3姉妹を演じる江口のりこ、那須凜、三浦透子にインタビュー 英国で話題の舞台『星の降る時』に挑む思い
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パルコ・プロデュース 2025 『星の降る時』
パルコ・プロデュース2025『星の降る時』が2025年5月10日(土)から東京・PARCO劇場ほかで上演される。
本作は、イギリスのかつて栄えた炭鉱町を舞台に、変わりゆく社会と折り合いをつけようともがく家族を、イギリス気鋭の劇作家ベス・スティールが情熱的かつユーモラスに描いたヒューマンドラマ。2023年に英国ナショナル・シアターで上演されるやいなや、深い人間観察と巧みな劇構成が絶賛され、2024年度ローレンス・オリヴィエ賞のBEST PLAYなどにノミネートされた。今回、小田島則子の翻訳、栗山民也の演出のもと、江口のりこ、那須凜、三浦透子らが出演する。
本読みを終えたばかりの江口、那須、三浦の3人に、作品への期待感など、話を聞いた。
舞台『星の降る時』 Teaser
ーー本読み稽古が終わったばかりだそうですが、ぜひ本読みの様子や手応えを教えてください。
江口のりこ(以下、江口):なんでしょうね……いつも本読みのときって、これがどういう物語かを把握するチャンスだったりするから、今回も把握できるかなと思っていたんですけど、正直な話、よく分からなかったですね。
ーーそれは分からないままにどんどん進んでいくということですか。
江口:いいえ。そうではなく、「こういう話なんだ」という大枠を捉えたかったんですけど、それが私はできなくて。でも、本読みの前に、栗山さんがこの物語はこんな風に捉えたらいいんじゃないかというお話をしてくださって、その言葉を聞いて、「なるほど、いいことを聞けたな」と思いました。
ーーそれはどういうお言葉だったんですか。
江口:……ちょっとうまく言えないなぁ。(那須さんの方を見て)どう?
那須澟(以下、那須):私もうまく言えるかどうか分からないですけど、挑戦してみますね(笑)。私もなるほどなと思ったのは、このお芝居はいろいろなメッセージを伝えたり、大きなメッセージ性を持ったりするお芝居ではなくて、遠い宇宙から見下ろした視点で、小さな家族というひとつの共同体を作るような話だと。なので、私が面白いなと思ったのは、八十田(勇一)さんが「ゲップをする」というト書きにとらわれて、一生懸命ゲップの練習をされていたんですけど、栗山さんは「そういうことが大事なんだ」と仰っていました。
本読みをやっていく中で、どういう物語を伝えたらいいんだろうと考えるよりも、きっと家族の中でリアルに起こる、一瞬一瞬の出来事、瞬間的な爆発をつなげて、最終的に大きな共同体になる。そんな感じがいいのかなと読み合わせをしながら思ってました。自ら大きなものを生み出そうとするのではなく、むしろ、あんまりそうしない方がいい。そんなことを本読みを通して感じましたね。現段階のなんとなくの手応えでしかないんですけども。
ーー三浦さんはいかがですか。
三浦透子(以下、三浦):いろいろな矢印が入り乱れている作品だと思うんです。本を読んでいて、とても面白いなと思いつつも、これを体現するのはすごく難しいな、難しくなりそうだな、頑張らないとなと思いました。
いろいろな矢印を表現するには……例えば、(江口さん演じる)ヘーゼルといるときの(三浦さんが演じる)シルヴィア、ヘーゼルと(那須さん演じる)マギーと3人でいるときのシルヴィア、恋人といるときのシルヴィアは、確かに同じひとりの人間ですが、会話する相手によって、当たり前に自分のあり方がちょっとずつ違うと思うんですよね。その辺りを稽古場で探っていくと、乱れた矢印の1本1本がくっきりしてきたり、ごちゃごちゃになったりして、この本が向かいたい方向に向かえるのかな、なんていうことを考えていました。
ーー江口さんは2人の娘を持ち変わらず倉庫勤務の長女ヘーゼル、那須さんは町に嫌気を刺して実家を遠く離れた次女マギー、三浦さんはポーランド移民と恋に落ちた三女シルヴィアを演じられます。それぞれの役についての印象を教えてください。
江口:いやはや、始めたばかりなのでね、なかなか難しいですけども……芝居の中で「ヘーゼルは差別主義だ」と人から言われるんですけど、それは主義なのか、移民に旦那の仕事を取られて、自分の生活がちょっと苦しい状態だからそういう言われているのか……。まだ分からないですね。
江口のりこ
那須:私は本当に3姉妹の次女なんです。なので、本を読んで、役との共通点を探ったとき、長女と三女の2人が喧嘩になりそうなときに、次女が間を取り持とうとする感じとか、分かる分かると思って! マギーはきっともともとそういう風に生きていた人なのかもしれないけど、それが嫌で家を出ていったのかもしれないなぁ……なんていろいろなことを想像していました。また、この本ですごく面白いなと思ったのは、3姉妹の関係性がすごく仲がいい瞬間から、一気に険悪になるということ。そして険悪になったのに、それで一気に仲直りする。そんなところも姉妹あるあるだなと思いました。面白かったです。
マギーは奔放で、みんなにはすごく自分勝手に生きていると思われていると思うんですけど、きっと自分では「みんなのことを考えて生きてるよ、私だって」と主張したい人なのかな、なんて思っています。
江口:うんうん。マギーは1番気を使っている人だと思う。例えば、ヘーゼルの発言で空気が悪くなったら、大体マギーが空気を変えてくれる。奔放なように見えて、大人だなぁと思う。……って、人の役の印象だったら言える!(笑)
ーー三浦さんはいかがですか?
