ホリエアツシ×橋口洋平 ブルエン田邊を招き“復活”した『go-show』は爆笑と感動の嵐だった

レポート
音楽
2025.5.29
ホリエアツシ(ストレイテナー)/ 橋口洋平(wacci)/ 田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

ホリエアツシ(ストレイテナー)/ 橋口洋平(wacci)/ 田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

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go-show ‐歌楽反応‐  2025.5.20  渋谷CLUB QUATTRO

ステージに現れたホリエアツシ(ストレイテナー)と橋口洋平(wacci)を出迎える歓声は、すぐさまザワザワ、クスクスといった反応になり、やがて爆笑に変わった。その理由は橋口が、普段の柔和で温厚そうな印象とはかけ離れたティアドロップ型のサングラスを装着していたから。単にそのあまりにも微妙な仕上がり具合が面白かったため、というだけではなかった。観客の多くが、そのサングラスが何のサングラスなのかを知っていたのである。

ホリエと橋口にゲストの田邊駿一(BLUE ENCOUNT)を加え、東京と大阪のCLUB QUATTROで行われた弾き語りライブ『go-show ‐歌楽反応‐』。プライベートで親交を深めたホリエと橋口によって2015年から数年間、Asagaya Loft Aで開催されたイベントのリニューアル版である。かつてより数倍に増えたキャパシティでも満員状態となったのは、事前に数ヶ月に渡り配信したポッドキャスト番組などの告知が功を奏したことも大きいだろう。橋口のサングラスが大ウケしたのも、ポッドキャスト内で明かされたエピソードに登場するアイテムだからだ。

橋口洋平(wacci)/ ホリエアツシ(ストレイテナー)

橋口洋平(wacci)/ ホリエアツシ(ストレイテナー)

異論は承知で書くが、場のノリや空気というものは対象がマスでなければないほど、限定的であるほど盛り上がるもの。飲みの席だって結局いちばん盛り上がるのはいつだって身内ネタである。ただし、わからない人も多数含まれる環境でのそれは御法度だから、普段のライブではこうはいかない。『go-show』が元々限られたキャパでやっていた身内っぽいカラーのイベントだから、そのニュアンスをポッドキャストを駆使して入念に伝えていたから。つまり身内ネタを最大限共有できる下地を整えてあったから、ティアドロップでいきなりドカンと沸いたのだ。この時点でライブの成功は約束されたようなものだった。

まずはしばしオープニングトーク。通常のステージのほか、会場上手側のフロアを一部区切り、トークステージ兼飲みの役目を果たすサブステージが用意されていること、そのため出演者は出番以外もハケることなく場内に居続けることなどを説明したあと、まずは「とんでもない名曲ができた」(ホリエ)との紹介から、番組内でリスナーからのアイディアを取り入れて作ったオリジナル曲「go-show」が披露された。軽やかに弾むフォーク調ポップスに、ちょっぴり切ないニュアンスの混じったメロディ、サビでの絶品のハモリや橋口のギターソロなど見どころもたっぷりだ。立ち止まったりやめてしまってもいい、もう一度スタートすればいいんだという優しく背中を押すメッセージを包容力たっぷりに贈るこの曲は、久々の開催となった『go-show』の幕開けにもぴったりだ。そこから田邊を呼び込むと、乾杯を経て再びトークに華が咲きまくる。大阪でたっぷり時間が押したため、この日はあらかじめ押す想定のタイムスケジュールを組んだらしいのだが、この時点で既に20分強。まだ本編は始まらない。面白いから全然良いけど。

ホリエアツシ(ストレイテナー)

ホリエアツシ(ストレイテナー)

というわけで、30分近く経過したところで一番手のホリエ。先ほどまでのわちゃわちゃとした空気から一変、トラヴィスあたりのブリットポップやUK方面のインディ/オルタナの香りがする音に、ふわりと英詞の歌を乗せていく「Phantasien」が来た。2012年のアコースティックアルバム『SOFT』収録曲で、普段はなかなかお目にかかれない選曲が嬉しい。「歌い始めた瞬間にミュージシャンになる」という橋口の評には思いっきり頷く。続いては大阪の時に田邊から「やらないんですか?」とおねだりされたという「吉祥寺」を、力強いカッティングと豊かな声量で響かせ、「スパイラル」へ。こちらは来場者から寄せられたリクエストから各自1曲ずつ選んだもの。添えられたメッセージをラジオ番組風に読み上げた後の生演奏がなんとも粋で嬉しい。

