旬の“初もの”を味わう喜びは、音楽にもある! スペインADDA交響楽団来日公演、ソリスト村治佳織インタビュー
村治佳織 (C)Kazumi Kiuchi
今秋、スペインの新星オーケストラ・ADDA交響楽団(以下ADDA)が初来日する。10月29日の福岡を皮切りに11月8日まで、山口、川崎、東京、大阪と、各地を巡る。プログラムは、ラヴェル(1875~1937)生誕150年にちなんで、名曲「ボレロ」や「亡き王女のためのパヴァーヌ」など。
ADDAは2018年にスペイン東南の地中海沿いの街、アリカンテで設立された。拠点はコンサートホールのADDAオーディトリアムである。「進取の精神」を感じる活動展開で人気上昇中だ。公式ホームページの団員写真なども、動きのあるポーズで新鮮な印象を受ける。
ADDA交響楽団
交響曲やオペラといったクラシック作品だけでなく、ジャズやポップス、タンゴなどレパートリー豊富。なかなか味わい深い演奏をする。ステージをライティングして演出するなど、新しい取り組みも見て取れる。
録音にも熱心で、すでに15枚以上のアルバムをリリース。21年に亡くなったジャズピアニスト、チック・コリアの楽曲をシンフォニックにアレンジして演奏したライヴのアルバム「RITMO~チック・コリア・シンフォニー・トリビュート」は、24年にグラミー賞の「最優秀大規模ジャズ・アンサンブル・アルバム賞 (Best Large Jazz Ensemble Album)」にノミネートされた。
この伸び盛りのADDAと共演するのは、クラシックギタリストの村治佳織。ツアーに先駆けてアリカンテを訪ね、リハーサルをし、公演もする(24日夜:現地日付)。
「17年以来8年ぶりのスペイン訪問です。アリカンテに行くのもADDAとの共演も初めてで、とても楽しみにしています」と意気込みを語る。
ADDAとの演奏曲は「アランフェス協奏曲」。スペインの盲目の作曲家ホアキン・ロドリーゴ(1901~99)の傑作である。1933年に結婚したロドリーゴは、ピアニストの妻と新婚旅行で「アランフェス宮殿」に訪れた。そのときの思い出をもとにした、3楽章構成のギター協奏曲で、スペイン内戦(1936~39)の頃に作られた。
「もう100回くらい演奏したかな、きちんと数えてはいませんけど(笑)。とにかく何度弾いても新たな弾き方を教えてくれる、奥深い曲です」と村治。
スペイン王室の保養地に作られたこの歴史的建造物や庭園は、今や世界遺産として知られる。同国中央部にある首都マドリッドから電車で約1時間南下すればたどり着く観光スポットとして、人気を呼んでいる。
そよぐ風を感じ、鳥のさえずりや噴水の音、川のせせらぎなどを聞きながらの散策が目に浮かぶ曲調。抜粋で演奏されることも多い第2楽章には、作曲当時、長子を流産した妻への慰めが込められている。愁いに満ちたロマンチックな旋律をご存じの方も多いことだろう。
「今年はこのツアーに向かって気持ちを盛り上げようと、自分のコンサートでもスペインの曲を多くして、心を整えてきました」
村治には、巨匠ロドリーゴとの忘れられない思い出がある。最晩年の99年に、マドリッドの自宅で面会がかなった。毎日放送のドキュメンタリー番組『情熱大陸』の取材も入り、放送された。
「ご高齢で耳が遠くなられてたので、スムーズな会話はかないませんでしたが、ネクタイを締めて迎えてくださって…。ロドリーゴさんの『小麦畑で』と『古風なティエント』をその場で演奏しました。お目にかかったのは1月、悲しいことに約半年後の7月に亡くなられましたが、この1回の出会いは、私にとってとても大きな力になりました」
その後は、家族との交流に発展。「ロドリーゴ生誕100年」の01年に発売したDVD「CONTORASTES(コントラステス)」は、オールスペインロケで、現地に3カ月ほど滞在した。このとき、生前ロドリーゴが夏を過ごしたバレンシアの別荘を訪問できた。
「娘のセシリアさんが車で連れていってくださったんです。水着を貸してくれて、一緒に海で泳ぎました。海水が心地いい最高の温度で、ロドリーゴさんもこの海を感じながら生きていらっしゃったんだと思うと、とても感慨深かったです」
楽団を創立した首席指揮者のジョセップ・ビセントは、かなりの求心力が備わっているようだ。
「マドリッドのオーケストラでヴァイオリンを弾いている友人によると、とてもエネルギッシュだそうで、テレビのオーディション番組の審査員もされてるそうです。最近は同世代のマエストロと演奏することが増えてきて、ビセントさんも少しお兄さんだけど同世代。お会いする日を楽しみにしています。お客さんには、若くて勢いのあるオーケストラとの演奏から“スペインの本場感”を味わってもらえるとうれしいです」
取材・文=原納暢子
公演情報
ギター:村治佳織
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
ビゼー:カルメン組曲
ラヴェル:ボレロ
ギター:村治佳織
プログラム
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
11月8日(土)14:00 大阪 ザ・シンフォニーホール 出演:マルティン・ガルシア・ガルシア /村治佳織