「人は影響し合って生きている」フレデリック x DENIMS、兵庫・豊岡市で熱演ーー10年ぶりの対バンで新たな「キッカケ」に『TOYOOKA MUSIC DAY’24』レポート
『TOYOOKA MUSIC DAY’24』2024.11.9(SAT)兵庫・豊岡市民会館文化ホール
11月9日(土)、豊岡市民会館文化ホールで『TOYOOKA MUSIC DAY’24』が行われ、フレデリックとDENIMSが約10年ぶりの対バンを果たした。本公演は、芸術をキッカケに街づくりを行う豊岡市の「街や若者に生のエンタメの迫力や熱狂を届けたい」という想いで実現したもの。フレデリックもDENIMSも、豊岡でのライブは初。また、フレデリックの赤頭隆児(Gt)は豊岡市のお隣の朝来市出身で、初めての地元凱旋ライブとなる。SPICEでは事前に両バンドと豊岡市民会館の藤原孝行氏の対談を行い、本公演への想いや意義を語ってもらったが、当日もその熱量をしっかりと宿したステージで「何かキッカケを残したい」という両バンドの強い想いが表れた、意義深くて最高の1日となった。
会場の豊岡市民会館はJR豊岡駅から徒歩約20分、一級河川・円山川のほど近くにあった。会館の壁面には豊岡市の市鳥であるコウノトリのオブジェが大きく羽ばたき、川沿いに植えられた柳の木が気持ち良さそうに風に揺れる。天気は見事な晴れ。日中の最高気温は25℃と過ごしやすい気候で、絶好のライブ日和だった。
実は豊岡は、城崎温泉へもJRで10分という距離にある。ライブで音楽を浴びて観光地を巡る。そんな楽しみ方ができるのも豊岡の魅力だ。実際この日もライブ終わりに城崎温泉を訪れ、一泊して豊岡観光を満喫しているファンも。
会場に行く前に、事前対談で赤頭が高校時代にミサンガを買ったと話してくれたショッピングモール「アイティ」に寄ってみた。豊岡駅前にある地上7階建の建物の中には、食料品や日用品売場からインテリアショップ、こども支援センター、市民プラザまで、生活に必要な全てが揃っていた。2階にはゲームセンターやコミュニティFMのブース、カフェスペースなどがあり、中高生がプリクラを撮っている様子も。きっと赤頭もここで学生時代に遊んだのだろうなと想いを馳せてみた。
会場に到着すると、物販購入列が通路に伸びて賑わっていた。ロビーに置かれたテレビではフレデリックのライブ映像が流れ、「フレデリックライブ映像上映中!」と書かれた手作りのビラと『TOYOOKA MUSIC DAY’24』のポスターが貼られていた。公演をアピールしようという会館スタッフの心意気が目に見えて感じ取れる。駐車場には大阪、姫路、奈良、岡山、香川ナンバーなど他府県からの車も多く見られ、さまざまな地域からファンが訪れていることがわかり嬉しくなった。客席に足を踏み入れると、薄くスモークで煙ったホールならではの空気感が漂い、ステージには『TOYOOKA MUSIC DAY』のバックドロップが飾られていた。この日は自由席のため、前方から順に来場者が席を埋めていく。年齢層は小学生から学生、親子連れまで幅広い。グッズを身につけて期待に胸を高鳴らせるオーディエンスとともに、開演の時を待った。
DENIMS
やがて開演時間になり、客電が暗転する。先攻はDENIMSだ。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Sing A Simple Song」が流れ、続々とオーディエンスが立ち上がり始める。真っ赤なライトに照らされてメンバーが登場すると、歓迎の拍手が発生。釜中健伍(Vo.Gt.Key)が笑顔で「DENIMSですよろしくー!」と挨拶した刹那、岡本悠亮(Gt)のギターが高らかに響き渡り「Life Is Good」でライブスタート。釜中が「豊岡の皆さんお元気ですかー! 楽しんでくださーい!」とラフに呼びかけ、彼らの中心にあるソウルファンクナンバーでゆるり客席を揺らせていく。釜中の伸びやかな歌声が広がり、土井徳人(Ba)と江山真司(Dr)は安定感抜群のビートで演奏を支え、岡本はギターソロをバッチリキメる。ライブ後岡本は「今日はメジャー感を意識して弾いてみました」と話していたが、この日は音響の良さと照明も相まって、どの曲のギターソロもカッコ良く、完全にギターヒーローだった。
