リスペクトがあるから嫉妬もする Galileo Galileiのニューシングル、アニメ『青のオーケストラ Season2』OPテーマ「アマデウス」の着想を尾崎雄貴に訊く
Galileo Galilei
3月に開催したバンドの軌跡と未来を辿ることをテーマにしたライブ『あおにもどる』。その時期を同じくしてリリースされた「とりあえず今は」(マンガ『アオのハコ』原作展への書き下ろし)以降、日本ハムファイターズ応援ソング「青陽潮」、そして10月6日リリースの新曲「アマデウス」はアニメ『青のオーケストラ Season2』オープニングテーマと、バンドへのオファーが続いている。アルバム『BLUE』と「あおにもどる」のタームでは地元稚内に根ざしたアウトプットが散見されたが、最近のコラボレーションはまずGalileo Galileiというバンドのフィロソフィありきに感じられる。新鮮な驚きに溢れる新曲「アマデウス」の発想の自由さも恐らくそのことと無縁ではないだろう。制作や各地のイベント出演などで多忙なバンドから、今回は尾崎雄貴のソロインタビューを敢行。新曲はもちろん、彼のソングライター、バンドマンとしての近況を率直に話してもらった。
――2025年に入ってからコラボレーション楽曲が続いていますが、バンドに直接オファーが来る感じなんですか?
そうですね。ソニー時代の方がコンペとか、必ずしもGalileo Galileiへのオファーじゃないことが多かった気がするんですけど、ここ最近は原作者さんが好きで……などが増えてはいます。
――新曲の制作以外はどういうふうに過ごしていらっしゃいましたか。
基本的に大きめな提供曲が結構あって、それはバンドもだし僕個人のもやっていて。だから僕自身はメンバーの中でたぶん一番忙しかったです。ひたすら曲を書くか、アイディアを考えているか、ライブの練習してるかっていうことを繰り返しやってる感じですね。「あおにもどる」のタイミングからその忙しさはスタートしたので、その中でBBHFのライブを組んだりっていう感じ。でも、そんな中、メンバーで野球観に行ったりもしていました。一緒に仕事してるヤツらが友だちなのでそれは助かってますね。今はそういうモードで、ひたすら目の前にあるものに全力を注いでいるっていうことを連続でやっています。
――そういう中にあって、先日のライブでも話していたように「BBHFどうしようか」という時期もあったと。
そうですね。僕としてはBBHFを畳もうと思っていたのはGalileo Galileiを再始動して……それ自体は直接的なものじゃないけどBBHF、warbearもあったし、人に曲を書くこともあるし、それぞれ分けたことによって一個一個ちょっと脆くなってるなと思ってしまっていて。そこで一本にした方が強いのかな?と思ったのもありますし。もう一つにはGalileo Galileiにお話がいろいろきているのもそうですし、実際にライブやお客さんに掲示したいもののスケールが全然BBHFと違うので、そっち側にかなり力を割かなきゃいけないわけですよね。時間もそうですし、エネルギーもそうですし。その中でBBHFについては新譜を出さずに待ってもらっている状態で、それはファンにとってはどうなんだろうと思って。僕自身、その時点では新曲を書こうという思いがなかったので、それってどうやったら正直に伝わるかな、バンドを畳むしかないのかな、っていうところまでいったんです。DAIKIくんは「雄貴くん、決めるんだったらBBHFはなしにして、これから別に雄貴くんと音楽やれればいいから」というような感じではあったんです。
――はい。
でもDAIKIくんも含めて、やっぱり近い存在なんだなっていうのが忙しい中一緒に過ごしてより分かったっていうのはあったんです。一緒にいられるんだったら別にバンドを終わらせる必要はないなと。あと、BBHFのお客さんってGalileo Galileiと違うんですよね。ちゃんと違うってことに毎回驚くんですけど、服装や表情とかからも分かるんです。ちゃんとBBHFにはBBHFのファンが来てくれてるんだなと。その人たちは新譜も出してない状態でのワンマンライブに来てくれるんだなっていうところに僕はエネルギーをもらって。でも正直に伝えたかったので、バンドっていつ消滅してもおかしくないし、それって理由が何であれ誰かがそういう選択をしたら、じゃあバンドをやめましょうっていうこともあると思うっていう話をしたんです。もちろんやっている時は、いずれ終わるのかもしれないなんて言いたくないし言わないですけど、僕が音楽のファンとして思うのは、そのバンドがいついなくなってもおかしくないんだよなって思いながらその日その日、新しいアプローチを聴いて楽しんでる側でもあるので、そこをちょっと分かって欲しかった僕なりのメッセージでもあったんです。言わなくていいところをあえて言おうと思ったのはそこですね。
――BBHFのあの日のライブで雄貴さんが話したことが補完できた感じがします。ここからは「アマデウス」についてお訊きするのですが、『青のオーケストラ』オープニングテーマのオファーが来た時、どういう感想を持ちましたか?
