阿久津仁愛×押田岳×坪倉康晴×小沢道成が語る男の友情「外から見たら女々しいけど、本人たちはガチなんだと思う」
(左から)小沢道成、押田岳、阿久津仁愛、坪倉康晴
もしも卒業のタイミングを自分で決めることができたら、私たちはいくつまで学生をやり続けるのだろうか。そんな“無期限の青春”を描いたのが舞台『しばしとてこそ』だ。
3年という通常課程を修了し、学校にとどまることを選んだ者だけが進級する<N学年>。授業も自由。通学手段も自由。いい大人だからこそ、自分たちで何でも決められる教室の中で、野放図に青春を謳歌する高校生たち。卒業という決断に保留ボタンを押し続けるモラトリアム期を経て、彼らは何を見つけるのか。これは、ちょっと不思議で、ちょっと不条理で、ちょっと切ない青春コメディだ。
作は、ヨーロッパ企画の大歳倫弘。演出・美術を務めるのは、第31回読売演劇大賞で優秀作品賞と優秀演出家賞を受賞した小沢道成。
さらに、やり残したことに決着をつけるため<N学年>に進級した3人組を阿久津仁愛(ダイチ役)、押田岳(ミツル役)、坪倉康晴(タクロウ役)が演じる。
小沢と3人のキャストに、本作の魅力を語ってもらった。
ーーまずは脚本を読んでの感想をお聞かせください。
阿久津:幅広い年代の人たちが同じクラスで学ぶ<N学年>という設定が面白いなと思いました。
押田:設定がキャッチーだよね。お客さんもスッと入り込める世界観じゃないかなと思う。
坪倉:僕、漢字が苦手なんですよ(笑)。台本を読むときはいつも必ず読めない単語が出てきて、これどういう意味だろうって調べるんですけど、今回はそれがなくて。一度も調べずに読み終えられました(笑)。
一同:(笑)。
坪倉:それくらいわかりやすかったです!
阿久津:登場人物それぞれにやりたいことがあって、目標に向かってまっすぐ進んでいく。その感じがすごく青春だなって思いました。
小沢:しかもそこに10代だけじゃなく、30代から60代まであらゆる世代の人がいて。その中でド直球の青春をやるとどうなるんだろう、というのがこの脚本の面白さだと思います。
坪倉:基本はコメディなんですけど、登場人物一人ひとりがちゃんとピックアップされていて、しっかり内容が詰まってるところも面白いなと思いました。
押田:あとはやっぱり“選択”について考えさせられたというか。人生において選択って何回もあると思うんですけど、本当の意味で自分の意思で選択できている人ってどれくらいいるんだろうって、つい考えさせられる作品になってると思います。
小沢:観ながら『私だったらどうするかな?』って、何かしら自分の人生に重ね合わせられるところがある作品ですよね。
押田:そう思います。個性的なキャラクターがたくさん出てきて、覗き見みたいな感覚で楽しめるというか。
小沢:だから、演出としても、単なるド直球の青春にはおさまらないようにしようかなと、いろいろアイデアを練っているところです。
ーーぜひ演出についても聞かせてください。
坪倉:今回、舞台が客席と客席で挟まれる二面舞台になっているんです。
小沢:バルコニー席もあるから、実質四面と言っていいかもしれない。
坪倉:しかも出番が終わっても袖にハケるんじゃなくて、舞台に残るようになっていて。いろんな角度から見られることもですし、一度もハケない分、役者は常に緊張感をもって、お客さんはすごくワクワクする演出になっているんじゃないかなと思います。
小沢:美術も一見素舞台に近いんですけど、ちょっと特殊な仕掛けをしていて。そこはぜひ楽しみにしていただきたいです。
阿久津:いろんなところにお客さんの視点がある分、舞台上にいる役者としては少し狭く感じることもありますが、小沢さんがその窮屈な感じを解放するようなリードをしてくださるので、とても心強いです。
押田:小沢さんの演出は、一緒につくってくれている感じがすごくいいなと思います。今この流れだったらどこに立ってるのがベストか、演出家さんが役者と一緒に検証してくれるのはありがたいことだなって。
坪倉:僕も四面の経験がないので、考えなくてもいいことまで考えてしまうんですけど、小沢さんがここでこう動いたほうが効果的とか、役の心情に沿った立ち位置や動きを整えてくれるので、安心してお芝居に集中できます。
阿久津:一つの台詞に対しても、僕が台本を読んで考えていたものとは全然違うサブテキストをくださるんです。そのたびにまた違う感情が生まれて、毎回違うダイチになれる。最終的にどのダイチがいちばんしっくり来るのか、今から楽しみです。
