森田剛主演『砂の女』の「女」役・藤間爽子に抜擢「舞踊で培ったこの足で、砂の上にしっかり立ちたい」
藤間爽子 撮影=松本いづみ
日本舞踊紫派藤間流家元・三代目藤間紫と、幅広い役柄を演じる期待の若手女優という、2つの顔を持つ藤間爽子。戦後日本文学の巨匠・安部公房の代表作『砂の女』の舞台版で、森田剛が演じる主人公の「男」と、奇妙な同居生活を送る「女」という大役に抜擢された。3月19日(木)から東京・紀伊國屋ホールで開幕し、仙台と福岡をまわり、4月20日(月)までの大阪・森ノ宮ピロティホールまで続く。東京公演を前に、藤間の取材が実現。原作から受け取ったメッセージや森田とのコンビネーション、砂にまつわる面白エピソードなどを、朗らかに語ってくれた。
■男の目にはおかしくても、女には「当たり前」の生活
藤間爽子
ーー『砂の女』は、昆虫採取に来た都会の男が、砂の底で暮らす女の家に閉じ込められ、生活を共にする中で起こる変化を丹念に描いた作品です。人間の自由意志や幸福の概念など、いろんなテーマが浮かぶ作品ですが、藤間さんはまずどこに惹かれましたか?
おっしゃるように、すごく普遍的なテーマがたくさん散りばめられた作品ですが、人間は一人では生きられない、人でしか埋められない孤独があるということを感じました。男と違って、女は今の生活に満足しているけれど、唯一男がここからいなくなることだけが嫌なんだと。私も一人でいる時間は好きですけど、孤独でいることは耐えられない。私はやっぱり人が好きなので、そこは女と私が一番共通する所かなと思います。
ーー原作の女は、何を考えているのかが簡単にはわからない感じでしたが、この舞台版は脚本を読む限り、もっと地に足が付いている感じがしました。
映画版で女を演じられた岸田今日子さんが、ちょっとつかみどころのない魅惑的な女性像だったので、最初はそういう風に演じるのかと思ってたんです。でも演出の山西竜矢さんは「この設定自体が奇妙だから、あえてそう演じようとしなくていい」とおっしゃっていて。確かに男から見たら、砂の底で暮らす女の生活は「おかしい」と思えるかもしれないけど、女にとってはそれが当たり前。でもそれって、今の私たちにも言えるじゃないですか?
藤間爽子
ーーたとえば日本人の日常のいろんなことが、海外の人にはクレイジーに見えるという話はよく聞きます。
大陸の人から見たら「こんなに海に囲まれてたら危険じゃない?」って思うかもしれない。やっぱり中にいる人と、外にいる人の価値観って違うんですよね。だから女は、人間としてただただ普通に生きているという所に重点を置くようにしています。山西さんにも「女を演じる」というよりも、女を自分の方に引き付けて、等身大になるように演じる方がいいと言われました。
ーーそのなかで、今稽古で課題にしていることはありますか?
男を直接見るのではなく、水を汲むとか何か別のことをしながら、かわしていくように会話をするシーンが結構あるんですけど、それが大変です。私は2つのことを同時にできないので、慣れるまでパニックになりました(笑)。でも私たちが生活をしている時も、何か違うことをしながらしゃべることって、いっぱいあるじゃないですか?
ーー特に女のように子育ての経験がある人は、家事をしながら家族と話をするとか、普通にこなしますしね。
本来はそうですよね、身体って。実際、稽古を進めていくうちに……最初は稽古場が暗いこともあって、ちょっと息苦しかったんですけど、どんどん砂の世界であることを忘れる時が出てきています。男と女の生活の営みを、ただ見せているだけだとお客様にも感じてもらえたら、それがこの舞台が成功しているということなのかなあと。でも一方で、そういう普通の暮らしの中に、ちょっと相手を刺すような、ゾワッとする言葉が入ってきたりするので、最後にお客様を何かゾッとさせられたらいいなあと思います。
藤間爽子
――森田さんとの演技はいかがですか?
お会いするまでは、寡黙な……それこそ「女」のように、「つかみどころのない方かな?」 と(笑)。でも実際は、裏表がなくて着飾らない、面白い方なんです。それで私もあまり構えないで済み、信頼して一緒にいられると感じます。
――男と女の距離感の作り方が、この舞台の肝になるかと思いますが、お2人でどんな話をされていますか?
その辺りのコミュニケーションは取らないんですよ、まったく。剛さんとは「今、こういう気持ちですよね?」と答え合わせをしながら作り上げるのは、逆に上手くいかない気がしていて。山西さんの演出にゆだねながら、2人の距離感を積み重ねていく方が、この『砂の女』に関してはいいものになる気がしています。
■女の日常的な動作は、実は日本舞踊にも通じている
藤間爽子
――藤間さんは舞踊家でもありますが、演技をする上で「日本舞踊をやっていてよかった」と思うことはありますか?
皆さん「所作がきれい」と褒めてくださるんですけど、あまり私自身は意識してないんです。着物を着慣れているから、時代劇とかで着物に抵抗がないのは強みだとは思いますけど。あまり普段から「所作をきれいに見せよう」とは意識してないです。意識してしまったら、むしろ見ていて寒くなりませんか?(笑) にじみ出てくる方が美しいなあと思うし、だからこそ私たち役者は、いろいろ勉強しなきゃいけないんだと思います。
――では舞踊家として舞台に立つことと、役者として舞台に立つことも、別段意識の違いはないのでしょうか。
日本舞踊は、割と1人で踊ることが多いので、今まで稽古をしてきた自分を信じて舞台に臨むようにしています。でも演劇の舞台の方は、自分以外にもたくさん人がいて、その中でやり取りをしていくわけだから、相手の人を信じて舞台に臨みますね。自分というより、周りに助けてくれる人がいっぱいいると信じているところが、意識の違いかなと思います。
――所作とはまた違うかもしれないのですが、女のように「砂の中で生きる人間」ならではの特徴みたいなことは、何か感じますか?