僕の中で、オーケストラものといえば『のだめカンタービレ』だったので、最初はのだめ系なのかなって思ってたところ、部活系なんだと思って。アニメサイドとのミーティングの前に作品を読んでおきたいですって話して、漫画を送っていただいたんですよ。それを全部読んで印象が変わりましたね。恋愛や青春の甘酸っぱさにフォーカスしているのかなと勝手に思ってたんですけど、読んでみたらまったくそんなことなくて。パート争いだとか、才能を持っているものに対しての向き合い方とか嫉妬を受けたりとか。あとは主人公の父親がすごく有名な人だったりという親子関係もあったり、主人公の出自が複雑なわけですよ。そんな中で才能があるのに弾かないっていう決断を1回してるとこからスタートするので、そういうところを見てパッと思い浮かんだのが映画の『アマデウス』だったんですよね。
――なるほど。
最初に観たのは中学生時代で。吹奏楽部の顧問の先生が授業のカリキュラムにないけど観せてくれたんです。その先生はバンド音楽をある意味教えてくれた恩師として、稚内にMV撮影で帰った時も必ず会いに行ってる人でもあるんです。で、その時の印象はただモーツァルトがめっちゃおもろ!っていう感じでワーキャーしてたんですけど、心に何か残るものがあって、大人になったり、バンドを始めてから何回も見直しているうちに見え方が変わってきて。そういう印象と今回の『青のオーケストラ』で自分が感じたテーマがちょうどハマったので、曲の方向性が決まって、あとはそれにちゃんと合った曲のアイディアを作れるかどうか、という感じでやりました。
――『アマデウス』は対照的な2人の物語ですもんね。
音楽、特にバンドをやっていると、『アマデウス』のテーマってバッと見えてくる感じがあって。サリエリはモーツァルトの音楽を一番評価してるんですよ。一番評価してるけど一番嫉妬してて破滅に追いやるわけですけど、それってバンドをやっていると、岩井くんともそうだしDAIKIくんともそうだし。ある意味すげえやつだから一緒にやってるんです。自分がリスペクトできる相手とやってるんですけど、その中で自分が嫉妬されているなっていうのを感じたこともあるし、自分が嫉妬しているなと感じることもある。でもそれって才能に嫉妬してる時点で僕はその人を一番評価してる人間なんですよね。このジレンマが『アマデウス』を観ていて好きなところで、『青のオーケストラ』にもそれを感じたんです。音楽って綺麗事じゃなくて、やっぱりスキルや音楽的なレベルで優れている・優れていないってあると思うんです。「みんな違ってみんないい」っていう簡単な世界ではないと僕は思っていて、それがちゃんと描かれてるなって思いました。
――軽快っていうよりも、切迫した印象がある曲なのはそのせいかもしれないですね。
最初、ゆったりしたストリングスの曲でいこうかなと思ってたんですけど、徐々に『アマデウス』と被ってきて、狂騒感というか自分の人生がどんどん転がっていく、分かってるんだけど答えを見い出せずっていう。それは僕らがライブをやっている時に感じているもがいてる感じと同じなんですよね。分かってないですよ、答えなんて。なんですけど、分からないから、それを表現したいから、歌詞にしたり人前に出て「こんなんかな?」って歌ってると思うんです。それを僕は漫画を読んで「そういうことなんだな」って重ねちゃったので、書き下ろしとしてはやりやすかったですね。
――アレンジ面で雄貴さんがこの曲でやりたかったことって何ですか?