三浦:人として愛している人間でも、違う価値観を持っていることってあるじゃないですか。普通に生きていても、そういうことがあるなと私は思うんですが、シルヴィアは、同じ価値観を持っている人とでもそうでない人とでも、自分の何かを曲げることなく存在していられる人だなと思うんです。そこがすごい。みんなとうまくやれているけど、決して八方美人でなくて、自分の意志をしっかり持っている感じがして、そのバランス感覚がすごいと思います。
だから、1番の印象は、自分の意思や考えがしっかりしているなということ。かといって、自分と違う考えを持っている人と戦いすぎない。自分は自分、人は人という領域を持っていそうな感じが素敵だなと思っています。そういうバランスって、三女だからなのかな……私は一人っ子なので、分からないんですけど。そういうことも想像していました。
那須:うん、三女ってそういうところあるかもしれない。逆にお姉ちゃんたちは、三女のそういうところがちょっと羨ましいと思う気持ちがあるんじゃないかなと思います。
ーー江口さんは5人きょうだい、那須さんは3姉妹、三浦さんは一人っ子でいらっしゃると思いますが、そういう立場だから見えてくるものや感じるものがあったりするものですか?
三浦:そうですね。私今回、すごく嬉しくて! 自分は一人っ子なので、姉妹がいる人生をちょっと疑似体験できるから。まだまだ本読みをしただけですけど、楽しめたらな、何か見つけられたらなと思って、いろいろ先輩たちに聞いています。実際、どうなのか(笑)。
江口:私がこの本と共通しているなと思ったことで言うと、家族みんなで食事をしたり、同じ時間を過ごしていると、だんだんイラついてくるんですよね(笑)。で、1人になってから「なんでもっと優しくできなかったんだろう……」と反省するんです。そういうところはあるかなぁ。不思議ですよね、家族って。
那須:みんな、イラついているんですか?
