のん、『Renarrate tour 2025』ファイナル・恵比寿ガーデンホール公演のオフィシャルレポートが到着

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音楽
17:14
のん

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のんが、『Renarrate tour 2025』ツアーファイナル公演を9月23日に東京・恵比寿ガーデンホールにて開催した。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。


のんが9月3日にリリースした2年ぶりの3rdアルバム『Renarrate』。本作を提げての『Renarrate tour 2025』は約2年ぶりのライブツアーだ。そしてそのツアーファイナルが9月23日に東京・恵比寿ガーデンホールで開催された。本名の“Rena”を編み込んだ題を名付けた今回のアルバムとツアー。この命名には強い意志が感じられ、そのタームのフィナーレとなれば始まる前から重要なライブになることは明白だった。

会場BGMでシンディ・ローパーの「Girls Just Want to Have Fun」が流れると観客も手拍子を始め、開演への期待が高まっていく。そしてバンドメンバーであるひぐちけい(Gt)、山崎英明(Ba)、ナガシマタカト(Dr)が登場。各々が楽器を手に取り、音を少しずつ合わせ始める中、のんが静かにオンステージ。全身赤色の衣装を身に纏い、気合十分。「Renarrate tourへようこそ!」という挨拶を告げ、ライブは開幕となった。

1曲目はアルバムタイトルナンバーの「Renarrate」だ。彼女が慣れ親しんできたゼロ年代のギターロックからの影響を強く感じさせるこの楽曲。前のめりなテンションで会場の熱量を一気に引き上げていく。ギターを掻き鳴らしながら、凛と立ち歌う姿が印象的だ。この曲を真摯に伝える、という気迫に満ちた歌唱である。

アルバムの題にもなった“Renarrate”とは“語り直し”を意味する。何を語り直すのか?と言えば自ら辿ってきた道のり、そして自分自身についてだということがこの楽曲からは伝わってくる。《今からでも どこへでも行けるよ/ひりつくほどに綺麗なまま》という歌詞はかつての自分へのエールと受け取れるし、《約束のあの日まで/君だけを迎えに行くから》という締め括りもまた、“能年玲奈”という原点を抱きしめつつ、新しい名「のん」として歩む自分自身へのへの呼びかけにも思えてくる。のんという名を名乗り始めて10年目となる今年、この曲が生まれた意義は絶大である。

1曲目からその切実さに胸が熱くなる中、間髪入れずに「水を」「春よ受けて立つ」とアルバムからの楽曲を立て続けに披露。初期衝動的な1stアルバム『スーパーヒーローズ』(2018)、振れ幅を見せた2ndアルバム『PURSUE』(2023)と来て、3rdアルバムにして遂に自分の声や身体にジャストなサウンドに辿り着いた『Renarrate』は、ライブにおいても無理なく自然体のまま、のん自身を心地よく鼓舞するような良いテンションの楽曲ばかりだ。

3曲を終えてこの日初めてのMC。思わず「何話そう...」と漏れてしまうことからも、かなりラフで着飾っていない状態でいることが分かる。そして「家で調子に乗って大声で歌うことへの戒めとして作った歌」という触れ込みで「迷惑な隣人」を軽やかに披露。自分の申し訳なさや我がままさも、着の身着のまま音楽に変えてゆける強さがのんにはある。

たっぷりと前奏を付け加えて歌われたのは「夢が傷むから」。ここまでアッパーな楽曲を次々と畳み掛けており、演奏も激しい。しかしバンドのグルーヴは安定しつつも熱量を上げていくベストコンディションを維持し続けている。その流れで披露されたアルバムの1曲目を飾る「フィルムの光」はタイトな演奏とサビでの開放的なボーカルが圧巻だった。

2回目のMCでは、『Renarrate』をひぐちと共にじっくり時間をかけて制作したことが語られた。制作過程でひぐちが“のんのサウンドを確立したい”というテーマで作ったという「夢の味」をこの流れで披露。囁くような発声も魅力的なのんの持ち味を活かしたラップ調の歌唱は、長らくのんの音楽制作のパートナーだったひぐちの理解度があってこそ引き出されたものだろう。こうした密な関わりがあったからこそ、“語り直し”というパーソナルなテーマが導かれたと言えるかもしれない。

人気曲「やまないガール」では会場中で拳が突き上がり、高揚のピークを更新し続ける中、ここで一旦のんがステージから去る。バンドメンバーのみでのスリリングでファンキーなセッションを経て、白い衣装に着替えたのんが再登場。そして高速四つ打ちとキャッチーなリフが耳に残る「秒針」でクライマックス級の盛り上がりを巻き起こす。しかし次は一転してメロウで物憂げな「苦い果実」を歌唱。この緩急を見事にコントロールできたのは、ソロアーティストとしてというより、のんを中心とした1組のロックバンドとしての地肩をツアーで鍛え上げてきたからだろう。“バンドマン”としての所作や佇まいが仕上がっている。

