ニューEPを引っ提げて2度目の長野・白馬山荘ライブへ、「音楽と山を繋ぐバンド」スーパー登山部の現在地と新たな挑戦
小田智之(Key)、Hina(Vo)、いしはまゆう(Gt)、梶祥太郎(Ba)、深谷雄一(Dr)からなる5ピースバンド・スーパー登山部。山好きの小田が中心となり2023年に結成、「音楽と登山」を活動の軸に置き、愛知を拠点に様々な街や山でライブを行ってきた。活動実績を積み上げ、知名度が上がるにつれて、名実共に「音楽と山を繋ぐバンド」へと成長してきた彼ら。5月10日(土)には標高1,212mの御在所岳で『GOZA TOP FES 2025』を初主催、6月から始まる「2nd EP Book CD」のリリースを記念したバンド史上2回目のトラバース(=ツアー)は、全国6箇所10公演を廻るワンマンツアー(仙台公演を除く)。ファイナルは昨年夏の1stツアーに引き続き、長野・白馬山荘。標高2,932mの山頂で、しかも今回は5日間の開催という前人未到の大挑戦を行う。SPICEでは『GOZA TOP FES 2025』を目前にしたタイミングで、メンバー全員に話を訊いた。
写真左から梶祥太郎(Ba)、いしはまゆう(Gt.Vo)、深谷雄一(Dr)、小田智之(Key.Vo)、Hina(Vo)
活動が広がり、親和性のあるアーティストや登山好きの人が周りに増えてきた
ーー最近、山界隈と音楽界隈でスーパー登山部の知名度と活動が広がっている感じがすごくしますが、実感としてはいかがですか?
小田:確かに。この前、愛知のホームの猿投山に皆で登った時、すれ違う人から「スーパー登山部ですか?」って声をかけられて。
ーーええ!
小田:山という広大な空間で、ある意味狭さを感じたというか。僕らの存在が山界隈で少しずつ知られてきてるのかなと実感した日でした。音楽界隈で言えば、僕の話になっちゃうんですけど、尊敬している好きなアーティストの方がスーパー登山部を知ってくれてたり「今度ライブ観に行きます」と言ってくださったりして、「そんな世界線もあるんだ」みたいな。自分の好きなアーティストにも自分の音楽が届くのがすごく不思議だし、ありがたいですね。
ーー深谷さん、いしはまさん、梶さんもそれぞれに活動をされていると思いますが、スーパー登山部の活動は楽しくやってる感じですか?
深谷:楽しくやってます。たぶん自分は最近の頻度では1番山に登ってます。
ーー深谷さんが1番登山のハマり方が深かったそうで。
深谷:そうなのかもしれないです。プライベートでも月1回は絶対登ってるかな。
ーー以前、バンドで月に1回は登るとおっしゃっていましたね。
小田:夏山シーズンは、もはや月2〜3回行ってました。
いしはま:シーズンはスーパー登山部の用事で登山することが多くなるので、結果的に皆でよく登るんですよ。
ーー深谷さんはそれ以外でも登られているんですか。
深谷:はい。スーパー登山部の活動を見て「登山したい」と言ってくれる知り合いがいるので、最近はそういう人と登ったりが多いです。Hinaちゃんも先週登ってたね。
Hina:周りの人がすごい登山に興味を持ってて。「じゃあ連れて行ってあげよう!」みたいな(笑)。行ったことのある山とか、ちょっと登ってみたいなと思った近場の山に連れて行ったりしてます。
ーー共演者の方とも一緒に登山されていますよね。昨日も水平線の田嶋(太一/Vo.&Gt)さん、Easycomeの落合(Gt)さん、MistyWalkの周(Gt)さんと六甲山に登られたとか。
小田:以前に水平線と対バンでご一緒した時に、田嶋さんと「山一緒に登りたいね」みたいな話をしてて。今日また別の企画でご一緒することになったので、「じゃあこの前後で登れたらいいかも」というので決まった感じです。
ーー登山好きのミュージシャンも増えている?
