上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一が藤沢文翁の名作を再び形作る 『VOICARION XVIII~Mr.Prisoner~』インタビュー

インタビュー
舞台
2024.8.15
藤沢文翁

藤沢文翁

――2回の上演を経て、今回の公演でブラッシュアップしたい部分はどこでしょう。

藤沢:普通は演出家が決めたところにみんなで向かいますが、今日読み合わせをして、この作品はそうじゃないと思いました。時間が経つと解釈も変わり、みんながすごいものを持ってきている。僕が作品を書いた時点の想像力の範疇に収めちゃいけない人たちなので、出てきたものをどう形にしていくかです。

だから「今回のテーマは」とか「ブラッシュアップの方向性は」ということは言えないですね。今回初めて気付いたところもあるので、みなさんからもらったものにさらに乗せていくような演出になると思います。

山寺:(藤沢は)もらっているというけど、我々も脚本からもらっているものに導かれるように演じるだけです。あとは、(前回から)4年の人生経験がどう影響するか、やってみないとわからない。

この作品はディケンズの時代の物語。その後も紛争や悲しいことがあり、教育を受けられない子供達がたくさんいることは知っていました。でも、自由に生きられない子供達の存在がこの数年でより身近になった。自分の気持ちがより入るし、脚本に書かれていることの大切さを感じ、伝えたいことがさらに多くなった気がします。

山寺宏一

山寺宏一

林原:こういう機会でもないと行かないと思い、一人でロンドン塔やオペラを見に行きました。もちろん当時のロンドンの街並みとは違うけど、物語の舞台となった地を巡り、想像していた世界を肌で感じられた。それが血肉となり、みなさんにお届けするときのエキスになっているといいなと思います

上川:例えば、将棋は完成してから盤や駒の数・役割は何一つ変わっていない。にもかかわらず、藤井聡太さんのような方が現れると見たことのない手が生まれ、みんなが驚く局面が立ち現れる瞬間がある。この物語も、初演から何も変わっていないのに、改めて読んでみると表現や解釈の変化・深化があるんです。物語と同時に演者も成長していて、初演と違うものをお届けできるベースがあります。「こうします」と予告できるものではなく、お客様の受け取り方によっても変わりますが、違うものになっているのは間違いない。

また、陸上競技のランナーが自分より速い人と走ると思ったよりもタイムが伸びることがあります。僕はそんな状態で初演をずっと走ることができました。「声で伝える」ことに対する意識が大きく変化したのが初演における一番の収穫。それ以降セリフとの向き合い方がガラリと変わったので、また新たな『Mr.Prisoner』をお届けしたいと思います。

藤沢:例え話がうまい!

林原:上川さんのコメントしかなかったらどうしよう(笑)。

山寺:みんなが言ってたことにしてもらえばいい(笑)。

上川:むしろ喋り過ぎてカットされるかも(笑)。

山寺:(林原が)ロンドンに行ったのもすごいよ。

藤沢:上川さんもディケンズのお家に行ったんですよね。

上川:「『Q』:A Night At The Kabuki」で余暇があったのでロンドン塔とディケンズの生家を見てきました。僕の中のビジョンもちょっとブラッシュアップしているかもしれません。

――本作の音楽の印象、演奏と芝居の関係などはいかがですか?

藤沢:この作品が小杉紗代さんと初めてご一緒したお仕事でした。友人の紹介で知り合い、CDを聞いた時に天才だと思った。僕はいろいろなところからインスピレーションを受けるんですが、彼女が作った曲を聞いた瞬間に思いついたのがこの作品です。曲のイメージから物語を組み立て、小杉さんに話して制作がスタートしました。

林原さん演じるレスの成長過程においてオペラを見るシーンがあるんですが、「オペラを見ているレスを360度カメラでぐるぐる見ているうちに彼女が大人になっていくような曲を作ってほしい」とオーダーして出来た曲が2幕にあるのでぜひ楽しみにしてほしいです。

山寺:音楽とは共鳴しかないです。まさに音楽朗読劇。言葉は交わしていなくても一緒に舞台を作っていますし、音楽の影響の大きさを感じます。今日の読み合わせは録音を流してもらったけど、蘇ってくるものがたくさんありました。音楽家の皆さんと合わせるのが本当に楽しみです。

林原:アニメのアフレコ現場は基本無音なんです。この作品は演じているのと同時に音楽が包み、引っ張り、怒りや悲しみに寄り添ってくれる。自分の中で作る感情の波と音楽の波がずれず、変に意識せずにいられる妙があるなと感じます。

上川:舞台でも映像でも、演じている時の手触りや空気感、役者の立ち居振る舞いや表情全てが芝居に影響します。このシリーズにおいて、演者は自分のスポットから動かないしビジュアルの変化も最小限。その中で最高のミュージシャンが奏でてくれる音楽が、僕らに影響を与えないわけがない。生演奏なので、僕らの間に合わせてくださることもあるしこちらが乗ることもある。相互の関わり合いが重要で、音楽は一つの頼みの綱。そんなことも頭の片隅に置いていただけると、見え方がまた変わってくると思います。

前回公演の様子

前回公演の様子

――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

藤沢:作中に「どんなに素晴らしい場所でも逃げ出したいと思ったらそこが牢獄になる」というセリフがあるけど、8年前よりもたくさんの「牢獄」が目に入る時代になってしまった気がします。だからといって僕らの気持ちまで一緒に落ちていく必要はない。この作品は牢獄をテーマにしているけど、全員がそこから抜け出す鍵を手に入れる物語。ご覧になった方が何かの牢獄に囚われている時に、鍵の見つけ方を探す鍵になればいいなと思っています。

山寺:とにかく、どうしても見ていただきたい作品です。この作品をこのメンバーでやって「面白くない」と言われたら声優辞めますというくらい自信のある作品なので、ぜひ来てください。

林原:ロンドンに行ってきた話をしましたが、見知らぬ土地に行ったり慣れないことをしたりすると、自分の五感をフルに使ってなんとかその場を乗り切ろうとする。そんな時に第六感や自分の中から湧いてくるものが生まれるんじゃないかと思いました。この作品は、聴覚をたくさん使い、目に見えているもの以外も見る作品で、みなさんのイマジネーションで様々な場面を作っていくのでいい意味で脳が疲労すると思うし、“疲れた”ではなく“憑かれた”という心地よい感覚を高揚と共に感じられる非常に珍しい舞台。体感しない手はないと思います。

上川:初演から何も変わってないと言いましたが、実は公演回数が大きく変化しています。その日の演者のちょっとした息遣いや音楽の間でお芝居はうねっていく。16回の公演、どれ一つ同じではありませんから、ぜひお客様だけの『Mr. Prisoner』をご覧になっていただきたいと思います。

取材・文=吉田沙奈 撮影=荒川潤


<ヘアメイク>
上川隆也:大野真二郎
林原めぐみ:小竹珠代
山寺宏一:岩井マミ

<スタイリスト>
上川隆也:黒田匡彦(KUMSTYLE)

<衣装クレジット>
上川隆也:Losguapos for stylist/03−6427−8654

公演情報

『VOICARION XVIII~Mr.Prisoner~』
 
日程:2024年8月21日(水)~9月1日(日)
会場:東京・シアタークリエ
 
原作・脚本・演出:藤沢文翁
作曲・音楽監督:小杉紗代
出演:上川隆也 林原めぐみ 山寺宏一
 
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