ストリングスが思い浮かんだ段階で「これちゃんと録らないとダメだな」って思いました。今ソフトも再現力高いから、アレンジの後ろ側のレイヤーだったら全然それでいいと思うんですけど、自分の頭の中に鳴ってたのはストリングス主体の曲だったので、これはちゃんと録らないとなっていうのはあって、今回レコーディングをちゃんとしたんです。今までは一人の人に何本か録ってもらったやつをこっちで編集してオケを多くしたりしてたんですけど、実際に演奏者さんに来てもらって。バイオリンとビオラとチェロの3人にその場で一緒にレコーディングしてもらうというのは今回初めてやったので、すごく刺激的で楽しい体験でした。連続した音なので、だからこそ揺らぎとかが全然違いましたね。味がある食べ物と、同じ見た目の味がない食べ物ぐらい(笑)の違いは「やっぱりあるんだ」って衝撃を受けちゃったので、今後ソフトウェアのストリングスは入れられなくなっちゃうなと思いました。
――全体像としては先ほどおっしゃっていた狂騒感のあるものでしたか?
僕らはアニメなどの作品に曲を書き下ろす時に、作品の登場人物のことを歌詞で書いたり、作品をそもそも歌詞にするということをやり始めたら、その時は大体困ってるんですよね。でも今回は全くそうじゃないので、関係はあるんですけど無関係と言ってもいいっていう曲にちゃんとなってるなと思っていて。だからちゃんと“テーマ曲”ですよね。僕は漫画を読んで映画の『アマデウス』に思い至ったんで、『アマデウス』のティザー映像、しかも映画公開当時の古い画質の動画を見ながら最初バーッて作っていったんです。レコーディングもずっとそれを見ながらやっていたんですけど、結構激しいわけですよ。あの映画のぶっ飛んだシーンがバンバンバンバン出てくるんですけど、それに合わせてやってたから、たぶんそれでカオスなリズム感になったんじゃないかなと思います。
――これは若いリスナーの方も『アマデウス』を観ていただいて。
ほんとにいろんな人に刺さるんじゃないかなと思います。特に現代の人たちのちょっと孤独な考え方に結構刺さるんじゃないかなと思いました。
――歌詞にバッハが登場することも、また一つイメージを広げています。
バッハの対位法をちょっと勉強したことがあって。自分の選んでる曲のフレージングとかメロディの動きが「なんでいつもここはハマりがいいんだろう?」と感じてた部分って全部対位法なんだと分かって。バッハの曲がなぜかスッと入って来るのって「あ、それか」と思ったんですよ。いろんな曲を聴いてきた中で自分が「好きだな」と思う瞬間っていうのは、バッハがやってたことがずっと繋がってここに来てるんだなっていうのに衝撃を受けました。
――メンバーで曲を形にしていくプロセスはどうでしたか?
僕がちょうど体調を崩した時だったんです。それこそ『アマデウス』ではモーツァルトが床に伏してしまい、そこに来たサリエリに曲を書かせるんですよ。楽器はなくて全部口頭で指示して楽譜書かせて、2人の頭の中には音楽が鳴ってるんです、しかも新曲が。そのシーンがめちゃくちゃ好きなんですけど……なんでそのシーンが好きかっていうと僕らの作り方が結構それに近くて、「アイディアあるよ〜、はい聴いて、これみんな考えてね」じゃなくて、「ここはこういう感じなんだよね」って弾いてもらったり。僕がスコアをみんなを“使って”書いている感じなんだなと思って。ソファーに寝転がりながら「ごめんね。ちょっと僕楽器弾けない今日」って音だけ言って、「あれ?これモーツァルトの映画であったやつだ」と思って(笑)。それが一番今、自分に合ってる作り方ですね。パソコンに向かうんじゃなくてハミングで伝えて「ギターここら辺、ここら辺」ってやることが最近どんどん増えてます。
――本当にモーツァルトとサリエリみたいになっちゃってますね(笑)。そして次回のツアーは何か作品を掲げているツアーではないと思うのですが、タイトルの“TRITRAL”というのは?
