《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 13 吉田玉佳(文楽人形遣い)

2025.11.13
インタビュー
舞台


『国性爺合戦』の和藤内を大きく軽やかに遣いたい

さて、12月の文楽鑑賞教室では、明国復興のために闘った鄭成功(ていせいこう)の史実をもとに近松門左衛門が書いた『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』を上演する。主人公は、明の臣下だったが皇帝の逆鱗に触れて日本に亡命し老一官(ろういっかん)と名を変えている鄭芝龍(ていしりゅう)が日本人の妻との間に儲けた子供・和藤内(わとうない)。明国が韃靼に滅ぼされたことを知った老一官ら一家は、老一官が明でかつて儲けた娘・錦祥女(きんしょうじょ)が韃靼の将軍・五常軍甘輝(かんき)の妻となっていることから、甘輝を味方につけて明国を再興しようと唐土へ渡る。今回上演されるのは、甘輝の館である獅子が城の楼門の上から錦祥女が地上にいる老一官らと対面する「楼門の段」と、城の中で甘輝や錦祥女や和藤内の母、さらに乗り込んできた和藤内らによって物語がドラマティックな展開を見せる「紅流しより獅子が城の段」。A/B2種類の配役のうち、玉佳さんはBプロで和藤内を遣う。2023年2月に初めて遣って以来、二度目の大役だ。

「『国性爺合戦』は江戸時代、評判になって長い期間公演していたそうです。昔の人にとって、万博ではないけれど、よく知らない外国と出会う面白さもあったのでしょうね。僕自身はといえば、しんどい思い出ばかりの演目です(笑)。『楼門』は人形の動きが少なく、長い間じっとしていますが、生きた人だから呼吸するし感情も動く。常に気持ちを入れておかなければなりません。師匠も人形はじっとしている場面が難しいとよく言っていました。楼門の上からは兵士たちが和藤内らに銃を向けるのですが、兵士たちは一人遣いの“ツメ人形”で僕も若手の頃には遣ったのですが、舞台のかなり高いところから銃を構え続けるのが怖かったのを覚えています」

自分のルーツを知り、故国のために立ち上がる和藤内。本作はいわば、その成長物語でもある。

「今回上演される場面ではありませんが、唐土に渡る前の和藤内は普通の大きさの人形。それが、自分のルーツである明に力を貸さなければという使命感みたいなものが大きくなるにつれ、人形自体も大きくなっていくんです。大きい人形であるほど主遣いが履く高下駄の高さは増すのですが、僕は背が低いので和藤内だと40cmくらいの高下駄になる。錦祥女が甘輝を説得できたかどうかを水路に粉を流して知らせる『紅流し』という場面では、紅が流れるのを橋の上から眺めた後、橋から下りるのですが、高下駄で階段を下りるのが怖くて。転ばないよう気をつけなければなりません」

二度目の和藤内を遣うにあたって期していることは何だろうか?

「前回は初役で、日を追う毎に疲れて人形がどんどん重たくなるのだろうと覚悟していましたが、逆に日毎に軽く感じるようになっていきました。力を抜くところ、入れるところがわかってくるからです。ただ、『獅子が城の段』で着物を肩脱ぎになり鉢巻をつけるとさらに重くなってかしらの遣い方に影響が出ることもあり、最後に切る見得にもう一つ納得できなかったので、今回はもっと軽やかに大きく遣いたいです」

『国性爺合戦』和藤内で主遣いの玉佳さんが履く高下駄。


 

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