押田:僕の知る限り、演出家さんってこういうニュアンスでというふうに抽象的な伝え方をする方と、ロジックで伝える方の2タイプいて、小沢さんは後者。今相手のこの台詞を受けてこういう状況だから、きっと次はこう動くんじゃないかなと論理立てて解説してくれるんです。役者の気持ちもお客さんの気持ちもわかって作品づくりをしてくださっているんだなって一緒にやっていて感じますね。
ーー小沢さんからも3人の俳優の魅力を伺えますか。
小沢:3人とも真面目だし、お芝居が大好き。その前提の上で言うと、康ちゃん(坪倉)は、すごく優しい人。その優しさがきっと、本当はこうやりたいのにやれないとか、みんなのことを俯瞰で見すぎてしまうあまり悩みにつながっているかもしれないですけど、そこが人間として実に魅力的であり、タクロウという役とも重なるところですね。
坪倉:確かに。昔から困っていそうな人には普通に声をかけてきたし、発言するときも言葉を選んでしまうタイプなので、タクロウに関しては『わかるな』と共感するところが多いです。いい人すぎるんですよ、タクロウは。言葉の裏のさらに裏を読んで、変な考え方になっちゃうところがあって、そういうところは結構似ているのかな。
小沢:がっくん(押田)は、考えるのが好きな人。演じるミツルもノリで好き放題やっているように見えて、実は物事をしっかり考えているところもあって、でもそれが空回っちゃう。そういうところはがっくんにもあるんじゃないかなって。
押田:ダイチとミツルとタクロウの3人でバンドをやろうというところから物語は始まって。でも同じクラスの大人たちがそれに乗っかってきて、いろんな問題が起きていく。その中でミツルは自分の味方を増やそうと立ち回るんですけど、この味方を増やすムーブに走ってるところがダサくて女々しくて、でもすごく共感できちゃうんですよ。ミツルはガワ(外側)はオラついているけど、中身はめっちゃ女々しい。そこは自分も持っている部分なので、しっかり使って演じようと思いました。
小沢:にっちゃん(阿久津)は何か思うことがあってもなかなか言えずに、家で考えて自分で処理して、ちゃんと次の日にはリセットしてモチベーションを上げてくる人なのかなと、初めてお顔を見たときから思っていました。ちゃんと自分で考えてからと言ってる間に物事がどんどん進んでいっちゃうこととか、よくあるんじゃない? なんだか占いみたいな時間になっちゃったけど(笑)。
阿久津:当たってます(笑)。ダイチも最後のほうで爆発するんですけど、ああいうふうに自分の中で溜め込んで、酔っ払った勢いで人にぶちまけるみたいなところはありますね(笑)。
MMJプロデュース公演『しばしとてこそ』
ーー男同士の友情って創作ではさっぱりとした「男ってバカね」みたいな描かれ方が多いんですけど、ダイチたちの関係はおっしゃる通りちょっと女々しくて面倒くさいところもちゃんと描いているんですよね。こうした男の友情についてどう思いましたか。
押田:高校のときにそういう友情をしてたかと言われるともう覚えていないですけど、大人になってからの人との付き合い方ってこういう感じだなみたいなのは思ったりします。
坪倉:たぶん外から見たら女々しいけど、本人たちからしたら結構本気なんだろうなって。まあ、実際にこういうことがあったらちょっと面倒くさいとは思いますけど(笑)。
阿久津:確かに(笑)。高校生って世界が狭いから、そこの中でどうにかしようと思ってしまうところがあるんじゃないかな。
ーー同じグループにいた友達が別のグループの子と仲良くしているのを見てモヤモヤしたり。
坪倉:僕は学生時代、あまり固定のメンバーにいないタイプだったんですよ。ある程度仲の良いグループはいるけど、日によっていろんなグループに行っちゃう人だったんで。
押田:めっちゃタクロウとハマってるやん。
ーーその結果、取り残されたグループのほうは「あ、あっちのグループにいるほうが楽しいんだ」と思ったりするわけで。
坪倉:…ありましたね、そういうのは(笑)。最近全然こっち来ないじゃん、みたいな。
一同:(笑)。
坪倉:自分の中でいろいろ理由はあるんですけどね。その時々のグループの事情とかもあったりするじゃないですか。
小沢:そのグループとの関係を信頼してるからこそ、別の場所に行くっていう考えもあるもんね。
坪倉:そうです。わりと周りのメンバーも結構いろんなグループに散っては戻ってきて、また散るみたいな感じだったんですけど、その中に1人だけ『全然こっち来ないじゃん』と言うタイプがいて。それこそミツルみたいな。そう考えると、やっぱりこういうことをやってるんですね、高校生って。
小沢:やってるやってる。大人になってもやってるところあると思う。
ーーみなさんの青春に関することも聞かせていただきたいです。
坪倉:青春ってなんかあった?
