「国芳ってどんな人?」知られざる真実も――監修者・月本寿彦氏が語る『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』の魅力

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インタビュー
アート

「宮本武蔵と巨鯨」弘化4年(1847)頃 個人蔵

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7月18日(土)~9月23日(水・祝)まで、京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階にて、『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』が開かれる。江戸時代末期に活躍した歌川国芳(1797〜1861)は、大胆な構図やユーモアあふれる画風から「奇才絵師」と呼ばれ、幅広い世代の人気を集める、日本を代表する浮世絵師だ。同展では、まるで映画を鑑賞するように歌川国芳の世界を楽しめる。約200点の作品を武者絵、怪物や妖怪、美人画、役者絵、風景画、戯画など6つのテーマで展示。解説も充実しており、浮世絵になじみのない来場者でも理解を深めながら鑑賞できる構成だ。また『動き出す浮世絵展』のスピンオフ作品で「イマーシブ(没入型)アート」も実施。『宮本武蔵と巨鯨』や『相馬の古内裏』といった国芳の浮世絵が立体的な映像で動き出し、その世界に没入できる。今回は同展を監修した月本寿彦氏にインタビュー。同展の企画意図や見どころについて話を聞いた。

国芳の絵を映画に見立てた展示構成

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』監修者の月本寿彦氏

――昨今、全国でたくさん歌川国芳展が開催される中で、同展は他の国芳展とどう違うのか、監修されている立場で意識したことは?

意識したのは「わかりやすさ」と「とっつきやすさ」です。同展は6つの幕で構成されますが、国芳の人物像を細かく分けて見せようと思いまして。国芳の作品はとても動きがあり、ある意味で動画的なんです。パノラミックな画面で、昔の映画のワイドスクリーンのようなイメージがあります。

――まさに同展は「映画やお芝居を見るように楽しんでもらう」とありますね。

映画は映画でも、1950年代のモノクロのハリウッド映画のような雰囲気でわけてみようということで、わざわざ「第1幕:KUNIYOSHI’s アクション!」とつけているんです。昔の映画の予告編では、「アクション! ジャーン!(効果音)」と俳優の目が映ったり、「ラブ!」「サスペンス!」とダミ声のナレーションが入ったりするわけですね。それを幕ごとにやろうと思いまして。いわゆる武者絵なら「アクション!」、美人画なら「ビューティー!」、役者なら「ハンサム!」にしようと。

――なるほど、面白い。

あとは解説ですね。よく浮世絵は「初心者に良さが伝わりにくい」とか「何に着目すればいいかわかりにくい」と言われるので、「KUNIYOSHI's クローズアップ!」と題して、キャラクターが見どころを解説するパネルをふんだんに用意しました。きちんとした解説はキャプションに、見どころは「KUNIYOSHI's クローズアップ!」に書いてあるので、安心してご覧いただけます。

――映画風の見せ方というのは、新しい切り口ですね。

国芳の絵って、西洋絵画風でかなりバタ臭いんですよね。映画監督の黒澤明も実は西部劇から影響を受けていた。黒澤明の『用心棒』(1961年)が西部劇にいって『荒野の用心棒』(1964年)としてリメイクされるんですけれど、アクションの展開が洋画的で大衆的で「カッコ良くて強い男のヒーローが暴れまくって悪を倒す」みたいなストーリー性もある。国芳の『水滸伝』(国芳の出世作。中国の小説「水滸伝」を題材に描いた、躍動感あふれる武者絵が大ヒットした)なんかは特にそうですし。そこから映画のアイデアに行き着いたんですけど、もちろん国芳の時代に映画があるわけはないので、私たちの勝手な解釈ではあるんですけど。

猫ブームの立役者は国芳!?

「猫の当字 ふぐ」天保末(1841-43)頃 個人蔵

――それこそ3枚ワイドの続絵は、1枚で見ると縦型のスマホと同じような構図です。今のスマホ時代と国芳の浮世絵の構図はマッチしているかもしれないですね。

それはあるかもしれないです。よくインターネットで猫動画が繰り返し流れてきますけど、国芳と現代の動画の相性の良さなのかもしれませんね。唐突に猫と言ってしまいましたが、僕は猫が好きなので(笑)。なぜあんなふうに猫がキャラクター化されて、今でも通用して流通しているのかなと思うと、発端が国芳なんじゃないかなと思うんですよね。国芳が猫好きだったことはもちろんですが、猫をキャラクター化して、しかも大量に出版した人は国芳以前では他に類を見ない。国芳によって行われた猫キャラクター化が弟子たちに受け継がれて、明治時代にも大量の猫絵が登場するんですけど、そういった猫の流通化は、多分国芳がいたから。僕は今でもそれが続いている感じがするんですよ。

――猫ブーム、本当に長く続いていますよね。その先駆けが国芳だったと。

そもそも猫ブームという言葉が出たのが1978年頃。当時のマスコミが言ったのが最初だと言われています。だから今でも猫ブームって続いているんですよね。

――今回の展覧会では猫は?

