WONK長塚健斗が語る、WONKの姿と自らの人生を見つめた1枚『Shades of』――「僕にとってのWONKは4人の存在そのもの」

12:00
インタビュー
音楽

WONK長塚健斗

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相手によって自分の見られ方が変わるように、物体は光の当たり方によって異なる様相を呈する。2023年に結成10周年を迎えたWONKが11月13日(水)にリリースした2年ぶりのニューアルバム『Shades of』は、それぞれの視点から描かれるWONK像をまるごと引き受けた上で、「WONKとは何か」と相対した1枚だ。「人生を振り返っていたタイミングだった」と語る長塚健斗(Vo)が自身の赤裸々の苦悩を綴った「Fragments」や、敬愛する久保⽥利伸を迎えた「Life Like This」、ビラルらとコラボを果たした「One Voice」をはじめとする全12曲は、WONKが果たしてきたハブとしての役割を示すと同時に、自らを信じ直すことができた今のWONKは強靭さに満ちている。誰かからの花丸をもらうためではなく、自らのやりたいことを追求するためにーー。恥じらいを捨てたWONKは、この時代に生まれた普遍的なサウンドを今日も鳴らす。

●「WONKとは何か」に目を向けたアルバム『Shades of』

――11月13日(水)にWONKにとって4枚目となるフルアルバム『Shades of』がリリースされました。荘厳な「Fragments」から始まり、今の世の中を憂う気持ちを綴った「Life Like This」「Here I Am」の中盤を経て、クライマックスの「Miracle Mantra」「One Voice」ではディストピア的な世の中で生きていくことを鼓舞する流れになっており、赤裸々な感情が綴られた1枚だと感じています。改めて本作を振り返って、長塚さんはどのような1枚になったと感じていますか。

WONKの10周年を記念するアルバムとしてこの作品を作り始めたんですが、『EYES』以降はコロナをはじめ、変わったことが多かったと感じていたんです。個人的にもここ数年は自分の生き方を振り返る時期で。本当にやりたいことや目指すべきところに対するズレを直すというか、20代後半くらいから抱いていた違和感を取り除いて、きちんと自分が納得できる生き方をするために人生を振り返っていたタイミングだったんですよね。そういった中で作ったアルバムなので、思っていることや感じたことを全て吐き出そうと考えていましたし、ありのままな1枚になったかな。

――10周年記念のアルバムとして制作がスタートしたとのことですが、『Shades of』ではこれまでの歩みを総括するだけでなく、今まで前面に出してこなかった一面を提示することにも重点が置かれていると思うんです。後者の側面にスポットが当たるようになっていった背景は何だったのでしょうか。

僕らは良い意味で器用貧乏なんですよ。各々が仕事をしていく中で、嫌な言い方ですけど、いろいろなタイプの曲が作れてしまう。それらを還元する先としてWONKがあるという側面がある以上、WONKとしての音楽、さらに言えば「WONKって何だ」ということをこれまで模索し続けてたところがあって。だからこそ、今回はその「WONKとは何だ」にフォーカスが当たったんです。お客さんや我々個人はそれぞれ微妙にズレたWONK像を持っているし、1つの作品や1つの曲で捉えられたWONKは間違いなく僕らでありながらも、1つの光の当たり方でしかない。そうやってさまざまなShades、色合いがある中で、今回は光が当たらない部分に目を向けたんですよね。それは我々が思う純粋なWONKであり、それぞれの場所で培ったノウハウを凝縮するWONKだった。なおかつ、その一番純粋なWONKは、リーダーの荒田(荒田洸/Dr)が作りたい曲に対してみんなで付いていく最初期の形だったんです。その形式に立ち返ってみて生まれたのが『Shades of』でした。

――光の当たり方、言い換えればWONKの捉え方の多さ自体を表現した結果、至ったのが『Shades of』だったと。それぞれが異なるWONK像を持っているとお話いただきましたが、長塚さんの視点から見たWONKはどのような姿をしていますか。

