LD&K設立30周年SP座談会 part1――コザック前田(ガガガSP)×日食なつこ×山口大貴(プッシュプルポット)「ごった煮になると思います。楽しめる闇鍋(笑)」
写真左⇒右:山口大貴(プッシュプルポット)、日食なつこ、コザック前田(ガガガSP) 撮影=菊池貴裕
音楽レーベルLD&Kが設立30周年を記念したイベント『LD&K NIGHT 2025〜三十而立響宴(みそじりつきょうえん)』11月16日(日)、Zepp Hanedaで開催される。出演アーティストはガガガSP、かりゆし58、打首獄門同好会、日食なつこ、ドラマチックアラスカ、bokula.、プッシュプルポットの7組。LD&K所属アーティストが世代、ジャンルを超え集結し、一夜限りの祝祭を楽しみ、楽しませてくれるスペシャルライブだ。
このスペシャルライブについて、そして“何処よりも自由なエンタテインメント創造集団”を標榜するLD&Kというレーベル、事務所の実像をアーティストに聞くこの企画。全2回の第1回目はガガガSP・コザック前田(Vo,G)、日食なつこ、プッシュプルポット・山口大貴(Vo,G)の3組にインタビューした。「楽しい闇鍋だった」(日食)2021年の『LD&K NIGHT』に続いて“異種格闘技戦”のようなワクワク感しかない今回のイベント、一体どうなる!?どうする!?
――LD&Kが30周年を迎え、ガガガSPも来年30周年イヤーに突入ということですが、設立早々のこのレーベルにジョインしようと思った理由から聞かせてください。
前田:来年の12月で30年目に入りますが、大谷(秀政社長)さんと出会ったのは2000年で、最初はうちのドラムが勝手にデモテープを送ったら、その代表者の名前を俺にしていたので大谷さんから直接電話がかかってきました。30社くらい送って、LD&Kともう一社だけいい反応で、でももう一社は悪名高い噂が流れていたところだったので(笑)、LD&Kしかなかった(笑)。
――LD&Kは信用できたんですね(笑)。
前田:(笑)縁だし、あと僕らフォークソング好きでその要素が音楽に入っているのを「それちょっと面白い」って理解してくれたのが大谷さんでした。それで「東京で録ろうよ、いつ来る?」って言われて。
――いきなり。
前田:当時のLD&Kってまだ社員が5~6人しかいない会社で、大谷さんも今みたいにメディアに出ていなかったので、どういう人かわからないけど、「東京で録ろう」って言われて、「どこで録るんですか?」って聞いたら「新宿のスタジオ」って言うんです。当時僕らは東京に一回も行ったことなかったし、新宿なんてテレビの警察ドキュメンタリーでしか観たことがなかったのでもう妄想が膨らんで(笑)。それで夜行バスで上京して大谷さんの家に泊めてもらいました。
■お互いに100%問題のない関係ということは存在しないと思うけど、ここで活動できてよかったなって思うことの方が圧倒的に多い。(日食)
――日食さんとLD&Kの出会いは?
日食:確か2010年だった思いますが、高校生のときにあるオーディションに出て、その運営元と一緒にやるかもって話になっていたけど、そこのスタッフさんが「あなたにはこの事務所の方が合うんじゃない?」って紹介してくれたのがLD&Kでした。私はもう前田さんたちとは真逆で、どこにデモテープを送るべきかも、なんにもわからず、とりあえずここに突撃してみようかなっていうところから始まって、気づけば10年という感じなんです。
――ここでやることが決まって、どんな印象を受けました?
日食:LD&Kがどんな会社なのかを最初に認識したのが、LD&Kが毎年渋谷のライブハウスでやっていたクリスマスイベントでした。そこに「新人枠で3曲くらい時間あげるからおいでよ」って呼ばれて、会場に入った瞬間に前田さんや前川さん、あと打首獄門同好会とか名だたるLD&Kの中心アーティストが、結構強い感じの空気を出しながら会場に揃っていて(笑)、これがLD&Kなのか! 私今からここに入るのか!って、当時は正直恐怖を感じていました(笑)。
――それから10年、居心地はいかがですか?
日食:お互いに100%問題のない関係ということは絶対存在しないと思うけど、それはどこの事務所でも同じだと思うし、でもここで活動できてよかったなって思うことの方が圧倒的に多いです。今回のイベントに出演するアーティストを見てもわかると思いますが、個性豊かなバンドが揃っている中に、私みたいなのをポンと放り込んでもいいよって受け入れてくれる。「うちではそういうのはちょっと違うかも」って言わないその懐の深さがこの会社にはあるし、それが大谷さんなんだと思う。垣根越えて自由に色々やらせていただけたというのは、私には合っていたのかなと。
■副社長が金沢までライブ観に来てくれて、「辞めたくなったら辞めていい」と言ってくれたことも信用できました。(山口)
――この中で一番若手のプッシュプルポットの山口さんはどんな出会い、きっかけでこのレーベル/事務所に?
