角野隼斗 「アップライトピアノ・プロジェクト」第Ⅱ期始動!

レポート
クラシック
2025.4.22

画像を全て表示(8件)


ただ一人優しく美しい音をかみしめる喜び。誰かと音を通じてつながる喜び。そんな音楽のあらゆる楽しみ方を子どもたちにつなぐことをコンセプトにスタートした、「角野隼斗 UPRIGHT PIANO PROJECT」。
これは、角野がコンサートツアーでも使用している、ハンマーと弦の間にフェルトを挟んだ特別なスタインウェイK型のアップライトピアノを、コンセプトに賛同する企業や団体、個人に無料で貸し出すプロジェクトだ。

2023年7月〜2024年11月に行われた第1期は、全国17ヵ所で開催、約7千人の観客が訪れた。
そんな第1期の活動報告と、5月1日に応募受付がスタートする第2期の概要を紹介する記者発表会が、スタインウェイ&サンズ東京で行われた。
会場には、角野と、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会専務理事の福田成康が登壇。第1期の主催者の一部も参加して開催報告を行い、かてぃんピアノと同じサインの入ったアップライトのトイピアノを贈呈された。

各地で行われた企画の内容は、寺の国宝の中でピアノを弾ける企画をした富山・堀江ピアノ教室の「ピアノゼン〜ざぜんのように、ひく〜」や、仏像とピアノが並ぶ空間が話題となったという長野・青木村郷土美術館での企画、東京・朋優学院高等学校の学生による「若葉音楽史にかてぃんピアノがやってくる♪」など、多種多様。さすが枠にとらわれない活動をする角野のピアノに惹かれて集った主催者たち、クリエイティヴだ。
「ピアノと自分、二人きりになれる空間に感動したという声をいただいた」(堀江ピアノ教室)、「お経とピアノの即興コラボ公演も行い、遠方からたくさんの方が来てくれた」(青木村郷土美術館)、「友人の新しい一面が見えた。参加する人、しない人がいて、それぞれの人の色が見えた」(朋優学院高校)など、各企画ならではの感想が興味深い。

報告を受けて角野は、「2022年にアップライトピアノを使い始めて、このアイデアの詰まったすばらしいピアノをたくさんの人に弾いてもらいたいという純粋な気持ちから始まったプロジェクト。どう活用してもらえるのか、その頃は予想できなかったが、たくさんの人に弾いてもらえただけでなく、各主催者の工夫によりいろいろな形で活用され、ピアノを通して人と人とのつながりが生まれたことも嬉しい」と語った。

また、このプロジェクトの副題は、「Piano for myself」。角野はコンセプトについてこう付け加えた。

「ピティナといえば、子どもたちにピアノを広げる活動で右に出る存在はいませんから、プロジェクトに全面協力していただいています。そしてもちろん、大人にもピアノに触れてもらいたい。誰でも自由に弾けることが重要です。
アップライトピアノは柔らかく繊細な音がするので、遠くに大きな音は届きません。特にこのピアノはフェルトを挟むことで、内的で懐かしい音が鳴りますから、“Piano for myself”という副題のとおり、自分とピアノだけの空間を楽しんでほしいと思っています。中身が見えるので、ピアノと対話する感覚になりやすいでしょうし、どんなふうに音が鳴るのか視覚的に理解できるのもおもしろいでしょう。
最近、“誰かに届いてこその音楽です”というストリートピアノの注意書きが話題になりました。
確かにコンサートピアニストなら誰かに音楽を届けることが仕事です。でも、届かなくても音楽であることには変わりありません。それに届かないといけないと思ったら、ピアノの前に座る勇気が出なくなるかもしれない。
結果的に誰かに届けばすばらしいけれど、それ以前に、そこに座ってピアノの音を楽しんでほしい。この副題にはそんな思いが込められています」

件のストリートピアノの注意書きが話題になったのは最近だが、角野はこの「自分のためにピアノを弾く」ことの価値に、ずいぶん前から思いを巡らせていたわけだ。
この日は最後に、このピアノの夢と現実の境目を心地よくさまようような音で、自作のノクターンを演奏してくれた。
角野は満員の武道館でソロリサイタルをすることもあれば、こうした小さな空間で親密な音楽を奏でることもある。一人でピアノと戯れ自らの内側を覗く、我々が知りえない時間もあることだろう。
自分を幸せにするピアノとの触れ合い方は多様で、どんな方法にも価値がある。角野は枠にとらわれない活動でそのことを体現しているのだと、改めて感じる記者発表会だった。

角野は最後にこう語った。
「僕は子どもの頃ピアノに出会い、音楽の楽しさを知ることができました。その環境があったのは親のおかげで、つまり、大人が子供をなんとか楽しませようとしてくれた結果だと、最近常々感じているんです。
僕もそこそこ大人になりましたので……中身は子供ですけれど、子どもたちに音楽ってこんなに楽しいということを伝えていけたらと思います」

第2期の実施期間は、2025年6月〜2026年3月。応募期間は2025年5月1日〜25日。
応募の中から、約10件ほどが採択される予定とのこと。詳細はウェブサイト(https://cateenup.piano.or.jp)でご確認ください。

取材・文=高坂はる香

関連情報

角野隼斗 アップライトピアノ・プロジェクト 第Ⅱ期
【企画実施期間】
2025年6月〜2026年3月まで

【応募期間】
2025年5月1日〜5月25日

 
【応募方法】
5月以降、特設サイト内の応募フォームから企画書を送付

 
【募集企画】
・コンセプトの趣旨にご賛同いただけること
・設置場所での演奏の許諾を得ており、実現可能な企画であること
・原則として無料のイベントであること
※第Ⅱ期では、こどもや学生へより音楽を広げる活動に重点を置き、選考の際はその視点を持った企画を優先する
https://cateenup.piano.or.jp
 
【本件のお問い合わせ先】
角野隼斗 アップライトピアノ・プロジェクト実行委員会
 
一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
担当:黒木真紀子・堀内菜々子
MAIL:public_relations@piano.or.jp
 
株式会社イープラス(角野隼斗所属事務所)
担当:小針侑也
MAIL:hayato.sumino.staff@gmail.com
シェア / 保存先を選択