『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』を楽しみ尽くすために。五つの酒蔵をめぐる予習レポート
撮影:小杉美香
「上諏訪」に、酒の桃源郷がある
山々に囲まれ、諏訪湖を抱く長野県諏訪市。その中央を走る国道20号沿いに、日本酒の酒蔵が5つも密集したエリアがある……例年そこでは街道を歩行者天国にして、地元グルメのおつまみ屋台とともに、各酒蔵自慢の美酒を呑んで呑んで呑みまくる“祭り”が催されているという……
日本酒好きにとって夢や伝承の類のような話だが、事実である。参加の枚数が限られていることもあって大々的な宣伝を目にする機会は少ないかもしれないが、この『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』、実は1998年スタートという長い歴史のあるイベントで、例年
が事前に完売する人気ぶりなのだ。
「上諏訪」駅は「新宿」からなら特急あずさでおよそ2時間15分、意外とすぐである。コンクリートジャングルで勤務する身としては、降り立っただけですでに空気が美味しく感じるような。 撮影:大塚正明
2025年10月4日(土)の第41回『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』開催を数週間後に控えた、ある夏の日。spice編集部はひと足早く現地に降り立ち、イベントを200%楽しむための予習まちあるきを観光敢行した。「諏訪五蔵(すわごくら)」と呼ばれる5つの酒蔵それぞれがどんなところで、どんな酒を醸しているのか? そして周辺の街はどんな雰囲気なのか?
街も酒も魅力が溢れていたため、正直言ってこのレポートは長くなる。なのでどなた様もまずはサラ〜ッと、目を通してみてほしい。そしてもしもあなたが酒好きならば、後ほど時間のある時に、一杯やりながら全文をニヤニヤと読み進めてみてほしい。このレポートが、イベントを楽しみ尽くすための副読本のようになれれば幸いである。
駅前からスタート!
こちらがイベントの舞台となる甲州街道(国道20号)だ。 撮影:大塚正明
「上諏訪」駅から信号2つ分ほど歩くと、街道沿いには大正ロマンを感じるレトロな建物がちらほら……「看板建築」と呼ばれる、“正面だけ” 西洋風にシャレ込んだ、デザイン性の高い建造物である。
撮影時は定休日だったけれど、現役バリバリで営業されている店舗である。 撮影:大塚正明
おお、建築マニアでなくとも思わずシャッターを切りたくなる、ノスタルジックな佇まい。キョロキョロしながら歩いているうちに、あっという間に酒蔵密集エリアに到着だ。
気になる、試飲について……
それぞれの酒蔵には、写真のようなコイン式試飲サーバーが共通で設置されている。試飲用コインを購入することで、マイペースに試飲を楽しめる仕組みだ(蔵によってはおまけがあったり無かったり、1杯あたりの価格が異なったりする)。基本的に、この街に遊びに来た人はいつでもこのスタイルで五蔵めぐりを楽しめるようになっているのだ。
こちらは「本金」の試飲サーバー 撮影:小杉美香
ただし、『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』の日は特別なお祭りなので、試飲はテントで注ぎ手が直接おちょこに注いでくれるスタイルへと変化する。セルフサービスの試飲はできなくなるのでご注意を(つまり、イベントのを持っていれば試飲し放題だが、持っていない場合は試飲ができない)。イベント中も商品の購入は可能なので、その場でお気に入りの酒を買って飲んでいる人も多いそうだ。
はじめに言ってしまうと、諏訪五蔵の酒はどれも基本的に近い味わいを持っている。はっきり言えば似ている。同じ土地の水や米を使って同じ土地で造っているのだから、当然と言えば当然である。けれど実感をもってお伝えするが、似ているけれど決して同じではない。醸造する空間の微妙な違いや、工程のわずかなタイミングの違いなど……複雑に絡み合った要素が、飲む人の感性に異なる印象を与えるのだろう。諏訪五蔵の飲み比べとは、同じエリア内の酒の微妙な違いや味のグラデーションを愉しむ、非常に繊細でオトナな試みなのである。
