水都大阪の夏の到来を告げる『船乗り込み』で道頓堀川が華やぐ、八代目尾上菊五郎・六代目尾上菊之助の襲名披露を文楽人形も寿く

レポート
舞台
2025.7.2
『船乗り込み』 撮影=河上良

『船乗り込み』 撮影=河上良

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船乗り込み 2025.7.1(TUE) 本町橋ほか

7月5日(土)~24日(木)に大阪松竹座で上演される『七月大歌舞伎』の開幕を前に、7月1日(火)、歌舞伎俳優たちによる大阪・夏の風物詩『船乗り込み』が行われた。

今年は八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助の関西での襲名披露となるのを寿き、『船乗り込み』のスタート地点、本町橋付近でオープニングセレモニーも開催。菊五郎と菊之助が見守るなか、人形浄瑠璃文楽座人形遣いの桐竹勘十郎たちによる、文楽「三番叟」が披露され、より祝祭の趣が漂う盛大な催しとなった。

■八代目尾上菊五郎「このような幸せなことはございません」

八代目尾上菊五郎

八代目尾上菊五郎

晴れ渡った夏空のもと、本町橋船着場から東西の人気俳優たちが浴衣姿で、のぼりを掲げた船に乗り込む。午後2時過ぎ、強い日差しにも関わらず多くの観衆が集まり、俳優たちに手を振る。紋付き袴姿の菊五郎と菊之助は、オープニングセレモニーに登壇。菊五郎は「このたび尾上菊五郎の名跡を八代目として襲名させていただきました」とあいさつ。「7月は片岡仁左衛門のお兄さんを中心といたしまして、関西・歌舞伎を愛する会の公演『七月大歌舞伎』が毎年行われております。その公演で我ら親子、八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助の襲名披露興行をさせていただき、このような幸せなことはございません。精一杯勤めさせていただきます」と喜びの思いを述べる。

六代目尾上菊之助

六代目尾上菊之助

菊之助は「このたび尾上菊之助の名跡を六代目として襲名させていただきました。大阪の公演に出させていただくのは初めてです。大阪には美味しいものがたくさんあるので、いっぱい食べて頑張ります」と頼もしく語った。

続いて大阪発祥の文楽が、「三番叟」で花を添える。セレモニーの最後には文楽人形より花束が贈られ、菊五郎と菊之助は笑顔で受け取った。昭和54年、江戸時代より続く伝統行事『船乗り込み』が大阪で55年ぶりに復活した際も、文楽人形遣いの吉田玉男が遣う三番叟の文楽人形が、劇場の「鍵渡し」を行った歴史がある。人間国宝・桐竹勘十郎は、「初日から千穐楽まで無事大入りとなりますこと、これを機に歌舞伎界が発展・隆昌いたしますことを切に願い、人形浄瑠璃文楽座一同、応援しております」と温かい言葉を送った。

その後、俳優たちを乗せた船は本町橋を出発し、お囃子が軽やかに響くなか東梅堀川から道頓堀川を進んでゆく。沿道や橋の上からは多くの人々が、「松嶋屋!」「音羽屋!」「萬屋!」と掛け声。

大阪の繁華街・道頓堀の戎橋に船が到着すると、沿道を埋め尽くす観衆がクラッカーや拍手で盛大に出迎え、夏の暑さを上回るような熱い盛り上がりを見せた。さらに勢いよく紙吹雪が舞うと、俳優たちも歓声と笑顔。船上での口上では、名前が呼ばれると頭を下げるなどして、観衆の拍手に応えていた。

六代目尾上菊之助

六代目尾上菊之助

次に大阪松竹座前で式典が行われ、19名の俳優たちが一人ひとりあいさつ。まずは襲名披露の菊五郎が登場、「菊五郎と言えば江戸の役者のイメージがあるかと思いますけれど、初代、二代目は関西で生まれ、江戸で活躍し、大阪で没しております」と話し、「初代、二代目に顔向けができるように、音羽屋ゆかりの華やかな演目を選ばせていただきました」と、『七月大歌舞伎』への思いを明かした。

尾上菊五郎

尾上菊五郎

左から尾上菊五郎、尾上菊之助

左から尾上菊五郎、尾上菊之助

菊之助は、「昼の部では「羽根の禿」、夜の部では「土蜘」の胡蝶を勤めさせていただきます。一生懸命頑張りますので、よろしくお願いいたします」と、意気込みを爽やかに述べる。

