「恋に狂い、恋に戸惑い、恋に踊る」がテーマの『三月花形歌舞伎』南座にて開幕、初日オフィシャルレポート到着
『於染久松色讀販』中村壱太郎の土手のお六
3月2日(日)に南座にて松竹創業百三十周年『三月花形歌舞伎』が開幕した。初日の館前イベントと午前の部【松プログラム】、午後の部【桜プログラム】のオフィシャルレポートが到着したので紹介する。
初日開幕を心待ちにしている多くのお客様が集まる中、公演に先駆け、劇場前に鮮やかな色紋付姿で、中村壱太郎、中村米吉、中村福之助、中村虎之介が登場し、挨拶を行った。
左から中村虎之介、中村米吉、中村壱太郎、中村福之助
中村壱太郎:今年の公演のテーマは「恋に狂い、恋に戸惑い、恋に踊る」です! 劇場内にもフォトスポットなどお楽しみいただける要素がたくさんございます。来年、そしてさらにその先へこの公演を続けていけるように、私たち出演者、スタッフ一同精一杯勤めて参ります。
中村米吉:松プログラムで「妹背山婦女庭訓」のお三輪という女方の大役を勤めます。幕を開けて皆様の力もいただいて演じていきたい。壱太郎さんの発案で入場者特典など企画もいろいろございますので、何度も足をお運びいただけますと幸いです。
中村福之助:兄も出ていたこともあり、とても身近に感じてきた公演なので、楽しみでワクワクしています。今回は私も「妹背山婦女庭訓」の漁師鱶七という大きなお役を勤めますので、また次にバトンをつなげていけるよう、熱い芝居をお届けいたします!
中村虎之介:南座の『三月花形歌舞伎』には初めて出演します。松プログラム、桜プログラムと演目も演出も異なりますので、2回、3回……と何度でもお越しいただきたいです。みんなで力を合わせて舞台を作り上げていきますので、ご声援よろしくお願いします!
そして最後には、公演の成功を願って壱太郎の発声で手締めを行い、劇場前につめかけたお客様は大盛り上がり。大きな拍手の中、イベントは終了した。
●松プログラム
乍憚手引き口上
『乍憚手引口上』中村壱太郎、みなみーな
演目をより楽しむための鑑賞の手引き「乍憚手引き口上(はばかりながらてびきこうじょう)」では、大きな拍手に迎えられ、解説を勤める中村壱太郎が客席から登場。「お客様と俳優の距離をぐっと近く感じていただいて、肩の力を抜いてお楽しみください」という挨拶から始まり、松プログラムで上演する「妹背山婦女庭訓」三笠山御殿、「お染の五役」の魅力や注目ポイントを解説。客席の期待感もふくらむ。南座の公式キャラクター・みなみーなも登場しての撮影タイムも設けられ、壱太郎は大勢のお客様を前に「千穐楽23日まで、精一杯勤めますので、皆様の温かいご声援をよろしくお願いいたします!」と呼びかけ、幕となった。
一、「妹背山婦女庭訓」三笠山御殿(松プログラム)
「妹背山婦女庭訓」中村福之助の漁師鱶七、市川猿弥の蘇我入鹿、市川青虎の宮越玄蕃
「大化の改新(乙巳の変)」を題材とした本作は、漁師鱶七(中村福之助)が藤原鎌足の使者として蘇我入鹿の館を訪れるところから始まる。政敵である鎌足の書状に不信をいだいた入鹿は鱶七を人質にするが、鱶七はものともせず、豪胆に寝入ってしまう始末。力強い役柄を得意とする福之助の演技が光る。
「妹背山婦女庭訓」左から中村壱太郎の豆腐買おむら、中村米吉の杉酒屋娘お三輪
ほどなくして現れたお三輪(中村米吉)は、想い人の求女(中村虎之介)を追って館にやってくる。通りかかった豆腐買のおむら(中村壱太郎)に求女の行方を尋ねると、求女と入鹿妹橘姫の祝言が挙げられるとのこと。求女を取り戻すため館の奥へ進もうとするが、いじわるな官女たちに阻まれ、散々にいじめられてしまう。祝言を祝う声が聞こえてくると、嫉妬のあまり凄まじい形相になるお三輪。恋する町娘から一転、“疑着の相”となった迫真の変化ぶりに、客席は圧倒された。
「妹背山婦女庭訓」左から中村福之助の漁師鱶七実は金輪五郎今国、中村米吉の杉酒屋娘お三輪
館の奥へ進もうとするお三輪を、突然現れた鱶七がお三輪を刺し殺すが、鱶七は実は金輪五郎今国といい、鎌足の家臣だった。金輪五郎がお三輪を刺したその理由とは……。壮大な世界観の中、大役を見事に演じ切った二人に、客席から賞賛の拍手が送られた。
二、「於染久松色讀販 お染の五役」(松プロ・桜プロ同一演目、一部配役と演出は変更)
『於染久松色讀販』壱太郎のお染
大坂の油屋お染と丁稚の久松が心中した実際の事件を素材にしたいわゆる「お染久松物」を、舞踊仕立てで楽しめる本作。松プログラムでは壱太郎がお染、久松、お光、鬼門の喜兵衛、土手のお六の五役を早替りで勤める。お染と久松は駆け落ちをするが、それを邪魔しようとする者たちによって、二人は中々出会えない。すれ違う二人を壱太郎は見事な早替りで踊り分け、客席からは大きな拍手が贈られる。
