ドラマ『滅相も無い』手掛けた加藤拓也、た組『ドードーが落下する』主演・平原テツと語る、初再演の焦点「肩書と個人の悩みの関係性」
加藤拓也
2024年は、脚本・監督のドラマイズム『滅相も無い』(MBS/TBS)が放送され、ロンドンで新作舞台を発表し、さらに一連の活動が『情熱大陸』で紹介されるなど、その才能を多方面で発揮&アピールする年となった加藤拓也。2025年は、自身が主宰する「た組(たくみ)」の『ドードーが落下する(以下、ドードー)』再演で、1月10日(金)にKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて幕を開けた。その後1月25日(土)〜26日(日)に大阪・近鉄アート館、2月8日(土)〜9日(日)三重県文化会館小ホール、15日(土)〜16日(日)茨城・水戸芸術館ACM劇場へのツアー公演も決定している。お笑い芸人・夏目と、彼の周囲の人々との関係の変化を、どこまでもナチュラルな会話で描写し、2023年に「第67回岸田國士戯曲賞」を受賞した作品だ。
た組が再演を行うのはこれが初となるが、今回は「上演を経て別のテーマが濃くなった」という理由で、全面的にリライト。夏目の精神的な問題と社会とのギャップに、よりスポットを当てた内容になるという。前半は12月に大阪で行われた加藤の取材会、後半は加藤作品の常連俳優・平原テツも交えたリモート取材の模様をお届けする。
加藤拓也
■モデルは友人、初演を経て「初期衝動と距離ができた」
――2022年の『ドードー』初演の反応はいかがでしたか?
「笑っていいのかわからない」みたいな空気ができていたんじゃないかなあ、と思います。でも構成的に「この人を笑ってはいけないのではないか?」というふうに、物語が進むにつれて観客の見方が複雑になっていく作りにしたかったので、そうなるとは思っていました。
――キャラクターにはモデルがいらっしゃるのですか?
友人がモデルになっています。コロナ禍で彼と久しぶりに会った時に、何が楽しくて一緒にいたのか、どういう距離感で接していたのかわからなくなったことがキッカケで、その友人との昔話、死ぬと電話をかけてきたその人を監視しなければいけない強迫観念に駆られた自分を思い出して書いたのが初演です。だから、夏目と周囲のコミュニケーションの部分にフォーカスが当たっていました。
――初演は、最後まで夏目に寄り添おうとした信也と夏目の、2人の視点で描かれていましたが、再演は夏目の内面や状況により集中した内容に、大幅に改訂されています。
実際に上演してみると、社会的な肩書が、個人的な悩みを透明にしてしまうという部分が思ったより際立っていました。この話で言うと「お笑い芸人」という肩書が、彼の持つ悩みを消してしまっていた。彼がおかしな行動をしても、それが実はケアを必要としているものではなく、お笑い芸人というレールの上で面白くしようとしてくれているんじゃないかと、周りには思われています。初演の時に一番に意識していたことではなかったんですが、上演したことで、初期衝動と距離ができたのではないかと思います。なので再演が決まった時点で視点をずらして書き直しましたした。
――本人にとっては深刻な問題が、肩書や役割によって軽く見られてしまうというのは、芸人に限らず起こり得ることですね。
そうですね。社会的な価値だけで判断することは難しいと思います。
――加藤さんの舞台は、俳優の交わす会話が非常にリアルなのが特徴ですが、どういったクリエーションをされていますか?
台詞が台詞に聞こえないようにするためにリハーサルをします。その言葉をしゃべる意味をちゃんと理解してもらい、その上で無意識に落とし込んでいくというのが、必要な作業になっています。
――加藤さんは映像作品も数多く手掛けられていますが、演劇作品と違いを意識しているのはどこでしょうか?
どちらがやりやすいというのはないし、やりがいもそれぞれ違います。でも両方をやっていく上で「自分がこの作品をどうしたいか?」というのが、一番大事で、一番重要なことかな。昔は「これはこっちの方が向いてるんじゃないか」と考えたりしていたんですけど、やっぱり「演劇に向いてるかもしれないけど、映画にしてみたい」と感じるなら映画にした方がいいし、逆に「映画向きかもしれないけど、演劇にしたい」と思ったら、演劇にする挑戦をした方がいいと思っています。
――それでいうと『ドードー』を演劇でやろうと思った理由は。
夏目のあらゆる側面が、映像だとカット割りによって、僕がコントロールできすぎてしまうんです。俯瞰して多面的に見てもらうためには、演劇の方がいいんじゃないかと思いました。やっぱり演劇は、お客さんが能動的に構築できるか? ということに依存しているので。
――これで初めて、た組をご覧になる方も多いと思いますが、メッセージをお願いします。
気負わずに観に来ていただけたらと思います。
■加藤にとって主演・平原テツが不可欠な理由
平原テツ、稽古場写真 (c)迫村慎
――これまでSPICEに掲載された加藤さんのインタビューを振り返ったら、外部プロデュース作品のものばかりだったんです。そこで改めて、た組についてうかがえたらと思います。
加藤:劇団の作品で取材を受けさせていただくのは、もしかしたらこれが初めてかもしれないです。劇団はもともと、はっきりと立ち上げたきっかけがあったわけではありません。シェアハウスで暮らしていた人たちがやっていたことが、演劇だったみたいな感じでした。
――ある種歪んだ人間関係を、自然な会話で見せていくという今のスタイルができたのは、何かキッカケがあったのでしょうか?
加藤:演劇の会話って全部自然だと思うんですけど、それを自分好みのトーンでやっていったら、たまたまそうなったという。いろんな作品の影響は受けたと思うんですけど。
――特に誰か、影響を受けたと思う作・演出家はいらっしゃいますか?
