kobore×プッシュプルポット×Brown Basketによるガチンコのスプリットツアー『ENDORPHIN』 ボーカル3人が語るきっかけから未来まで
kobore×プッシュプルポット×Brown Basketスプリットツアー「ENDORPHIN」
この世代がさらに注目を集めれば、日本のバンドシーンはもっと豊かになるに違いない。東京・府中のkobore、金沢のプッシュプルポット、京都のBrown Basketという、ほぼ同世代の3バンドが集うスプリットツアー、その名も『ENDORPHIN』の開催が決まった。7月3日大阪・梅田クラブクアトロ、7月4日名古屋ボトムライン、7月8日東京・渋谷クラブクアトロを回る、3バンド真剣勝負の対バンツアーだ。SPICEではこのツアーを盛り上げるべく、3バンドのボーカルを集めて鼎談を企画。それぞれの出会いやバンドの印象、スプリットツアー実現のきっかけから未来の展望まで、じっくりたっぷり語ってもらおう。
佐藤赳(kobore):プッシュは随分と前に対バンしてたっぽいんですけど、全然覚えてなくて。何年か前の名古屋のデブフェスか何かで、ドラムの明神が「今度対バンよろしくお願いします」みたいな感じで話しかけてきてくれて、それはkoboreが不定期で開催している「FULLTEN」っていう対バン企画なんですけど、「ボーカルは?」って聞いたら「ボーカルはビビって話しかけられないんで」って(笑)。あいつそんなタイプだったっけ?みたいに言ったのは覚えてます。
山口大貴(プッシュプルポット):…(笑)。
佐藤:そのあと「FULLTEN」をやった時に、ぐっち(山口)に「実は金沢で対バンしてたんです」みたいに言われて、SNSで調べてみたら「あ、してるわ」みたいな。そこでぐっちともようやく打ち解けて、「あの時は正直一言も喋れなかったっす」みたいな話をして、そこからプッシュと仲良くなって、うちのベースが同い年ということでさらに親交を深めていった感じです。Brown Basketは、僕らの地元の府中Flightってライブハウスに結構ライブで来てくれてて、コロナ禍の時にステージから降りて、店長にめちゃくちゃキレられてたっていうのがいい思い出で。
岸本和憲(Brown Basket):…(笑)。
佐藤:「Brown Basketっていう面白いバンドがいるんだよね」って店長が言ってたんですよ。で、曲を聴いてみたら、“加茂川沿いをのらりくらり”みたいな曲があって(「御薗橋西詰」)、「めっちゃいいじゃん」ってなって。蓋を開けてみたら、またうちのベースと同い年で、「FULLTEN」に誘ったら出てくれた。そこからどんどん仲良くなっていった感じですね。
――わかりやすい。では一個一個検証しますか(笑)。山口さん、最初に一言も喋れなかった言い訳をどうぞ。
山口:いやー、なんか怖いんですよね。仲良くなる前に2回ぐらい対バンしてるんですけど、MCがまるで俺に言ってるかのように怖いんですよ。最初に対バンした時は、「ボーカルの声が聴こえないのは歌ものロックじゃねえ」みたいな、まるで僕に言ってるみたいで、次の対バンの時は僕のMCを引用して何か喋ってたんですよ。「めっちゃ噛みついてくるじゃんこの人」っていう偏見で、めちゃくちゃビビってました。
佐藤:噛みついたというか、対バンなんで、MCに対するアンサーは必要かなっていうのもあったし、プッシュプルポットっていうバンドを初めてちゃんと見て、かっこよかったんで、俺らもそれをバネにしてもっと破壊力のあるライブができたらなって思ってたのは事実。喧嘩を売ったというよりかは、お互い対バンとして高め合えた1日にできたらいいなっていうイメージでした。そしたら怖がってたという(笑)。
山口:年齢差あるしね。
佐藤:ねえよ。一個しか違わないじゃん。
――Brown Basketの、フロアに降りちゃった事件は?
岸本:それは僕じゃなくて、うちのギターのomochi tripって奴が。コロナ真っ只中で、みんな我慢してたのに、衝動的に飛び降りてしまって、問題になりました…。
佐藤:逆にそれが店長の印象に残ったらしくて。次の日に店長に会った時に、「たける、Brown Basketって知ってる?」みたいな。「なかなか骨のあるバンドだった」って、それで初めて知るという(笑)。
kobore
――雨降って地固まる。あらためて、それぞれのバンドのライブの印象というと?