続いて軽快なリズムに思わず身体が弾んでしまう「Goodbye Boredom」へ。バンド結成から12年が経ち、大人の落ち着きも手に入れた4人。だけど遊び心も忘れない。のびのびと楽しそうにプレイするメンバーの様子が伝播し、会場の熱もじわじわ上昇。岡本が「手挙がりますか!」と叫ぶとすぐさま大勢の腕が突き上がった。さらに岡本が間奏のギターソロでフレデリックの「オドループ」のギターリフを入れ込むと、オーディエンスは大歓喜。<ラララ>のシンガロングもグッとステージとの距離を近付ける。江山のカウントから加速して投下された「わかってるでしょ」を演奏し終えると、素晴らしい拍手に包まれた。
「豊岡最高じゃないですか!」と嬉しそうに破顔した釜中は「ようこそ!」という声に「お邪魔します!」と返す。岡本も、豊岡でのライブは初めてゆえに「どんな空気感かわからんかったけど、めっちゃパーティーっすね(笑)。じゃあいつも通りライブしますね」と客席の反応を喜んだ。ちなみに岡本は空き時間に豊岡市民会館の向かいにある施設で展示されていた歴史資料室を見に行ったそうで「豊岡は鞄の街なんですね。良い街です。すごく好きになりました」と話していた。
釜中がキーボードの前に座り、岡本がボーカルを取る「虹が架かれば」に続いては、メロウな「Pray To The Moon」を披露する。楽曲に合わせて光る7色のライトやムーディーなピンスポが、見事に世界観を押し広げていた。
2度目のMCで釜中が「DENIMS初めての人いますか?」と客席に尋ねると多くの手が挙がり、「ほとんどやん!(笑)。今日で好きになって帰ってください」と述べて、フレデリックとの関係について言及。デビュー前からの付き合いでプライベートで遊んだりしていたが、対バン自体は10年前にフレデリックの自主イベントに呼ばれて以来、2度目となる(詳しくはぜひ事前対談を読んでほしい)。岡本は「改めて一緒にやれる機会をいただいてありがとうございます」と感謝を述べ、釜中は「豊岡の人たちが芸術を盛り上げるために企画をしてるのが素晴らしい。今日で何かやりたいなと思ってくれたら嬉しいので、何か持ち帰ってください」と想いを伝える。
ラブソング「おたがいさま」を経て、<やめられないな本気の遊び>という、ずっと変わらぬDENIMSのスタンスを若者へのメッセージとして伝えた「fools」で、今度は釜中が「オドループ」をマッシュアップして歌う。ライブならではのアレンジを組み込んで、心底楽しそうに笑う。初見の人が多いはずの客席もすっかり4人の魅力に惹き込まれたようで、ほぼ全員の手が挙がっていた。
ラストスパートは今年6月にリリースされたアルバム『RICORITA』の1・2曲目を飾る「Journey To Begins」「Song For You & Me」を披露。さらに前身バンド・AWAYOKUBAのセルフカバー「たりらりら」まで、初期衝動を詰め込んだセットリストで一気に連れてゆく。そして彼らのライブではお馴染みの、照明を1番暗くして釜中のカウントとともに1番明るい照明でジャンプするという演出をホールでも実施。「豊岡市民会館揺らそうぜ!」という釜中の声に応え、最高潮のエネルギーと見事な一体感が会場を包み込んだ。「またライブハウスで会いましょう!」と満足そうな表情でステージを去った4人。鳴り止まぬ歓声と拍手、熱を宿した余韻がライブの良さを物語っていた。