WONKは個性が強いと思っているんですけど、その個性は音に表れていると感じていて。文武(江﨑文武/Key)には文武のピアノの音、荒田には荒田のドラムサウンド、井上(井上幹/Ba)には井上のスタイル、そして僕には僕の声があって。そういう音の個性がある時点で、WONKなんです。

――4人が揃えばWONKになる。

そうですね。当たり前の話なんですけど(笑)。どの曲であっても、僕が歌えばWONKの歌になるし、文武がピアノを弾けばWONKのピアノになる。そのベースの上で、どのようなスタイルで表現するかが変わっているだけなので、僕にとってのWONKはこの4人の個性の集合体そのものなんです。だから、いろいろな光が当たって複雑に見えるかもしれないけれど、僕からしたら何をやってもWONKだなと。これまで様々なタイプの音楽を作ってきて、色々なことに手を出してきた今、ある意味安心感を持ってそう思えてます。

――長塚さんの視点から見たWONK像についてお話いただいたので、今回焦点を当てた影の側面ではない光の部分に関しても聞かせてください。光の部分となるWONKのパブリックイメージについて、長塚さんはこれまでどのように考えていらっしゃったのでしょう。

どうやって捉えられるかに関しては、最終的には僕らが考えるべきじゃないと思っているんです。もちろん、ブランディングはすごく考えているし、売れ方や立ちたいステージのイメージを持つことは大事ですけど、そこへ連れていってくれるのは良い音楽でしかない。僕らはどこまでも純粋に良い音楽を作る存在でなくてはならないし、その時に着たい服を着て、人前に立つことが全てなんですよね。

――着たい服は作品で提示するスタイルや音楽性を指しているかと思うのですが、そのスタイルは時々のテンションで選んできた感覚でしょうか?

その時にやりたいことを選んできた感覚もあるんですが、WONKとしてはその時代にしかできない音楽をやることがテーマで。ハービー・ハンコックやマイルス・デイヴィス、マイケル・ジャクソンのような著名なアーティストの人たちは、時代の最先端をやっていたと思うんです。そして、それが結果的に普遍的なものになっている。我々も流行り廃りを追いたいわけじゃなくて、その時代にできることを最大限吸収した上で、今しかできない普遍的な音楽を作りたいんですよ。

――ここまでお話いただいた通り、『Shades of』はこれまで光が当たってこなかった側面にも目を配った1枚になっていて。パブリックイメージや流行を気にしているわけではないともおっしゃっていましたが、見せていなかった部分を新たに提示することへの躊躇や恥ずかしさはなかったんですか?

逆にこれまでの方が小っ恥ずかしかったかも。これまでは「この歌詞は本当に格好良いのか」「ロマンチックなことを書いて、恥ずかしい」みたいな気持ちもどこかにあって、その気持ちを抱えた上で歌に乗せるのが良いと考えていたんですね。だけど、誰かの正解を求めてないことに気づいたら、そういう恥じらいも要らないなと思えた。

――やりたいことを心から追求できるようになったと。

もちろん、せっかく作ったからには1人でも多くの人に聴いてほしいけれど、誰かからの満点や良い評価をもらうために音楽をやっているわけではないので。自分が良いと思えるために音楽をやっていることに気づけたから、今回は自分の情熱や悲しさ、恥ずかしさも全部詰め込むことができたんですよね。だからこそ、高い強度のものが完成したし、そこまで踏み込んだのでどこかスッキリしているんです。

●どん底にいた時の気持ちを赤裸々に綴った「Fragments」

――1曲目「Fragments」では、<How do I walk this line now?><When did I start to go wrong?>と非常に内省的な歌詞が綴られています。冒頭では「20代後半から違和感があった」とお話いただきましたが、悩みや違和感の根源にあったものは何だったのでしょう。

人生において大事なこと、人との関わり方、生き方、そういった根本的なところが頭では理解できるのに、感情が付いていかなくなってしまったんですよね。ちぐはぐだった。大好きだった地元の空気も感じられなくなっていたし、まともに集中して映画1本も観れなかった。日々アンバランスで倒れそうな状態で生きていたんです。その生活に危機感を覚えて、引っ越してみたりお酒を断ったり、SNSの友達を整理したりと、どうにか人間らしい生活が送れるように頑張りながら、「これはどうなんだろう」「これは大丈夫」といろいろと模索しながら生活をしていました。そういう生活を1年ぐらい続けたある日、友人と旅行に行ったんです。そこでたくさん話をする中で、「旅ってこうだったな」と思い出したんですよ。

――というと?

