とまとくらぶ始動から2年、自然体かつ本気の1stアルバムが到着 その熟し具合やいかに?
とまとくらぶ
正式な始動から約2年、とまとくらぶの1stアルバム『緑盤』が到着した。活動を大々的に行っていたわけではないけれど、互いのバンドの活動の裏で何度もライブを重ね、時間を作っては酒を飲み交わし意見をぶつけ合いながら作り上げた、作り手ふたりの人間味と音楽性がギュッと濃縮した10曲が収められている。
形態としてはアコースティックユニットではあるのだが、その曲調やアレンジは郷愁を誘うものからインディロック然としたもの、ライブ映えしそうなアッパー系までとても多彩。いずれも弾き語りと聞いて想像する、コードストローク中心のシンプルな楽曲とは一線を画したものだ。そんな楽曲たちをどのように生み出し、どんな思いを込めたのかについて、ここ2年におけるこの活動に対する心境やスタンスの話とともに探っていく。
──前回SPICEで取材したのが「故郷」のタイミングなので、もうほぼ2年経ってまして。当初は「飲み友達の延長線」みたいに始まったともおっしゃってましたが、そう聞いて想像するよりもこの間の活動や姿勢はだいぶガチにやっている印象があって。
村松:説明として「飲み友」みたいなことは言ってたんですけど、わりと真面目にやろうというのはあったんですよ、最初から。でもまだあんまり曲も作ってなかった時点で言ってもあんまり説得力がないから(笑)。
山田:このユニットをやろうとなった時点でだいぶ本気で始動しようというのはありました。なんだかんだ、ライブもけっこうやってるもんね。
村松:東北も行ったし、『麦ノ秋音楽祭』は何度も出させてもらってるし。音源を作りつつライブをやることでだんだんお互いの癖も見えてきて、ライブのスタイルもだいぶ固まってきそうな。
山田:そうだね。
村松:音源を作りながらの心境の変化はありますけど、そもそも俺たちがやろうとしてたのは、お互いの呼吸感を感じるというか、ふたりだから出せるステージの空気とか息遣いを音楽を通して出せたらなということで。それをやろうとして実際にふたりでDTMで曲を作っていくと、結局けっこう作り込んだものになってくるんですよ。ライブでアコギ2本だけでやっているのも物足りないというか、自分たちが見えてる完成形から遠い気がしていて。
山田:うん。ふたりが出してるアコギの音がノリでやっちゃいましたじゃなく、ちゃんと音に向かってふたりともプレイしてるんだなって。他の音が欲しくなるのは最初からふたりの音が導いてたからなんだろうなっていう気がする。必然的に入ってきた音というか。
とまとくらぶ
──たしかに、アコギを持ったふたりが並んだライブをしてますけど、いわゆるアコースティックユニットっぽい音ではないものがほとんどですもんね。
村松:そこはやっぱり、僕らがやってきたバンドベースの人生みたいなものもあるかもしれないです。瞬間に欲するところや気持ちよく思うところがバンドアレンジの方に行きがちというか。
山田:それはあるね。俺たちらしさを最初から「ここに行こう」と置いてるわけじゃないし、メロとかアレンジにしても「とまとくらぶらしさが何なのか?」って言われたらまだはっきり言い切れるものじゃなくて。それこそお互いのバンドでやってきたアレンジの技だったり、コードの展開の仕方だったりを擦り合わせて、歌詞も各々から出てきやすい言葉とか描きやすい視点とかをいろいろ織り交ぜて、最終的に「これがとまとくらぶなんだな」っていう感覚がある。
──やはり心持ちの部分としてはあまり変わってなさそうですね。
村松:うーん。着地しようとしてるところはあんまり変わってない気がする。
山田:アルバムを一枚作ろうというのはとりあえずあったから、そこをまず着地点にしようというのはあったけどね。
村松:もちろん「故郷」と最後に書いた曲とではできてることもカラーも全然違うとか、そういうのはあるかもしれないですけど。
──側から見てると、もうちょっと……気楽と言ったら言葉が違うかもしれないけど──
村松:ああ、たしかに(笑)。
──息抜き要素もあってやっていくのかな?と勝手に思ってたんです。でもそれよりずっとガチというか。
村松:そうだよね(笑)。たぶん、俺ら的には「とまとくらぶ」っていう存在自体が息抜きではあって。でもTHE BACK HORNとNothing's Carved In Stoneの俺らがふたりでとまとくらぶをやってると、「とまとくらぶ?もありますよねー」みたいな表現になりがち。他の人から見ると。
山田:(笑)
村松:でもそうじゃないよね、音楽やってるんだよっていうのは、ふたりとも最初から思っているんですよ。そう思っていたゆえのこの『緑盤』だし、心持ちとしてはずっとそこに向かってた。「音楽やろうぜ」みたいな。
──緩いのは門構えだけだよ、という。
村松:ああ、もうまさに。
とまとくらぶ
──そこは聴けば自ずと伝わってくる部分でもあると思います。「故郷」時点からすでにアルバムは視野に入れていたんですか?