山口:僕は大学の軽音部に入ってたんですけど、koboreのコピーをしたり、弾き語りするぐらい好きだったんですよ。歌はうまいし、曲もいいし、ライブの持って行き方もうまいし、すげえ尊敬してます。でも、たけるってこんな奴じゃないですか。「好きです」とか直接言ったら「当然っしょ」とか言うタイプなんですよ。
佐藤:あはは。
山口:だからこそ悔しいっていうか、素直に言えないけど、心の中でふつふつと思ってるものがある感じ。Brown Basketは同い年で、一緒にやってく仲間っていう感じがすごい強いんですけど、ライブを見てこその熱量っていうか、俺たちも熱量を持ってライブしてるつもりだし、同じもの見てるからこそ、いいライブしてるのを見ると悔しかったりするっていうか、刺激になってます。
岸本:Brown Basketは「泣けて笑えて熱くなれる」みたいな、少年漫画みたいなライブを目指してるんですけど、koboreにもプッシュプルポットにも少年漫画を感じるんですよね。漫画の主人公というか。目指してるバンドでもあるし、追いつきたいバンドでもあるんですけど、それ以上にやっぱり同じものをめっちゃ感じるバンドなんで、だからこのスプリットツアーに僕らも呼んでもらってるのがすごく嬉しい。大好きだし、負けたくないも強いし、少年漫画みたいなスプリットツアーにしたいです。
――ありがとうございます。…って、取材終わっちゃいました。
佐藤:質問の内容、全無視だな(笑)。
――いいんです(笑)。koboreから見てどうですか、2バンドのライブの印象は。
佐藤:僕らは府中という地元があって、プッシュプルポットには金沢という地元があって、Brown Basketには京都があって。京都はちょっと違うけど、府中とか金沢って、どっちかっていうと全国ツアーから飛ばされてしまうようなところで、目につきにくい場所ではあるんだけど、プッシュプルポットはそこで自信を持ってレペゼンしてる感じが、他にないバンドの強さだなっていうか。ちゃんと自分たちで背負っていこう、むしろ背中を押してやろうみたいな、地元の気持ちを持ってバンドをやってる奴らは、本当にかっこいいライブするなって思ったのが第一印象ですね。「グッチとたけるは似てる」ってよく言われてたけど、その理由が少しわかった気がしたのは、同じ地元っていう強いがあるからだし、背負ってるだけじゃなくてもっと盛り上げていこうという気持ちを持ってるからこそ、金沢を広めたいっていう軸で動いてるプッシュプルポットがかっこいいなって思ったのが一つですね。あとシンプルにライブもかっこいいし、誰かにやらされてるわけでもなく、自分たちのやりたいことを体現してる感じがすごいよかった。で、Brown Basketは…僕らはメジャーデビューしていろんな大人たちと出会っていく中で、自分自身が変わっていくこともあったんですよ。ライブに対して「こういうふうにしたほうがいいんじゃないか」とか、四方八方からいろんなことを言われていくと、自分がどんどんわかんなくなって行くんだけど、Brown Basketのライブを見ると、やらされてない感があるというか。ライブやって、打ち上げで騒いで、次の日めちゃくちゃかましたらいいっしょ?みたいな気持ちって、絶対忘れていくんですよ。やっていけばやっていくほど。そういう初期衝動を、Brown Basketと対バンするたびに思い出させてくれるというか、自分が忘れてたものをふつふつと呼び起こさせてくれるから、面白くて好きな奴らだなって思ったのが第一印象ですね。
岸本:たけるくん、話がうまい。
――完璧です。特に府中や金沢の、地元を背負ってる感というのはキーワードかもしれない。プッシュプルポットも、金沢で主催ライブをやってますよね。「笑福絶唱FESTIVAL」。
山口:誰かに言われて背負ってるってわけじゃないんですけど、金沢には先輩バンドもあんまりいないし、だったら俺たちが金沢という場所を盛り上げていきたいなって思うし。県外のバンドの友達で、金沢に行ったことないって言う人も多いし、その人たちが来るきっかけにもイベント打ちたいなって思ってるし。金沢を知ってほしいし、金沢のお客さんにも「こんなかっこいい友達いるんだよ」って伝えたいんで、そういうイベントをやってます。金沢はバンドがいない、なかなか行けないっていうイメージがあると思うんですけど、逆に「金沢といえばプッシュプルポット」と言えるのは強みだと思って、あえて背負ってる部分もあります。
――Brown Basketも主催イベント、やってますよね。「京(みやこ)SUMMIT」。それも、地元のバンドの良さを広めたいみたいな思いがありますか。
岸本:僕らで言ったら、「京都と言えば」という先輩がもういらっしゃるので。僕らはそういう先輩たちを目指して、追いつきたい人がいるみたいなイメージです。なので、自分たちで自分たちの世代のフェスをやりたいっていうことです。
プッシュプルポット
――いい話。そんな3バンドが手を組んだのが、7月に大阪、名古屋、東京を回るスプリットツアー『ENDORPHIN』。これ、元々誰が言い出した企画ですか。
岸本:言い出したのは、koboreのベースのそらです。
山口:なのに、今ここにいない(笑)。
――あら。じゃあたけるくん、代わりに喋れますか。
