「ネガティブや弱さは自分の燃料」ハルカミライ橋本学が語る、新たな刺激を求めた最新作『生きるとは鼻くそくらいの希望を持つことだ』

インタビュー
音楽
2025.2.18
ハルカミライ 橋本学 撮影=日吉"JP"純平

ハルカミライ 橋本学 撮影=日吉"JP"純平

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ヤンチャなルックスでありながら「最近元気してた?」と声をかけてくれる近所の兄ちゃんみたいなフロントマンと、時には高いところに、折にはフロアに潜り込んで遊び尽くすギター。カーキのロングコートをたなびかせ、参謀さながらに指示を出すベースと、気づけばドラムチェアを掲げ、前へ前へと乗り出すドラム。これが私から見たハルカミライという塊だった。もちろん、リスナーそれぞれが彼らに抱くイメージは、戦隊ヒーローだったり四天王、ゲームのキャラだったりするのかもしれないけれど、ハルカミライはこの4人でこそ成り立っているという考えは一貫しているだろう。ハルカミライが3年ぶりにリリースしたメジャー4枚目となるアルバム『生きるとは鼻くそくらいの希望を持つことだ』は、そんなそれぞれのキャラクターを前景化させながら、これまでのハルカミライ像を打ち壊し、音楽的な豊かさを追い求めた1枚である。2023年に2度の武道館公演を成功させ、進むべき道を探していたと語ってくれた橋本学(Vo)が、改めて見つめ直した心の奥底に眠る小さな小さな希望。さらば、若かりしハルカミライよ。さぁ、初めましてを告げよう。エネルギッシュでありながら、どっしりとした懐の深さを備えた最新型のハルカミライに。

大人になったハルカミライの落ち着きが滲むアルバム
『生きるとは鼻くそくらいの希望を持つことだ』

ーー2月1日(水)に4th フルアルバム『生きるとは鼻くそくらいの希望を持つことだ』がリリースされました。ゴスペル的なコーラスワークが加わった「The Landolt C」やフローを中心にした「ラストベット」をはじめ、音楽的な幅を拡張しながらも、ハルカミライらしい熱量を詰め込んだのびのびとした1枚だと感じています。改めて本作を振り返って、橋本さんはどのようなアルバムになったと受け止めていらっしゃいますか。

おっしゃっていただいた通り、どしっとした1枚になったと思っています。1曲1曲の精度が良いだけじゃなくて、俺以外の3人が作詞作曲した楽曲も入っているから遊び心もある。肩の力を抜いて、良いテンションでアルバムを作れたんじゃないかなと。

ーー逆に、これまでの作品は肩ひじを張っている感覚もあったんですか?

ちゃんと良いものを作らなければと意地になっている部分もあったので、凝り固まってしまっていたというか。もちろん、それは若い時ならではの良さでもあると思うんですけど、そういう頑固な部分が取れてきた。良い形で大人になれていると思いますね。

ーー本作は2022年3月に発表された『ニューマニア』以来、およそ3年ぶりのアルバムとなりますが、特にこの3年間は理想的な歳の取り方ができた?

曲を作りたい時に焦らず制作していたから、メンタリティが健康だったこともありつつ、純粋に30歳を超えたことも大きかったかも。本格的に30代へ突入したことで自分の在り方を考えたし、2023年に武道館でライブを2回やらせてもらって「ここからどうしようか」って感じがあった。もちろん、ライブは楽しいけれど、刺激がないな、みたいな。

ーーそのやり切った感覚を抱えながらも、良い形で歳を重ねられていると実感できたのはなぜなのでしょう。

俺たちには今までやらなかったことが沢山あったんですよ。自分たちの考えるハルカミライ像に似合いそうな音楽をやってきたし、固定概念から外れたことをするのが怖かった。でも、新しい刺激を求めて、今まで手を付けてこなかったことをやっちまおうと思えたんです。そうやって自分たちを見直せたから、30代の良いスタートを切れた気がしています。

ーーゴスペルやHIP HOP的なアプローチがアルバムに組み込まれているのは、新たな手法を取り入れたからなんですね。今までのハルカミライ像から外れたことへ挑戦するためには勇気が必要だったと思うのですが、そのエネルギーはどこから湧いてきたんですか。

明確なキッカケがあったわけではなく、刺激を求めた結果だったかな。自分たちがこれまでやってきたことに対して、「この活動をずっと続けていくのかな」「同じような楽曲を作り続けていくのかな」と考えたんですよね。その時にやっぱり俺たちは音楽が好きだし、もっと自分の好きなものを取り入れて良いんじゃないかと思えたんです。