いしはま:「登山してみたい」という人が周りに多くなったのか、キャッチするようになったのか。登山人口が増えてる感じがします。
小田:活動を始めた頃は、お客さんに「登山したことある人」と聞いてもあまりいなかったり、それこそ対バンしたアーティストに聞いても「どうぞ行ってきてください」みたいな感じだったんですけど、親和性のある人たちが周りに増えてきた気がします。アーティストの方と一緒に山に登ると、単純に対バンするのとは違うコミュニケーションが取れたり、違う一面が見れたりするのですごく面白いです。
より幅広い方に、山と音楽が融合した企画を体験してほしい
ーーそしてこの記事が出る頃には終了していますが、5月10日(土)に御在所岳でスーパー登山部主催のフェス『GOZA TOP FES 2025』が行われます。クラウドファンディングも達成されて、協賛企業にはアウトドア&フットウェアブランドのKEEN、登山アプリを運営するYAMAP、三重県のスーパーサンシと、地元密着&山関連の企業が集まるという素晴らしい体制が整いました。主催フェスをやりたいという計画は、5人の中であったんですか?
いしはま:そうですね。やんわり山の上で「フェスをやれたらいいな」みたいな構想は、バンドを組んで少しした頃にもう出てました。それをいよいよやるタイミングが来た感じ。
深谷:ただ、こんなに大変だとは思ってなかった(笑)。
いしはま:ライブの運営側に回ると「こんなにも大変なのか」という。すごくたくさんの人に協力してもらわないと本当にできないんだなと、改めて痛感してます。
ーー御在所岳で開催しようと思ったのは?
小田:去年、白馬山荘や蓼科山頂ヒュッテ、色んな山の上でライブをしたんですけど、そこは登山しないと行けない場所だからこその感動や特別な体験がありつつも、ちょっとハードルもあるなと感じていて。僕らは愛知を拠点に東海で活動しているので、「登山せずにアクセスできる、ちょうど良い山ないかな」と考えた時に、御在所岳ならロープウェイでも登山でも行ける選択肢があるので「より幅広い方に山と音楽が融合した企画を体験してもらえるな」と思ってそこにしました。
ーー開催を発表して、反応はどうですか?
小田:僕らも御在所岳が好きでよく登ってたんですけど、発表してから御在所岳がいかに愛されてるかを感じたというか。色んな人に「御在所岳?行く行く!」と言われたり、還暦を超えた方が御在所ロープウェイさんに「思い出の場所でそういう企画をやってくれてありがとう」と感謝を伝えてくれたり。既に色んな人が楽しみにしてくれているのを感じているので、なんとか成功させたいです。
ーー山の天候が心配ですが。
小田:天候だけはどうしようもないけど、一応統計的に晴れになりやすい時期を選んでます。去年、僕と深谷さんが登った時期でしたね。
深谷:そうだね。
小田:その時もすごく良い気候で「このタイミングでフェスをやったらすごく気持ち良いだろうな」と思って。
ーー機材は歩荷(山で荷物を背負って運ぶこと)で運ばれるんですか?
小田:今回はロープウェイで全部運びます(笑)。
ーーあるのに使わない手はないですから。
小田:そうなんです。山小屋でやるライブは「山セット」と言って、自分たちも背負えるもので音響環境も整えるよう楽器を揃えてたんですけど、今回はいわゆるフェスの音響環境を山の上に作ったので、しっかり音響や舞台制作のチームも入って、ちゃんとバンドサウンドを山の上で体験できる、なかなかない機会。だから運搬も大変なんです。
ーー無事にやり遂げられたら、スーパー登山部として活動の可能性や幅がまたひとつ広がりそうですか?
小田:そうですね。こんなに広げて大丈夫なのかという(笑)。僕らも単純に「こういうのやったら面白いかも」と見切り発車して「どうなるかわからない」となってるんですけど(笑)、誰もやったことのないことに共感して、挑戦を応援してくれる人たちがたくさんいるおかげで実現させていけてると思ってます。
ーー小田さんが発案者になることが多いんですか?