フレデリック
後攻はフレデリック。SEが流れ、薄いブルーの照明が会場を染めるとクラップが発生。もちろん客席は総立ちに。三原健司(Vo.Gt)が「フレデリック始めます。どうぞよろしく」と言うと、赤頭のギターが軽やかに響き渡る。1曲目は今年6月にリリースされた配信シングル「CYAN」。ここで照明の色が楽曲にリンクしたシアンブルーであることを理解する。DENIMSの照明も楽曲の世界観を彩って非常に素敵だったが、フレデリックはチームの照明スタッフと豊岡にやって来た。赤頭が事前対談で「音響も照明も信頼できるスタッフを連れていく」と語ってくれたが、この日彼らのライブが初見という人に与えたインパクトはものすごかったに違いない。楽曲やプレイを熟知したプロのスタッフだからできる演出が満載で、その本気度に舌を巻いた。
のっけから響き渡る健司のクリアな歌声とロングトーン、爽やかなメロとサウンドに突如として挟み込まれる変拍子。楽曲の求心力にあっという間に飲み込まれる。間髪入れず高橋武(Dr)のパワフルビートが炸裂し「銀河の果てに連れ去って!」へ。めまぐるしく変わる照明、練り込まれた楽曲展開に音の響き。赤頭のギターテクが冴え渡り、三原康司(Ba)も楽しそうに身体を揺らして低音を弾き出す。演奏力と芸術性の高さに呆気にとられる。熱をさらに高めるように投下された「スパークルダンサー」は言わずもがなの盛り上がりで、会場は早くも熱狂に包まれた。
健司は「豊岡初めて来たのに、こんな熱いの最高やないか」と笑顔。そして「初めての土地と言いつつも、フレデリックにとっても想いがたくさんある場所」と赤頭の地元であることを改めて説明し、フェスやイベントへの出演スタンスを語る。「何でもOKですと出ているわけじゃなくて、自分らがそこでちゃんと音楽を鳴らす理由があるなら出たい。リスペクトを置いて気持ちを伝えたいバンドなので、『TOYOOKA MUSIC DAY』は出ないわけないでしょうという理由でやって来ました」と言うと客席は大喝采。今年メジャーデビュー10周年、結成15周年を迎えたフレデリック。健司は自分たちも夢を叶えている途中だと話し「何かを始めるキッカケって、人がくれたりするもの。今日呼んでくれたからには、あなたが変わるキッカケを俺たちが作りたいなと思ってます。あなたの理由になりに来ました。今日は1日よろしくお願いします」と言うと大きな拍手が贈られた。
そこから鳴らされた「夜にロックを聴いてしまったら」の意味合いの大きさたるや。<僕がバンドを組んでしまったら 春がはじまった>という歌詞に込められた想いをキャッチしたオーディエンスは、しっかりと手を挙げて応えるのだった。さらに中盤、圧倒的な存在感を示した「ペパーミントガム」。「噛めば噛むほど味がする音楽をあなたに」という健司の言葉通り、一筋縄ではいかない展開が五感を刺激する。唸り声を上げるノイジーなギター、スモークと逆光の中で歌われるハイトーンボーカル。不協和音のギターやバラついたリズム、リバーブ、ドラマチックな照明。記憶に残るステージングを、客席は食い入るように見つめていた。
2度目のMCではお待ちかね、赤頭にトークが渡る。健司が「どうですか?地元」と話を振ると、いそいそとマイクを持った赤頭は「ただいま〜」と言って「俺朝来市出身で、高3の18歳の時に大阪に出てきて、今年バンド15周年なんやんか。だから(朝来市とバンドで)過ごした期間が(それぞれ)半分くらい。友達を連れて来れて嬉しい」とふにゃっとした笑顔を浮かべ、「健司。康司。武」とマブダチを紹介するようにメンバー紹介。康司は「隆児がメンバー紹介するってすごい珍しい(笑)。やっぱ今日ちょっと浮かれてるよね。演奏も気持ち乗ってる感じする」とあたたかく見守る。DENIMSとの対バンについても「よりカッコ良くなってまた一緒にやれてるのが嬉しい(健司)」としみじみ。隆児は「長くバンドをやる中で出会ったスタッフも、DENIMSも連れて来れて嬉しい。これからもよろしくお願いします」と凱旋ライブの喜びを露わにした。
