舞台美術家・朝倉摂の日本画家時代を描く新作評伝劇『摂』を文学座が上演

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文学座が本公演『摂』(作:瀬戸口郁、演出:西川信廣)を、2024年10月28日(月)~11月6日(水)紀伊國屋ホールで上演する。日本を代表する舞台美術家・朝倉摂(あさくらせつ/1922-2014)が日本画家だった時代の「生」を描いた新作評伝劇だ。

朝倉摂といえば、新劇、小劇場、商業演劇、歌舞伎、オペラ、日本舞踊……ジャンルを問わず独創性に満ちた舞台美術を作り続け、生涯に1600本以上にのぼる舞台美術作品を手掛けたことで知られる。しかし、彼女がロックフェラー財団の招聘で舞台美術を学びに渡米したのは1970年、48歳の時だった。帰国後、堰を切ったように舞台美術家として活躍することとなるが、実はそれまでの前半生において上村松園賞を受賞するなど、日本画の画家として命を燃やしていた。

だが「過去を振り返るのが大嫌い」だった彼女は、舞台美術の世界に突き進んで以来、絵画の世界とはきっぱりと離れ、自らの日本画家時代の作品を徹底的に封印したのだった。この封印された日本画群が摂の死後、アトリエの裏の物置から、無雑作に丸められた状態で発見された。そして、この発掘が美術関係者たちに大きな衝撃を与える。2022年神奈川県立近代美術館を皮切りに各地の美術館で、これまで埋もれていた日本画に光を当てた展覧会「生誕100年 朝倉摂展」が開催され、大きな反響を呼んだことは記憶に新しい。

朝倉はなぜ過去を振り返ろうとしなかったのか。なぜ自らの日本画を封印したのか。本作『摂』では、日本画家時代の彼女の「生」を通して、その謎に迫る。

本作を手掛けるのは、評伝劇でこれまで数多くのヒット作品を生み出してきた瀬戸口郁と西川信廣の作・演出家コンビ。また音楽を朝倉摂の盟友だった池辺晋一郎、舞台美術を親子二代にわたって朝倉家と親交の深い松野潤が担当する。出演は朝倉摂役に荘田由紀、朝倉文夫役に原康義、摂の叔母役に新橋耐子を配役。また朝倉摂の実の娘・富沢亜古が摂の母親役で出演するなど、文学座が劇団の総力を結集して臨む。


 
【あらすじ】
舞台は東京下谷区谷中の彫刻家(彫塑家)・朝倉文夫邸。「東洋のロダン」といわれた日本美術界の重鎮・朝倉文夫の長女として大正11年、摂は生まれた。幼少期の摂は父の英才教育のもと学校へは行かず、家庭教師に学問を学び、のびやかに育てられた。摂は手のつけられないお転婆娘。父の弟子たちが作成した男性の裸体像が並ぶアトリエに夜中にこっそり忍び込み、男性器の部分だけちょん切るなど、いたずらが大好き。そのたびに母・やま子にお仕置きで押し入れに閉じ込められるも、摂は押し入れを蹴破って表に脱走、近所の子供たちを引き連れて遊ぶ女ガキ大将だった。
昭和14年、摂は17歳のとき、「美人画」で名高い日本画家・伊東深水に入門。妹の矜子(のちの彫刻家・朝倉響子)と切磋琢磨し、日本画家として頭角を現していく。しかし昭和16年、真珠湾攻撃で太平洋戦争が勃発するや摂の青春はにわかに戦時色に覆われていく。B29が飛ぶ中、摂の心には戦争への憎悪が燃え上がっていく。昭和20年3月、東京大空襲。爆撃の振動を全身に浴び、天井からバラバラ落ちてくる埃を頭からかぶり摂は「お父さん! 私は戦争で死ぬのはいやだ! 生きていたいよ!」と疎開を懇願する。父は娘の必死な目を見て、奥多摩へ疎開を決心する。
戦後――米国の占領政策で国宝を整理、大蔵省は展覧会予算を出すのを止めるなど芸術界は混乱した。朝倉文夫はこんなときこそ信念を持つべきと戦前にも増して力のこもった仕事をしていく。摂も日本画団体一采社に参加。父に負けじと旺盛な創作活動を開始する。ある日、摂は自立を決意。止める父を振り切って家を飛び出し、代々木に下宿。仲間の彫刻家・佐藤忠良とともに桑沢洋装学園でデッサンを教えるなど、自活を始める。また旧態依然とした日本画の世界に危機意識を抱いた摂はピカソのキュビズムに触発された女性裸体を描くなど、日本画の新しいリアルを模索し「リアルの自覚」という論考を美術誌に発表。新しい日本画家として自らの進む道を宣言し、「自画像」を描き上げる。
50年代――激動の日本社会とぶつかりながら摂の壮絶な闘いが始まった。


■朝倉摂(あさくらせつ)