小田:「御在所の上でやれたらいいな」とは言ってましたけど、今回は深谷さんが「フェスがいいんじゃない?」と提案してくれて。「フェスってどんな感じだろう」から始まって、「他のアーティストを入れたり、出店があってお祭りみたいにできたらいいよね」とアイデアが膨らんでいきました。
深谷:結果的に今回は安全に開催できる範囲の規模感で行うんですけど、将来的には山頂全体を使ってやれればいいなと思ってますね。全ては今回の結果次第です。
手に取った人だけが触れられる、スーパー登山部の内側や音のこだわり
ーー6月20日(金)にリリースされる「2nd EP Book CD」には、「スーパー銭湯もある(2024年4月)」から「樹海 feat. TENDRE(2024年7月)」「頂き(2024年9月)」、最新曲「木枯らし(2025年3月)」まで、表情豊かな4枚の配信シングルが収録されています。サブスクでも聴ける時代にフィジカルにしたというのは、蓼科山頂ヒュッテの動画でYouTuberのやぎちゃんが「別に音楽は好きじゃなかったけど、スーパー登山部だから好き」とおっしゃっていましたが、スーパー登山部と出会って「良いな」と思った、普段音楽に触れる機会がない山好きの方にとっては、CDってすぐに渡せる良いツール。そういう意図でEPにされたのかなと思いましたが、どういう経緯で完成したんですか?
小田:今「確かに!」と思いました(笑)。僕ら、CDには物としての価値がすごくあるなと思っていて。前回も1stEPをブックスタイルで出して、曲はサブスクとかで聴けるけど、EPの中にアートワークや僕らの別の要素を見せられるものを込めて出すことで手に取ってくれる人もいたので、今回も物としてのEPを出せたらいいなという感じで出しました。
ーーそれで『Book CD』なんですね。
小田:そうです。
いしはま:よりスーパー登山部を知ってもらえる要素が本の中に入っていて。サブスクで出会ってからCDを買うと、より登山部の内側を知れるじゃないけど、「もっとのめり込んでいただけるように」という、グッズみたいな視点でフィジカルは出してますね。
スーパー登山部 - 頂き
ーー本というからには、お話なんかも入ってたり?
いしはま:もう色々入ってますね。作曲コメントとか「登山部に質問してみた」みたいなコンテンツも。
ーーZINEみたいな感じ。
いしはま:そうそう。
小田:いしはまくんが楽曲のアートワークをはじめ、全てのデザインを担当してるんですけど、EPのブックの中にもアートワークを展開して載せたりもしてます。あとは音源をより深く聴いていただけるようなものになってるのかな。
いしはま:実はEPに入ってる音源とサブスクで、ちょっと違うところがあったりします。
ーーえ、そうなんですか。
いしはま:多少。ほんとにちょっとです。
ーー聴いたらわかる感じですか?
いしはま:多分比較すればわかりますね。イントロが長かったり。
小田:配信でシングルにする上での最適解とはまた違う、「CDの中でしっかり聴かせるなら本当はこうしたかった」というものがEPでやれてる感じですね。
街の景色をHina、小田、いしはまの3人で描いた「木枯らし」
Hina(Vo)
ーーEP収録の最新シングル「木枯らし」では、Hinaさんが初めて作詞をしたそうですね。
Hina:はい。いしはまくんと小田さんにめちゃくちゃ協力してもらって参加した感じです。「(歌詞を)書いてみたい」と自分から言って、足らないところを補足してもらいつつ、言葉が出てこないところを書いてもらったり、アイデアを出してもらってできた曲です。
ーーどういうことを表現したい歌詞だったんですか?