山田:「故郷」の時はまだアルバムを作ろうかというのはなくて。それから半年くらいしてからかな、去年の春とかにアルバムを意識し始めて。「Whaleland」とか「春夏秋冬」が揃ってきてからだよね。
村松:だったかな。もうとにかく曲を作ろうみたいな感じではあったかもしれない。
──出すとしたらこんなものになる、みたいなイメージはありました?
村松:ないっす。
山田:ないよね、本当に。
村松:自分らでもお互いがどんな曲を出してくるか、揃ってみないとわからないから。「こういうのはどうかな?」って見せて話しながら決めていく感じだった。でも個人的にずっと言ってるのは『みんなのうた』を書きたいっていう。
──おおー!
村松:とまとくらぶだったらできるかなって。『みんなのうた』みたいな曲が書けたら、ふたりでやっている意味もすごくあるなって思う。
山田:とまとくらぶでしかできない感じが良いよね。あとは曲を作りながら、ライブでお客さんがクラップできる曲がほしいねとかも出てきたりして。
村松:そうだね。最初の頃のライブはお互いの曲とかやってたじゃないですか。
──でしたね。
村松:でもそれがやりたいわけじゃないんだよなっていうことに気づいてきて。
山田:オリジナルやりたいよねって。
村松:それでお客さんも巻き込んでライブできるにはどうしたらいいかな?とか、シンプルにちょっとずつ階段を登って、着実にやってきた感じですね。若い頃の衝動で「描きたい絵があります」「歌いたい曲あります」とはちょっと違って、ふたりで見せていきたい世界観とか、それによってお客さんにどんなふうに笑っていてほしいかとか、そういう曲作りだったと思うんですよね。「そっちに行けるんだな、俺たち」っていうことを教えてもらった。
山田:拓の家でふたりで飲みながらアコギ弾いて、「こういう曲聴いてるんだよね」っていう話から「こういう感じ?」ってコード付けて、それにメロを乗っけてできた曲もあるし、突発的にどんなフレーズが出てくるかもわからない、それがいいなって。
山田将司
──僕、「Whaleland」を初めて聴いたときのことをよく覚えてて。終わった後に「デスキャブ(デス・キャブ・フォー・キューティ)みたい」って言ったんですけど。
山田:あー、覚えてる!
村松:すっげえ嬉しかった、あれ。
──ああいう曲ができたことも、その後にとって大きかったと思うんですよ。
村松:たしかに。
山田:2曲目にできたもんな。でかかったね。
村松:僕が書くすごくシンプルなリフとかコード進行って、あんまり将司さんの世界観的にはないなと思うんですよ。それを将司さんが歌ってくれることで融合できたらいいなって思いがあって。だから、とまとくらぶでは俺が良い歌を歌いたいというより、将司さんの新しい魅力を引き出したいのは最初からあったのを思い出しました。
山田:うんうん。
村松:その逆もあって、将司さんの書いてくる曲が僕のやったことない曲調だったりもするから、その交換ができればいいなと。そこがとまとくらぶとしてしっかり仕上がってきたのは嬉しいところですね。
山田:俺がメロディを付けた曲も、THE BACK HORNでは付けないメロディだったりするし、やっぱり拓が歌うことをイメージして作ってたりはする。
──できた順番だと「Whaleland」の後が「春夏秋冬」でしたっけ?
村松:「春夏秋冬」と「とまとめいと」が同じぐらいで、そこまでは去年の夏くらいに録ってるんですよ。
──「Sunny Side Song」もどこかのライブでやってませんでした?