それでは以下、「諏訪五蔵」を駅から歩いて近い順にめぐっていこう。
「舞姫」
「舞姫」到着! 撮影:大塚正明
「上諏訪」駅から歩くことおよそ7分。一番最初に出会う酒蔵はこちらの「舞姫」だ。THE・酒蔵なビジュアルに思わず顔がほころんでしまう。
「舞姫」にてお話をうかがった小林さん。 撮影:大塚正明
迎えてくれた副杜氏の小林さんは、にこやかな女性の方でびっくり。手にした「プリンセスタイム ブルーボトル純米吟醸」は、小林さんがプロデュースした “働く女性を癒したい” という想いで造られた一本だ。仕事で疲れた帰宅後にワイングラスで味わえば、自分だけのプリンセスタイムの始まりである。シンデレラブルーのパッケージにもグッときて、メインターゲット層ドンピシャの筆者は試飲しながらニッコニコになってしまった。
酒蔵に隣接した直売店スペースで、試飲を楽しみながら好みの酒を探すことができる。 撮影:大塚正明
株式会社舞姫の代表的な銘柄は「翠露(すいろ)」、「信州舞姫」、「高尾の天狗」。長野の酒蔵なのに、なぜ高尾? と尋ねてみると、オーナーの出身地である八王子を中心とした東京産米を使用して、長野で醸しているのが「高尾の天狗」なのだそう。八王子と諏訪のコラボという、ちょっと変化球の逸品である。そのほか猫好きのための酒「信州ねこ正宗」など、心を狙い撃ちするラインナップが揃っている。
店内にて 撮影:大塚正明
『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』で試飲に出す予定のものの一部を、先取りで紹介してもらった。諏訪特産品のかりんを使った「かりんの酒」や、「翠露(すいろ)」シリーズの「翠露natural」など。「翠露 Natural」は低農薬にこだわった契約農家さんの米で仕込んだという、オーガニックな味わいだ。
味噌や醤油を手がけていた醸造所から分家し、1894年に酒造りを始めたという舞姫。店内に何気なくディスプレイされている古い帳簿は明治・大正時代のものである。 撮影:大塚正明
小林さんに「舞姫」の酒の個性について尋ねると、「全体的に甘めです。辛くしようと思っても、水の力や発酵の過程でまろやかさが出ちゃいますね」と語ってくれた。怒られるのを覚悟で今回取材した5つの酒蔵を「上諏訪戦隊 ゴクラジャー」だと仮定するならば、「舞姫」は間違いなく気遣い上手で笑顔の可愛いピンクである。
「麗人」
「麗人」到着! 撮影:大塚正明
「舞姫」の2軒先にあるのが、次なる酒蔵「麗人」だ。近い、想像以上の近さである! ちなみに両蔵の間にあるのは昔ながらの呉服店で、この一角だけでも時代劇に迷い込んだ感がすごい。
「麗人」にてお話をうかがった小口さん。 撮影:大塚正明
迎えてくれた、営業部長の小口さん。麗人酒造は寛政元年(1789年)創業という歴史を持つ。酒の個性や特徴をひと言で表すなら、「麗人」の名の通り「やわらかく、綺麗な味わい」とのこと。
冷たくて清らかな仕込み水。 撮影:大塚正明
入口付近では、湧き出る「仕込み水」を飲めるように柄杓が用意されている。うーん、これが諏訪五蔵の酒造りを支える霧ヶ峰の伏流水か……試飲の合間に飲んでみたら、身体に染み入るような軟水だった。
店内風景 撮影:大塚正明
「麗人」の蔵元ショップは五蔵の中でもかなり広く、種類ごとに丁寧に陳列されたボトルたちは圧巻だ。商品の魅力を紹介するポップも多く、試飲の説明書きに英訳が添えられていたりと、観光客に優しい親切設計である。
数あるラインナップの中から、『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』では「秋あがり(春先に出来た新酒を、夏の間に熟成させて仕上げたもの)」が登場するそうなのでぜひ注目を。数量限定の「秋あがり 純米原酒」は紅葉と鹿のデザインボトルが目にも鮮やかだ。「旨みがしっかりしているので、出汁のきいた和食、煮物などと合わせるのがおすすめです」とのコメントもいただいた。