その後「スキライズム」で健司に「本日ギターソロをつとめます、朝来市出身、赤頭隆児!」と紹介されて照れくさそうにはにかんだ赤頭。渾身のプレイは最高に気持ち良く、天井まで突き抜けた。さらに「ご自分の幸せはご自分で勝ち取ってください!」と披露された9月リリースの新曲「Happiness」へ。「今」のフレデリックが生み出す緻密な楽曲と歌詞に込められたメッセージ、4人の技巧と魂が爆発した演奏は、観る者を突き動かす衝動に加え、なおも現在進行形で更新し続ける音楽への好奇心が表れているようだった。
この日は豊岡市やDENIMSへのリスペクトももちろんだが、終始赤頭への愛に溢れていた。健司が「隆児は日に日にギターの実力が変わっていくような人で。専門学校の出席率が100%でした」と専門学生時代のエピソードを明かすと大歓声&大拍手が湧き起こり、赤頭は笑顔で両手を広げる(健司は96%だそう。それもすごい)。「隆児が夢のために覚悟を持って1日1日を大事にする人やというのはそのエピソードでわかるし、ギターにも表れてる。15年一緒にやってもそう思うし、フレデリックはそういう人たちで集まってるから、今日も自信満々でここに立てている。今日が1番大事やけど、今日を超える明日を作る、明日を超える未来を作っていくバンドになるので、これからも俺たちの人生を楽しんでください」と述べて、ラストナンバー「名悪役」を轟音で叩き込んだ。
迎えたアンコール。健司はこの日、「人は影響し合って生きている」ということを何度も述べていた。隆児の親御さんが彼を大事に育ててきたことや、隆児の歩みを噛みしめるように反芻する。「めっちゃ嬉しい日も悔しい葛藤の日もあったやろうけど、隆児の中で答えを見つけて変わってやろうと専門学校に行って、俺と出会ってバンドを組んで。この土地で生き方や考え方を見つけてきたから、フレデリックの活動のひとつの糧になっている。あなたと俺らもそう。俺らが理由になると言っているけど、俺らも同じくあなたが理由になって活動できているわけです」と述べ、「1.6億回再生されている、めちゃくちゃざっくり言うと、朝来市で生まれた名曲をやってもいいですか?」と、最強のダンスナンバー「オドループ」をアグレッシブに披露して最高のライブを終えた。生ライブの迫力と想いの強さは確実にオーディエンスに突き刺さっていた。
終演後は、豊岡市役所や豊岡市民会館の皆さん、この日の準備を手伝ってくれた地元の学生とメンバー全員で記念撮影。豊岡市民会館の藤原氏は「理由を作って豊岡に来ていただける、ここで何を得て帰るのかというメッセージが、すごく届いたと思います」とメンバーに感謝を伝え、「来年も開催できるよう動いていきます。親子で楽しんで参加できるような取り組みや城崎温泉とセットになったもあると良いかもしれませんね」と意欲を見せた。
こうして『TOYOOKA MUSIC DAY’24』は大団円で終了した。公演に関わる人たちの想いがありありと見える、本当にあたたかな1日だった。メンバーがライブ中に何度も言っていたように、今日の出会いをキッカケに自分自身の人生で何か行動を起こしてほしいし、フレデリックやDENIMSのワンマンライブはもちろん、来年の『TOYOOKA MUSIC DAY』にも、豊岡市にもぜひ足を運んでほしいと切に願う。
取材・文=久保田瑛理 撮影=河上良
>次のページでは、本編では掲載しきれなかったライブ写真を公開!