村松:やってますね。
山田:春の『麦ノ秋』で初めてやったのかな?
村松:そうそう。これはふたりでスタジオに入ってる時にできた曲ですね、たしか。ドロップDの曲を作りたくて、僕がコードだけを持っていってなんとなく弾いてたら、リフを将司さんが弾き始めたんですよ。
山田:ちょっと8ビートっぽい感じで押すのもありだね、みたいな。
村松:これ良い曲なんですよ。ふたりともあんまり無いタイプのラブソングというか。
山田:うん、新しいよね。絶妙なバランスでできてる。
村松拓
──「春夏秋冬」では思いっきりコール&レスポンス用のパートが設けられてるの、ちょっと笑いました。
村松:こういうベタベタができるのも、とまとくらぶの良いところなんですよね、たぶん。
──門構えゆえに、ちょっとふざけても大丈夫(笑)。あとは「風と流浪」と「タイムカプセル」が刺さっちゃいましたね、個人的には。
村松:あ、嬉しい。「風と流浪」はたしかに好きそう。釣り好きだし、俺たち(笑)。
山田:空が開けた感じがしてね。
──旅っていう言葉がふたりから出てくるの、良いんですよね。
村松:なんかこう40越えてきて、着地はしてないかもしれないですけど、現時点から見える人生の意味みたいなものを、肩の力を抜いて書きたいんですよね。俺たちの同世代、たぶんみんな同じ気持ちなんじゃない?っていう。ガチガチにこのまま頑張って走り続けるんじゃなくて、次の世代も見えてきていて。今の俺たちから見えるものを同世代とも共有したいし、下の世代にも「ここへ流れ着いてくるような何か」を残したいし。僕らで言ったら民生さんとか、上の世代の人がだんだんとそうなっていった何かを伝えたい感じっていうんですかね。
山田:装備をもうちょっと軽くしてね。それは芯が強くないとできることじゃないから。重かったら強いかもしれないけど、そろそろ疲れちゃうよね、みたいな、そこを素直に出せる場所としてとまとくらぶがあるのは有難いですね、本当。
──と言っても、大変そうなギターを弾いてたりもするんですけどね。
山田:(笑)
村松:難しいっすよねえ。「タイムカプセル」とかもヤバそうだよなぁ(笑)。
──牧歌的かと思いきや、最終的にめっちゃ壮大でエモい曲ですよね。歌詞も<どこまで行けるか/どこへでも行けるはずさ/探しに行こう>とか、これを40代で歌うからこそのエモ。
山田:そう。その言葉で終わるアルバムの一曲目が「羅針盤」っていうのがまた。これはなかなか良い流れだなと思いますね。常に探して旅してて、まだその旅は続くけど、それを楽しんでいきたいっていう気持ちをパッケージできたかなって。
──歌詞って、ふたりで出し合って組み合わせていくんでしたっけ。
山田:歌詞は完全にふたりで顔突き合わせて、居酒屋で考えたりしますね。この曲は何が言いたいんだろうな?っていうところから思いついたワードを書いていって、骨組みを作っていって。こういうことなんじゃない?っていうところまで、ふたりで向かっていく。
──じゃあ「旅」もそうだし、「未来」や「希望」みたいな言葉やその奥にある前向きさみたいなものは、今のふたりから自然とどちらからともなく出てきたんですね。
村松:そうですね。
山田:それが自然にできてるのは、「やっぱ俺らアツいな」って感じだよね(笑)。
村松:アツいっすよねえ(笑)。飲みながら話したことを後から推敲したりもするんですけど、普段からいろんな話を腹割ってしてる分、書けたっていうのはあって。わりと本音というか。
山田:ポロリだよね。ふたりに共通した思いでしか書いてないですから。
──ただ、その中でも憤ったりする方向には行っていないという。自然と前向きな方向に向かっていくエネルギーを感じて、今作はそれに尽きるなって思いました。
山田:おおー、嬉しいなぁ。
村松:なんて言ったらいいんだろうなぁ……そこまで深い話ではないかもしれないですけど、大人になることを肯定的に捉えられなかった時期が、バンドを始めた若い頃にはあって。そういう自分の中の拒絶とか反発してたものを越えて、今こうやって生きてきていて。もう拒絶する必要もないし、かといって自分たちがわかってきた真実を他人に押し付けるわけでもなくなってきて。
