知れば知るほど謎めくパウル・クレーの魅力とは、 兵庫県立美術館で開催中『パウル・クレー展』企画者によるオフィシャルレポート到着

ニュース
アート
2025.4.25

画像を全て表示(7件)

5月25日(日)まで兵庫県立美術館にて開催中の『パウル・クレー展──創造をめぐる星座』。企画者の愛知県美術館・黒田和士学芸員が解説する、オフィシャルレポートが到着したので紹介する。


現在、兵庫県立美術館で開催中の『パウル・クレー展──創造をめぐる星座』(~5月25日まで開催)。

パウル・クレーの展覧会は日本でも数多く開催されてきましたが、同時代の前衛芸術家たちとクレーとの交流については、さほど広くは知られていないのでしょうか。というのも、キュビスム、表現主義、ダダイズム、シュルレアリスムなど、20世紀前半のヨーロッパでは多様な「イズム」が生じ、前衛芸術家の活動はしばしばそれらとの関わりにおいて語られますが、クレーは「イズム」とは距離を取り続けてきたからです。

とはいえ、クレーはひとり孤独のなかで制作したわけではありません。彼はヴァシリー・カンディンスキーら青騎士の展覧会に積極的に参加したり、ダダイストたちに会うためにチューリッヒを訪ねたりしています。なにより彼は1921年からバウハウスという共同体的な学校の教師となりました。

本展覧会では、クレーと交流のあった芸術家の作品との比較や、当時の資料の参照を通じて、多くの人や情報が構成する星座=コンステレーションのなかでクレーを捉え直し、その生涯にわたる創造の軌跡をたどります。

今回、本邦初公開となる「ハマメットのモティーフについて」は、1914年にクレーがチュニジア旅行した直後に制作されました。旅行中の日記にある「色彩が私を捉えたのだ」という彼の言葉は、この旅行が重要な転回点であることを示しますが、チュニジアの光が画家クレーを生み出したわけではありません。その少し前から、彼はフランス美術への関心を強め、それを旅の同行者であるアウグスト・マッケらと共有していました。特に画家ロベール・ドローネーのバッハのフーガのような抽象的な色彩は、クレーのお気に入りでした。

パウル・クレー「ハマメットのモティーフについて」1914年 バーゼル美術館

パウル・クレー「ハマメットのモティーフについて」1914年 バーゼル美術館

バウハウスでの色彩論の講義は、当初はヨハネス・イッテンが担っていましたが、1922年末にクレーがこれを引き継いでいきます。まさにその頃に制作された「赤、黄、青、白、黒の長方形によるハーモニー」は、多様な色彩を白と黒という両極の間に秩序づけていく、イッテンおよびクレーの色彩理解に基づきます。

パウル・クレー「赤、黄、青、白、黒の長方形によるハーモニー」1923年 パウル・クレー・センター

パウル・クレー「赤、黄、青、白、黒の長方形によるハーモニー」1923年 パウル・クレー・センター

他方で、「北方のフローラのハーモニー」は、1921年以降にバウハウスに影響を与えたオランダのデ・ステイルの絵画を彷彿とさせます。ただ、クレーは彼らの「イズム」的な教条主義には批判的だったはずです。その証拠に、クレーはそれを「フローラ」つまり花々の咲き誇る姿として提示しているのです。

パウル・クレー「北方のフローラのハーモニー」1927年 パウル・クレー・センター(リヴィア・クレー寄贈品)

パウル・クレー「北方のフローラのハーモニー」1927年 パウル・クレー・センター(リヴィア・クレー寄贈品)

本展覧会にはパウル・クレー・センターやバーゼル美術館などのスイスの美術館をはじめ、日本各地の美術館からクレーの作品が集結し、同時代の芸術家の作品と比較しています。それらを紐解いてゆけば、20世紀前半を生きたひとりの芸術家としてのクレーの姿が見えてくるでしょう。

パウル・クレー「周辺に」1930年 バーゼル美術館

パウル・クレー「周辺に」1930年 バーゼル美術館

20世紀、激動の時代を生きたパウル・クレーの創造の軌跡をたどる『パウル・クレー展──創造をめぐる星座』は5月25日(日)まで兵庫県立美術館にて開催しています。謎めいたクレーの世界をぜひ体感してください。

はイープラスにて販売中。

イベント情報

『パウル・クレー展──創造をめぐる星座』
会 期/2025年3月29日(土)~5月25日(日)
休 館 日/月曜日[5月5日(月・祝)は開館、7日(水)は休館]
開館時間/10:00~18:00(17:30最終入場)
会 場/兵庫県立美術館 <〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1[HAT神戸内]>
/一般 2,000円、大学生 1,500円、高校生以下 無料、70歳以上 1,000円
障害者手帳をお持ちの方(一般)500円、(大学生)350円
※障害者手帳等をお持ちの方1名につき、その介助の方1名は無料
※予約制ではありません。混雑時は人数制限を行いますのでお待ちいただく場合があります
※一般以外の料金で利用される方は証明書を当日ご提示ください
※コレクション展の観覧には別途観覧料金が必要です(本展とあわせて観覧される場合は割引があります)

主 催/兵庫県立美術館、産経新聞社、関西テレビ放送
協 賛/DNP大日本印刷、アイシン、公益財団法人伊藤文化財団
学術協力/パウル・クレー・センター
特別協力/東京国立近代美術館、公益財団法人日本教育公務員弘済会 兵庫支部
お問合せ/兵庫県立美術館078-262-1011
展覧会公式サイト/ https://www.ktv.jp/event/paulklee
シェア / 保存先を選択