Hina:一言で言うなら、実体験(笑)。「木枯らし」って秋みたいな曲名なんですけど、春に繋がってるんですよね。気持ち的には最後は前向きに進んでいこうという曲なんですけど、最初の方に出てくる歌詞は少し(後ろ向き)。私は10月から12月ぐらいの、秋から冬が嫌いなんです。その理由が、自分の中で恋愛や人間関係でうまくいかないことが起こる時期だから。毎年本当に嫌なことがあって「嫌だな」と思ってたんですけど、別に秋とか冬のせいではないなと思って。「その時期に自分が感じたことを書いてみよう」と思っていたら、ちょうど「木枯らし」がデモで上がってたので書いた感じです。結構時間はかかったんですけど、レコーディングをする時もまた全然違う視点で歌えたと思います。
ーー歌詞に山登りの体験は入っていますか?
小田:今回はどちらかというと街ですね。山の景色もインスピレーションの中に入っていて、自然はやっぱりそこにあるんですけれど、直結してはない。むしろ街の冷たさというか、街の中で感じる風が「木枯らしっぽいな」と感じることもあって。今までとは違う視点から作詞した感じはあります。
Hina:私が街に住んでるので、街で感じた景色を書いてます。
いしはま:別に山に住んでるとは思ってないよ(笑)。
Hina:(笑)。登山部の曲は山や自然と合う曲が多いので、結構「山と関係してるんですか?」と聞かれたりもするんですけど、全然普段は街にいます(笑)。
ーーつまり、等身大で書いた感覚もありますか?
Hina:そうですね。でも自分の思考を言葉や文字で表すのがすごく苦手なので、難しくて。曲を作ってる人や、自分の頭で考えたことを表現する仕事の人、すごいなと思いました。
小田:Hinaちゃんはすごく繊細……って一言で言うとあれなんですけど、常に色んなものを受け取ってるんですよ。その受け取るセンサーの感度が多分人より優れてる。だから歌詞を書く時も、1回Hinaちゃんからひたすら自分語りをしてもらって、僕がそれをカタカタってパソコンでメモして。
Hina:1日の出来事を、細かいところまで30分ぐらいかけて話したんですよ。「この道を歩いてて、これが見えてこういう風に思って、この人のあれが浮かんで」と状況を説明して小田さんに書記してもらって、それを送ってもらって自分でまとめて。自分で出来事をメモしても、綺麗にしたりカッコ良くしようとしちゃうんです。なので崩した口調で伝えて、小田さんがそれをまとめてくれるところから歌詞を考えました。
ーー耳心地が良くて、言葉の響きを大切に作られたのかなと感じました。
Hina:「ぱ」とか、破裂音はあまり使わないようにしました。破裂させないように歌い回しと合うように、若干意識して書きました。
ーーいしはまさんはHinaさんの歌詞を見てどう思われました?
小田:多分、僕が手を加えた状態で見てもらったかな。
いしはま:そうですね。Hinaちゃんの話から小田くんが抽出したものを受け取って、広げるなり付け足すなりみたいなことで参加しました。なのでもしかしたら、Hinaちゃんの中心にあるものと僕が受け取ったものは全然違うかもしれなくて。小田くんの解釈した核の部分を通して、3人の作詞が混ざってるかもしれないですね。
ーー新しい形ですよね。
いしはま:うん、新しいです。
小田:実体験を元にした歌詞なんですけれど、完全にノンフィクションかどうかは……。
Hina:聴いてる人に委ねる部分もありますね。
いしはま:作詞も人によって色んな形があると思うので。僕は実体験からどんどん外して飛ばしていくタイプだから、そういう意味では実体験っぽくなくする詞を入れたりしてたかもしれない。
小田:確かに、いしはまくんは抽象化する。逆にHinaちゃんがすごく真っ直ぐにそのままの言葉を出してくれて、そこでバランスを取っていくみたいな。
Hina:でも自分にない要素だから、私はそういうのが羨ましいです。また作詞してみたいなと思ってます。
1音までこだわり抜いたサウンドメイク
ーーそしてサウンド面では、2サビ前にすごいエクスペリメント感がありますね。
全員:あはははは(笑)。
いしはま:嬉しいなあ。梶さんのこだわりゾーン。