大正11年、彫刻家で日本美術界の重鎮・朝倉文夫の長女として東京谷中に生れる。
昭和14年、美人画で名高い伊東深水に師事し、日本画を学ぶ。
昭和16年、新文展に初入選。同年太平洋戦争勃発。
昭和20年、東京大空襲。青梅に疎開する。
昭和24年、実家を出る。桑沢洋装学園でデッサンを教えるようになる。
昭和25年、第1回朝倉摂作品展を開催。サロン・ド・ブランタン展で「自画像」が日本画一等を受賞。「リアルの自覚」という論考を美術誌に発表。この頃からピカソのキュビズムの影響を受け画風は大胆に変貌する。
昭和28年、「働く人」で第3回上村松園賞を受賞。
昭和31年、佐藤忠良らと常磐炭田にスケッチ旅行。美術が社会にどう関わっていくべきかを懸命に模索。絵は次第に社会派的な傾向を強めていく。
昭和35年、60年安保闘争に傾倒。
昭和45年、ロックフェラー財団の招聘で渡米。舞台美術を学ぶ。
帰国後は舞台美術家としての道を突き進んでいく。蜷川幸雄、唐十郎ら、気鋭の演出家との共同作業を経て、演劇シーンに新たな地平を切り拓いていき、生涯に1600本以上の舞台美術を手掛ける。

受賞歴
1950年:サロン・ド・プランタン賞
1953年:上村松園賞(「働らく人」)
1972年:講談社出版文化賞絵本賞
1980年:テアトロ演劇賞
1982年:日本アカデミー賞優秀美術賞(『悪霊島』)
1986年:芸術祭賞(『にごり江』)
1987年:紫綬褒章
1989年:朝日賞、日本アカデミー賞優秀美術賞(『つる -鶴-』)、東京都民文化事業賞
1991年:紀伊國屋演劇賞(『薔薇の花束の秘密』ほか)
1995年:読売演劇大賞最優秀スタッフ大賞(「泣かないで」、「オレアナ」、「エンジェルス・イン・アメリカ」ほか)
2006年:文化功労者

■作/瀬戸口郁(せとぐちかおる)

俳優・劇作家。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。1989年文学座附属演劇研究所入所/1994年座員昇格。俳優として「女の一生」「寒花」「逃げろ!芥川」など文学座の舞台を中心に活躍。「12人の怒れる男たち」「夜の来訪者」(俳優座劇場プロデュース)など外部公演にも出演多数。また劇作家として数多くの戯曲を執筆、上演。「エゲリア」「食いしん坊万歳!」(文学座)、「真砂女」「吾輩はウツである」(劇団朋友)、ミュージカル「君といた夏」(可児市文化創造センター)、「南の島に雪が降る」(劇団前進座)「いちばん小さな町」(劇団1980)など。脚本作品「てけれっつのぱ」(劇団文化座)が平成20年度文化庁芸術祭大賞を受賞。慶應義塾大学特別講師。東京藝術大学非常勤講師。

■演出/西川信廣(にしかわのぶひろ)

文学座演出部所属。新国立劇場演劇研究所副所長。日本劇団協議会会長。1986年、文化庁派遣芸術家在外研修員としてイギリスに滞在。 1984年文学座アトリエの会『クリスタル・クリアー』で文学座初演出。 1992年文学座アトリエの会『マイ チルドレン!マイ アフリカ!』にて紀伊國屋演劇賞個人賞、芸術選奨・文部大臣新人賞。1994年文学座公演『背信の日々』で読売演劇大賞優秀演出家賞。最近の劇団公演は『寒花』、『昭和虞美人草』、『ウィット』、『田園1968』『逃げろ!芥川』。

公演情報

文学座公演
紀伊國屋書店提携公演
『 摂 』 

■日程:2024年10月28日(月)~11月6日(水)
■会場:新宿東口・紀伊國屋ホール

 
■作:瀬戸口 郁
■演出:西川信廣

■出演:新橋耐子、原 康義、富沢亜古、鈴木弘秋、神野崇、川辺邦弘、細貝光司、荘田由紀、越塚 学、日景温子、音道あいり、杉宮匡紀、キクチカンキ、野村今日子

 
【スタッフ】
■美術:松野潤
■照明:塚本悟
■音楽:池辺晋一郎
■音響:中嶋直勝
■衣裳:原まさみ
■舞台監督:寺田 修
■演出補:的早孝起
■制作:前田麻登、梶原優、最首志麻子

 
■終演後、アフタートーク
・10/29(火)13:30の回「交遊録 人間・朝倉摂の魅力」池辺晋一郎(音楽)×佐藤オリエ(俳優)×西川信廣(演出)×富沢亜古
・10/31(木)13:30の回「アヴァンギャルド少女 日本画家・朝倉摂!」水沢勉(美術史家・美術評論家)×森田彩子(ギャルリー・パリ主宰)×瀬戸口郁(作)×富沢亜古
・11/2(土)13:30の回「朝倉彫塑館のある風景」戸張泰子(朝倉彫塑館学芸員)×大貫はなこ(台東区議会議員)×瀬戸口 郁×原 康義×富沢亜古×荘田由紀×日景温子
・11/4(月祝)13:30の回「朝倉摂を探して 稽古場バトルトーク」新橋耐子×原 康義×川辺邦弘×細貝光司×荘田由紀×越塚 学

【地方公演】
■日程:2024年11月9日(土)14:30開演、10日(日)13:30開演
■会場:尼崎ピッコロシアター

 
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