ごめんなさい、今回は猫はあまりありません(笑)。

――同展では「イマーシブ(没入型)アート」もひとつのポイントだと思います。月本さんは実際に映像を体験されましたか?

北海道展で体験しました。国芳の作品とイマーシブは相性がいいですよね。元々の構図に動きがあるので、それをダイナミックに動かすことで逆に自然だと感じましたね。

「相馬の古内裏」弘化2-3年(1845-46)頃 個人蔵

――構図がダイナミックだと先に絵が入ってきて、直感的に楽しめますね。

それをまた国芳はうまく計算していて。不安定な構図をしていたり、3枚続きの右側に中心が偏っていたり。不協和音を起こすことで動きが生まれてくるんですよね。国芳はそれを理解しているようです。

江戸の人々の暮らしや想いが、作品から伝わってくる

「本朝水滸伝豪傑八百人一個 天眼礒兵衛 夜叉嵐」天保2年(1831)頃 個人蔵

――「作品解説を通じて江戸の人々の暮らしや感性にも光をあてる」ともありましたが、これについては?

例えば、刺青ブーム。国芳が描く以前にも、江戸の職人たちの間では刺青が入れられているんですね。火消し職人や駕籠(かご)かき職人、川を渡す人足。肉体を見せる必要がある人たちが刺青を入れていたんですけれども、国芳の『水滸伝』の中では、背中全体や手足まで刺青を彫られた絵が描かれていくんです。「弱きを助け悪しきを挫く」、勧善懲悪の世界のヒーローたちが刺青を彫っていることで人気が出て、町人の間でも刺青ブームが起きました。さらに言うと現代でもそうなのかもしれません。国芳の絵を見せて「このタトゥーにしてほしい」というリクエストがあるそうですよ。

――憧れの的なんですね。

そう。当時の江戸幕府の政策によって、町人は日常生活にかなり制限がありましたから、それに対する鬱憤もあったのかもしれませんね。あと国芳はよく「幕府の政策を批判する作品を残した」と言われていますが、国芳が批判したというよりは、批判してほしいと思った町人たちの思い込みも含めてそういった作品ができていったという見方もあります。江戸の町人の暮らしや想いと国芳の作品は繋がっていて、決して切り離せないものですよね。

――ある意味、代弁者というか。

そうそう。代弁者に仕立ててしまっている部分もありますよね。本当の代弁者じゃないかもしれないんだけど、代弁者に仕立ててみたら人気を呼んだから、版元と国芳で結託して、ちょっと思わせぶりな作品を作ってみようとしていたんじゃないかなと思います。

「十賢女扇 祇園梶」弘化元-4年(1844-47)頃 個人蔵

――そして美人画には、町娘たちの生活がありありと描かれています。

美人画に関しては、国芳はあまり理想化してないんですよね。国芳の師匠・歌川豊国などの美人画を得意とする絵師は女性を理想化して、色気たっぷりの遊女の姿なども描いています。遊女を描くことが禁じられた天保の改革の影響もあるんでしょうけど、国芳の作品には普通の江戸の町娘の様子が垣間見えますね。

――本当に生き生きとしています。

国芳は紺屋、つまり染物屋の出身なんですよ。だから女性の着物の柄にすごくこだわって、当時人気だった弁慶縞や絞りの着物を描いている。ちょっとしたファッション雑誌のカタログ的な部分もあったりします。それが国芳の美人画の特徴かな。あとはてらいのない、変に男に媚びてない女性の姿が描かれやすい。国芳の美人画には代表作として広く知られる作品こそ多くありませんが、瞬間を切り取ったり、当時の江戸の暮らしを想像させるには十分な親しみやすい作品が多いですね。

――なるほど。

もちろん作品解説を読んでいただけるとよりわかりやすいですが、国芳は実際に生きて見た風景を元に描いているので、絵だけ見ても十分当時の暮らしぶりがわかるかなと。「第5幕:KUNIYOSHI’s ヴィジョン!」では、西洋絵画を勉強した国芳の当時の描写が見られます。例えば、『東都御厩川岸之図』では、土砂降りの雨が降っていて、舗装もしていない砂混じりの土の道なので、水が大量に降り注ぐと泡立ってくる。あとは急な雨で傘の用意がなく、貸し傘屋から借りてきた傘に番号が書いてあったり、料理屋さんから借りた1本の傘に男3人が一緒に入っていたり。うなぎ獲りの漁師は「漁師だから濡れても構わない」と諦めた感じで歩いていたり。風景シリーズは当時の江戸の暮らしぶりや人の息遣いがよく展開されていますね。