続くMCで観客に着席を促し、しとやかな「きれいな靴はいて」を披露。作詞作曲を務めたひぐちの、祖母への想いを託した純然たる提供曲だが、その切実な想いはのんの言葉として届く。オフィシャルインタビューで今回のアルバムは「物語を紡いだり映画を作ったりするように曲を作ること」がコンセプトだが、そこに込められた感情はフィクションではない。むしろ物語を通すからこそ、のん自身の剥き出しの感情が浮かび上がってくるのだ。自分自身をキャラクターに投影する俳優らしいアプローチは、自作曲でなくとも大いに輝く。剥き出しのバンドマンでありながら、演じることもできる。のんの稀有さを実感するのだ。

抑えた照明の中で切々と歌われた「荒野に立つ」は前作『PURSUE』の象徴的な1曲。ヒグチアイによる提供曲だがのんの生々しい内的葛藤が表現されている。間奏では舞を踊るなどロックバンドのライブではおよそ目にすることのない独自の表現も自然に繰り出される。これもまたのんしか出来ないライブパフォーマンスだ。楽曲の登場人物を演じ、のんとしてステージに立ち、能年玲奈として言葉を綴る。様々な要素が何層にも折り重なっているのがのんの在り方のユニークさだが、これら全てを貫く根源的な表現者としての魂があるからこそ、どんな在り方にも説得力がもたらされるのだろう。他の俳優/ミュージシャンではなかなか到達できない表現の濃度。ここに至る全ての選択が必然だったと言える。

活動を支え続けるファンへの感謝を述べるMCの後、何度も「いけますか!」と観客を煽りながら始まった「Beautiful Stars」からは怒涛の後半戦へ。「クライミー」ではお立ち台に乗り、ハンドマイクでアグレッシブに会場全体を引っ張っていく。

本編ラストを飾るのは「愚か者の僕と君」。終始、食らいつくような獰猛な歌唱に否応なしに昂っていく。この曲は鬼気迫る覚悟と衝動を刻んだ楽曲で、のんと能年玲奈が連れ立って怒り、叫び、解き放たれようとしているように響く。この曲をライブの場でともに共有し、ともに歌うことで我々もその連帯に巻き込まれているような気分にさえなるのだ。《叫ばないと生きていけない》、そんな彼女の生き様についていこうと思えるのだ。ラストサビの大合唱まで、完璧なクライマックス。曲終わりの「ばいばーい」という脱力した挨拶まで含め、のんでしか作り得ない時間だった。

アンコールではひぐちがアコギを奏でる穏やかな「子うさぎ」からスタート。歌詞にある通り、強さも弱さも包み込む、そんな境地に今ののんはいる。アンコール2曲目「むしゃくしゃ」では、最後のサビの前に突然やる気を失い、コール&レスポンスへと持ち込むというコントめいたくだりもあった。引き締まったライブで魅せた本編があるからこそ、こうしたユーモラスな部分も際立っている。今まで築き上げてきたのんのイメージも引き受けていく誇りをこの一連には感じた。どんなのんも、のんであるという証明だ。

サプライズ情報としてこの日のライブがBlu-rayでリリースされることを伝えた後、更なる新情報として新曲リリースも発表。アルバム発売からまだ20日ほどしか経っていないというのに驚きの多作ぶりだ。新曲は「GwGw(読み:ぐわぐわ)」という題で、『Pokémon Music Collective』、つまりポケモンとのコラボレーションだ。Netflix『ポケモンコンシェルジュ』で主演ボイスアクトを務めた縁で、そのメインキャラでもあるコダックをフィーチャーしている。そして楽曲制作でタッグを組むのはギターロックサウンドも相性抜群、過去にMVへの出演歴もあるKANA-BOONだ。のんでしか実現し得なかった座組と言えるだろう。様々な角度から複数の文脈に接続できる、自由度の高い活動の歴史が遂に次々と実を結び始めたように思う。

「GwGw」が初披露にして大いに盛り上がった後、ラストを飾るのは「わたしは部屋充」。言葉にならない大絶叫を最後に観客と共有し、終演となった。

のん=NON。否定にも見えるこの芸名は、「Nonと言える人」「Nonを叩きつける人」という意味合いを持って付けられたという。「好きを貫く」ために「のん」になった彼女は、その空白をめいっぱい埋めるように、やりたいことを何もかもやり、唯一無二の表現者へと押し上げて行った。その成果がこのアルバム、そしてこのツアーで体現してきた“語り直し”なのは間違いない。もう何1つ、懸念することはなくなった。ありとあらゆる自由を胸に、これからの歴史を語り続けるだけだ。


文=月の人
撮影=Kentaro Minami(FOCUS STUDIO)

セットリスト

Renarrate tour 2025
2025.9.23 恵比寿ガーデンホール

1.Renarrate
2.水を
3.春よ受けて立つ
4.迷惑な隣人
5.夢が傷むから(Inspired by 東京百景)
6.フィルムの光
7.夢の味
8.やまないガール
9.秒針
10.苦い果実
11.きれいな靴はいて
12.荒野に立つ
13.Beautiful Stars
14.クライミー
15.愚か者の僕と君
[ENCORE]
16.子うさぎ
17.むしゃくしゃ
18.GwGw
19.わたしは部屋充
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