中村鴈治郎

中村鴈治郎

左から片岡孝太郎、坂東彦三郎、中村時蔵、中村壱太郎、中村隼人

左から片岡孝太郎、坂東彦三郎、中村時蔵、中村壱太郎、中村隼人

中村鴈治郎は「2月、5月、壱太郎となかなか同じ場面に出ることがなかったのですが、今月はべったりと一緒(笑)。久々に親子でさせていただきます。菊五郎、菊之助襲名、めでたい芝居を盛り上げていきたいと思います」。中村歌六は「昨年に引き続き、7月の松竹座に寄せていただき、こんなにうれしいことはございません。私は夜の部だけの出演ですが、昼夜ともに二度、三度とお運びいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします」と来場を呼びかけた。

中村歌六

中村歌六

片岡仁左衛門

片岡仁左衛門

最後に人間国宝の片岡仁左衛門が、「本日はお暑いなか、長時間お付き合いくださいましてありがとうございます。今年は八代目尾上菊五郎さん、六代目菊之助さんの襲名披露でございます。皆さまのお力で千穐楽まで大入りがかないますよう、ご後援のほどよろしくお願いいたします」と、にこやかに語りかける。そして仁左衛門が音頭をとり、「皆さまのご多幸」と「世界の平和」、そして「全員が無事に公演を勤められること」を祈念し、恒例の大阪締めで和やかに幕を閉じた。

取材・文=小野寺亜紀 撮影=河上良

公演情報

『松竹創業百三十周年
尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露
尾上丑之助改め 六代目 尾上菊之助襲名披露
七月大歌舞伎
関西・歌舞伎を愛する会 第三十三回』
日程:2025年7月5日(土)~24日(木)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~
【休演】10日(木)、17日(木)
※下記日程は学校団体様がいらっしゃいます
昼の部:5日(土)、7日(月)、8日(火)、9日(水)、14日(月)、16日(水)、23日(水)、24日(木)
劇場:大阪松竹座
鑑賞料金(税込):
一等席 22,000円/二等席 11,000円/三等席 6,000円
 
演目と配役:
昼の部
一、新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)
久作娘お光 壱太郎
丁稚久松  隼人
後家お常  鴈乃助
油屋娘お染 扇雀
百姓久作  鴈治郎
 
二、羽根の禿(はねのかむろ)
  うかれ坊主(うかれぼうず)
〈羽根の禿〉
禿      丑之助改め菊之助
 
〈うかれ坊主〉
願人坊主  菊之助改め八代目菊五郎
 
三、梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)
髪結新三    菊之助改め八代目菊五郎
弥太五郎源七  錦之助
白子屋後家お常 孝太郎
手代忠七    萬太郎
お熊      米吉
下剃勝奴    菊次
車力善八    片岡亀蔵
加賀屋藤兵衛  権十郎
家主女房おかく 萬次郎
家主長兵衛   彌十郎
 
 
夜の部
一、熊谷陣屋(くまがいじんや)
熊谷次郎直実 仁左衛門(Aプロ)
       錦之助(Bプロ) 
熊谷妻相模  孝太郎
藤の方    壱太郎
堤軍次    隼人(Aプロ)
       菊市郎(Bプロ)
梶原平次景高 松之助
源義経    錦之助(Aプロ)
       隼人(Bプロ) 
白毫弥陀六実は弥平兵衛宗清 歌六
※Aプロ(7月5・6・8・9・11~13・15・16・19~21・23・24日)
※Bプロ(7月7・14・18・22日)
 
二、 八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助  襲名披露 口上(こうじょう)
 
   菊之助改め八代目菊五郎
   丑之助改め菊之助
        幹部俳優出演
 
三、新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)
叡山の僧智籌実は土蜘の精 菊之助改め八代目菊五郎
侍女胡蝶         丑之助改め菊之助
平井保昌         彌十郎
源頼光          時蔵
渡辺綱          片岡亀蔵
坂田公時         萬太郎
碓井貞光         隼人
卜部季武         菊市郎
巫子榊          壱太郎
番卒藤内         彦三郎
番卒次郎         扇雀
番卒太郎         鴈治郎
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