加藤:ジュリー・テイモア氏とか。
――加藤さんの作品とはまた違う世界を作られている方なので、少し驚きました。
加藤:そうですね。でも影響を受けたものって、必ずしも自分の(やっていることと)近いものとは限らないので。
――最近は外部プロデュースでも作・演出作品を上演することが出てきましたが、た組との線引きみたいなものは、何かあるのでしょうか?
加藤:「絶対にこう」という線引きはしていないです。でもやっぱり劇団は、自分が好きなようにやれる場所です。
――その、た組に欠かせない俳優の一人と言えるのが平原テツさんですが、加藤さんにとって平原さんが不可欠な理由はなんでしょうか?
平原:これは聞きたいですね(笑)。
加藤:テツさんは、パーソナルな部分が役を乗り越えて出てこないのが、一番魅力的だと思います。『ドードー』初演の時は、空間を立ち上げる時に「こうやって舞台にいると面白いんだ」みたいな存在の仕方が、他の俳優にもいい影響を与えてくれたと思っています。
■加藤君は「できます」「もっとがんばりましょう」くらいしか言わない(笑)(平原)
稽古場写真 (c)迫村慎
――逆に平原さんにとって、加藤作品の魅力は。
平原:まず、脚本が面白い。「何かすげえムカついてるけど、それを相手にわからせないようにする」みたいな感じって、人間の面白い部分だと僕は思っているんですけど、そういうのをすごくちゃんとわかってるふうに書いてるんです。あと、何かが特定されちゃうような作り込んだ舞台じゃなくて、お客さんに想像させるような美術や演出をしてくれるのも信頼しているし、楽しい所です。
加藤:シス・カンパニー公演『いつぞやは』(2023年)で、けがで代役を立てないといけなくなった時、真っ先に「テツさんが空いてるか、聞いてくれますか?」って、北村(明子)さんに聞きました。
平原:その時は「台詞多すぎるよ。やばいよ」って。
加藤:電話で「やっちゃいましょう!」「テツさんならできます!」「がんばりましょう!」って押し切りました。緊急だったし根拠とか理論とかはないです。
平原:そうですね。だいたい加藤君は普段から「きついよー」って言っても「できます」とか「もっとがんばりましょう」ぐらいしか言わないです(笑)。
――意外と精神論で押し通す。
平原:そうですね。じゃないと、僕は精神が砕けやすいので。
加藤:テツさんならできます。
平原:だからといって、できることなら今回(『ドードー』)みたいに、こんなに台詞が多いのは止めて欲しいですね(一同笑)。加藤君から脚本が来た時は、だいたいまず捨てたくなるんです。台詞が多すぎて「こんなんやれねえだろ」って。
加藤:そこで僕は「やれます」「覚えられます」くらいしか言わないんです。だって「こうすれば覚えられる」とか、ないじゃないですか? だから「できます」としか。
平原:そう言われたら「はい」と言うしかない。今回は舞台からハケることもできないし、休みたい気持ちでいっぱいです(笑)。初演では周りが説明してくれていたことを、自分でやらなきゃいけなくなったし、前回と同じ感覚でやっていたら「あ、この感情じゃいけねえな」みたいなズレが出てくるので、稽古ではそこを修正していってます。
――この前の大阪の会見では、割とお約束の質問である「大阪のお客さんってどうですか?」という質問が出てこなかったので、今聞いておこうかと思うのですが。
加藤:めちゃくちゃ携帯の電話に出るという印象です。プルプルって鳴って「もしもし、今劇観てんねん!」ということが、今までありました。だから「劇観てんねん!」は、上演中は禁止ということで。
――電話に出るのはさすがにレアケースだと思うのですが、大阪府民として大変申し訳ないです。ツアー公演に向けて、今回の舞台のオススメポイントを教えていただけたらと思います。
加藤:作品は一人のお笑い芸人とその友人達の話ですが、お笑い芸人といっても物語にお笑いのことはあまり出てきません。そのための物語ではないからです。今回は作品そのものが新しくなっているので以前『ドードー』を観た方も楽しめると思いますし、これから新しく観る方も楽しめると思います。
平原:今、全部言われましたね。本当に前回観た人は「全然違う!」と思うだろうし、おじさんが一生懸命がんばっている姿を観て欲しいです。
――『いつぞやは』を経て、一回り大きくなった平原テツが観られるということで。
平原:そうですね。セリフ覚えが早くなった俺を観られます。
取材・文=吉永美和子 稽古場写真=迫村慎
公演情報
【出演】平原テツ、金子岳憲、秋元龍太朗、今井隆文、鈴木勝大、中山求一郎、秋乃ゆに、安川まり、諫早幸作
1/10(金) 19:00★
1/11(土) 14:00★◎ / 18:00★
1/12(日) 14:00
1/13(月) 休演日
1/14(火) 19:00
1/15(水) 14:00■ / 19:00■
1/16(木) 19:00
1/17(金) 19:00
1/18(土) 14:00●◎ / 18:00●
1/19(日) 14:00
◎=託児サービスあり、公演1週間前までに要予約・有料(マザーズ:0120-788-222)
■=記録撮影のため客席にカメラが入ります。あらかじめご了承ください。
●=聴覚に障害のある方のための「ポータブル字幕機提供」を実施(要予約)
こちらの公演のみヒアリングループ(磁気ループ)が作動いたします。
三重公演 2月 8日(土)〜2月 9日(日) 三重県文化会館小ホール
茨城公演 2月15日(土)〜2月16日(日) 水戸芸術館ACM劇場
〇一般前売 ¥5,300
〇一般当日 ¥5,900
〇25歳以下 ¥3,500※要証明
〇高校生以下 ¥1,000※要証明