雑は無く、9時前には海の中道海浜公園内に到着していた。
開場は9時半、開演はDJブースであるKAKU-UCHI Annexであり、いわゆるライブはCIRCLE STAGEで11時45分からと時間には余裕がある。なので、じっくり観客皆様を観察していたのだが、あくまで混雑していないだけで、そんな早い時間からも既に多くの観客が到着していた。船でも電車でもバスを含む車でも市内から全く遠くないので、ちょっとしたピクニックなレジャー気分で気軽に来れるのが何よりの利点。遠くに辿り着くというのも野外フェスの醍醐味だが、やはり都市型フェスの安心感も何とも言えない。こうして、今年も『CIRCLE』が始まる。
角張渉、EDANI
11時半頃、KAKU-UCHI AnnexにDJのひとりとして毎年名前を連ねる角張渉が登場する。事務所レーベルの代表という裏方でありながら、普段から露出も多い方ではあるが、『CIRCLE』では完全に名物。SNSでは「角張さんのDJは絶対に観なきゃ!」という声が本当に多い。もちろんライブが主役なわけだが、こういう余興的なサブステージも人気があるフェスは本物だと勝手に捉えている。どこを食べても美味しいみたいな感覚というか。で、本来は出番ではない時間帯に角張が登場して、何をしたかというと、夕方の自分の出番にスペシャルなゲストが来るという告知。
この2日間で実際に誰が来たかというと、福岡を拠点にレーベルやバンドなど多岐に渡って活動するボギー扮するバービーボーイズや岡村靖幸である。何を言っているのかさっぱりわからない人もいるだろうが、要は地元カルチャー界の有名人によるモノマネ。そして、まぁ驚く事に、これがとんでもなく盛り上がる。ちなみにボギーの長男モンドくんの似顔絵テントも大盛況で、2日間共に予約が埋まりまくっている。全国各地フェスは溢れ返っているが、ここにしかない名物があるというのは本当に強みだ。ここでしか味わえないロケーションや催し物があるから、福岡以外の遠征組の観客も多いわけだし、これからじっくりと書いていくが、出演者の『CIRCLE』への想い入れも強く感じられた。一昨年、去年と担当した『CIRCLE』ライブレポートもそうだったが、一般的な出演者全組同じ文字数で詳細に記録する文章というよりは、全体的に感じた事を記していく紀行文の様なものだと想って読んで頂けたら幸いである。
折坂悠太(band)
常連組が多いイメージだが、毎年初出演組も多く、その全ての人たちが常連組感というか、『CIRCLE』っぽさを持ち合わせている事も感じた。それは先述した想い入れにも繋がる。まずは去年も感じたが、まだ5月であり、今年は全国各地雨も目立つ中、福岡は大ピーカン照り。とにかく日差しが強い。CIRCLE STAGEトップバッターは初出演の折坂悠太(band)。1曲目「坂道」から緩やかで穏やかな雰囲気に持っていってくれる。
「(今日は)爽やかですけど、日常はエグいことあるでしょ。今日くらいは青空の下で根源的な喜びみたいなものを感じますよね!」
折坂悠太(band)
音楽の良いところは音で楽しませてくれて、日常から非日常へ連れて行ってくれること。特に野外フェスは、その根幹の様なものであり、全てを解放してくれる。
<今私が生きることは 針の穴を通すようなこと>
そう歌われた「針の穴」は生きることの重みを感じた上で、歌に身を委ねるというか、歌が寄り添ってくれる事を心底感じる事ができた。最高の歌い出しとしか言いようが無い時間。
Nagakumo
グソクムズ
KOAGARI STAGEトップバッターNagakumo、二番手グソクムズという若手バンドも初出演であり、だからこそ喜びもひとしおであった。Nagakumoは結成4年目で初の野外フェス。グソクムズも「このラインナップでライブができる事を嬉しく思います」と話していたが、Nagakumoは大阪でグソクムズは東京と別に地元出身というわけでもなく、ただただグッドメロディーのバンドだからキャリア関係なく選ばれたというのも素敵だった。Nagakumoは「思いがけず雨」、グソクムズは「すべからく通り雨」と特に印象に残った歌が大晴天にも関わらず雨の歌というのも愉快だったが、ここにきてバンドサウンドが続いている事にも気付く。今更何を言っているのかと思われるかもだが、去年のKOAGARI STAGEは弾き語りが大半であったので、逆に今年は大半がバンドというラインナップには、よりダイナミズムを感じた。
TENDRE
KOAGARI STAGE三番手TENDREは二度目の出演なのだが、初出演がコロナ禍で開催された2022年のマリンメッセ福岡というイレギュラーな回であり、海の中道海浜公園には初出演となる。リハーサルの時から、その幸せさと嬉しさは充分に伝わってきたし、リハから本番まで空いた2、3分の間に、観客に『CIRCLE』の好きなところを言おうと促したりと気合い&テンションがフル満タンなのも伝わってきた。