梶:いやあ(笑)。どういう経緯でああなったんだっけね。
小田:多分アイデアは梶さんと深谷さんが中心でしたね。
梶:そうだったっけね(笑)。最初は結構ジャジーなセクションだったんですよね。
深谷:大人しかったね。
梶:でも曲全体を通してあまりフックがないから、「そういう箇所があった方がいいね」というところからああいう風になったと思うんですけど、まあすごいですよね(笑)。
ーー「きましたー!」という感じ。
深谷:あ、そう思ってくださるんだ。自分たちは「これだ!」となったけど、文脈をぶった切って違うレイヤーにいくみたいな世界観で、それが本当に曲の流れをぶった切ってるからどう評価されるかなと思ってたんですけど。サウンド的にはハマったし、「どういう評価になるかわかんないけど、これがカッコ良いからこれでいきたい」みたいな感じで進めていきました。
小田:ほんと博打みたいな。作詞作曲してる段階では想定してない展開でした。「ギャラクシーセクション」と呼んでるんですけど、梶さんと深谷さんと3人で最終調整してる時、そこに突入する前の歌詞の<宙を舞うままか>も結果的にすごくハマって。あれ、たまたまハマったよね。
いしはま:いや、あれはハメました。
Hina:私そこができた時に体調不良でいなくて。「できたんだけど」と言われて3回ぐらい聴き直して、「なんだこれ、どこ連れていかれた?」みたいな感じだったんですけど、今となっては自分の歌い方のニュアンスは理解できたからああいう歌い方になったし、空間が変わる感じがしますよね。
ーーしますします。
Hina:それを「ギャラクシー」と呼ぶんですけど、ライブで早くやりたいなと。
ーー登山部Experiment(スーパー登山部から派生したパラレルプロジェクトバンド。マリンバを加えてインストで演奏を行う)でも聴きたいですね。「ギャラクシーゾーン」すごく映えそうじゃないですか。
Hina:確かに!
いしはま:いけそうだな。
ーー「木枯らし」で特にこだわったポイントはありますか?
小田:Aメロのセクションが、2番を聴くと、多分慣れてない人からするとメロディーがズレてるように聴こえるというか。それは全部のメロディーがシンコペーション(弱拍にあたる音を強調するリズムのとり方)していて、音を食ってるんですよね。実は1番のAメロも食ってて、よくよく聴いてもらうとAメロからBメロに繋がる時に半拍ズレてるという。
深谷:音楽に詳しい人は、2番を聴いた時にちょっと違和感があるように聴こえる可能性がある。
いしはま:「一瞬空間歪んだかな」となる人はいるかもしれない。気づかない人も多分いると思うんですけど。
深谷:そういうちょっとしたこだわりがあって。多くの人が「こういうメロディーだ」と思ってるメロディーが、ほんとはちょっと違う感じです。
ーーそれはスーパー登山部としてのこだわりですか?
深谷:ここは小田くんのこだわりです。
小田:スーパー登山部の曲だからやってるところがあります。
深谷:という、小田くんのこだわり(笑)。僕らはそのアレンジに関しては結構反対してたんですけど、すり合わせて今の形になりました。
ーー空間が歪むというのは後半の「ギャラクシーゾーン」の布石にも感じられますね。アウトロではバイオリンが入っていますか?
小田:生演奏していただいてます。この曲は本当に1個1個の音にこだわりました。
いしはま:アウトロのバイオリンのところも、小田くんの鍵盤とギターとバイオリンが同時に鳴ってるけど、ギターっぽいところが出たり、ピアノっぽいところが出たり。ミックスの時はそこのブレンド感も話し合いながら作りました。
小田:あと梶さんのベースがヤバいんですよ。新しい音を開発したんです。
梶:最初シンセベースのアイデアで作ってたんですけど、全体が出来上がってくる過程で「シンセベースだと何か足りない」と感じて。普通のエレキベースでも何か足りない。それでエレキベースとシンセベースの間の音を、すっごい模索して色々機材をいじり回して作って入れたという。
小田:みんなレコーディングが終わった後、梶さんのベースだけずっとリテイクを繰り返してて。
梶:音質にこだわりました。
ーー結局シンセベースで調整されたんですか?