わずかな希望を示したタイトルと、歳を重ねて培った説得力

ーー刺激を求め、やるしかないと吹っ切れることができたから、パブリックイメージとは異なるハルカミライに進めたと。ここまでお話いただいたように、本作は豊かになった音楽的なアプローチが印象に残る一方で、極めてハルカミライらしいタイトルが掲げられています。過去のインタビューでは、先輩のバンドと対バンする際にチョケたり、ボケたりすることで、最後の最後に話を聞いてもらえる気がするといった旨も語られていましたが、「鼻くそ」のワードからはそのチョケっぷりを感じて。冗談めいた響きもあるけれど、真っ直ぐな思いが込められた表題だと受け止めているんですが、このワードはどういった感情から生まれてきたものなんでしょう。

誰もが人に期待する心を持っていると思うんですけど、「この人にはこれをやってほしかったのに」「この人はこうあってほしい」と期待しすぎることは良くないと感じているんですよ。自分に都合が良いように期待や依存をして、勝手に裏切られた思いを抱くことは、時間を無駄にしてしまうというか。そういうほかの人への期待を排除して、もともとの自分の中に残っている希望って、きっと大したものじゃないと思うんですね。一個人の中にある熱量や希望、好きなことなんてちょっとしかなくて、苦手なことの方が実際には多くて。その中で少しだけ残っている燃料みたいなものをぐわーって燃やしていくしかない。そのちょっとの光を表したのが、このタイトルなんです。

ーー自分のちっぽけさや非力さと向き合い続けてきたからこそ、生まれたタイトル。

そうですね。俺は昔からずっと自分をちっぽけだと思っているので、ようやくそれを上手く言えたなって。

ーー今おっしゃっていただいた通り、橋本さんはご自身のことを弱い存在だと考えてきたと思うんです。それを踏まえると、「友と君へ」で<Think of you. 僕が救う>と誓えたことが重要な気がして。それこそ、橋本さんがずっと大切にしてきた「愛してる」ってワードをそのまま使わないこだわりも含め、ここまで真っ向から核心を言い切った楽曲はなかったんじゃないかなと。この曲で<僕が救う>と宣言できた理由は何だったんですか。

確かに、ここまで言い切った楽曲はなくて。というのも、こういうことを若い時に歌ってしまうと「そんなに言うほど、お前は苦労したのか?」って自分に疑いを持ってしまうと考えていたから。そうやって若いうちは歌っちゃいけないと思っていたことが、ようやく30歳を過ぎてどしっとしてきたことを自覚する中で、今なら淀みなく説得力のある状態で届けられると思ったんです。だから、今回は宣言するような歌詞を書けたんじゃないかな。

ーーこのタイミングで言い切る歌詞を書こうと思えた背景としては、年齢的な要因が大きい?

説得力ですね。自分が言ったことを自分で信じられるか、信じられないか。あとは、直感的にお客さんも俺たちが言うことを信じてくれるようになっただろうという自覚もありましたし。

ーーお客さんがハルカミライを信頼してくれていることに対する自覚は、先ほどお話いただいた自分のちっぽけさや非力さを否定することにはならなかったのでしょうか。周囲の人から信じてもらえることは、大なり小なり自信をもたらしてくれると思うのですが。

俺にとって、ちっぽけであることは決してネガティブではなくて。「ちっぽけだと、戦っちゃいけないの?」っていうイメージなんですよね。俺は、弱いヤツが成長して強敵に勝つみたいな、戦隊ヒーローものや漫画の超王道な展開が大好きで。だから、ネガティブや弱さは自分の燃料なんです。その燃料を燃やしている様子に、共感してくれている人もいるんだなと。

未完成な歌が実は完成されている気がする

ーータイトルの由来となった「僕たちの悲しみはどこへ行く」も「愛してる」の言葉を使わずに、音楽への愛をパンパンに詰め込んだ1曲ですが、この楽曲はどういったキッカケで書くことができたのでしょう。

これもまさしく説得力というか。ずっと音楽を擬人化させたラブソングを書きたかったんですけど、その存在の対になるくらいに説得力のある内容がなかなか浮かんでこなかったんです。でも、音楽の対になるものが見つからないモヤモヤをそのまま出してしまえば良いと気づけた。俺は綺麗にまとめないことを音楽に求めていて。もちろん、めちゃくちゃ歌が上手くても最高だけど、「こいつが歌う歌はなんか泣けるんだよなぁ」みたいに下手なヤツの歌が響くこともあるじゃないですか。それって、凄く未完成な歌が実は完成されているってことな気がして。俺はそういう音楽が好きだと気づけたことで、自分のモヤモヤを燃やして音楽への愛情を納得する形で出せたんです。

ーーこの曲における説得力は、モヤモヤをそのまま叫べば良いと気づけたことに由来すると思いますが、そもそもモヤモヤをそのまま出せば良いと気づけた理由は何だったんですか?