『MANSTER』『MANTRAL』、そして『BLUE』の3枚を出したじゃないですか。それはちゃんと3枚で成り立っているはずなんですよ。なんですけど、『あおにもどる』をやったことによって『MANSTER』『MANTRAL』がちょっと分離しちゃったなと思っていて。バンドとしての音楽的なところで言うと、攻めたり研究・挑戦したり、結構ぶち込んだ作品だったので、もうちょっと面白い伝わり方するかなっていう、若干フラストレーションが自分たちに対しても聴いてくれた人たちに対してもいい意味であって。『BLUE』と一緒に作ってたからこの3枚なんだよなっていうところで言うと、まず3枚あるんだってことを伝えずに終わらせるのもったいない。で、今どこに僕らがいるのかって言ったら、あの3枚を出したところに基本的にはまだいるはずなんですよね。それのツアーが今回の“TRITRAL”になっているという感じです。
――音楽的にGalileo Galileiが今どこにいるのか?と。
そうですね。だからこそポスターではみんなで地図を見ていたり……あともう一個実は狙いがあって。今回のツアーの場所を東福阪にしていて、これはファンにも知って欲しいことなんですけど、みんなやっぱり地方に来て欲しいって言うし、この中に入っていなかったら残念がるんですけど、じゃあいっぱい回ると明らかに人の動きがバラバラになっちゃって集客が偏るんですよね。それがツアーをいろいろやってきて気になってたので、そこで今ちょっとGalileo Galileiのライブのやり方として考えたいことがあって。僕らが稚内出身でっていうところでミュージックビデオ撮ったりした時に、ファンの人たちが稚内に行ってくれるんですよ。それって旅行させてるわけじゃないですか。で、行った人たちは僕らにゆかりのある場所巡りも含めて稚内っていう場所自体を楽しんで帰ってくれてるんですよ。これっていろんなところをツアーでまわってる僕らだからこそ起こせるんじゃないかなと思ったんですよね。稚内じゃなくても。ライブに来たときについでに旅行して帰るっていうのを思い出にしてもらうっていうところまで、人の動きを作れないかなって思っていて。それで三大都市という考えでの場所選びでもあったという感じですね。だからポスターと一緒で(笑)、日本地図を見ながらみんなで考えてたんです。
――(笑)。前回の『あおにもどる』は東京で単発でしたが、ファンの皆さんの想いの質量がすごいなと思いました。
札幌で“忘年会”ってのを去年やったんですけど、その時もかなり道外から来てくれて、北海道在住の人たちと北海道に来てくれた人たちでご飯食べに行ったりだとか、夜の北海道を楽しみに行ってる様子をちょっと見て、めっちゃいいなと思って。別にそこでGalileo Galileiの話しをしなくたって僕はいいんですよ。行ったことを自分の思い出にしていってくれるきっかけになっただけですごく幸せだなと思っていて。それが作れたらいいなっていう風に今考えていますね。ツアーはそれができるところがあるんじゃないかなと思うので、今後土地っていうのもちょっとフォーカスして何か作りたいですね。例えば聖地巡礼しようとしたら大阪も行かなきゃいけないとか、そういう場所に僕らの力でできることはやっていこうという考えです。
取材・文=石角友香
撮影=Hideyuki Seta
リリース情報
2025年10月6日(月)デジタルリリース
NHK Eテレ アニメ「青のオーケストラ Season2」のオープニングテーマ
URL:https://virginmusic.lnk.to/GG_Amadeus
ツアー情報
11月23日(日・祝)大阪 BIGCAT(17:00/18:00)SOLD OUT
11月26日(水)東京 Zepp DiverCity(18:00/19:00)
11月28日(金)福岡 DRUM LOGOS(18:00/19:00)
【
前売り 6,500円(スタンディング)
2階指定席 7,000円(Zepp DiverCity公演のみ)
U18
※小学生以上有料
※U-18
ライブ情報
2025年12月9日(火)ビルボードライブ東京(1日2回公演)
1stステージ開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
2025年12月10日(水)ビルボードライブ大阪(1日2回公演)
1stステージ開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
【東京】
DXシートDuo ¥23,200-(ペア販売)
Duoシート ¥22,100-(ペア販売)
DXシートカウンター ¥11,600-
S指定席 ¥10,500-
R指定席 ¥9,400-
カジュアルシート ¥8,900-(1ドリンク付)
【大阪】
BOXシート ¥22,100-(ペア販売)
S指定席 ¥10,500-
R指定席 ¥9,400-
カジュアルシート ¥8,900-(1ドリンク付)
9月26日(金)正午12:00=Club BBL会員・法人会員先行(ビルボードライブ)
10月14日(火)正午12:00=ゲストメンバー・一般発売(ビルボードライブ/e+)
ビルボードライブ公式HP:https://www.billboard-live.com/