江口:いや、イラついていない人もいるし、私だって毎回毎回イライラしているわけではないけど……高確率で、そういう感情になってしまう。
那須:私も江口さんと同じで、めちゃくちゃムカつくことありますよ。しかも、矛先が急に向くことがあるじゃないですか。それまで矛先が妹だったのに、急に私に矛先が向いた! みたいな。この作品の中にも、そういう瞬間がありますよね。急に「あんたのせいだからね!」とか言われて、「私が悪いの!?」とイライラする(笑)。でも、離れるとやっぱり会いたくなる。どれだけ嫌だな〜と思っても、その後またすぐに会いたくなる。家族って本当に不思議だなと思います。この本の中でも「大好きよ」とか「もっとこういう時間を過ごしたらいいのにね」という言葉が出てきますが、それもそれで本音なんだろうなと思っています。
江口:……でもさ、これ、外国の人だからなのかな。兄弟に「一緒に時間を過ごせて、楽しい。大好きだよ」とか言う?(笑)
那須:なかなか言わないです(笑)。
那須凜
江口:言えないよね(笑)。
三浦:でも「めちゃくちゃ好き」と言い合うきょうだい、たまにいません? 私よりも下の世代に多い気がします。もう友達のような、恋人のような感覚があるんだろうなと側で見ていて思います。まぁ、この3姉妹はそれとはちょっと違うような気もするんですけど。
那須:「Love you!」ってペロペロっと言うよね。電話でも最後に「Love you!」とか言って切る。
三浦:日本語の「愛している」と英語の「I LOVE YOU」の重みみたいなものが違うんでしょうね。それが翻訳劇の難しいところというか、確かに日本語に訳すと「愛している」なんだけど、私たちが日常の生活で使う「愛している」と、海外の方が使う「I LOVE YOU」の感覚が違う。だからその辺りをどう解釈するかなのかなぁと思ってます。
江口:なるほどねぇ。
ーー今回の演出は栗山民也さん。ぜひ栗山さんに対しての思いや、本読み稽古で言われたことなどを教えてください。
江口:きょうの本読みで仰っていたのは、声を探しましょうと。前の人のテンポに合わせて喋るのではなく、性格などから発せられる一人ひとりの声を探しましょう、と仰っていましたね。
私は栗山さんは2回目です。初めてご一緒したのは『トロイ戦争は起こらない』で、もう8年前ですけど、とても難しい作品だったんです。こういう風にしてほしいと言う栗山さんの話は分かるんですけど、体がついていかない。自分の力不足を感じた作品でした。
私は大学に行ったことはないんですけど、栗山さんはなんか大学の先生のような印象があります。戯曲を、その時代や土地から紐解いていって人物のキャラクターにつなげていくところなどは、まさに教授のように見えます(笑)。だから、今回また改めて栗山さんの演出を受けるのは、とてもいい機会だなと思っています。
那須:私は栗山さんとご一緒するのが、4回目。私が劇団青年座から外部に出たときの初めての演出家が栗山さんだったので、右も左も分からない頃から全部を教えてもらった師匠様というような感じです。栗山さんは本当に稽古時間が短いことで有名ですが、「この芝居、大変だよね。だから僕が2時間ぐらい稽古して、その後4〜5時間くらい自主稽古してもらう感じになるかな」と仰っていて、なんて恐ろしいことを言うのだと思いました(笑)。
でも、それぐらい栗山さんの頭の中には、ビジュアルも何もかもしっかりあられる。先に演出をパーっとつけて、材料を与えてくださって、それを料理するのは私たち俳優。1週間後にまたそのシーンを見せてねというようなスタイルの稽古だったんです。もう栗山さんの頭の中を覗けるのであれば覗いてみたいぐらいですよ。
この芝居は家族の芝居なので、1人2人でただ会話をするだけではうまくいかないと思いますから、みんなで力を合わせていかないといけない稽古になるだろうなと思います。
三浦:私は栗山さんとは2度目なんですけど、前回ご一緒したときの印象としては、稽古の段階からずっといい緊張感があったんです。稽古序盤からなるべく可能な限り本番に近づけていこうという思いがあられて、例えば、本番で使うものが用意できるなら、それを使って稽古をしたりしていましたね。
そして、先ほど那須さんも仰っていましたが、稽古時間が短いので、1回1回を逃してはいけないというか、大事にしなければという気持ちにさせられました。だから、確かに短いんですけど、終わった後はちゃんと疲れました。その疲れはすごく気持ちが良かった。今回の稽古がどうなるかまだ分からないですけど、でもきっとそうなるんだろうなと思って、ドキドキしていますが、いいヒリヒリを味わえるんじゃないかなと思って、楽しみです。
ーー家族の物語ということで、皆さんと会話しながら作っていく作品だと思います。ぜひ共演者の皆さんの印象を教えてください。
江口:私はまずはこの3姉妹。ここの関係性を楽しみたいなという思いがあります。