ビールの販売コーナーにはお土産用のギフトボックスが何種類も用意されている。 撮影:大塚正明
また「麗人」の大きな特徴は、酒造りのノウハウと霧ヶ峰の伏流水を活用して、地ビールやウイスキーの製造にも取り組んでいるところだろう。日本酒の熟成中のため手が空く夏の期間を有効活用するべく、いちから勉強してビール造りに挑戦したのが始まりだという。多角的に酒造りしていく中でも、どこまでもこの土地のものを使って、この土地をアピールできるようなものを販売していきたい、と語る小口さん。ここはこだわりの日本酒に出会える酒蔵であると同時に、“上諏訪らしさ全開” のお土産好適品に多く出会える酒蔵でもあるのだ。
ちなみに『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』では、日本酒に加えてビールのブースも出店するそう。別料金となるが、温泉水を加えて仕込んだというキレのあるビールを試せる点も見逃せない。怒られるのを覚悟で今回取材した5つの酒蔵を「上諏訪戦隊 ゴクラジャー」だと仮定するならば、「麗人」はきっとクレバーな戦略で戦場を制するブルーである。
信州グルメで腹ごしらえ
「レストラン割烹 いずみ屋」 撮影:大塚正明
イベント当日は地元グルメの屋台が立ち並ぶとのことだが、取材時にはまだ無いので駅前に戻って昼食をとることに。お邪魔したのは地元の方々で賑わう「レストラン割烹いずみ屋」だ。
信州味噌を使ったタレが決め手の「みそ天丼」(¥1100) 撮影:大塚正明
こちらのお店は屋台は出さないそうだが、駅と会場の間という立地もあって、イベント当日は例年ここで腹ごしらえしてから呑みあるきに参加していく人も多いそうな。
店内の様子 撮影:小杉美香
店内の目立つところにズラリと並んだ名札……実はこれ、お店の「五銘柄 利き酒セット(¥880)」の正解者の名前である。ここ1年間の正解者かな? と思いきや、“20年間での” 正解者だと聞いて、取材班そろってのけ反ってしまった。諏訪五蔵の利き酒の難易度がどれほどか、お分かりいただけただろうか……? 我こそはという方はぜひチャレンジして栄誉(+賞品のお食事券)を勝ち取ってみてほしい。
「本金」
「本金」に到着! 撮影:大塚正明
続いては「本金(ほんきん)」の酒蔵である、酒ぬのや本金酒造へ。五蔵の中でも珍しく街道沿いに大きく入口が開放されており、入りやすさがピカイチである。取材中も、観光客たちが試飲を楽しむ姿が特に多く見られた「本金」。誰もがその酒に惹かれて来るのはもちろん、加えてそれは、中から絶え間なく明るい声が聞こえてくるからかもしれない。
「本金」にてお話をうかがった宮坂さん。 撮影:大塚正明
笑顔が爽やかな「本金」のおかみさん、宮坂ちとせさん。手にしているのは、とりわけ地元に愛されているという自信の銘柄「太一」だ。本金という左右対称の名前には“裏表のない商売”という意味が込められているという。帰りのタクシーで運転手さんに五蔵めぐりの話をしたら「どこが気に入った? 私は〜本金ですね〜! あとは……」と酒語りが始まり、真っ先に名前が挙がったこの蔵は本当に愛されているんだなぁ……としみじみ実感した。
こぢんまりとした店内には「本金」「太一」といった銘柄がぎっしり。 撮影:大塚正明
この酒蔵の個性やキャラを聞いてみたところ、「穏やかでやわらかい味わい」とのこと。『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』では、「太一」のケグサーバー(圧縮充填によって搾りたての風味を保ったサーバー)などが登場する予定だそうだ。
試飲後にふと、産地や製法に大幅な違いが無いにもかかわらず、それでも生まれる違いって何なんだろう……そんな疑問をつぶやいたら、おかみさんからこんな一言がさらりと返ってきて笑ってしまった。
「うーん、愛情じゃない?」