阿久津:いや、マジでないですね。僕にとってはミュージカル『テニスの王子様』が青春でした。本当に成長できる場所だったんですけど、その分、学校にはあまり通えなかったので、普通に高校生活を送ってみたかったなという気持ちもありますね。
押田:僕もちょっと近くて、高校のときは勉強しかしてなかったんですよ。だから、いわゆる青春みたいな記憶がなくて。お芝居の世界に入って、今めっちゃ仕事が青春だなって思うんですよね。高校生のときに普通の青春をやってみたかった思いはあるけど、でも今十分青春できてるからいいかって。
坪倉:僕は結構青春してきた方かなって思います。高校のときは部活1本で、部活が終わったら海に飛び込むThe青春みたいな。
押田:いいな〜。
ーー青春をちゃんとやり切った健全さみたいなものがありますよね。
押田:わかります。それこそ卒業できた人というか。
小沢:みんなは本当に<N学年>という制度があったらどうする? 3年で卒業したい?
阿久津:しないかもしれないすね。それこそ『テニミュ』を終えた後、立て続けに別の作品をやっている中で孤独を感じたことがあって。自分のホームがあるって、すごくいいなと思ったんです。だから、僕だったらなかなか卒業できないかもしれません。
坪倉:僕は結構飽き性なところがあって、同じことをやってるとすぐ飽きるんです。芝居が好きなのも、現場ごとに台本も周りの人も違うから飽きないというのがあって。だから、<N学年>には残らない気がするんですよね。
小沢:じゃあ、ちゃんと3年で卒業するんだ?
坪倉:そうですね。楽しくはいたい派なんで、自分が楽しくいれるところを探しに行きます。
小沢:これはちゃんと海に飛び込んだことがある人の発想かもしれない(笑)。がっくんはどう?
押田:ミツルと一緒かもしれないです。自分の巣から飛び立つのは怖いけど、ずっとここにいても成長はないなと思うタイプなので、1年だけ<N学年>を経験して、どんなものなのか知った上で、4年でちゃんと卒業する気がします。
ーー演劇はどなたでも楽しんでいただけるものですが、一方でこういう人が客席にいたらより一層素敵な出会いになる、というものはある気がしています。みなさんは今どんなことを考えている人、どんなことを抱えている人にこの作品が届いたら、より刺さると思いますか。
小沢:いろんな人のいろんな人生があると思うんですけど、その中でも自分の居場所を探している人にはより刺さる作品になると思います。あとは、ド直球の青春だからといって若い人だけが観て楽しめるわけではないので、たくさん人生経験を積まれている方がご覧になったらどう思うのかなって感想を聞いてみたいです。
坪倉:悩みごとが多い人には結構刺さるところがある気がしますね。
押田:あとは頑張る勇気が今いち出ない人とか。『頑張るってちょっとダサくね?』というターンってみんなあると思うんですけど、そんな人にこんな単純明快でいいんだって刺さってくれたらうれしいです。
ーーでは最後に、阿久津さん、誰に届けたいですか。
阿久津:う〜ん……全員に届け!
一同:(笑)。
小沢:まあ、いろんな人に観てほしいもんね(笑)。
阿久津:はい。いろんな人がいろんなことをやっていて、それをいろんな角度から観られるので、何回来ても新しい発見があるんじゃないかと思います。なので、1回だけじゃなく、何回も来て楽しんでほしいです!
取材・文:横川良明 写真:山岸和人
公演情報
会場:新国立劇場 小劇場
阿久津仁愛 押田 岳 坪倉康晴 小島梨里杏 富山えり子 中川晴樹
/安西慎太郎 池津祥子 大鷹明良
作:大歳倫弘(ヨーロッパ企画)
演出・美術:小沢道成
いつの頃か、学校制度における〈卒業〉は自分自身で決断する行事となっていて、高校の3年制はもはや標準的なガイドラインでしかない時代。
ダイチ・ミツル・タクロウの仲の良い3人組は、いよいよ3年生の終わりが近づいたある日、卒業のタイミングを自由に選べる〈N学年〉にそろって進級し、「もう少しだけ……」と、〈やり残したこと〉に一緒に挑戦してから卒業することを決意する。
……恐る恐る足を踏み入れた〈N学年〉の教室にいたのは、年齢不詳の生徒から30代、40代、50代……最年長は60代の生徒。そして、混沌とする教室で翻弄される若い担任教師。ダイチたち3人だけでやり遂げるはずだった大切な〈卒業イベント〉に、なぜか次々と介入してくるこのクセ強なクラスメイトたち。
彼らはなぜ卒業しないのか?そして、それぞれの「卒業」への思いと選択とは―?