――そして国芳は、新版画(浮世絵の近代化と復興を目指し、大正初期から昭和にかけて制作された美術品としての浮世絵版画。特別展『THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』を月本氏が監修した)よりも前に、浮世絵に西洋画のエッセンスを取り入れていたんですね。

そうなんですよ。徳川吉宗の時代に幕府は洋書の輸入を解禁したのですが、それは医学書や科学書、いわゆる教義を大事にするものでした。だからある程度日本人もそういったものに触れていて、西洋の絵画や科学に対する理解が深まっていった時期だという背景もありますが、それ以上に国芳は貪欲に積極的に西洋絵画を学ぼうとしていたという説話がいくつも残されています。

―― 国芳の人柄が浮かび上がってくるようですね。

国芳は典型的な江戸っ子で、荒っぽくて野卑な人間かと思えば、西洋絵画に対する理解や知識欲もある、近代人としての側面もありました。時代的にも江戸と近代文明のちょうど端境期なので、すごく多面的で面白い人だなという気はしますね。

スーパークリエイター国芳は1人じゃない?!

――今回タイトルに「スーパークリエイター」とついていますが、国芳のどのような点が「スーパー」だと思われますか?

国芳ぐらい多彩なジャンルで、魅力的な作品を生み出している人は他にいません。それだけではなく、発想の豊かさや的確なデッサン力がすごいなと思いますし、この両者の掛け合いが「スーパークリエイター」たる所以だと思います。実は今回の展覧会は、スーパークリエイターと掲げながらも、その一方で「国芳って1人じゃないんじゃないか」という問いを裏テーマにしていて。国芳と付き合いの深かった梅屋鶴寿(鶴子)(うめのや・かくじゅ/かくし)という人物がいるんですよ。この人と国芳はまるで兄弟のような付き合い方をしていて、国芳は版元から作画の依頼があると、全てじゃないかもしれませんが、梅屋鶴寿(鶴子)に相談してどんな作品を作るかを2人で考えていたそうです。一説には『水滸伝』シリーズが誕生したキッカケにも、梅屋鶴寿(鶴子)が関わっているんじゃないかと言われてるぐらい。だから「スーパークリエイター国芳は1人じゃない」は、今回の裏テーマなんです。

――ブレーンと組んで一緒にやっていたという。

それを前面に出すことは、国芳という人物をかえって歪ませることになるかもしれないですが、少なくともこれだけ多彩なジャンルでアイデア満載で作品を作れたというのは、1人の仕業ではないような気がするんですよね。

――その説はいつから囁かれているんですか?

結構前から言われてはいるんです。ただそれをテーマにするというか、「実はそうだった」という話はしてないと思うんですよ。

――確かに初めて聞きました。でも、浮世絵はそもそもチーム戦というか。

そうですね。版元のアイデアも国芳のアイデアもあるし。寄ってたかって「みんなで面白いものを作っていこう!」というのが浮世絵の生まれ方ですね。

――だけど、梅屋鶴寿(鶴子)がそれとは違う関わりをしていたのか気になります。同展への期待が高まりますね。

エピローグで「ダレソレ KUNIYOSHI!​」のセクションを設けたんですよ。これは自分としても結構こだわった部分です。国芳について「これもいいよね、あれもいいよね」と言っているうちに「じゃあ逆に国芳はどんな人なの?」という話になってきて。国芳は、自画像をまともに正面から描いていないんですね。後ろ姿しかない。だけど周りに猫がいたり、地獄の閻魔様(地獄変相図)のどてらを着ていたり、国芳自身が愛用していたと思われるものを描くことで「国芳だ」とわかるんです。国芳は、絵師として今の画家のように自分自身のアピールはしていないですが、どこかしているところもあったりして、曖昧な部分が非常に多い。その曖昧さは一体何だろうかというと、さっきの梅屋鶴寿(鶴子)の話に繋がっているんです。結局「わからないものは最後までわからない」という終わり方ではあるんですけども。

――最初から最後までしっかり観るべき展覧会になっているのは確かですね。

そうですね。ぜひ楽しんでもらえると嬉しいです。

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』監修者の月本寿彦氏

取材・文=久保田瑛理 撮影=Nagao.M(SPICE編集部)

イベント情報

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』
会 場:京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階
会 期:2026年7月18日(土)~9月23日(水・祝)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休 館 日 :月曜日 ※ただし7月20日(月・祝)、9月21日(月・祝)は開館
料金(税込):一般1,900円(1,700円)、高大生1,400円(1,200円)、小中生700円(500円)
※()は前売・団体料金
主 催:関西テレビ放送、産経新聞社、京都新聞、京都市
企画協力:アートワン
公式サイト:http://www.ktv.jp/event/kuniyoshi/
■前売ペア券 3,000円(税込)(2枚1組での販売。1枚ずつでの使用可)
1,000組(2,000枚)限定販売
販売期間:~予定枚数終了まで。
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