飴色になった戸棚や机に風情が漂う…… 撮影:大塚正明
「本金」は五蔵の中で最古の「真澄」から分家した酒蔵で、1756年創業という非常に長い歴史を持ちつつ、小さな造り酒屋らしいアットホームな雰囲気をまとっているのが魅力だ。ちなみに創業者の宮坂伊三郎氏は学者で、諏訪の街を発展させるべく諏訪湖にエビやシジミを放流したりした名士らしい(おかげで今日では手長エビは諏訪湖の名物である)。おつまみ屋台でエビを見かけたら、そんな歴史に想いを馳せて「本金」の酒と合わせるのもオツなのではないだろうか。
試飲セットは基本的にどこの蔵も共通で、こんなイメージ。 撮影:大塚正明
試飲の際には、元パティシエというおかみさんプロデュースの「酒粕クラッカー」がおまけについてくる。塩気と酒粕の香りが絶妙! また、うっかり写真も撮らずに完食してしまったけれど「日本酒アイスクリーム」が美味しかったことも特筆しておきたい。イベント当日には試飲のほか、スイーツやオリジナルグッズの販売も行うそうだ。
怒られるのを覚悟で今回取材した5つの酒蔵を「上諏訪戦隊 ゴクラジャー」だと仮定するならば、「本金」は明るいムードメーカーのイエローに違いない。
「横笛」
「横笛」に到着! 撮影:大塚正明
そんなわけで、五蔵も残すところあとふたつ。続いては、昭和30年創業という比較的若い酒蔵の「横笛」に突撃である。
「横笛」の入口。通りの向こうには…… 撮影:大塚正明
ご覧の通り、「横笛」のまさにお向かいが「本金」。口の中の残り香が消えないうちに移動できる、絶好の飲み比べスポットである。
「横笛」でお話をうかがった伊東さん。 撮影:大塚正明
迎えてくれたのは、「横笛」を醸造する伊東酒造株式会社の社長である伊東さん。「横笛」の個性を表現するならば「甘口だけど甘くない、辛口だけど辛くない、ちょっと変わった酒」とのこと。クセが強くないので食事しながら楽しめる、なんなら「横笛」をチェイサーのように呑みながら他の日本酒を楽しむことさえできてしまうという。
比較的コンパクトな店内には、代表銘柄「横笛」各種のほか、純米仕込みの梅酒などが所狭しと並んでいる。 撮影:大塚正明
「結局作り手自身が、自分の飲みたい酒・好きな酒を造るからこそ、これだけ近い場所に5つの蔵が集まっていても、微妙な違いが生まれるのでは」という伊東さんの言葉には深く納得である。だからこそ、このエリアの呑みあるきは面白いのだ! とハラに落ちる思いだった。
代表銘柄「横笛」 撮影:大塚正明
ちなみに同社のホームページでは「横笛」命名の由来となった女官・横笛の悲しい恋物語についてがっつり記載があるので、文学的な背景がお好きな方はぜひチェックを。
店内にて 撮影:大塚正明
店内でちょっと気になるものを発見……強炭酸水とセットで販売されていた、炭酸割り専用大吟醸「soda ni aura」という大分攻めた新商品である。思いがけず甘くなりすぎた大吟醸を、それならばソーダ割りで楽しもう! というヤンチャな発想で生まれた商品らしい。
なお『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』では定番のラインナップに加え、イベント用に用意した実験的なアイテムや、例年大好評だという「大吟醸のプリン」が数量限定で登場するという。
怒られるのを覚悟で今回取材した5つの酒蔵を「上諏訪戦隊 ゴクラジャー」だと仮定するならば、「横笛」は若々しい挑戦に満ちたグリーンなのではないだろうか。
甲州街道をゆけば
さて。最後のひとつである「真澄」は、ほかの酒蔵からやや離れた場所にある(といっても「横笛」から徒歩10分程度)。
火照った頭を冷やしながら、甲州街道をさらに奥へ進んでゆく。間にはちょうどよく背景のひらけたコンビニがあり、水などを調達しつつ、上諏訪の街が山に囲まれているのだと改めて感じることができる。
周辺は観光地というより住宅街。呑みあるき時には近隣の方の迷惑にならないよう、グッドマナーを肝に銘じたい。 撮影:大塚正明
ちょっと寄り道。側溝を流れる水に誘われるように、街道から横にのびる小路を行けば……