普段はなかなか喋れないようなお互いの心の深い部分のことをたくさん話したり、日常では食べられないものを食べたり。普段と違う環境に身を置いて、美味しい空気をたくさん吸って、普段と違うゆったりとした時間の中で凝り固まった部分をほぐしていく。そんなこと旅でしかできないじゃないですか。それが凄く濃くて楽しくて充実してた。そしたら、翌日走る車から見えた紅葉の景色が信じられないくらい綺麗に思えた。そこをキッカケに段々と調子が戻ってきて、今に至ります。

――感情が頭に追い付くようになったキッカケが旅だったんですね。

ちぐはぐだったものが、ようやく戻ってきたのがこの1年ぐらいで。「Fragments」はいろいろと考えていた時期にメンバーと話し合った時のことを描いた歌なので、何も分からなかった当時の気持ちがそのまま表れています。

――「Fragments」の冒頭は<How do I walk this line now?>と非常に暗い場所から始まりますが、最後には<'Cause the truth I feel.>と微かな希望が描かれていて。話していただいた苦悩の日々の中でも、いつか訪れる光を信じることができていたのかなと感じました。

この曲はしんどかった時期の明確な記憶を振り返って書いたんですけど、とはいえ、この苦しい時期を乗り越えて自分が目指すべき状態になれたら、もっと飛躍できると考えていたんです。だから、明るい未来に対する希望はずっとありましたし、自分に残っているものを考えた時に、同時に自分が駄目になったらWONKも駄目になってしまうことを強く思い直して、改めて自分が背負っているものの大きさを痛感した。いざアルバムが完成してみて、「Fragments」から「Essence」へ続いていく流れで良かったなと思います。

●相手だけじゃなくて自分たちのことも大切にできるようになった気がする

――「Fragments」は内省的かつ個人的な曲でもある一方で、久保田利伸さんが参加された「Life Like This」やJinmenusagiとコラボされた「Here I Am」は、混沌とした社会に対する広い視点を持った1曲になっています。アルバムを通して、ご自身に焦点を当てた「Fragments」から段々と視野が広がっていく流れにもなっているかと思いますが、これは意図したものなんですか?

個人的な視点と社会的な視点のバランス感を意識したわけじゃなかったので、この構成になったのも結果論なんですよね。とはいいつつ、コラボするにあたって相手との共通項がないと僕は歌えないし、2人が納得する歌詞にしないとそもそも気持ちが入らないじゃないですか。だから、必然的に内省的すぎることからは目線が外れる。「Life Like This」は何をテーマにするかというところから久保田さんと話し合いましたし、「Here I Am」も荒田から提示されたテーマであるカオスを中心に模索していきました。

――本作では久保田さんやJinmenusagiのみならず、キーファーを迎えた「Fleeting Fantasy」やビラルが参加した「Miracle Mantra」など、国籍を問わないコラボレーションが展開されています。数々のゲストはWONKがハブとして機能していることの表れだと思いますが、そもそもWONKがハブとしての役割を意識するようになった背景を教えてください。

フライング・ロータスがサンダーキャットやカマシ・ワシントンと一緒にやる、みたいなブレインフィーダー(※フライング・ロータスが主宰するアメリカ・ロサンゼルスのインディーレーベル)のクルー感が良いなと思っていたんです。誰か1人がメインストリーム層に行ったら、みんなをフックアップして全員でデカくなっていく姿に凄さを感じていたので、EPISTROPHも生まれた。これはレーベルの話ですけど、そもそもバンドとしての理想を考えた時、The Rootsが浮かんだんですよ。我々は日本のThe Rootsになることを掲げていましたし、時間もかかりましたけど、ようやく目標を実現できたのかなと。

――『Shades of』は、まさしくWONKが目指してきたものへ至った1枚になっていると改めて感じました。10年間WONKとして歩んできた中で、今後はどういった役割を担っていきたいと考えていらっしゃいますか。