砂かき(砂を掘る)の動作がよく出てくるんですけど、直立では掘れなくて、腰をぐっと入れて掘っていくんです。体幹を下に向けていくようなその動きって、日本舞踊と通じるかもしれないし、それが体格に出てくる部分もあるんじゃないかと。舞踊家さんって太ももが太くて、私も結構モコッとしているんです。砂って安定も悪いので、「いかにそこで地に足を付けていられる身体になれるのか? 」というのが、大切になってくるんじゃないかと思います。
藤間爽子
――山西さんがSPICEの取材で、藤間さんをキャスティングした理由を「森田さんを監禁できそうな圧を持つ人」とおっしゃっていましたが、もしかしたら「砂の中で凛と立っていられそうな身体」というのもあったのかもしれないですね。
そうかもしれないですね……わかんないですけど(笑)。だったら舞踊で培ったこの足で、しっかり立っていきたいと思います。
――ちなみに今まで、誰かを閉じ込めたり、逆に閉じ込められた経験ってありますか?
閉じ込めたことはないですけど、閉じ込められるというか、出られなくなった経験はあります。KAAT神奈川芸術劇場で稽古していた時に、稽古場がすごく広い上に、全部が似たような作りになっているので、迷って出られなくなりました(笑)。ぜんぜん違う稽古場に行っちゃって「どうしよう!」って、パニックになりましたね。
藤間爽子
――それと「砂」にまつわるエピソードトークなんて……都合よくあったりしませんよね?
あるんです! 今年厄年なので、周りの人に奈良の「大神(おおみわ)神社」をオススメされたから行ってみたんです。そこでお清めの塩を売っていると聞いて、私は本番前にお塩をちょっと舐めたりするので買いました。それで帰りの電車に乗ってる時に「ちょっと舐めてみよう」と思って、ペロッと舐めたらジャリッとして……お清めの塩じゃなくて、お清めの砂だったんです(笑)。これって神社に歓迎されなかったんですかね? 調べたら、私とは相性がいいと出てたんですけど。
――砂のパワーをいただいたと思うことにしましょう。今回のオファーを受けたのは、俳優としての成長に期待したとも聞きましたが、特に伸ばせそうだと思ってる部分はありますか?
集中の持続力ですかね。今回は舞台に出ずっぱりで、しかもほぼ剛さんと2人きりなので、絶対集中力を切らせてはいけないし、緊張感も常に持ってないといけないと思ってます。私、こんなに出ずっぱりの舞台は初めてなんですけど、それは役者としては嬉しいことですよね。最初から最後までこの世界を届けられるのは本当に幸せですし、剛さんも一緒だから大丈夫だと思っています。
藤間爽子
――特にこの舞台を観てほしいなと思う方はいらっしゃいますか?
もう、どなたにでも観ていただきたいです。一見取っつきにくくて難しそうな印象ですけど、すごくシンプルなお話……役名も「男」「女」ですしね。本当の自由とか幸せとか、誰もが一度は考えたことがあるようなメッセージが込められた作品なので、観た後はきっと何かを感じていただけると思います。あと話が全然変わるんですけど、これからAI(人工知能)がもっと発達すると、今「忙しいから舞台を観に行けない」という人たちも、どんどん時間ができるようになるらしいんですよ。そういった時に、やっぱりこういう生のもの、人が演じるものってどんどん貴重になるという話を聞きまして。
――そのためにも今のうちに、この『砂の女』のような、生の息吹をダイレクトに受け取れる、素晴らしい作品を作っておこうと。
そうですね。そういう時代が来ると信じて「ああ、舞台って面白いな」って思えるようなものを作っていきたい。気力をチャージして、頑張ってお仕事に行って、また舞台に来るという(笑)。舞台へのハードルをそんなに高くせずに、どんどん観に来ていただけたら嬉しいです。
取材・文=吉永美和子 撮影=松本いづみ
公演情報
原作:『砂の女』安部公房
脚本・演出:山西竜矢
キャスト:森田剛 藤間爽子 大石将弘 東野良平 永島敬三 福田転球
企画・制作:レプロエンタテインメント
製作:「砂の女」製作委員会
協力: Abe Kobo Official through Japan UNI Agency, INC.
(C)1962 安部公房
【東京公演】
日程:2026年3月19日(木)~4月5日(日)
会場:紀伊國屋ホール
主催:「砂の女」製作委員会
提携:紀伊國屋書店
<料金>全席指定11,000円
日程:2026年4月8日(水)18:30開演
会場:電カホール
主催:ニイタカプラス
<料金>11,000円
日程:2026年4月11日(土)15:00開演
会場:SG GROUPホールはちのへ(八戸市公会堂)
主催:青森朝日放送、ニイタカプラス
共催:アート&コミュニティ
<料金>全席指定S席11,000円、A席7,700円
日程:2026年4月18日(土)~4月20日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール
主催:「砂の女」大阪公演事務局
一般発売日:3月15日(日)~
<料金>全席指定11,500円