那須:素晴らしい俳優さんが揃っていますが、個人的には秋山(菜津子)さんや段田(安則)さんのお芝居をたくさん観てきて、勝手に憧れていたので、今回一緒にお芝居ができるのが楽しみです。特に秋山さんの演じる叔母の役は、キャラクター的にすごく面白い役。ローレンス・オリヴィ賞でも、この役の女優さん(Lorraine Ashbourne)が助演女優賞にノミネートしたと聞いたんですが、すごく強烈なんですよ。ある種のコメディラインを担っている役どころでありつつ、鋭いところを言う叔母さんなんですが、秋山さんのパワフルさが相まって、どんな風になるのか。いろいろ学びたいと思います。
三浦:そうですね、3姉妹役であるお二人と共演できることも楽しみなんですが、私の旦那さんであるマレク役を演じられる、山崎(大輝)さんの顔合わせの時の挨拶が面白かったです。殴られるシーンがあるんですけど、「殴らないでください」と言われて(笑)。え、本当には殴らないよと思ったんですけどね(笑)。理由をうまく言葉にできないですけど、すごくマレクらしさが感じられて、すごく楽しみです。一緒に出演するシーンも多いので、素敵にできればいいな。
那須:なんか、何重の意味もありそうな感じでしたよね。殴られるシーンがあるけど、本当に殴らないでくださいという物理的な意味なのか、精神的に殴らないでくださいという意味なのか(笑)。
三浦:もっと深い意味があったのですかね?(笑)
三浦透子
ーーぜひお三方のそれぞれの印象も伺えればと思います。三浦さんの印象については、いかがですか。
江口:透子ちゃんとは、10年ほど前にテレビドラマの撮影で一緒だったんです。そんなに同じシーンはたくさんなかったんだけど、何日間か一緒のシーンがあった。そのときの印象がすごく強いですね。待ち時間が長い現場だったんですが、静かにずっと本を読んでいて。ずっと気になっていました。
那須:いろいろな映像などを見ていて、素敵な人だなと思っていました。勝手にもう少し大人しい感じの方なのかなと思っていたんですけど、会って話してみると、すごく話しやすい。また、勝手に年上だと思っていたんですけど、私の妹とほぼ同い年くらいなんですよね。明るさを持たれているけれど、お芝居に入るときに独特な空気感があって、それもまた素敵。ご一緒できて、本当に嬉しいです。
ーーでは、那須さんの印象はいかがですか。
江口:那須さんはね、パワフルだなと思いました。明るい。那須さんがいれば、チームがうまくいくだろうと安心できるぐらい、パーンと明るさと元気をくれますよね。
三浦:本読みのときも3姉妹が並んで座っていたんですが、那須さんは江口さんと私の間に座って、なんか繋いでくれるというか、自然に話しかけてくださいました。そういう時間を自然と作ってくださるので、稽古場が楽しくなりそうだなと思いました。
那須:次女らしさが出てしまいましたかね(笑)。
ーー江口さんの印象はどうでしょう?
三浦:先ほど江口さんが仰ってくださいましたが、私こそ、江口さんがずっと本を読んでいらっしゃったのをすごく覚えています。お互いに本を読んでいたから、印象に残っているんですかね(笑)。
江口:少し話もしましたよね。「音楽もやっているんです」と言っていたかな。
三浦:はい。私はそんなに出演の多い役ではなかったですし、絡みも多いわけでもなかったので、大抵そういう現場だとなかなかコミュニケーションを取れずに終わってしまうことが多いのですが、なぜか江口さんとお話しできたことはすごく覚えていました。もう一度どこかで共演したいと思っていたのですが、なかなかその機会がなくて、今回ようやく共演できるので、とても嬉しいです。
印象としては、お芝居をしていても、普段おしゃべりをするときも、江口さんの時間が流れている感じがすごく素敵だなと思っています。栗山さんが「声を探してほしい」というお話しをされていたんですが、多分それは、声とその人が持っているリズムを見つけてほしいということだと思っていて。体に流れている時間って、それぞれ違うじゃないですか。江口さんはそれを素でちゃんと自分の時間やリズムを持っている印象があるんですよね。一緒にいると、江口さんの時間にいたくなる心地よさがあって、落ち着きます。
那須:私も芝居や映像で江口さんのお芝居を拝見していて、透子さんが仰った通り、江口さん独特の時間の流れというか、空気感があるなと思っていました。しかも、その江口さんの時間が流れていながらも、私たちを緊張させることはないし、むしろ自然体でいさせてくださる。で、透子さんもそんな感じ! 2人とも自分の空気がフワーッと流れている。私はセカセカしちゃうタイプなんですが、この2人の間に挟まれていたら、自分のペースでいてもいいのかも? という気持ちになります。
江口さんは大先輩ですけど、懐に飛び込ませていただけるような包容力もあられて、すごく素敵なパーソナリティーだなと思っています。
取材・文=五月女菜穂
公演情報
【東京公演】
<対象公演・登壇者>
5月14日(水)13:00 那須凜、秋山菜津子
5月16日(金)13:00 段田安則、八十田勇一
5月18日(日)13:00 江口のりこ、近藤公園