八劔神社(やつるぎじんじゃ) 撮影:小杉美香
諏訪大社の摂社である「八劔神社」がドーンと構えている。諏訪湖の御神渡り(凍った湖面に亀裂が入る現象)を観測・報告する神事でちょっと有名な神社で、足を踏み入れるとどことなく清浄な空気が漂う。ちなみに手水は温泉でとっても温かかった。
「真澄」
さて、いよいよ最後のひと蔵「真澄」へ。創業は寛文2年(1662年、ざっくり言えば江戸城本丸が竣工した頃)。五蔵の中でも最も広く流通し、高い知名度を誇る “上諏訪の酒” のトップランカーである。
「真澄」に到着! 撮影:大塚正明
モダンな雰囲気の漂う、堂々たる佇まいにドキドキ……
「真澄」にてお話をうかがった岩波さん。 撮影:大塚正明
お話を聞いたのは、宮坂醸造株式会社・企画部の岩波さん。こちらもかつては小さな酒蔵だったそうだが、戦後にここで新種の「7号酵母」が発見されたことで一躍有名になり、大きな発展を遂げたのだという。「7号酵母(協会7号、真澄酵母とも)」とは、いわば日本醸造協会が認定・頒布している “美味しく造るためのお手本酵母” である。「7号酵母」は培養されて日本中の蔵へ広まってゆき、数ある協会酵母の中でも、現在最も多くの酒蔵で使用されているのだそう。ここはまさに、近代日本酒の礎と呼ぶべきレジェンド酵母の故郷なのだ。
ショップ内はまるでホテルのよう。取材陣も大興奮のおしゃれっぷりである。酒のコーナーの他に、うつわやライフスタイルグッズなどを扱うコーナーもある。 撮影:大塚正明
「真澄」は360年にわたる歴史の中で、5年ほど前にリブランディングをして「7号酵母」への原点回帰に舵を切ったところ。流行に左右されず、発祥蔵としての誇りを持って7号にこだわった酒造りをしていきたい……と岩波さんは語る。ひとくちに7号といっても、中にはキャラを持った個体もある。宮坂醸造では酵母の中から独自の個性を持つものを選別・培養することでバリエーションを生み出し、「7号酵母」とともに挑戦や革新を続けているのだそうだ。
「真澄」入口付近の神棚。同様にどこの酒蔵でも、きれいに整えられた神棚が店を見守っていた。 撮影:大塚正明
個人的には、ひと通り語ってくださった後の岩波さんが「でもまあ……お酒造りって神頼みなんですよ」と神棚を見上げていた姿がとても印象的だった。
店内にて 撮影:大塚正明
『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』での注目ポイントは、蔵元限定発売の樽酒純米酒だ。やっぱり樽からおちょこに汲んでもらうとテンションが上がるもの。お祭りの日を彩る特別な一杯となりそうである。
優雅な試飲スペース 撮影:大塚正明
ショップの隣には、なんと試飲用の優雅なテイスティングルームが用意されている。庭の立派な松の木は、元々は盆栽だったものを地植えし、江戸時代から長い時間をかけて庭のシンボルにまで育て上げた……と伝えられているらしい。
五蔵を巡る場合、いい意味で異質なこの「真澄」体験を、最初に持ってくるか、最後に持ってくるか、はたまた中間にアクセントとして持ってくるか……好みが分かれそうなところである。ちなみに試飲した日本酒はどれも美味しかったが、よく冷えた「糀あま酒」も極上だったとお伝えしておきたい。
怒られるのを覚悟で今回取材した5つの酒蔵を「上諏訪戦隊 ゴクラジャー」だと仮定するならば、堂々たる歴史と品質を備えて走り続ける「真澄」には、リーダーのレッドが相応しいだろう。
脚をのばしてまち歩き
「松尾商店」 撮影:大塚正明
酒蔵でのインタビュー中に「美味しいよ」との噂を聞いて、甲州街道から諏訪湖方面へタクシーで7分ほど移動。やって来たのは「松尾商店」だ。家伝の味噌と漬物を販売する、明治38年創業の老舗である。
店内の様子 撮影:大塚正明
入った瞬間、ふわりと鼻をくすぐるいい匂い! 野沢菜に味噌漬け、信州のうまいもん大集合である。これは買った日本酒によく合うに違いない……と、いそいそお土産を購入する取材班だった。
