川越未晴インタビュー 東京二期会オペラ劇場、チャイコフスキー『くるみ割り人形とイオランタ』のヒロインを歌う

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2025.6.10
川越未晴

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チャイコフスキーのオペラの中でも名作として知られているが、一幕もので上演の機会が少ない『イオランタ』を、バレエの傑作として誰もが知る『くるみ割り人形』と融合させたらどうなるか!? ウィーンのフォルクス・オーパーで生まれた新しい舞台作品を、東京二期会が2025年7月に上演する。

じつはオペラ『イオランタ』とバレエ『くるみ割り人形』は、1892年にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で同じ夜に初演された2つの作品である。双方に共通するテーマは、女の子が大人の世界に目覚めていく「成長物語」。ヒロインのイオランタ役を歌う川越未晴に話を聞いた。

チャイコフスキー最後の名作、ウィーン発・オペラ×バレエの革新作『くるみ割り人形とイオランタ』トレイラー公開!

ーー今回上演される『くるみ割り人形とイオランタ』はどのような舞台になるのか教えてください。

ぱっと見は二つの作品を1日で上演する、映画で言うと「同時上映」のようなものなのかと思われるかも知れませんが、今回は、オペラ『イオランタ』の中に、バレエ『くるみ割り人形』が組み込まれる形の舞台になります。『イオランタ』と『くるみ割り人形』の音楽が交互に使われて物語が進行していくのです。イオランタは目が見えないというキャラクターですが、彼女の頭の中で思い描いている世界、心で感じている世界が、『くるみ割り人形』の音楽と一緒に舞台でお客様に見えるように描かれます。

ーー両方の作品を融合させて、上演時間は2時間15分ほどと伺いました。東京二期会発行の二期会通信 6月1日号(HPからpdfで閲覧可能)に曲目リストが掲載されていましたが、オペラのストーリーを使いながらバレエの名曲を挿入していくようですね。どちらの作品も音楽的なカットがあるということですね?

物語を進める上で支障のない曲がカットされているようです。短めでお話が分かりやすくなっており、演出家のロッテ・デ・ベアさんとしては、お子さんやオペラを初めて観る方にも親しんでいただけるように、という意図があるそうです。

川越未晴

川越未晴

ーーデ・ベアさんのインタビュー動画を拝見したところ、イオランタの目が見えないというのは、比喩的な意味だと思う、とおっしゃっていました。イオランタ役を演じる川越さんから見た、この作品の見どころ、聴きどころを教えていただけますか?

この作品全体で私が感じるのは、色々な愛の形がちりばめられているところです。イオランタの父親であるルネ王という登場人物がいますが、娘の目が見えないということを伝えたらかわいそうだからと彼女には知らせずに大きくなるまで育てている。それは愛情ではあるけれど、知らせないのが本当の愛なのか? という問いかけも、物語が進んでいくとお客様に伝わる内容になっています。イオランタの、自分は目が見えないのを知らない、知らされていないゆえに選択肢が狭まる状態というのは、現代の私たちの生活にもあり得ることだと思います。物語の終盤にはやはりルネ王もそれに気がついて、娘の目が見えるようになるために、彼女にとって残酷なことを言います。イオランタの目が治らなかったら、彼女が好きになった男性ヴォデモンを死刑にすると。残酷だけれど、これはルネ王の愛情表現の一つなんです。このような親子の愛情、そして物語の中心になるイオランタとヴォデモンの愛の物語もそうですし、ヴォデモンと友人ロベルトの友情もある。『イオランタ』は愛のオペラだなと思いますし、そこが一番の見どころだと感じています。

ーー音楽的には好きな曲、聴きどころだと思うのはどこですか?

