三回忌に果たされる“約束”の公演『四人姉姉』
四人姉姉実行委員会プリシラーズ『四人姉姉』チラシ表
急逝から2年。瀬辺千尋が思い描いた、未来の公演が実現
名古屋演劇界に、瀬辺千尋という女優がいた。「SOAP Works」や「おじまるけ イ/ド(どぶんのい)」、「爆乳シスターズ」といったユニットを率い、劇作や演出、そして日本劇作家協会東海支部イベントでは裏方もこなす演劇人として勢力的に活動する一方、『bar Priscilla』の店主としても多くの人から親しまれていた。
ところが2014年1月24日、その訃報はあまりにも突然届いた。誰もが術後の復帰を信じて疑わなかったが、舞台出演を一週間後に控えての、50歳という早すぎる旅立ちだった。──あれから2年。瀬辺が構想し、還暦になったら実現しようとしていた『四人姉姉(よにんあねあね)』が、四人姉姉実行委員会プリシラーズによって1月21日(木)から名古屋で上演される。作、演出は劇団B級遊撃隊の佃典彦と神谷尚吾、出演者は火田詮子、長尾みゆき、金原祐三子、そして瀬辺の4人。少し年長の火田を除く5人は全員、同い年である。
豪快で潔く、それでいて色っぽくさりげない優しさを持った、名古屋演劇界の姐御的存在だった瀬辺千尋。写真は「爆乳シスターズ」の時のもの。「爆乳…」は瀬辺の他界後もメンバーが遺志を継ぎ、“歌って踊って芝居するユニット”として愉快なパフォーマンスを展開している
企画の発端は、2007年12月にさかのぼる。B級遊撃隊の番外公演を観に行った瀬辺は、佃が大御所揃いの高齢者劇団「パラダイス一座」に書き下ろした『続 オールド・バンチ』(演出:流山児祥)のチラシを見つける。そこで隣り合わせた役者仲間の金原に「こういうの、演れるといいね」と声を掛け、その場で作家(佃)にも依頼したという。「20年後に、ばあさんばっかで芝居をやろう」とは、『20年後の約束』と題された、当時の瀬辺のブログの一文だ。
前述のとおり、当初は全員同い年で還暦の年に…という約束だったのだが、
「お互いに一人ずつ、一緒にやりたい役者さんを誘ってみようということで私は長尾さんを誘ったんですけど、瀬辺は「火田詮子さんとやってみたい」とお誘いしたんです。そこで“同い年”というルールが崩れたんですけど(笑)」と金原。
公演タイトルも当初から決まっていたと言い、
「ちょうど、おじまるけイ/ドで『七人姉妹』(作:佃典彦/演出:神谷尚吾)を上演したばかりだったので、お婆さんばかりだし、参加する人数の『◯人姉姉』にしたらどうかな、と言っていたんです」と。
四人姉姉実行委員会プリシラーズの面々。左から・長尾みゆき、神谷尚吾、火田詮子、金原祐三子、佃典彦
依頼を受けた佃も神谷も、当時は「還暦なんてまだ遠い話…」と思っていたそうだが、神谷は瀬辺の訃報を知りすぐに金原に電話、「あの企画、やろう」と言ったという。その時点でも約束はまだ10年先だったわけだが、
「瀬辺が死んだ、という勢いです。人の死って大きい。何か踏みとどまるにしても進むにしても、大きなきっかけですよ」と神谷。
そんな神谷から改めて依頼を受け執筆した佃は、本作のコンセプトについて、
「いつも4人でいたんだけど、1人が死んで3人になった。今まで一緒にやってきたことを継続させていく時、1人いなくなったことがどんな風に影響していくのか…。知らなかったことがわかってきたりね。そんなようなことにしようと思って、旅行の話にした」と言い、ある形で登場する瀬辺については、「瀬辺がいたら、こうしそうかな」と考え書いたという。物語はこうだ。
稽古風景より
本作の印象を神谷に尋ねると、
「いい話で終わってしまう恐れがあるので、ちょっと難しいなと。トモちゃんが死んだ、という事件が大前提にあって、3人とも骨折してしまう事態は起こるんだけど、人間関係で極端に大きな事件が起こるわけじゃないから、それぞれの人間性をどう浮き上がらせるかが難しい。今まで4人でやってた会なので、1人いないことによって歪みができたり、いつもだったらトモちゃんがやるのにその役がいないという“不在”、それをどうやって3人が受け入れていくか。そういうことや会に対する疑問とか、スルーしようと思えばできちゃう部分の押さえ方かな。どんな風にまとめるのがいいのか…」と、ドラマをどう立ち上げるか試行錯誤の様子だが、演出プランは明確だ。
稽古風景より
舞台は生涯教育センターの第二集会室、という設定なのだが、神谷はセットにプロレスのリングを選択。その理由を尋ねると、
「勘。…というか、50歳で女一人で生きていくのって大変ですよね。男もそうだけど、簡単にや~めた、と言うわけにもいかなくて戦っていかなくちゃいけないわけで。今までトモちゃんがまとめていたことでうまく回っていた会が、居なくなったことで(みんなが)本音をさらけ出していく。人と人がぶつかる場になるんじゃないかと。あとはマイクスタンドを置いて、長ゼリフがあるんだけど、それをマイクでリングに向かって喋ることで弔辞みたいになれば。トモちゃんの想い出を話す場面も多いので」と語った。
また、本作で久々の舞台復帰となる長尾みゆきの出演もトピックスのひとつだ。かつて劇団ジャブジャブサーキットに所属していたが、子育てのため退団。金原の誘いを受け、「これはやらなきゃいけない」と、出演を決めたという。そして、瀬辺憧れの女優、火田詮子は最年長ながら、演出・神谷のコントロールも効かぬパワフルさ(!?)で本作に臨んでいる。それに負けじと応戦する、金原と長尾の奮闘ぶりも見ものなのである。
稽古風景より
最後にユニット名の“プリシラーズ”だが、冒頭でも触れた、瀬辺が9年に渡り経営していた『bar Priscilla(バー プリシラ)』に由来する。現在は、夫で演劇プロデューサーの加藤智宏が引き継ぎ『バー・パプリカ』として営んでいるが、残念ながら1月末での閉店が決まっている。10人も座ればいっぱいの小スペースながら、一般客はもちろん、多くの演劇関係者が夜な夜な集い、公演などで来名した他エリアの演劇人たちもよく足を運んだ。
『バー パプリカ』(旧プリシラ。https://twitter.com/perkypat1962)。会場のひまわりホールから、タクシーでも5分程度の名古屋中心部にある
■作:佃典彦(劇団B級遊撃隊)
■演出:神谷尚吾(劇団B級遊撃隊)
■出演:火田詮子、長尾みゆき、金原祐三子(avecビーズ)、瀬辺千尋
■日時:2016年1月21日(木)19:30、22日(金)14:00・19:30、23日(土)14:00・1800、24日(日)11:00・15:00
■会場:損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール(名古屋市中区丸の内3-22-21 損保ジャパン日本興亜名古屋ビル19F)
■料金:前売2,800円 当日3,000円 中高生前売1,500円(予約のみ)
■アクセス:名古屋駅から地下鉄桜通線で「丸の内」下車、4番出口から東へ徒歩約4分
■問い合わせ:四人姉姉実行委員会プリシラーズ 080-3627-3833
■公式サイト:http://www.geocities.jp/avec_beads/annai_priscillaaaas.html