山口:きっかけは、コロナになってライブできなくなって、とりあえずオーディションに出てみようと思って、『TOKYO CALLING』の配信版の『NIPPON CALLING 2020』のオーディションでグランプリを獲得することができて、「新しいレーベル (STAY FREEEE!!!!!!!!)を作るからどう?」って誘っていただきました。
――ピンポイントでLD&K?
山口:3社から声を掛けていただいていました。でもどの事務所がいいのか全然わからくて、菅原(隆文副社長)さんが金沢まで観に来てくれて、どの人かなと思っていたら、足にギプス をしている松葉づえ姿の人が目の前に来て、まさかこの人じゃないだろうってビビりつつ、来てくれる行動に本気を感じました。「辞めたくなったら辞めていい」と言ってくれたことも逆に信用できました。バンドの先輩に「悪い大人に騙されないで」ってよく言われてましたけど、悪い人ではなさそうだったので(笑)。
――信用できた(笑)。
山口:やっぱり右も左もわからないし、いい事務所の基準というのもわからないし、金沢でライブをやっていてもなかなか目にしてもらえないというのが現実でした。そんな中わざわざ観に来ていただけて、声をかけてくださって、自分たち4人だけではできなかった活動とかもできたし、サーキットとかにも出演させていただくようになって、やっぱりバンドって楽しいなってより感じるようになりました。
日食なつこ
――ガガガSPの皆さんは今も神戸を拠点に活動を続けていますが、東京に拠点を移そうという話には30年間の中でなかったのでしょうか?
前田:当時東京に出るか出ないかという話になった時、メンバー全員神戸に彼女がいたから出たくないと(笑)。東京に出てもまだ僕らのときってネットがそんなに普及していなくて、ライブハウスに入り浸ってチャンスを待つという時代でした。だから東京に出て失敗して帰ってくる先輩バンドを何組も見てきた世代なんです。どうにもならなくて神戸に帰ってきたけど、神戸に居場所がなくなってた人たちもいて。それでも神戸でしぶとくやっていたら結構でかいバンドの前座で使ってくれたりとかするんです。だからここでちょっと頑張っていこうかなっていう感じはあったと思います。
――日食さんも2拠点生活でしたね。
日食:相変わらずなんですけども、山奥に暮らしつつ忙しくなってきたので、今、結果的に2拠点生活みたいになってます。
――東京のケミカルな刺激がしんどくなったりしませんか?
日食:そういうときは山にぽっと行けるし、山の何も動かない感じが嫌になったらこっちで刺激を受けられるし、なんかいいバランスだと思います。でも私に2拠点生活を勧めてきたのが、誰より渋谷のど真ん中で遊び倒してる人=社長っていうのが面白いですよね(笑)。
――山口さんも金沢を拠点にしていますね。
山口:僕は元々岩手出身なので、やっぱり岩手に帰ったときに結構曲ができたりするので、本当は帰りたいです。でも岩手に戻ったら戻ったで金沢はちょっと遠すぎるので、その間をとって東京がいいのかなって思っています。
プッシュプルポット・山口大貴(Vo,G)
――LD&Kアーティスト同士の交流は普段からあるんですか?
山口:ライブを観に行かせていただいたり、同じフェスに出演させていただいたりというのはありますが、こういう場はなかなかないです。僕たちは所属させていただいてまだ右も左もわからない状態でいきなり『LD&K NIGHT 2021~憂晴福反応~』(2021年)に出させていただいて、あの時のインパクトが強く残っています。
――全国のZeppで行なった あのイベントも、なかなか異種格闘技感がありましたね。
日食:そうでした。コロナ禍の真っ最中にまさに憂さ晴らしのようなイベントで、まるで闇鍋のような楽しいライブでした(笑)。
――今回はレーベル設立30周年という、ただただ祝福ムードの中でやれるというのがシンプルでいいですね。
前田:そうですよね。ちょっと祝うことでもないと、うちは今年メンバー(桑原康伸さん)が亡くなっているので……。
――そうでした、今年2月に亡くられて、10月31日に神戸ワールド記念ホールで追悼ライブを開催しますが、30周年を目前に盟友を亡くすというのは……。
前田:一番後に入ってきて、それでも24年間一緒にやってきたので、これからどうすべきか悩みました。今までサポートを入れてライブをやったことがないし、どうしようってメンバー(山本聡、田嶋悟士)と話をした時に、3人で続けようって意識になれて。桑原は44歳で亡くなって、短い生涯と思われるかもしれないけど、僕は幸せなことだと思う。ガガガSPとして人生を全うして、結果的には幸せだったと思います。だから残された我々はできることなら死ぬまでガガガSPをやっていきたいという気持ちになりました。
――LD&Kのホームページのロゴの下に、“何処よりも自由なエンタテインメント創造集団” というカンパニーポリシーがあることを知ってました?
