歌の命の素晴らしさを教えてもらった一期一会の夜、『A Tribute to EIICHI OHTAKI』レポート

レポート
音楽
10:00
『MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE  A Tribute to EIICHI OHTAKI 』

『MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE A Tribute to EIICHI OHTAKI 』

画像を全て表示(16件)

MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE 
A Tribute to EIICHI OHTAKI 
2026.6.10 SGC HALL ARIAKE

6月10日、SGCホール有明で『MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE A Tribute to EIICHI OHTAKI 』を観た。今年の『MUSIC AWARDS JAPAN』を象徴するアーティスト「SYMBOL OF MUSIC AWARDS JAPAN 2026」に選ばれた大滝詠一を称えるトリビュート公演だ。出演者の豪華さには文句のつけようがない。客席は70~80年代に青春期を送っただろう、熱烈なファンを中心に埋まった。開場中の場内BGMで、大滝楽曲のいわゆる「元ネタ」が流れているのも粋な演出だ。開演前から大滝ワールドは始まっている。

NIAGARA'S CLUB BAND

NIAGARA'S CLUB BAND

オープニングは80年代ナイアガラサウンドの立役者・井上鑑率いるNIAGARA'S CLUB BANDのインスト「夏のペーパーバック」、続いてバンドの生演奏に大滝ボーカルを重ねた「君は天然色」。J-POPの元祖とも言われる大滝詠一だが、生で感じる楽曲のエネルギーと演奏の音圧はまぎれもなくロック。凄い迫力だ。

杉真理

杉真理

懐かしい「GO! GO! NIAGARA」のテーマが流れ、大滝詠一のDJを引き継いで本日の司会進行(影アナ)を務める俳優の佐野史郎が、この日最初のゲスト・杉真理を舞台に呼び込む。45年前の大滝との出会いを語りながら、自身が参加した『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』から「オリーブの午后」「♡じかけのオレンジ」を歌う、ノスタルジーとリスペクトが歌の中からあふれ出す。見た目も声もあの頃とあまり変わらない気がする、若々しい姿がトリビュートの始まりにふさわしい。

ハンバート ハンバート

ハンバート ハンバート

続いては朝ドラ『ばけばけ』でお馴染みのこの二人、「ハイ、ハンバート ハンバートです。はいから・いず・びゅーてぃふる」というセリフもばっちり決めて、「はいからはくち~ウララカ」、そして「幸せな結末」へ。意外とも思えた、フォークな存在感とロックな楽曲のミスマッチの面白さ、そして大滝楽曲の初期と最後期を同時に聴かせる幅広さ。トリビュートの妙味を存分に見せる快演だ

トータス松本

トータス松本

ド派手なピンクの和服にシルクハットに革靴、あのレコードジャケットをオマージュしたトータス松本が歌うはもちろん「ナイアガラ音頭」。当時の録音にも参加した「ナイアガラ社中」、佐野史郎も加わり大騒ぎ、さらに伊藤銀次を呼び込んで「福生ストラット(パートⅡ)~楽しい夜更かし」。伊藤はウルフルズのプロデュースを引き受ける時、「布谷文夫みたいなボーカルがいる」と聞かされていたらしい。この歌、このムードを今出せるのは、トータスしかいない。

伊藤銀次

伊藤銀次

ステージに残った伊藤銀次が歌う「スピーチ・バルーン」「ペパーミント・ブルー」は、名唱名演続出のこの日の中でも白眉だった。大滝詠一に惹かれた理由を「あの毛筆のような歌い方」という独特の表現で語り、言葉を風に乗せるように柔らかく歌う。その体に受け継がれた大滝詠一スピリットが確かに見えた、とても感動的なシーン。歌い終えたあとの佐野とのトークでは、はっぴいえんど「朝」に衝撃を受けたのがすべての始まりだったと明かす。歴史はこうして作られていく。

渡辺満里奈

渡辺満里奈

ここから女性アーティストの登場で、場の空気がパッと華やかになった。渡辺満里奈が1995年の『ちびまる子ちゃん』第二期オープニング主題歌「うれしい予感」を、そして80年の須藤薫のカバー「あなただけI LOVE YOU」を歌う。デビュー当時から大好きだったというこの曲、大滝楽曲だったことをあとから知ったそうで、「やっぱり私は大滝さんの曲が好き」という言葉に実感がこもる。デビュー40周年、彼女もまたナイアガラの灯を受け継ぐ者の一人。

野宮真貴

野宮真貴

野宮真貴は、大滝個人との対面はなかったそうだが、「渋谷系の元祖」という表現で大きなリスペクトを捧げてくれた。曲は1998年、『ポンキッキーズ』で市川実日子が歌った「ポップスター」、そして小泉今日子「怪盗ルビイ」を、残された大滝ガイドボーカルと共にデュエットで。交流のある小泉にも了解済みという、心のこもった「共演」。大滝作品はオリジナル中心に語られがちだが、提供曲という名の鉱脈は、未だに掘れば掘るほど新しい発見がある。

藤井フミヤ

藤井フミヤ

黒スーツとサングラスで決めた藤井フミヤが、「恋するカレン」「冬のリヴィエラ」を歌う朗々とした声が、ホールいっぱいに鳴り響く。大滝歌唱に寄せない、彼らしいパワフルな歌い振りがいい。『A LONG VACATION』が出た当時、カセットに録音してウォークマンで繰り返し聴いていたというエピソードに、共感する同年代も多いだろう。歌い終えて客席に一礼、振り向いてバンドにも礼をして去る、一つ一つの振る舞いが清々しい。

