「俺らが死んでも意思を繋いでいきたい」DNA GAINZが『風に乗った笑い声』ツアーファイナルで刻み込んだ想いと野望

レポート
音楽
2025.9.2

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DNA GAINZ『utopia night』release tour『風に乗った笑い声』2025.8.14(THU)東京・下北沢SHELTER

2025年8月14日(木)、DNA GAINZが東京・下北沢SHELTERにて『風に乗った笑い声』のツアーファイナルを迎えた。全国10カ所を旅した同ツアーは、7月にドロップされた6thシングル「utopia night」を引っ提げたもの。ここでは対バンに招いた健やかなる子らとApesからの激励を、真っ向から迎え撃ったDNA GAINZのステージをレポートする。

4月にリリースした5thシングル「HEARTBEAT」を携え、自身初のワンマンライブを含む4公演を展開したツアー『発展土壌』。その開幕を告げた地も、ここ下北沢SHELTERだった。あれからわずか4カ月。2つの旅を経て、この場所へ舞い戻ってきた4人は「HEARTBEAT」で始まりの号砲を鳴らす。前作の顔を担ったこの曲をド頭に配する構成には、ツアーで逞しくなった現在地を示さんという曇りない思いが滲んでおり、ワンマンライブをひとつのマイルストーンに次のステップへ手をかけたDNA GAINZのリアルを目の当たりにする。考えてみれば、彼らが主題に掲げ続けてきた生命の神秘や壮大さ、発光を、エレクトロニカルなビートが発生させる肉体的な呼応によって表現しようとした一曲が「HEARTBEAT」だったはず。シャープなイタガキタツヤ(Gt)のギターと歩を進めるように一音を踏みしめるはだいぶき(Ba)のベースは、音楽的なビルドアップを我が物として定着させたことを裏付け、オーディエンスと視線を熱く交わしながら歌うながたなをや(Vo.Gt)の姿は、4人がひと際ゼロ距離のコミュニケーションを希求するようになった事実を伝えていく。

こうした深化は、続く「PARADISE HELL」や「もう好きにしてください!」と投下した「Loop!!!」からも伺えるもの。しなる六弦と宏武(Dr)のビートが轟く「PARADISE HELL」からも、<今月も俺一つ季節を超えた 今日は何を食べて 何を話して生きようか>と堆積する日々を歌う「Loop!!!」からも、輪廻転生や天国、地獄といったプリミティブな祈祷や信仰に通ずる本質的なワードが浮かんでくるわけだけど、こうした途方もないほどに漠然としたテーマが、筋肉をつけたアンサンブルを通じて余すところなく表現されるようになったのである。死生観をカットしてそれぞれのポケットへと届けうるバンドへ大成した背景には、ながたが「こんなにバンドについて考えた夏はなかったです」と語ったように、2カ月というショートスパンでツアーを完遂した胆力もあっただろう。

しかし、それだけではない。水色の光と共に音の洪水が押し寄せる中、「骨」の一節を引用しつつ「この街も笑い方もずっと続くから!」とシャウトした通り、あるいは「ラフラブ」で「みんな1人1人に暮らしがあります。全員見えてるから」と語りかけた通り、DNA GAINZの目にはハッキリと眼前の個人が映るようになったのではないか。それは換言すれば、身近な体温を感じ取れるようになったとも記せるのだが、何よりも都会のネオンに隠れて見えなくなっていた各々の暮らしやそれぞれのディストピアに目が向くようになったのだと思う。地元を離れ、辿り着いた場所を、街という生態系として捉えるのではなく、あくまでもそこにあるのはパーソナルな家であり、営みであると認識すること。「HEARTBEAT」のインタビューで「何かが解消されている感覚というか、音源でもライブでもみんなが聴いてくれていることが分かってきたことで、この気持ちは自分だけが抱いているものじゃないし、これで合っているんだと強く思えるようになった」と話してくれた感覚が拡大してきたからこそ、絡まっていた思考の糸と強情だった心は解けていったのだ。

「Punky Blue Kids」で狂騒を演出したのち、ながたは「音楽が好きな理由は、心と身体が一つになっている時に気持ち良くなれる魔法だからです」と話し、こう言葉を重ねた。

「もやもやする霧のかかった世界から抜け出したいけれど、ずっとそこにいるのも心地良くて。でも、音楽の世界に、ライブという場所にいるとその先にいける感覚があるんです。みんなの笑い声を世界的に何百年単位で集めて、でっかいことして、俺らが死んでも第二のDNA GAINZに意志を繋いでいきたいです。もう、音を超えていきましょう」。

虎が死してなお皮を残すがごとく、我々が骨になっても意志や声が残存し続けてくれること。時間も場所も超越した先へ、何かを託そうと歌を瓶に詰めて流すこと。このツアーに込めた思いとDNA GAINZが成さんとしている野望をまとめあげ、「utopia night」が届けられる。<一昨日食べた晩ご飯さえ思い出せずにいる 君といたはずなのに>と虫食いになっていく記憶に胸を締め付けられながらも、心のどこかに引っ掛かって外れない一夜が刻まれていく。脈々と受け継がれてきたバトンがこの手にあることを確かめた先で到達する<ずっとこのままを繰り返す 僕らはいつも離れてく もう一度壊してそばにいて>の1ラインは、破壊と再生そのものだ。そして、そのループとは4人がこれまでの作品群を通じて辿ってきた音楽的な成長ともオーバーラップしていた。

終止符を打った「GOLD HUMAN」の最中、ながたは「上の人にも下の人にも聴かせてやりたいです」と口にしていたが、その台詞にはメンバーが心に決めたこの街で生きていくための覚悟が照射されていた。「私たちいい子で信じる力を散々使って生きている」で天国を、「DNA STATION」で地獄を、そして「HEARTBEAT」で街から天上へ這い上がろうともがく姿をしたためてきたDNA GAINZ。2本の足で立っているこの場所こそが求めていたものだったのだと自覚した彼らは、この先も笑い声を求めてバンドワゴンに乗り続けていく。

取材・文=横堀つばさ 撮影=金子千夏

イベント情報

DNA GAINZ『utopia night』release tour
『風に乗った笑い声』
2025.8.14(THU)東京・下北沢SHELTER
 
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