前田:そんなのありました?(笑)
山口:知らなかったです(笑)。
日食:初めて聞いた(笑)。
前田:自由っていうか、最初から放任主義でしたよ。昔はライブのブッキングからグッズの手配から全部自分達でやって、その上がりを事務所に送るという、なんのために事務所にいるのかわからない時代があったのは確かです(笑)。誰も「これはダメ!」って言わない、やりたいこと全部やったら?って感覚で、それが世間とズレていてもむしろそのズレを褒めてくれるような事務所です。地方拠点でも文句を言われないし、本当に信じてもらえている実感はあります。それを裏切ったら絶対後悔するから、つい自制することも多々あるというか、今思えば、そういう環境が長続きの秘密かもしれません。
日食:私も最初の頃はなんでも自分でやっていて、精算だけやってくれればいいという時代があったかも(笑)。今はそこに行って歌えばいいだけの環境を作ってもらえているのは安心でもあり、恵まれすぎていて怖くもあり…。スタッフもみんな個性的だけど、誰も「ちょっと違うかも」って言わない。好きなようにやっていいと言われて、逆に自分の音楽への責任がより強くなった気がする。前田さんが言ったように、自由だからこそ自分で律する、みたいな気負いも自然に生まれるのだと思う。
山口:何でもやってもらえるのはありがたいんですけど、自分たちのこだわりを失くすとそれは自分達に返ってきそうで怖い。だから甘えすぎないように、だらけすぎないようにしようって心がけています。でも「こうしたい」と言ったら、全部ぶつけてこいって言ってくれるので、自由にやらせていただいて、それを見守っていただいている感じです。
ガガガSP・コザック前田(Vo,G)
■「俺たちの金でこんなもん建てやがって!」って暴れてシャングリラのバーカウンターをぐちゃぐちゃにしたことがあって。めちゃめちゃ気持ち良かった(笑)。(前田)
――会社の懐の深さイコール大谷さんの懐の深さなんでしょうか。大谷さんと一番つき合いが古い前田さんいかがですか?25年前と変わらないですか?
前田:当時は何かあれば大谷さんが全部現場に来て、小競り合いもしたけど“おもろいほう”へと流してくれる。お互い本当にお金がなかった時代は割り勘だったし、一緒に銭湯に行ったときはさすがに出してくれるものと思っていたら「割り勘だぞ」って本気で言うし(笑)。普段は“無責任でいいよ”って姿勢なのに、イザという時は絶対に見捨てない。やっぱり頼れる親分だなって実感しています。社長自身も最近どんどん自信を持っていると感じるし、こっちも奮起しなきゃ!と思わせてくれる存在です。
日食:私は16年一緒にやってきて、一番影響を受けたのは“人と真剣に向き合ってくれる”ところです。たくさんのアーティストを束ねているのに、一人ひとりの大切な時にちゃんと立ち止まって振り返ってくれるんです。あるとき差しで相談したら、久々に本気で叱られて(笑)。キャリアが長くなればなるほど叱られなくなるじゃないですか。でも大谷さんは全力で一緒に悩んでくれる人。変な話、そんな人が音楽業界にいるとは思ってなかった(笑)。あと「失敗しないよう生きなさい」じゃなく、「どんどん壊せばいい」って言ってくれるのがLD&Kの社長っぽさ。だからこの会社でずっと続けたいなって思えるんです。
山口:まだあんまりたくさん話したことはないけど、ライブをよく観に来てくださるし、現場の空気をすごく大事にしてくれたり。何というか、余計な干渉はしてこないけど、ちゃんとこっちを見てくれている感じを、感じています。そういう安心感があるから、自分らももっとがんばろうって素直に思います。
――飲食は水商売、音楽は空気商売、空気は水よりつかみづらいからと飲食で音楽を支えようという思いから飲食業を始めた、とお聞きしました。
山口:僕はLD&Kがこんなに飲食をやっていることを全然知らなくて入って、3年くらい前に宇田川カフェの存在を知って(笑)。東京に住んでる友達も知ってるし、どうやら有名らしいって(笑)。
前田:今から考えたらアホみたいな話があって、ガガガSPがレコード会社はソニーミュージックでやっている時、2002年頃かな、ちょっと世の中に出てきて忙しくなったのにLD&Kからの給料が変わらなくて、イライラが爆発したことがあって(笑)。ちょうど「シャングリラ」をオープンしたタイミングで、その上のバーで打ち合わせをしていた時、「俺たちの金でこんなもん建てやがって、俺らの給料上げんかんかい!」って暴れてバーカウンターをぐちゃぐちゃにして帰ったことがあって(笑)。