「CLONE」は、この曲を大好きだという田邊とデュエットで。エモ色の強い田邊のボーカルもあって、メランコリックな原曲の印象よりもパッションを強く感じる仕上がりになっていた。さらにはwacciの「夏休み」をカバーして、その切ないメロディラインを情感込めて丁寧に歌い上げていくホリエ。こんなふうに3人それぞれのつながりや感性の近い部分が見えてくるのも、こういったライブではとても重要。ラストは場内からのクラップに乗って勢いよく「REBIRTH」を投下して、フロアの雰囲気を一層賑やかなものにしたのだった。

田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

2番手は田邊。この日の成功は彼なくしては語れない。絶大なトーク力と絶妙な後輩ムーヴで場を回し、発言を拾い、観客とも絡んでみせる名パーソナリティぶりには舌を巻いたが、あくまで彼の本分はミュージシャン/ボーカリストであり、その実力をまざまざと見せつける時間が訪れた。ビターな低音から伸びやかな高音まで自在に操りながらシリアスにキメた「ANSWER」、リズミカルなカッティングにハイテンションなアクションも交えて、一気に盛り上げていった「バッドパラドックス」と、初っ端からロック的なダイナミズムを存分に感じる歌と演奏で攻めていく。

ホリエを呼び込んでの「TENDER」、橋口との「別の人の彼女になったよ」のカバー連発も素晴らしかった。田邊が歌う横で楽しげにステップを踏むホリエの姿も、田邊に触発されたような熱唱ぶりを見せた橋口の歌声も、間違いなくこの日ならではの見どころ。リクエスト曲のコーナーで選ばれた、青いくらいにストレートなメッセージソング「はじまり」を朗々とダイナミックに歌い上げたあと、ラストはブルエンの象徴的楽曲であり続ける「もっと光を」。「アッパーな曲を弾き語ることで増してくるメッセージがある」というホリエの言葉そのままの、魂を揺さぶる熱演であった。

橋口洋平(wacci)

橋口洋平(wacci)

トリを務めるのは橋口だ。普段のライブ以上にこの日のトリが大変なのは、他二人のお酒がどんどん進み、それに伴って話の弾みっぷりと進行の遅延っぷりが顕著になっていくから。それを唯一シラフながらニコニコ捌き切ってみせた彼もまた、只者ではない。スモールボディのギターを爪弾いてキラキラとしたライトな音を放ちつつ、すっと歌い出したのは「恋だろ」。弾き語りの「語り」の部分を強めに感じる、声色によって様々な表情を見せていくスタイルだ。剛柔自在でどこか素朴さも感じる歌声は癒し成分が半端ではない。これにはサブステージで酔客へと変貌している2人も思わずトークを忘れるほど。

リクエストから披露されたのは「東京」で、正統派フォークな曲調とラスサビで頂点へと達するエモーションが感動を呼ぶ。ホリエはかつてこの曲をカバーした際、ラスサビを気持ちよく歌い上げすぎて締めのAメロの存在を忘れかけたそうだが、正直それも頷ける。続いてはそのラスサビの歌詞《東京の雨の中で》ともリンクする形で、ストレイテナーの「雨の明日」をカバー。「すごくポップだな」と感じたというこの曲を「違う感じで良さが伝わればいいな」と、ボサノヴァやフレンチポップのニュアンスを帯びたコードで弾き語って喝采を集めた。ブルエン「灯せ」は、2番から田邊が参加して清涼感たっぷりに。そしてまだどこにも出していないという新曲「御節介」を最後に披露し、オレンジ色の光に照らされながらドラマティックに締め括った。

ホリエアツシ(ストレイテナー)/ 田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

ホリエアツシ(ストレイテナー)/ 田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

アンコールでは再びオリジナル曲「go-show」を、今度は3人で披露。来年の3月にはこの新生『go-show』の第2弾wp東名阪のクアトロで開催することも発表された。なお、レギュラーメンバーはホリエと橋口であるため、そこではまた違ったゲストが招かれそうなのだが、そこに多大なプレッシャーを与えかねないくらい八面六臂の活躍をしていた田邊とも、番外編として彼の地元・熊本で『go-show』を開催する計画が立てられているとのこと。正直、田邊に関しては、ゲスト以上レギュラー未満な独自の立ち位置になってもらっても全然良い気はするが。いずれにせよ、予定調和とは無縁で自由なのが『go-show』だ。この先も彼らのあてのない旅路を楽しみに追っていきたい。


取材・文=風間大洋

橋口洋平(wacci)/ 田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

橋口洋平(wacci)/ 田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

イベント情報

『弾き語りライブ go-show ‐歌楽反応‐』
2025年5月14日(水)大阪・梅田クラブクアトロ
2025年5月20日(火)東京・渋谷クラブクアトロ
 
出演
ホリエアツシ(ストレイテナー)
橋口洋平(wacci)
田邊駿一(BLUE ENCOUNT)
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