有澤樟太郎「多くの方に見てほしい自信作」~ミュージカル『ヒーロー』囲み取材&ゲネプロレポート
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撮影=吉田沙奈
「October Sky」のミュージカル化を手がけたコンビが贈る、心温まる感動のオリジナルミュージカル『ヒーロー』。アメコミ漫画家を目指す青年・ヒーローが家族や友人との交流や別れを通して成長していく様子を描いた作品だ。
演出を手がけるのは気鋭の演出家・上田一豪。日本初演ミュージカルで主人公・ヒーローを演じるのは、数々の舞台やテレビドラマで幅広く活躍する有澤樟太郎。さらに、山下リオ/青山なぎさ(Wキャスト)、寺西拓人/小野塚勇人(Wキャスト)、宮澤佐江、吉田日向/木村来士(Wキャスト)、佐藤正宏をはじめとするキャストが集結している。
初日を前に行われた囲み取材には、有澤樟太郎、山下リオ、青山なぎさが登壇した。
ーー初日を前にした心境はいかがでしょう。
有澤:リハーサルなどを一通り終えて、やっと実感が湧いてきました。緊張はしていますが、しっかり稽古できたし、(翻訳・訳詞・演出の)一豪さんが素晴らしくて。……というと媚びているように感じますがそうではなく(笑)。一豪さんとご一緒するのは三度目くらいですが、人の内面や人間ドラマを描くのが本当に上手い。アメリカ・ミルウォーキーが舞台の作品ですが、(上田が)僕らに馴染みのない習慣や雰囲気を全身全霊で伝えてくれて、不安だった部分を楽しみに変えてくれた。たくさんの方に見ていただきたい作品になりました。
山下:私がミュージカルに出演するのは三度目。今まではファンタジーが多かったので、等身大の役は初めてで難しく感じるところもありました。でも、一豪さんが素敵な稽古場を作ってくれました。楽しみながらいい作品を届けたいです。
青山:初ヒロインなので、稽古場では緊張でガチガチでした。でも皆さん優しくて、たくさん話しかけてくれましたし、一豪さんも面白く教えてくれたので楽しく稽古できました。
ーー皆さんが演じる役について教えてください。
有澤:ヒーローは内面にいろいろなものを抱えていて、一見すると共感しづらいキャラクター。たくさんのものを背負っていて、自分から何か発するというよりはみんなから影響を受けています。そのストレスを出すエネルギーもなく、本当に諦めている人。ビジュアルのイメージだとパワーがありそうですが、そうではない。僕自身は挑戦してみたいと思っていたタイプのキャラクターでした。一豪さんからもディレクションしてもらい、みんなが作ってくれたヒーローなので、よくなかったと言われたら皆さんのせいでもあります(笑)。
山下・青山:え!?
有澤:嘘です(笑)。やっとここまで来られたという感じで、見てほしいというのもちょっと違うかも……。
山下:見てほしいでしょ(笑)!
有澤:ヒーローやってみてよ! キャラクター的にちょっと違うんだって(笑)。
山下:ジェーンは10年ぶりにミルウォーキーに帰ってくる。一度地元を出て、自分に起きた物事を受け入れて戻ってくる。強くて逞しい、風のような人です。ヒーローのことも押し上げていくような人物になると思います。
青山:ジェーンは芯のしっかりした女性。過去にいろいろあったけど、彼女が前向きだからこそヒーローも背中を押されてポジティブになっていくと思っています。
ーー有澤さんは、座長として心持ちに変化などはありましたか?
有澤:今まではカンパニーを盛り上げるような元気な役が多かったですが、今回は内面に大きなものを抱えている役。自分ではそんなに役の影響を受けないタイプだと思っていけど、テンションが上がらなくて(笑)。皆さんにたくさん助けてもらいました。
ーーMVも公開されている「THAT'S MY KRYPTONITE」にちなんで、皆さんのKRYPTONITE=弱点を教えてください。
青山:寒さに弱いです。稽古場では誰よりも暖かい格好をしていました。
山下:ミュージカルですかね(笑)。映像畑の人間だと思っているので、自分にとってはいつも挑戦です。でも毎回克服しています!
有澤:影響されやすいところですかね。弱点でもありいい所でもあるんですが、うまくいかない時や楽しい時がわかりやすいのが弱点かもしれない。隠せる大人になりたいです。
ーー最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
有澤:一豪さんのもと、自信作に仕上げられたと思っています。個性的なキャラクターも多いですが、みんな頑張りすぎることなくミルウォーキーの人間として自然に生きている。最後は救われる話になっていますし、皆さんにも「見て良かった」と前向きになってもらえる作品だと思います。全公演しっかり届けるので、楽しみにしていてください!