――爆発したんですね。
前田:めちゃめちゃ気持ち良かった(笑)。大谷さんも現場にいて「いいよ、また直せばいいから」って(笑)。
――さすが社長。
前田:でも今はもうありがたく食べさせてもらってるので(笑)。若気の至りと言えばそうかもしれないけど、こっちは無責任に色々アホなことやるんだけど、でもそれを深い懐で受け止めてくれたなって。なんでも「いいよ」って言ってくれて、ある時フェスに出てくれって言われて、でも当時尖ってたので断って、「カットフルーツ屋をフェスに出店したい」ってわがままを言ったら「いいよ」ってOKしてくれました(笑)。
――求心力がありますよね。
日食:すごくあります。それがエネルギーにも通ずるところだと思います。
――30周年記念イベント『LD&K NIGHT 2025〜三十而立響宴(みそじりつきょうえん)』は、が3000円という魅力的な価格設定ですが、どんなライブになりそうですか?
前田:どんなライブなるんでしょうか…(笑)我々もまだわかりません(笑)。
――コラボもありそうですよね、楽しみです。
前田:打首の(大澤)会長が色々画策していると思います(笑)。
日食:2021年の『LD&K NIGHT』の時も、わからないまま当日を迎えました(笑)。どうなるんだろうなって思ったままステージに立って初めてわかるので(笑)。さっきも出ましたが本当に闇鍋的なイベントで、ごった煮になるとは思ってはいます。楽しめる闇鍋(笑)。せっかく普段一緒にやることがない人たちが集まるので、クロスオーバー的なことになると面白そうだなと思いますが、一体どうやってクロスオーバーするんだって話ですけど(笑)。
――まさに異種格闘技戦のような、何が起きるかわからない怖さと楽しみがあります。
日食:お客さんも自分の好きなバンド、アーティストが出るから来るっていう人もいっぱいいると思うけど、せっかく足を運んでくれたのであれば、他のバンドも好きになって、興味を持って帰ってもらえたらそれがこのイベントの最大の収穫だと思う。
山口:僕たちはもう今やってることしかできないと思うので、純粋にプッシュプルポットのライブをして、先輩たちにもお客さんにも見てもらいたいなって思っているので、とにかく全力でぶつかっていきます。
――何か壁にぶつかった時も、相談できる偉大な先輩がいますね。
山口:そうなんです。よろしくお願いします。
日食:とりあえずバーカウンターを壊せばいいと(笑)。
山口:(笑)僕らはまだ始めたばかりで、ガガガSPさんのように30年続けられたらいいけど、10年後でさえ全く想像できないので、“今”に必死にしがみついてる感じです。
日食:数あるバンドの中で、私だけソロアーティストで、でも続けていられるのは先輩方の恩恵を受けているからだと思っています。それと前田さんのスタンスというんですかね。これは前(『LD&K NIGHT』)のインタビュー(前田×前川慎悟[かりゆし58]×大澤[打首獄門同好会]× 日食)のときも思ったんですけど、前田さんから出てくる言葉がすごく説得力があると私は思っており。
前田:そうですか?
日食:そうなんです。何か言われたら本当にその通りだなっていう説得力ある言葉を、多分日常でもおっしゃっていて、もちろんステージ上でもそうで、それがやっぱりLD&Kの大先輩として道を拓いてきた人の姿勢なんだなって思います。私も負けてられないなってこういう機会をいただくたびに思いますし、Zepp Hanedaのステージでも負けないように頑張らなければ、と改めて思わせてくれるのは、LD&Kっていう庭があったからだと思っています。
▼この座談会の模様を動画でも御覧いただけます。
イベント情報
日程: 2025年11月16日(日)
開場13:00/開演14:00
会場: Zepp Haneda
<出演>
ガガガSP/かりゆし58/打首獄門同好会/日食なつこ/ドラマチックアラスカ/bokula./プッシュプルポット
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料金: ¥3,000(D代別・スタンディング)
■特設サイト: https://ldandk.com/30th/
『 LD&K NIGHT 2025〜三十而立響宴〜』来場者特典
ガガガSP × かりゆし58
音源はNFCカードで配布予定。(スマホでカードにタッチすると音源を聴けるサイトにアクセスできます。)