稲垣潤一

稲垣潤一

稲垣潤一が登場すれば、歌うはもちろんこの曲「バチェラー・ガール」。大滝がカーラジオで稲垣の歌を聴き、「バチェラー・ガール」の提供を自ら提案したらしい、というエピソードを謙虚に語る姿、朴訥とも言える歌い振りに人柄がにじむ。そしてもう1曲、かつてデュエット・バージョンをリリースしたことのある「風立ちぬ」をソロで歌い上げる。銀ねずのスーツに銀髪、年を重ねた自然体の中に、ずっと変わらない大滝作品への愛とリスペクトがはっきり見える。

小林旭

小林旭

ここで素晴らしいサプライズがあった。バンドが奏でるこのイントロは「熱き心に」だ、と思った瞬間、巨大なオーラをまとう白スーツの男がステージに現れた。小林旭だ。場内騒然、どよめきも気にせずに颯爽とマイクを握る、たくましい歌い振りを説明するにはどんな形容詞も足りない。声もよく出ている。御年87歳のパワーは規格外のひとこと。歌い終えて一礼、何も言わずに手を振りステージを去る、一挙手一投足が見逃せない。凄いものを見た。

鈴木茂

鈴木茂

NIAGARA'S CLUB BANDが「恋のナックルボール」を奏でると、いよいよショーのフィナーレが近づいてきた。この日の出演者の中で、おそらく大滝個人を最も知る男、はっぴいえんどの盟友・鈴木茂が「雨のウェンズデイ」「カナリア諸島にて」を切々と歌う。自ら認めている通り、節回しが大滝詠一に似ている。そして歌以上に饒舌なギターソロの素晴らしさ。野球好き、映画好き、落語好きと、大滝の多趣味を挙げながら、「もう一度あの話を聞きたい気もしますが……」と言って言葉を切る、何気ない仕草にも万感がこもる。もう1曲、伊藤銀次と杉真理を呼び込み、3人で溌剌と歌う「A面で恋をして」の中にある、幾重にも重なった縁の深さ。すべては歌の中にある。

吉田美奈子

吉田美奈子

この豪華絢爛なトリビュート公演を締めくくるにふさわしいシンガー、それは吉田美奈子。彼女が初めて大滝楽曲に参加した思い出の1曲「指切り」を歌う、怖いほどに妖しく、激しいほどにソウルフルな歌にぐいぐい引き込まれる。「大滝さん」と言おうとして噛んでしまい、「詠一さん、と呼んでいたから」と笑う姿にも思い出がにじむ。そしてラストはやはりこの曲「夢で逢えたら」。スローバラードにアレンジされた名曲の生命力、圧巻の歌唱力。そしてクライマックスのポエトリーで、空を見上げて「詠一さん!」と叫ぶシーンに、あやうく涙がこぼれそうになる。「夢で逢えたら」が追悼歌として聴こえることに、今さらながら気が付いた。

最後にもう一度、すべての出演者がステージに揃って記念撮影、およそ3時間に及ぶトリビュート公演は幕を下ろした。鈴木茂の言った「大滝さんの曲はみんなのコミュニケーションになる」という言葉は真実だ。あらゆる世代とジャンルを超えて歌は残り、さらに続く。人の命よりもはるかに長いだろう、歌の命の素晴らしさを、すべての出演者の熱演と観客のあたたかい反応に教えてもらった、一期一会の夜だった。


取材・文=宮本英夫
写真=(C)MUSIC AWARDS JAPAN

 

セットリスト

MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE 
A Tribute to EIICHI OHTAKI 
2026.6.10 SGC HALL ARIAKE
01. 夏のペーパーバック /NIAGARA'S CLUB BAND
02. 君は天然色 /NIAGARA'S CLUB BAND×大滝詠一(アーカイブ歌唱) 
03. オリーブの午后 /杉真理 
04. ♡じかけのオレンジ /杉真理 
05. はいからはくち~ウララカ /ハンバート ハンバート
06. 幸せな結末 /ハンバート ハンバート
07. ナイアガラ音頭 /トータス松本×ナイアガラ社中×佐野史郎 
08. 福生ストラット(パートⅡ)~楽しい夜更かし トータス松本×伊藤銀次 
09. スピーチ・バルーン /伊藤銀次
10. ペパーミント・ブルー /伊藤銀次
11. うれしい予感 /渡辺満里奈 
12. あなただけ I LOVE YOU /渡辺満里奈 
13. ポップスター /野宮真貴 
14. 怪盗ルビイ /野宮真貴×大滝詠一(アーカイブ歌唱) 
15. 恋するカレン /藤井フミヤ 
16. 冬のリヴィエラ /藤井フミヤ 
17. バチェラー・ガール /稲垣潤一 
18. 風立ちぬ /稲垣潤一 
19. 熱き心に /小林旭  
20. 恋のナックルボール /NIAGARA'S CLUB BAND 
21. 雨のウエンズデイ /鈴木茂 
22. カナリア諸島にて /鈴木茂 
23. A面で恋をして /鈴木茂×伊藤銀次×杉真理 
24. 指切り /吉田美奈子
25. 夢で逢えたら /吉田美奈子

イベント情報

MUSIC AWARDS JAPAN 2026
開催日時:2026年 6月13日(土)
※開催ウィーク:2026 年 6月5日(金)〜6月13日 (土)
会場 :TOYOTA ARENA TOKYO 他


■オフィシャルサイト https://www.musicawardsjapan.com/
シェア / 保存先を選択