「リ・インコーニティ」日本人ヴァイオリニスト川久保洋子が語る、ローザス、アトラファイブ『和声と創意の試み』の魅力【後編】
(c)Anne Van Aerschot
世界的ダンスカンパニー「ローザス」を率いるアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルと気鋭の振付家ラドワン・ムリジガ(アトラファイブ)による『和声と創意の試み』。今年(2026年)6月の日本公演では、バロック・ヴァイオリンの名手アマンディーヌ・ベイエと彼女が率いるアンサンブル「リ・インコーニティ」による名盤《四季》(録音音源)が使用される。現地ベルギー・ブリュッセルなど海外では生演奏でも上演されている本作。今年4月のブリュッセル・モネ劇場での上演にも出演した「リ・インコーニティ」のメンバーであるヴァイオリニスト、川久保洋子のインタビューを2回にわたりお届けする。(前半はこちら=https://spice.eplus.jp/articles/346617)
Photo: Bernard Martinez
――生演奏による上演に参加されている川久保さんからご覧になって、「ローザス」の魅力はどこにあると思われますか。
すごく正直で、真正面なところが素晴らしいなと思います。有名なダンスカンパニーで、ものすごい数の公演を行っているんですよね。『和声と創意の試み』も何度も上演を重ねています。アマンディーヌは「ローザス」と何度も協働していて、私は一番最初の『Partita 2』と今回の『和声と創意の試み』しか観ていないのですが、いろいろと話も聞いています。すごく緻密に創られていて、妥協を許さない、それでいて舞台自体はすごく自由で何にもとらわれていない感じなんです。4人のダンサーはダンスのスタイルも異なるし、キャラクターも違う。クラシックバレエの要素からストリートダンスまでジャンルも混ざっているのですが、そのマッチングのさせ方がすごいと感じます。振付のアンヌ・テレサとラドワン、そしてリハーサルディレクターが一つの動きも見逃さず、全体像を見ながらフィードバックしていて。録音音源での上演も含めるともう100回くらいは上演しているのに、毎回とてもまじめに取り組んでいる。最初に共演してから2年くらい経っていますが、ダンスも少し変わってきているんです。きっと毎回、ああでもない、こうでもないと言って、変わってきているのでしょうし、真剣な感じがすごく素晴らしいなと思っています。
(c)Anne Van Aerschot
(c)Anne Van Aerschot
すごく息が合わないとできないシーンがたくさんあるのですが、みんなそれぞれの距離感があるのが素敵だなと思います。ダンサーたちもデュオやトリオ、カルテットになったり、3対1になったり、4人になったり――全く同じ動きをするときと、それぞれの動きをするときと、うまく個性が出るようにできているんですよね。演出が素晴らしいなと思うのですが、緩急があって、それぞれのソロもきちんとあり、そこに集中するけれども、そこまでの橋渡しのような場面もダンサーの中にあるんです。お互いを尊重し合っていて、4人のバランスがとてもうまくいっているのではないかと思います。そして作品の中に社会的なメッセージが含まれているのも魅力の一つです。
――アマンディーヌの曲の風景を具現化する力が素晴らしいとのことですが、それ以外にアマンディーヌと「リ・インコーニティ」の《四季》の音楽的な解釈について、他の演奏者にはない特徴的なところは何かありますか。
一番言えるのが、ものすごい数のコンサートを《四季》のプログラムでやっているということです。ありがたいことに、これだけヨーロッパで《四季》をソリストもオケも同じメンバーで演奏している団体は無いと思います。同じメンバーで演奏を重ねることで違う見え方も出てきて、そこがやはり一番魅力的なところです。アマンディーヌは絶対に楽譜を見ないんです。パッと暗譜で弾けてしまう。バロック時代の曲は習慣的に装飾音(旋律を感情豊かに伝える手段。演奏者の即興性と創造性が求められる)を入れるんです。あまりにも彼女の中に音楽が入っているので、毎回自由に違う装飾を入れていて、楽譜のままではない演奏になっている。そういうことができるのは、今生きているなかでは世界中で彼女しかいないのではと思います。
(c)Anne Van Aerschot
――古楽で、ヴィヴァルディが書いた時代の楽器で演奏することについて、特別な思いはありますか。
アマンディーヌがバロック・ヴァイオリンで、私たちも古楽器で演奏していてみんなの調和があることが大事です。バロック・ヴァイオリン、古楽の演奏の良さは、結局不安定なところなんですよね。モダン楽器より全部不安定。調弦も狂いやすいし、わざと色が出るように調律法も平均律ではなくちょっとゆがんでいます。例えばピアノの平均律だと全部均等になってしまうんです。均等だと色の違いが出ない。違いを出すには調律法があって、不安定だからこそ、ゆがみがあったり、逆にすごくきれいなところが出たりします。全部均等だと、どちらかが削られてしまうんです。あとはやはり、《四季》は弦楽器のアンサンブルで管楽器が無いので、響きのボリュームはないけれど、その分ガット弦による響きの厚みも、古楽器ならではのカラーです。その時代の楽器を演奏することで、見えてくるものもあると感じています。
公演情報
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
公演詳細:https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/106744/