佐藤:府中Flightに岸本が弾き語りで来た時に、府中の居酒屋を回って朝5時ぐらいまで飲んでたことがきっかけらしくて。「何か面白いことできないかな」みたいなことを飲みながら話した結果、「スプリットツアーを回れたらいいんじゃないか」って、そらが提案したのがきっかけです。本当にそういうシンプルな理由から、見事にスケジュールもハマって3バンドが集まって、同じ志のもとでやれたらいいねっていうのがすんなり決まりました。
山口:僕が最初にそれを知ったのはXでした。そらが「3バンドでやりたい」って書いてて、「そうなんだ」って(笑)。
岸本:去年の「京SUMMIT」の打ち上げに同世代がすごく多くて、その時にそらが「この間話してたスプリットツアーを実現させたい」みたいになって、そこから本格的に動き出したのかもしれない。それまでは「いつかできたらいいね」って感じだったんですけど、あの日から「マジでちょっと提案してみるわ」みたいになったのが始まりで。でも本当に実現したのは、koboreチームのスタッフの皆さんのおかげです。
山口:僕は、そらがどういう意図でXでつぶやいたのかは全くわかんないけど、「面白そうだな」と思ってたんで、実現するのを待ってました。
佐藤:そらからは直接聞いてないんだけど、10年あいつと一緒にいるからわかるんだけど、あいつにとって同い年って呼ばれる人が少なかったんだよね、ずっと。先輩について行ってたというか、そらも信頼できる先輩を見つけて、飯食いに行ったり、飲みに行ったりとかしてたんだけど、僕の同い年とかギターの安藤の同い年はいて、そらより下の世代もいるんだけど、真ん中の同い年っていうのがなかなかいなくて。やっとプッシュとかBrown Basketを見つけて、自分と同い年と一緒に飲めるみたいなのが、あいつにとってすごい嬉しかったんじゃないのかなとは思いますね。
――ああー。なるほど。
佐藤:すごい楽しそうだったもん。岸本と飲んでる時とか、グッチとも結構会ったりしてたし、そういうのもあるんじゃないのかなって、俺は直接は聞いてないけどそう思ってた。10年一緒にいて、あんなに楽しそうなあいつを見るのはなかなかないから。あいつが誰かと朝4時5時まで飲むことなんて、なかなか珍しいんで。
岸本:そうなんですか。
佐藤:しかもあいつが楽しい時って、SNSが爆発するというか、そういうのも結構一緒にいるとわかるんで。「こいつ今日楽しいんだな」みたいなのが、あからさまに、Brown Basketとかプッシュがいると出てくるなっていうのはありますよね。
岸本:めっちゃ泣きそうです…(笑)。
佐藤:あいつが一番少年漫画かもしれない。
山口:確かに、同い年は少ないんですよ。いたんだろうけど、お互いに見つけれてなかったというか、「対バンして面白いことしよう」になるまでが結構遅かったというか、時間がかかったって感じですかね。
Brown Basket
――裏テーマは同い年、同級生。エモいイベントになりそうです。ところで、この『ENDORPHIN』というツアータイトルは誰が付けたんですか。
佐藤:僕です。3バンドとも、打ち上げで『刃牙』っていう漫画の話で盛り上がった記憶があって、『刃牙』の作者が府中出身っていうのもあって。主人公の刃牙が覚醒するシーンで、脳内で分泌するエンドルフィンっていうやつが、一種の幸せホルモンみたいなものらしいんですけど、興奮した時にだけ生み出されるものというか、口で説明できない気持ちを持って帰ってほしいなという気持ちも込めて、『ENDORPHIN』っていうタイトルにしました。
――どんなツアーにしたいですか。それぞれの抱負をぜひ。
岸本:たぶん、めっちゃ悔しくなると思うし、めっちゃ楽しいだろうし、めっちゃ熱くなって泣いたりもするんだろうけど、僕らBrown Basketは、がむしゃらに一番を狙いに行きます。もちろん3バンドとも大好きなんですけど、仲良しこよしだけじゃないツアーにしたいというか、少年漫画みたいなツアーにします。
山口:何より楽しみたいなと思います。3バンドのスプリットって、バンド自体もお客さんたちの化学反応も、正直どうなるかはわかんない思ってるんですけど、みんながやりたいようにできたらそれがいいかなって思います。俺たちもブラバス、koboreに寄り添ってライブする必要もないというか、お客さんも寄り添ってやる必要もなくて、3バンドだからこそ、それぞれがやりたいようにやった中でできたのが化学反応だと思うから。それを見てまた次に繋げて行けたらいいから、おのおののベストを尽くせるようなスプリットツアーにできたらいいなって思います。
佐藤:心から楽しめると思うことがわかってるから、この3バンドだし。それはもちろんなんですけど、こういうスプリットツアーって「楽しかったね」で終わっちゃうことが多い気がするんですよね。でもこの3バンドが集まった意味として、「楽しかったね」以上に、「まだまだやれるな」って確信できるような、「まだまだ俺たちやっていけるよな」みたいなところに着地できたらいいかなと思ってます。岸本も言ってたけど、プッシュもBrown Basketも、自分に足りないところを持ってるバンドだし、逆に俺たちだけが持ってるものもあるんで、出し惜しみなしで、「まだまだやっていきたいね」みたいな次の話ができるように、より深く3バンド繋がればいいかなって思ってるのと。個人的な目標は、打ち上げは0時にはもう帰るっていうこと。
岸本:早すぎでしょ(笑)。
山口:まだ始まってないんじゃない?(笑)
岸本:俺はたけるさんを帰らさないのが目標です!
取材・文=宮本英夫