「於染久松色讀販」左から中村虎之介の猿廻しお龍、中村福之助の船頭白蔵、中村壱太郎のお光
桜プログラムとは一部配役や演出を変え、猿廻しお龍(虎之介)と船頭白蔵(福之助)が、正気を失った様子で現れる久松の元許嫁のお光に声をかける。一方鬼門の喜兵衛は、久松が手にする刀を奪おうと、二人を阻むが、そこに現れた土手のお六がお染と久松を手助けし、二人は無事に逃げ出すことに成功。
「於染久松色讀販」中村壱太郎の土手のお六
可憐な商家の娘から丁稚、町娘、色気ある悪に満ちた男性、勝気な女性と、鮮やかな五変化を披露した壱太郎に、万雷の拍手が送られ幕となった。
●桜プログラム
乍憚手引き口上
『乍憚手引口上』中村米吉、みなみーな
解説役に中村米吉が色紋付で登場。米吉は「かくも賑々しくご来場賜りまして誠にありがとうございます」と挨拶。「この公演ではご来場者特典のオリジナルしおりを皆様に配布しています。そのほかにも場内にはフォトスポットやメッセージコーナーもありますので、幕間もお楽しみくださいね」と劇場内のお楽しみポイントを紹介。続いて桜プログラムで上演する「伊勢音頭恋寝刃」と「於染久松色讀販」の見どころを話すと、最後に南座の公式キャラスター・みなみーなも登場しての撮影タイムが設けられ、花道から客席へアピールしながら幕となった。
一、「伊勢音頭恋寝刃」
「伊勢音頭恋寝刃」左から市川猿弥のお鹿、中村米吉の油屋お紺、中村寿治郎の藍玉屋北六、市川青虎の徳島岩次
伊勢の古市で実際に起きた刃傷事件を題材にした本作。片岡仁左衛門の監修で、追い詰められて殺人を犯してしまう福岡貢を中村虎之介が勤める。盗まれた宝刀・青江下坂をやっとの思いで取り返した貢は、主君に刀を渡すため遊女屋油屋へやってくるが、入れ違いとなってしまい、油屋で待つこととなる。
「伊勢音頭恋寝刃」左から中村福之助の料理人喜助、中村壱太郎の仲居万野、中村虎之介の福岡貢
そこに現れた仲居の万野(中村壱太郎)は貢に刀を預けるように言うが、大事な刀を渡すわけにもいかず、家来筋の料理人の喜助(中村福之助)に代わりに預ける。それを狙うのは徳島岩次(市川青虎)と藍玉屋北六(中村寿治郎)。貢に心を寄せるお鹿(市川猿弥)を貢がはねつけると、お鹿は泣き出してしまい、ここぞとばかりに岩次と北六、そして万野が貢を責め立てる。そこに恋人であるお紺(中村米吉)も貢を責め立て、愛想を尽かす。
「伊勢音頭恋寝刃」左から中村福之助の料理人喜助、中村虎之介の福岡貢、中村米吉の油屋お紺
これは宝刀の折紙(鑑定書)を取り戻すための方便だったが、追い詰められた貢は誤って万野を斬ってしまい、そこから刀に誘われるように次々とお鹿たちを手にかける。虎之介は序盤“ぴんとこな”と呼ばれる、上方らしい柔らかな色気を放つ一方、刀に魅入られた貢が人々を斬っていくシーンでは迫真の演技で観客を魅了。上方歌舞伎を担うホープとして熱演をみせた。
二、「於染久松色讀販 お染の五役」(松プロ・桜プロ同一演目、一部配役と演出は変更)
『於染久松色讀販』中村壱太郎の雷
大坂の油屋お染と丁稚の久松が心中した実際の事件を素材にしたいわゆる「お染久松物」を、舞踊仕立てで楽しめる本作。桜プログラムでは壱太郎がお染、久松、お光、雷、土手のお六の五役を早替りで勤める。駆け落ちしたお染と久松は、行く手を阻む者たちの手をかいくぐるが、なかなか再会できない。
「於染久松色讀販」左から中村虎之介の猿廻し白蔵、中村米吉の猿廻しお中、中村壱太郎のお光
桜プログラムでは、猿廻し夫婦のお龍(米吉)と白蔵(虎之介)が、正気を失った様子で現れる久松の許嫁のお光に声をかける。その後、雷が雨を降らせて下界の賑いに合わせて踊るという、四世坂田藤十郎が演じたやり方で勤める壱太郎。松プログラムとの演出の違いを華やかに魅せていく。土手のお六がお染と久松を手助けする場面では、鮮やかな立廻りで次々に役を入れ替えて演じる様子に、客席からは感嘆の声が漏れた。幕切れにはお六に扮する壱太郎による切れ口上が披露され、万雷の拍手が送られた。
「於染久松色讀販」中村壱太郎の久松
花形俳優による清新な配役で熱気あふれる『三月花形歌舞伎』は3月23日(日)まで、南座にて上演中。
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公演情報
午後の部 午後3時30分~
【休演】6日(木)、13日(木)