たくさんあります(笑)。物語が一番盛り上がりをみせるのが、ヴォデモンがイオランタの庭に侵入してきて、彼女に一目惚れをしてという流れから、一緒に歌うデュエットまでがすごくきれいで、いちばん盛り上がると思います。観ている方にも心にジーンとくるシーンだと思うのです。それから私が大好きなのは、そのヴォデモンとの二重唱が終わった後に、ルネ王と召使たちが入ってきて、彼らがそれまで隠していた、イオランタは目が見えないのだという事実をヴォデモンが彼女に伝えてしまったことを知り、それが治療へと結びつく場面です。イオランタが「どんな苦しみにも耐えるし、痛い治療にも耐えます。ヴォデモン、あなたは生きてください」と訴えかけるのですがそこが本当にきれいで。一番好きなのが、勇気が欲しい時に私たちは、大好きな人の顔を見たりすると思うのですが、イオランタはそこでヴォデモンに「あなたの顔に触らせてください」と言います。そのシーンは本当にジーンとして大好きです。音楽もチャイコフスキーらしい、少しノスタルジックな感じの音楽といいますか、聴いたことがなくても懐かしい気持ちになるような音楽で、お客様もきっと舞台に入り込めるのではないかと思う場面です。

川越未晴

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ーー川越さんのお声はこれまで直接聴かせていただいたのはまだ少ないのですが、レパートリーを拝見しても高音が得意なコロラトゥーラ・ソプラノの役柄が多いと思います。一方、イオランタ役はもうすこしリリックな声の方が歌う役だという印象がありました。

私自身、これまでレッジェーロ(軽い声)の役が多かったので、『イオランタ』のオーディションを受けるときにも最初は、受けていいのかな? という気持ちがありました。ただ物語を知り、音楽を知って歌っていくうちに、「私の声にぴったりかもしれない」と思ったのです。目の見えないイオランタが、自分の世界の中でずっと育ってきた部分が、少し人間離れしているというか、私がこれまで歌ってきた人間以外の役、例えば、『ホフマン物語』のオランピアや、『魔笛』の夜の女王などに少し通じる部分があるように思えて。空想的なところも……。

ーーなるほど。確かに『イオランタ』には、おとぎ話的なところがありますね。

ちょっと通じるものがあると思います。リリックな声の方が歌われることが多いので、想像なさっている声とはもしかしたら違うかもしれませんが、今の私が表現できるイオランタを演じたいと思っています。

ーーチャイコフスキーのオペラのヒロインは、『エフゲニー・オネーギン』や『スペードの女王』など、ピュアで一途なヒロインが多いので、そこも川越さんの持ち味と一致しているように思います。東京二期会さんが出した短いプロモーション動画を拝見しましたが、かなり演技の動きも多そうですね。川越さんと同じイオランタ役を踊るダンサーの方もいるのですね。

そうですね。ダンサーの方達とからむ場面もあります。演技に関しては、目が見えない演技をすることには私の中で今はまだ不安要素はあります。でも目が見えないままで育ち、目が見えるというのはどういうことなのかを知らないで育ってきたという状態は、私にはどうやっても知ることはできません。ただ、オペラの中でイオランタが孤独や不安を感じるシーンがあります。それは私たちにもあると思うんです。理由がわからないけれどなぜか孤独を感じて、不安に思う瞬間が。それを演技に取り入れていこうと思っています。

川越未晴

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ーー演出家のお話では、彼女が頭の中で見えているものをバレエの部分で表現しているようですね。

イオランタは他の人々に選択肢を委ねて生きてきたのです。お父さんが「医者を連れてきたよ。治療をしてもらいなさい」と言っても、目が見えるというのはどういうことなのかが彼女にとって漠然とし過ぎていて、そうなりたいと強くは思えません。父親の言うことだから従おうか、というくらい。それが、「さもないとヴォデモンは死刑になる」と言われ、「それなら私は見えるようになりたい!」と自分の意思を持ち始める瞬間があるんです。そこで彼女の成長を感じます。イオランタは新しい世界に飛び込もうとする勇気を持ち始めます。目が見えるようになった後も、最初は「光」が怖いんです。「目に飛び込んでくる光とか、周りのものが、自分に降りかかってくるみたいで怖い」と言うのですが、光の中に神様がいるよと教えられて、「あれが神様なら、もっと見えるようになりたい」と。自分の希望を強く言うようになる。私はそこにすごく感動します。

ーーロシア語での歌唱はいかがですか?