そこは自分のメンタリティがどうとかではなく、人の曲を聴いて、結末がない「明日はどうなるんだろう」だけで終わっている音楽が好きだと気づけたことがキッカケでした。悩んで悩んで、顔が歪んでしまう歌が純粋に好きなんですよ。

ーー今お話いただいたモヤモヤをそのまま提示することと、先ほど話してもらった鼻くそくらいにちっぽけな希望を燃やしていくことは、心の中にある小さな燃料を見つめている点で繋がっていると感じました。

やっぱり圧倒的にモヤモヤや葛藤ばかりじゃないですか。それは俺の性格的な部分もあるけれど、きっと同じような人も多い気がする。以前流行っていた脳内メーカーで例えると、葛藤やモヤモヤ、絶望がバーってある中に1つだけ希望がある、みたいな。モヤモヤと希望はそういう割合だと思っているし、間違いなく繋がっています。

ーー今作では、モヤモヤばかりの中に残った小さな希望を燃やしていくことを歌われていますが、葛藤ばかりだと苦しいこともあるじゃないですか。それでも、苦しみと希望の割合は今のままで良いと思えたわけは何だったんでしょう。

酸いも甘いも知ってしまって、「俺なんてこんなもんだよ」って思ったんです。それは言ってしまえば諦めかもしれないし、ネガティブに聞こえるかもだけど、「こんなもんだよ、俺なんて。じゃあ良いじゃん」とポジティブに捉えることができたんですよね。

ーーそのある種の吹っ切れは、冒頭で話していただいたやりたいことをやり切ってしまったから、新しいことを取り入れようとした感覚ともモチベーション的に近い気がしました。

どうなんだろうな……。でも確かに、ずっと同じようなことをやっていると小さな炎はもっと小さくなっていくと思いますね。だから、自分の刺激になる音楽を求めているんじゃないかな。

ーーやりたいことをやることでガソリンを与える、みたいな?

どちらかと言うと、やりたいことを探す、というか。「やりたいことをやる」って素晴らしい言葉だと思うんですけど、若い時は周囲から「やりたいことをやりなよ」と言われても「やりたいことなんて、無いよ」って思うじゃないですか。中学や高校の段階で、明確にやりたいことが決まっている人なんてなかなかいない。だから、やりたいことを必ずやるんじゃなくて、やりたいことを探せば良い気がする。それは何だって良いし、駄目だったら別のことをやったって良い。そうやって何かを探すこと、それ自体が重要なんじゃないかなと思っています。

ーー先ほど、「僕たちの悲しみはどこへ行く」は煮え切らない思いをそのまま書く美しさに気づけたから作ることができたとお話いただきましたが、ハルカミライは言い切らない美学、言い換えればカチッとし過ぎない部分を持っている気がして。それはタイトルから受け取れるチョケっぷりや気楽さ、息の抜き方とも重なると考えているのですが、いかがですか。

何かミスをしても「てへっ」で乗り切れるヤツがいると思うんですが、俺はそういうタイプには絶対になれないと思うんです。何かやらかしたら、夢に出てくるくらいグルグル考えちゃうから。でも、バンドのみんながいると、ちょっと肩の力を抜くことができる。今は過去に解決したことが掘り返される一発アウトの時代だけど、本当は誰しもが失敗を重ねて、勉強して、「あれはやっちゃいけなかったんだ」と分かるはずで。すぐにアウトになってしまうのは嫌だなと思うし、もし何かがあったとしても「やっちゃってすいません……」と謝れたら次に進みやすくなる気もするんですよ。

ーー今おっしゃっていただいたことは、まさしく「YAEN」で歌っていることだなと。橋本さんお一人では真面目に考えすぎてしまう一方で、ハルカミライというバンドであればお茶目に振舞えるのはどうしてなんですか。