山田:うんうん。
村松:君は君だから面白いんだよ、世の中がっていう。そこに直結していく「自然体」という言葉が、とまとくらぶの根本にはある気がして。まあ、僕らの人間性だと思うんですけど、そういうものが表現できたのかもなって、今話しながら思いました。
山田:いい話……! 曲を作ってる時のお互いの関係性もそういう感じだと思うんですよね。持ち味をちゃんと信頼し合いながら曲に乗せていく感じが。「この色に塗ろう」じゃなくて、お互いの色を混ぜ合わせながら作ることは意識してるので。
とまとくらぶ
──というアルバム、タイトルは『緑盤』。これはトマトとしての熟し具合ということでいいですか。
村松:そうそう。
山田:まさに。一発目の、熟しきっていない初々しさ。
村松:特にそれ以外の意味もなく(笑)。それも1stっぽいなという。
──となると2nd、3rdで何色になっていくのかという楽しみもあって。
村松:将司さんが言ってるのは『黒盤』っていう。
山田:もう腐ってる(笑)。いろんな人に「次は『赤盤』でしょ」って言われるんですけど。
──普通は赤か……橙とか。
村松:橙盤面白いっすね。じゃあ赤で良くね?っていう(笑)。
──まだちょっと酸っぱい。
山田:まだ熟してねえのか!って(笑)。
──そしてツアーも控えてます。とまとくらぶとしては初ですよね。
村松:はい。まだ全然想像つかないですけど。……バンドの初ツアーの時ってどんなふうに回ってたかなあ?
山田:俺、9割方運転してた。当時まだ機材車にナビもなくて、マネジャーが地図広げて。で、瀬戸内海を渡ろうと思ったら知らない山奥に入っちゃって。
村松:(笑)
山田:しかもガソリンも無くなるギリギリまでいって、なんとか見つけられたけど。で、とまとくらぶのツアーに向けてですけど、俺はふだんはギターとかあまり弾かないから、アコギのプレイの精度をしっかり上げたいなと思っていま練習してます。相当良い世界観はふたりで届けられそうな気はしてますね。
村松:うん。でも演奏はやばいね(笑)。
山田:相当難しいことをやろうとしてる。
──そうなんですよね。
村松:こだわっちゃった(笑)。同期にも合わせないといけないからカッチリなんだけど、その中でどんだけ自分たちの空気感を残しつつ表現できるかにこだわりたいな。そこもまあ、楽しみつつ。
──酔っ払っててOK、みたいな環境じゃないところでとまとくらぶを観たことがまだないのでそこも楽しみです。
山田:だいたいベロベロだもんなぁ(笑)。
村松:むしろ酔っ払ってる俺を観にきてるんだろ?みたいなテンションだったからね。逆にブーストかかってないと、面白いこと言えないかもしれない(笑)。
──あとはまだ成し遂げていない、トマト関係のタイアップも期待してます。
村松:めっちゃほしい、本当に。
山田:アルバムが出た後でも良いもんね。「探してます」ってちょっと載せておいてください。「ケチャップのタイアップ募集」って(笑)。
──見出しにしますか(笑)。では最後に、アルバムを作り終えたいま、この先の活動に関して思い描くことなんかもあれば。
村松:本当に良い曲が揃って、ずっと聴ける曲たちかなと思うので、まずはこれをどう愛でていくかを考えていきたいですね。それが当面のやりたいことです。その先にまた何かが見えるのかなって。
山田:ライブでやるようになったら「もうちょっとこういう曲ほしいな」とかなっていくかもしれないしね。それにたぶんまだまだ名前も知られてないだろうし、音源を出してからいろんな人に聴いてもらって、知ってもらうことですね。
村松:これで名刺もできたんで、押し売りしよう。トマトの訪問販売しよう(笑)。
取材・文=風間大洋 撮影=Daiki Miura
とまとくらぶ
ライブ情報
11月20日 千葉LOOK(SOLD OUT)
11月28日 江ノ島OPPA-LA(SOLD OUT)
12月02日 京都磔磔
12月03日 岡山YEBISU YA PRO
12月05日 福岡border
12月11日 水戸LIGHT HOUSE(わずか)