今回、初めてのロシア語による歌唱です。言語指導も受けさせていただいていますが、ロシア語は実際歌ってみるととても歌いやすくてイタリア語に少し近いんです。顔の前の方で発音するという感覚がありますし、母音が深いので声が良くなる感じがします。歌うと整うといいますか。

ーーオペラに向いた素晴らしい言語ですね。確かに、ロシア・オペラは聴いていても美しい作品がたくさんあります。『くるみ割り人形とイオランタ』も多くの方に観て欲しいです。

バレエは好きだけれど、オペラは触れたことがない方、オペラは好きだけれど、バレエを観る習慣のない方も、歌とバレエが交互に出てくるので、すごく楽しめる舞台になると思います。『イオランタ』や『くるみ割り人形』の全幕ものをよく知っているという方からすると、作品がいつもとは違う使い方をされていることへの違和感があるかも知れませんが、お話自体は変わりませんし、新しい“イオランタの世界”を観ていただきたいです。

ーー『くるみ割り人形とイオランタ』公演への抱負を教えてください。

今回、私は東京二期会のオペラ公演デビューとなります。すごく楽しみな反面、同じくらいプレッシャーと責任も感じています。イオランタという一人の女性が、愛を知って成長していく物語。この役を通じてお客様に何を届けられるのか?ということを念頭に演じたいです。素晴らしい共演者の方々にも恵まれ、厚かましいですが周りの皆様に支えて頂きながら、稽古を経て私も成長し、本番の舞台ではイオランタとして生きられるよう務めていきたいです。

川越未晴

川越未晴

音楽の先生を目指して歌を勉強していたが、やがてオペラの魅力に目覚めたという川越未晴。初めのうちは演技をするのが恥ずかしくてしかたがなかったけれど、二期会研修所に在籍した期間がちょうどコロナ禍にあたり、コロナが終わって相手がいる状態で演技を出来るようになった時に、演技することの喜びが「爆発」したという。彼女ならではのイオランタ役が楽しみだ。

取材・文=井内美香     撮影=長澤直子

公演情報

ウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン国立バレエ団との共同制作
東京二期会オペラ劇場

くるみ割り人形とイオランタ
〈新制作〉
日本語字幕付原語(ロシア語)上演
作曲:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
 
日時:2025年7月18日(金)18:00、19日(土)14:00、20日(日)14:00、21日(月・祝)14:00
※開場は開演の60分前
会場:東京文化会館 大ホール
 
[入場料金](全席指定・税込)
[7月18日(金)公演] プレミエ・スペシャル料金
S 21,000- A¥17,000- B¥13,000- C¥10,000- D¥6,000- 学生¥2,000- U-39¥10,000-
[7月19日(土)、20日(日)、21日(月・祝)公演]
S 22,000- A¥18,000- B¥14,000- C¥10,000- D¥6,000- 学生¥2,000- U-39¥10,000-
 
購入後のお取消、日程の変更はできません。
*車椅子席(¥6,000-)がございます。介助席は車椅子席1席につき1席まで同額でお求めいただけます。お席数に限りがございますので、お早目にご予約ください。
*学生席は28歳未満の学生の方を対象といたします。
*車椅子席、学生席のご予約は二期会センターのみのお取扱いです。(車椅子席は電話のみ)
*U-39席は、公演当日39歳以下の方がご購入いただけます。公演当日、年齢を証明できる身分証明書をご提示の上、座席券(S・A 席相当)とお引換となります。お席はお選びいただけません。
*未就学児の入場はお断りします。
 
 
指揮:マキシム・パスカル 演出:ロッテ・デ・ベア
バレエ:東京シティ・バレエ団 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 
配役:
イオランタ 梶田真未 川越未晴
ルネ 狩野賢一 北川辰彦
ヴォデモン伯爵 伊藤達人 岸浪愛学
ロベルト 大川 博 菅原洋平
エブン=ハキア 小林啓倫 宮本益光
アルメリック 大槻孝志 濱松孝行
ベルトラン 水島正樹 ジョン ハオ
マルタ 小野綾香 一條翠葉
ブリギッタ 清野友香莉 田崎美香
ラウラ 郷家暁子 川合ひとみ
※やむを得ない事情により出演者が変更となる場合がございます。

主催:公益財団法人東京二期会 共催:公益財団法人 東京シティ・バレエ団

予約・問い合わせ:スペース 03-3234-9999 スペースオンライン
 
公式サイト https://nikikai.jp/
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