「フェスってみんなで作るもの! ノッてる人には「いいよね!」と言ったげて!」
この言葉は斬新だった。大変な時を助け合うという意味で「みんな」を意識する事はあったが、楽しい時を「みんな」で共有する……、ずばりそれこそフェスである。大変な時も楽しい時も一緒に過ごすというのは、単なるお祭り騒ぎでは無くて、地に足の着いた大人の祭の楽しみ方だなと感心してしまった。
「CLOUD」では、「「CLOUD」って言ってるけど、がんがん晴れてる!」とも言っていたものの、Nagakumo、グソクムズの雨にまつわる歌もそうだったが、どんな歌詞の歌であれど心と天気が晴れ渡っていたら気持ちが良いものだ。やはり何と言っても、この天候は大きい。日差しが強いと言っても、5月という春にしてはの事であり、猛暑の夏と比べると過ごしやすすぎる。
KIRINJI
CIRCLE STAGE二番手KIRINJI。13時40分。日差しを一番強く感じたが、堀込高樹いわくステージ上には風が吹き抜けて寒いくらいだったという。最近はライブ中に撮影自由な演者も多く、KIRINJIもそうであった。「下手だと思ったら止めて下さい!」と堀込は冗談交じりに言っていたが、2日間通して撮影をしている人が多くなかったのは、とても好印象だった。撮影をするよりも、この自然の中で音に心身委ねたいと思っている人の方が多かった気がする。最近の楽曲である「Rainy Runway」から約21年前の懐かしのナンバー「愛のCoda」まで、どの曲もTHE KIRINJIとしか言えない最先端のグッドミュージックで流石としか言えなかった。
大貫妙子
キリンジ名義として1996年から活動しているKIRINJIだが、自分の青春時代が1990年代なので、どこか地続きな感じがあり、良い意味でそこまでキャリアを感じずにいる。だが、続く大貫妙子はシュガー・ベイブ時代からでいうと自分が生まれる5年も前の1973年から活躍しているわけで、そのキャリアには驚くしか無いし、去年でいうムーンライダーズ的なレジェンド枠。リハーサルから大きな拍手で迎えられるが、まずはショッキングピンクな美しいスカートに目がいく……。あくまで衣装なのだが、その存在感、その佇まいからして、やはりレジェンド……。1曲目「ピーターラビットとわたし」は約42年前のナンバーだが、そのファンタジーな世界観は今尚新鮮であり、優雅さすら感じる。そうそう今更だが両日共にトンビが飛び交う姿が目立ち、時には低空飛行に怖気づいてしまうほどだったが、気のせいかもしれないけど大貫が歌っている間は静かにお利口にしているようだった。『CIRCLE』は2019年以来5年ぶりとの事だが、次いつ観れるかわからないという異様な特別感がある。
大貫妙子
「そんなに喜んでくれたら、また来ちゃうよ! 先の事あまり考えてないですけど20年は無理かもだけど、呼んでくれるところがあれば、行ける限り足を運んでいきたいと思います」
約50年のキャリアがあるレジェンドが未だに現役バリバリであり、ライブへの強い意欲を持っている事が嬉しくもあり、頼もしさしか感じなかった。約10年前にバラエティ番組で海外の旅人が探し求めに来ていた事も話題になった1977年の名盤『SUNSHOWER』。そこに収録されている代表曲「都会」には、ただただざわめき、ただただ聴き惚れる……。「この曲だけ異常に売れてるの?!」と本人は笑っていたが、まさしく生で聴けたという喜び……。御本人も坂本龍一が編曲で携わっていた事に触れていたが、当たり前に存在していると思っていた人たちとの別れが多くなってきている今……。
「同世代の殿方がたくさん亡くなってしまって……。女性は強いのかも知れないけど、男がいないと困ることもある……。長生きすればよいものでもないけれど……」
大貫妙子
静かに落ち着いた口調で、耳を澄ませないと聴こえないくらいのトーンで自然に話す。こう書き起こすだけで涙ぐむしか無いし、余計な言葉はいらないが、でも彼女ら彼らしかわからない関係性から生まれた素晴らしい音楽……。やはり少しでも長生きして欲しいし、例え亡くなっても、その素晴らしき音楽は生き続ける……。時間が経てば経つほど、凄い時間を過ごしたのだと思えるライブ……。Nagakumo、グソクムズといった若手からレジェンドまで、たった1日で音楽の歴史に触れられる『CIRCLE』は本当に貴重な祭である。
大橋トリオ
そんな『CIRCLE』初日でいうと、絶対に忘れてはならない名言を残してくれたのが、CIRCLE STAGE四番手の大橋トリオ。以前から御馴染の常連組なイメージが勝手ながらあった。1曲目「EMERALD」の軽やかなビートは夕方という状況も合わさり、むちゃくちゃ気持ち良い時間で、やはり以前から出演していた錯覚に勝手に陥る。当の御本人も「実は今まで何回かお声がけを頂いていて、でも、この時期は自分のツアーと丸被りでお断りせざるをえない状況で……」と明かしていたが、遂に満を持してという今回の出演。ここで、まさに『CIRCLE』を表現した大橋の言葉を書き残しておきたい。