『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』の当日は、こちらのお店も屋台を出店するそう。お話をお伺いしたところ「信州諏訪にて無添加にこだわった野沢菜漬を製造しています。『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』では、長野県の食文化である、野沢菜漬を化学調味料一切無添加のこだわりの野沢菜漬コロッケを揚げたてでご提供させていたきます。弊社でしかお召し上がりいただけない野沢菜漬コロッケを諏訪の銘酒とともにお召しあがりください」とのこと。
ほか、五蔵近くの「山田養蜂場」や「小林川魚店」など、おつまみに良さそうなグルメが数多く出店するそうなのでお楽しみに。
「松尾商店」のすぐ前に広がる諏訪湖。ああ山よ水よ、美味しいお酒をありがとう……写真に映らないのがもどかしいが、頭上を飛び交うトンビの鳴き声が旅情を盛り上げる。 撮影:大塚正明
遠方からイベント参戦するなら、こうして諏訪湖や高島城といった王道の観光スポットを押さえるのも楽しい(頑張れば徒歩でアクセスできる距離感である)。『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』の開催時間は13時から17時までなので、その気になればイベント前後にちゃっかり観光もできてしまうのだ。
高島城付近のスナック街で見つけたバーにて、一杯。 撮影:小杉美香
なお、取材が定休日と重なってしまい今回のレポートでは触れることができなかったが、「上諏訪」の街には古き良き佇まいを利用したオシャレリノベーション店舗が点在している。なかでも中心的な存在である、カフェを併設した古道具・古材の販売ショップ「ReBuilding Center JAPAN(通称リビセン)」がかなり感度高くていい雰囲気なので、再訪の際には必ずやそこでお茶を飲もう! と決意を固める取材班だった。
ありがとう「上諏訪」、また来ます!
最後に、「上諏訪」駅構内のぶっ飛びぶりをお伝えしてこのレポートを締めくくりたいと思う。
駅のホームにて 撮影:大塚正明
霧ヶ峰を霧ヶ峰を源泉とした美味しい水(もちろん飲用OK)が、蛇口から普通に出る。すごい。隣の蛇口からは、上諏訪温泉の温泉水が絶え間なく流れ出ている。これもすごい。でもそれだけではない。
駅のホームにて 撮影:大塚正明
なんと駅のホーム内に、がっつり本格的な足湯が! もちろんこちらも上諏訪の天然温泉である。改札口で申し出れば「上諏訪駅温泉たまごセット(¥100)」を購入して、電車の待ち時間に温泉卵も作れてしまう。「駅で温泉たまご、作りませんか?」のポップな貼り紙を見てしみじみと、楽しいまちだなぁ……と思った。
さて、2025年の『上諏訪街道まちあるき呑みあるき』は10月4日(土)の開催だ。この記事が出稿される頃にはもしかしたら、は完売してしまっているだろうか。けれど五蔵と地域が一体となって盛り上げるこの祭りは、きっとこの先も多くの日本酒ファンに支えられて続いていく。今年は参加できないという人も、行きたい気持ちを熟成させて来年以降を狙ってみてほしい。
甲州街道沿い約500mに軒を並べる「舞姫」「麗人」「本金」「横笛」「真澄」の五蔵。それぞれの誇りと酒造りへの真摯な想いを知った上で味わう一杯は、格別なものとなるに違いないのだから。
取材・文:小杉美香 撮影:大塚正明、小杉美香
イベント情報
『上諏訪街道 まちあるき吞みあるき』
受付時間:11時~16時 参加用オリジナル「桧枡」への交換受付
■参加
■会場:長野県諏訪市元町諏訪五蔵街
JR上諏訪駅より東京方面に約600m付近。
会場内を走る国道20号線は歩行者専用となります。
※会場へは公共交通機関をご利用ください。
※駐車場のご用意はございません。
※会場周辺での無断駐車は絶対におやめください。
■問い合わせ先:(一社)諏訪観光協会
suwanomi.go@gmail.com
0266-52-2111(受付時間 平日9時~17時)