<ゲネプロレポート>
ゲネプロでは、ジェーンを青山なぎさ、カークを小野塚勇人、ネイトを吉田⽇向が演じた。
物語はヒーロー・バトウスキー(有澤樟太郎)の平凡な日常からスタート。父・アル(佐藤正宏)やコミックショップの常連たち、いとこのカークとの会話から、ヒーローの人となりが見えてくる。会見でも話していたように、どちらかというと明るく元気な役や凛々しい役が多い印象の有澤だが、とあるきっかけで心が折れてしまった覇気のない青年を見事に演じていた。くすぶっていたヒーローがジェーンとの再会をきっかけに変化していく様子も繊細に表現し、見ていてもどかしいが憎めない青年を描き出した。
ミュージカル『ヒーロー』舞台写真 撮影=吉田沙奈
(中央)有澤樟太郎 撮影=吉田沙奈
撮影=吉田沙奈
青山が演じるジェーンは、ヒーローとの過去や地元に戻ってきた理由など、自分の身に起きたさまざまな出来事を受け止めて前に進む凛とした女性。大人らしい落ち着きの中に少女のようなピュアさを感じさせる魅力あるヒロインだ。
青山なぎさ 撮影=吉田沙奈
(左から)有澤樟太郎、青山なぎさ 撮影=吉田沙奈
10年前のすれ違いによってできた溝を埋めていく二人のぎこちない様子、素直に思いを伝えた後の幸せそうな表情など、ささやかだが大切な変化が随所で描かれている。
山下リオ
(左から)有澤樟太郎、山下リオ
ヒーローと対照的な従兄弟・カーク役の小野塚は、頼れる親友としてヒーローをサポートすると同時に、お茶目な言動で笑いを誘う。ギターの弾き語りでは何度か弾き直してから「すごく緊張した」とはにかむ姿が可愛らしく、どこまでが台本かわからない愛嬌に惹きつけられた。
(中央)小野塚勇人 撮影=吉田沙奈
(左から)小野塚勇人、宮澤佐江 撮影=吉田沙奈
寺西拓人
ジェーンの同僚・スーザンを演じる宮澤は、真面目ゆえの滑稽さをキュートに表現。緊張で固まったり、勢いに飲まれて思いがけない行動を取ったりするスーザンの戸惑いと高揚感をコミカルながら丁寧に見せ、印象的なキャラクターを作り上げている。ヒーローが山あり谷ありの人生にめげてしまいがちなぶん、登場するたびに思いがけない笑いを生み出すカークとスーザンのコンビに和まされた。
(左から)宮澤佐江、青山なぎさ 撮影=吉田沙奈
小野塚勇人 撮影=吉田沙奈
撮影=吉田沙奈
ヒーローの父・アルは、息子の夢の実現やジェーンとの恋を応援するあたたかい父親。ヒーローへの思いが空回ってしまったり、自身の人生については妥協していたりと、決して完璧ではないのが却って素敵に思える。店に入り浸る少年・ネイトとの世代を超えた友情、常連たちとの息のあったやりとりも楽しい。立ち止まったり迷ったりする大人たちに対してネイトが少年らしい素直な感性で言葉を投げかけるシーンも多く、対等な関係に眩しさや微笑ましさも感じた。
(左から)佐藤正宏、吉田日向 撮影=吉田沙奈
撮影=吉田沙奈
メインキャラクターだけでなくコミックショップやバーの常連たちなども個性的。それぞれキャラが立っており表情豊かなため、あえてヒーローではなく周囲に注目してみても面白い。
木村来士
また、キャラクターたちのセリフはもちろん、楽曲にもアメコミヒーローのネタが盛り込まれている。カークがヒーローを励ますナンバー、美しいメロディが印象的なヒーローとジェーンのデュエットなどにもアメコミのワードが入っており、ネタ元も有名なものからマニアックなものまでさまざま。詳しい方であれば「今のはあの作品の話だ」という楽しみかたもできるだろう。
撮影=吉田沙奈
撮影=吉田沙奈
撮影=吉田沙奈
決して派手で華やかなスーパーヒーローではないが、とても身近な等身大の“ヒーロー”と、彼と共に歩む人々の奇跡を覗き見られる本作。ちょっと前向きになれるメッセージを受け取ることができる日本初演ミュージカルは、2025年月6日(木)〜3月2日(日)までシアタークリエにて上演される。
取材・文=吉田沙奈
公演情報
会場:日比谷シアタークリエ
脚本:アーロン・ティーレン
作曲・作詞:マイケル・マーラー
翻訳・訳詞・演出:上田一豪
出演:
有澤樟太郎
山下リオ/青山なぎさ(Wキャスト)
寺西拓人/小野塚勇人(Wキャスト)
宮澤佐江
吉田日向/木村来士(Wキャスト)
佐藤正宏