言ってもらった通り、俺は考え込んでしまう性格だけど、仲間がいるとそこから抜け出させてくれるんです。あとは、さっき話したヒーローの成り上がりと自分を重ね合わせることで、昨日まではズタボロな日々だったとしても、「このステージの3、40分だけはやったるわ」「スポットライトを浴びたるわ」って思える。そういうロマンをバンドなら感じられるんですよね。

ーーバンドのロマンを最大限に実感できるであろうツアー『ヨーロー劇場2025-2026 47都道府県ワンマンツアー -BOOGER JOE-』が、5月26日(月)東京・八王子 RIPSよりスタートします。長いツアーになるかと思いますが、どういった旅にしたいですか。

地獄のツアーになるか、希望のツアーになるかのどっちかだろうな。でも、30歳を過ぎたからこそ、バンドを組んだ時の情熱に立ち戻れている気がして。今は「やってやるぞ」というモードになっていますし、気合いの入ったツアーになると思っています。

ーーこのタイミングで「やってやるぞ」と思えた理由は、やりたいことをやり切って、一度更地になった感覚があったからなんですかね。

それはかなりあるかも。例えばゲームとかでも、俺は最初から始めることが好きなんです。スタートから始め直す中で、1個1個丁寧にやり直していくことが性格的に合っていて。強くてニューゲームのようなイメージかなと。

取材・文=横堀つばさ 撮影=日吉"JP"純平

リリース情報

4th New Album
『生きるとは鼻くそくらいの希望を持つことだ』

2025年2月1日(土)発売
品番:UPCH-20689 価格:3,300円(税込)
通常盤:1形態

http://lnk.to/HRKMRI_IHKMK_ec

<収録曲>
01. さらば
02. The Landolt C
03. 第六感とテレパシー
04. サニーブルース
05. すっからかん
06. 陽光 
07. YAEN
08. 友と君へ 
09. K・O・M・A・T・S・U
10. 心の真ん中を叩けば 
11. ラストベット
12. 涙はどこから来るのだろう
13. 僕たちの悲しみはどこへ行く
ハルカミライ 公式サイト
https://www.harukamirai.com/

ツアー情報

『ヨーロー劇場2025-2026
47都道府県ワンマンツアー -BOOGER JOE-』
 
<1st SERIES>
05月26日(月) 東京・八王子 RIPS
05月28日(水) 愛知・名古屋 DIAMOND HALL
05月30日(金) 石川・金沢 REDSUN
06月06日(金) 佐賀・GEILS
06月07日(土) 大分・T.O.P.S BittsHALL
06月18日(水) 大阪・GORILLA HALL OSAKA
06月20 日(金) 滋賀・B-FLAT
06月26日(木) 群馬・GUNMA SUNBURST
06月27日(金) 栃木・Utsunomiya HELLO DOLLY
07月09日(水) 三重・松阪 M'AXA
07月11日(金) 和歌山・CLUB GATE
07月16日(水) 静岡・Live House UMBER
07月18日(金) 徳島・club GRINDHOUSE
07月19日(土) 高知・X-pt.
 
<2nd SERIES>
07月30日(水) 岐阜・柳ヶ瀬 ants
08月01日(金) 広島・HIROSHIMA CLUB QUATTRO
08月05日(火) 福井・CHOP
08月06日(水) 京都・KYOTO MUSE
08月12日(火) 長野・伊那 GRAMHOUSE
09月13日(土) 鳥取・米子 AZTiC laughs
09月14日(日) 島根・出雲 APOLLO
09月26日(金) 北海道・小樽 GOLD STONE
09月28日(日) 北海道・札幌 PENNY LANE 24
10月01日(水) 青森・八戸 ROXX
10月03日(金) 秋田・Club SWINDLE
10月05日(日) 山形・酒田 MUSIC FACTORY

先行受付】
料金:5,500 円(入場時ドリンク代別途必要)
<1st SERIES>
①MS & CD 封入 W 認証先行 :2/1(土) 12:00 - 2/9(日) 23:59
②MS 先行:2/16(日) 12:00 - 2/18(火) 23:59
③CD 封入先行:2/23(日) 12:00 - 2/25(火) 23:59
<2nd SERIES>
①MS & CD 封入 W 認証先行 :3/1(土) 12:00 - 3/3(月) 23:59
②MS 先行:3/8(土) 12:00 - 3/10(月) 23:59
③CD 封入先行:3/15(土)12:00 - 3/17(火) 23:59
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