我々が憧れてきた音楽であるジャズやソウル、ヒップホップは、どこまでも欧米諸国の音楽だと思うんですよ。とはいえ、最近はアジアの音楽が注目されていて、必ずしも欧米が強いわけではなくなっている。アジアで仲良くなったミュージシャンもたくさんいるので、アジアのハブになるのは1つの役割なのかもしれないです。

――仲良くなったミュージシャンと一緒にやっていこうと思えた理由には、SNSの友達を整理したり、仲間がいることに気づけたことも大きかったんですかね。

おっしゃっていただいた通りだと思います。せっかく作った繋がりがあるなら、それを大切にしたいし。規模が大きくなれば背負わなくてはならないものも増える分、背負えるものも増えてくるはずなので、ポジティブに捉えていきたいんですよね。でも、そうやって多くのものを背負うためには、自分たちがどこまでも純粋でなくてはならない。自分たちのマインドがブレないようになったこのタイミングで、これに気づけたのは大きいなと。誰かと作品を作るにしても、自分たちのマインドが揺らがないから、相手だけじゃなくて自分たちのことも大切にできるようになった気がします。

●これまでで一番熱量が高いツアーになる予感がしています

――12月22日(日)大阪・Yogibo META VALLEYより、『“Shades of” Tour』がスタートします。全7公演が各地で控えていますが、どのようなツアーにしたいですか?

これまでは「これを言わなきゃいけない」「こういう風にしなきゃいけない」みたいな考えが先行していた部分もあったんですけど、自分たちの音楽をやれば良いと気づけてからはライブが楽しくて。だから、今はただただ楽しみですし、これまでで一番熱量が高いツアーになる予感がしていますね。

ーー今年の1月に公開されたインタビューでは、「2024年が始まりの年になる気がする」という旨をお話されていました。実際にこの1年『Shades of』と対峙してきた中で、どんな1年になったのか、そして2025年はどのような年になりそうでしょうか。

この1年は何も特別なことをしていないんですよ。言うなれば、必要な練習や音楽作り、体調管理のようなルーティンしかやっていない。そうやって積み重ねることの第1歩を踏み出せた1年だったかなと。だからこそ、来年からは結果が付いてきたら良いなと思います。

取材・文=横堀つばさ 撮影=福家信哉

リリース情報

WONK『Shades of』
発売中
POCS-23055/¥3,300(税込)
[EPISTROPH]
・紙ジャケ見開き仕様
1. Fragments / WONK
2. Essence / WONK
3. Fleeting Fantasy / WONK, Kiefer
4. Skyward / WONK, BewhY
5. Life Like This / WONK, 久保田利伸
6. Here I Am / WONK, Jinmenusagi
7. Passione / WONK
8. Shades / WONK
9. Endless Gray / WONK
10. Voice_03.10.2023 / WONK
11. Miracle Mantra / WONK, Bilal
12. One Voice / WONK, T3, K-Natural, Bilal

12インチ・アナログ(180g重量盤2枚組/MADE IN JAPAN)
『Shades of』
12月25日発売
EPST-048/¥5,940(税込)
[EPISTROPH]
1. Fragments / WONK
2. Essence / WONK
3. Fleeting Fantasy / WONK, Kiefer
4. Skyward / WONK, BewhY
5. Life Like This / WONK, 久保田利伸
6. Here I Am / WONK, Jinmenusagi
7. Passione / WONK
8. Shades / WONK
9. Endless Gray / WONK
10. Voice_03.10.2023 / WONK
11. Miracle Mantra / WONK, Bilal
12. One Voice / WONK, T3, K-Natural, Bilal

ツアー情報

WONK 『Shades of』Tour
12月22日(日)大阪 Yogibo META VALLEY
1月12日(日)Spotify O-EAST
2月1日(土)札幌 SPiCE
2月7日(金)福岡 BEAT STATION
2月11日(火・祝)名古屋 新栄シャングリラ
3月2日(日)金沢GOLD CREEK
3月8日(土)仙台 MACANA

前売 ¥5,500 / 当日 ¥6,500
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