梶:いや、限りなくシンセベースに聴こえるエレキベース。めちゃくちゃマニアックです。本当「このつまみのこんだけの差」みたいところでやってました(笑)。
小田:ミックスを自分でやってるんですけど、過去の梶さんのベースも比較するために全テイク入ってて。いつもならありえないんですけど、ベースのトラックだけで10個以上入ってて。
ーーそれだけ試行錯誤したと。
梶:してました(笑)。
ーーライブではきっとまた変わりますね。
梶:そうですね。今ちょっと模索中です。
ツアーファイナルは白馬山荘5日間。全国6箇所を廻る2回目のトラバースへ出発
ーーそして6月からは2回目のトラバースが行われるということで。福岡の「いとの森の歯科室」は素敵な場所ですね。どういう経緯で決まったんですか?
いしはま:紹介だね。
ーー「登山部に合いそう」みたいなことで?
小田:そうですね。
いしはま:福岡は我々行ったことがないので、ライブで初めて行きます。
ーーそしてファイナルの白馬山荘5日間ですよ。一体どういうことですか。毎日ライブをするんですか?
小田:毎日やろうと思ってます。
ーーなぜ5日間になったんですか。
小田:去年は1日開催で、白馬山荘でのアクセスも大変(登山で片道10時間かかる)なので、そのために1年間かけて準備するような、本当に大きな挑戦でした。去年は運良く開催日が晴れだったので問題なくできたんですけれど、予定では予備日でその次の週と次の週を予定してて。開催日が1日でも、僕らのスケジュール的には5日間ぐらい押さえなきゃいけなかったので、去年は白馬山荘ライブのために8月のうち15日間を空けてたんですね。それが今年は現実的じゃないなというのもあったので、5日間ライブを開催することで僕らも安全に登れるし、お客さんも無理して登らず、観れるタイミングで来ていただくこともできるので、その方がいいかなと白馬山荘さんと話して決めました。
ーーなるほど。ライブは時間を決めてやるんですか?
小田:陽が落ちる直前から1時間くらいになりそうです。日帰りでのアクセスは厳しいところなので、白馬山荘やテント場で宿泊される方に向けて行う予定です。
ーーその間、皆さんも滞在するんですね。
小田:そうですね。その前後を含めた1週間ぐらい山の上にいるので、どうなってしまうのか。
Hina:未知ですね。「行ってみないとわかんない」がまた今年も来た。まず5日間連続でライブできるのかな。環境は去年もやったのでできると思うけど、天気や空気の薄さだったりが心配です。マックスでやれたら1番いいんですけど、天候が悪いともしかしたら登るのを断念して日をズラすかもしれないので、色んな意味でドキドキしてます。
ーー全日程確実にライブができるとは、今は言い切れないと。
小田:そう。やるつもりで準備はしてますけど。
深谷:連日台風で全くやれないかもしれない。
Hina:お客さんも無理して来ちゃう可能性があるので、自分たちでしっかり判断して。「行けない時は行けないし、行ける時は行く」みたいな感じになると思います。
ーー安全第一で。でも去年行った人は「また今年も」と思うかもしれないし、去年行けなかった人は「今年こそ」と思うかもしれないですね。
いしはま:最近本当にそういう声をもらうことが多くて。この間「白馬山荘ってどれぐらい山練習したら行けますか」と声をかけてくれる人がいました。
Hina:「頂き」のMVのコメント欄でも「今年は行きたいと思ってる」とか、めっちゃコメントをいただいて。山好きな人が知ってくれて、音楽を観に行く目的で山の上に来てくれるのはすごく嬉しいです。
ーー確実に山と音楽をつないでいますね。お身体だけは大事に、5日間頑張ってください。
小田:逆に高所順応って言葉がありますけど、ヒマラヤで過ごす人がすごく強くなるみたいな。僕らも山を降りてくる頃には強くなってるかもしれない。
ーー白馬山荘の前には福岡・仙台と東名阪のライブハウスにも来てくださるということなので、楽しみにしております!
小田:ほんとに来てほしいです!
取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