大橋トリオ
「こんなに良いんだ『CIRCLE』って!」
来年も出演したいというリクエストも宣言していたが、あの場にいた人間ならば、この気持ちは絶対にわかるはずだ。
never young beach
いよいよCIRCLE STAGE・KOAGARI STAGE残すところは一組ずつ。KOAGARI STAGE18時半。暑さも落ち着いた夕暮れ時のnever young beach。最高じゃないわけがないだろ?! リハーサルから「夏がそうさせた」で浮遊感たっぷりな音を鳴らして、早くも快適な空間に仕上げてくれる。リハ状態そのままから「このまま始めっちゃおうかな! いくぞー!」と安部勇磨がトップギアを入れて、1曲目「なんかさ」へ突入! 爽快感の凄さを一身に浴びながら、続く「らりらりらん」でも安部は「歌って踊ってちょーだい!」と軽く振りを付けて踊っている。今年は結成10周年というアニバーサリーイヤーでもある事から祝と背中に書かれた法被を着ているが、本当に祭が似合うし、2週間前に観た大阪の野外イベント『OTODAMA~音泉魂~』でも感じていたが、兎にも角にも心身ともに仕上がっている。ギターの音色も最高であるし、跳ねたビートで伸び伸びしていてたまらない……。安部も叫び気味に観客に声掛けをしながら、メンバー間全員で「嬉しいよね!」と意思確認用に言い合っている。もう微笑ましさしかない。
「普段我慢している事をギャーッとして下さい!」
never young beach
いや本当もうそれをする為に来てるんですよとしか思わない的を得すぎた言葉。その言葉がキッカケかのように、関係者エリアだった場所も開放されて、そこに一気に観客が入って来る。というか、KOAGARI STAGEではなく、そこより大きいCIRCLE STAGEじゃないと収まらないのではというくらいに最初から多くの観客が駆けつけていた。ロックンロールパーティーみたいなノリノリさもあり、R&Bみたいにじっくり聴かすところもありと、要はずっと楽しい……。「明るい未来」ではイントロが演奏された瞬間にどよめきが起こり、クラッカーが鳴り続けているみたいなハンドクラップが鳴らされ続けている。1日太陽に照らされたはずなのに全く疲れを感じさせず観客が大爆発していた! この最高の流れからトリへ。
くるり
CIRCLE STAGE19時25分くるり。「In Your Life」、「California coconuts」という初っ端2曲から抜けが良くて心地が良すぎる。それも昨年リリースのニューアルバムからの2曲というのも嬉しい。今が最高なロックバンドが一番カッコ良い。そして、1998年のメジャーデビューシングル「東京」へ。ステージは赤いライトで照らされ、観客エリアも真っ赤に照らされている。何とも言えないドラマチックな光景……。会場後方からステージと観客エリアを観ていたが、何が凄いって、一番最後の出番なのに、この日一番と言っても過言ではないほど一番みっちりに感じる観客エリア。前方も後方も観客みっちりの状態……。どうしてもトリの時間帯は帰宅環境の影響もあったりして少し観客が減ってしまうのが当たり前の物理的状況なのだが、この日はそんな事が全く無かった。そのまま「ロックンロール」へと駆け抜けて、1999年リリース2ndシングル「虹」へ。
くるり
2週間前の『OTODAMA'24~音泉魂~』でも既に観ていたが、終盤の岸田繁(Vo.Gt)のブルージーなギターソロから、メンバーそれぞれがこれまたブルージーなセッションに入り、最後は岸田がスキャットで盛り上げる。既に観ているにも関わらず、やはり興奮して手に汗を握ってしまうし、25年前の楽曲が最新アレンジで進化更新しているのが凄まじすぎる……。その後も惜しみなく「京都の大学生」、「ばらの花」と歌われて、気分は最高潮に……。
「戻って来れて良かったですね」
くるり
佐藤征史(Ba.Vo)の何気ない言葉。確かに2022年のマリンメッセ福岡には出演しているが、くるりとして海の中道海浜公園の『CIRCLE』に出演するのは2014年以来……。だからこそ岸田の「最高やなぁ……」という言葉も余計に沁みた。アンコールナンバーは「琥珀色の街、上海蟹の朝」。
くるり
「『CIRCLE』ええ感じに終われそうです良かったです」
ええ感じに終われそうなのはあなたたちがいるからですと思わず岸田に心の中で返事しながら、「上海蟹食べたい!」と観客全員で口ずさむ。言うまでもなく、アンコールでも観客みっちりのまま……。ほんまにええ感じに終われた1日目。
くるり
取材・文=鈴木淳史 撮影=オフィシャル写真(ハラエリ、勝村祐紀、chiyori)
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