ばぶれるりぐる 第7回公演『ほとびる屋上』が描く、ゆるやかな人間関係と労働~竹田モモコ×チャーハン・ラモーン×石住昭彦×や乃えいじインタビュー
(左から)石住昭彦、チャーハン・ラモーン、竹田モモコ、や乃えいじ
現代社会で働く人間はほぼ毎日、社会性という鎧をまとって職場に立ち続けている。一体どれほどの緊張を強いられているのだろうか——そんな問いかけから生まれた舞台作品が、演劇ユニット「ばぶれるりぐる」の第7回公演『ほとびる屋上』だ。高知の方言・幡多弁(はたべん)を用いて、中小企業で働く人々の姿を描く。
「ほとびる」という言葉には、正月に硬くなった餅を水でふやかすように、こわばった外殻がゆるやかに溶け、人と人との境界線が曖昧になったらいい、という願いが込められているそうだ。どんな芝居が立ち上がっていくのか、脚本を手がけた竹田モモコ、演出のチャーハン・ラモーン、出演者の石住昭彦、や乃えいじに、本作への想いや制作の裏側を語ってもらった。
「ほとびる」を体現する、二人のおじさん社長
ーー今作のタイトルにある「ほとびる」という言葉には、どのような想いが込められているのでしょうか?
竹田:私はこの間まで正社員として20年間働いてきたのですが、1日8時間働くのが限界だなと思いまして。8時間は本来、上限労働時間だったはずなのに、「8時間は働こう」という空気になっていて、みんなよく社会性という外郭を保っていられるなと思います。会社の中で奇声を上げるわけにもいかないし、寝転ぶわけにもいかない。だからこそ、こんな会社があったらいいな、という想いを込めて、カチカチな外殻が少し緩んだような会社を舞台に書かせていただきました。
竹田モモコ
ーーこうしたテーマは前々から構想があったのか、それとも今回のために一番書きたい題材として選んだのでしょうか。
竹田:前々から「社会で生きていくための鎧」や「本心を隠すこと」は、自分の中で元々テーマというか、わりと描きがちな題材でした。今回は舞台上で、おじさんをどうしても際立たせたいと思って、中高年の社長2人が中心の物語を構成していったんです。私もそうなんですけど、年齢を重ねると歯茎が下がってきたり、すねが粉をふいたりするじゃないですか。そういうふうに、人がちょっとずつほとびていく様を描きたいなと思いました。人生が終盤に向かっていく中で、ほとびていく自分を人に見せてもいい環境があったらいいな、と思っています。
ーーそれが屋上という舞台設定や、境界線の曖昧さという表現につながっていった背景としては、どのような意図があるのでしょうか。
竹田:やってみたかったんです。ナイロン100℃の『社長吸血記』(2014)というお芝居があるんですけど、その舞台が屋上で、素敵だなと思ったんです。飛んじゃえば死んじゃうし、ちょっとしたいざこざでもドキドキするじゃないですか。いつか屋上を舞台に使いたい、という希望はずっとありました。で、今回は会社ものだから「屋上、使えるじゃん」と。
ーーチャーハンさんは演出家として、どのような空間や物語を立ち上げたいと感じましたか?
チャーハン:脚本を読んで、みんなが羨ましがるような世界観を作りたいなと思いました。ある種の緩さがある空気感ですね。人との付き合い方や距離感も含めて、「こんな社会があったらいいな」と思えるような雰囲気を表現できればと思っています。
チャーハン・ラモーン
ーー演出だけでなく、脚本にも竹田さんが制作している段階から関わっていたそうですね。
チャーハン:前回公演は幡多弁をそれほど使っていなかったので、今回は出演者全員に幡多弁を使ってもらおうという話をしました。竹田さんは「屋上の芝居を作りたい」と言っていたので、「ビルがあって幡多弁といえば、四万十市中村かな」「中村にあるということは中小企業かもなぁ」とぼんやりとした話はしまいた。脚本の中身は竹田さんが考えています。僕は竹田さんの筆が止まったら、ヒントを出す程度です。
竹田:話し合いを経て、最初は群像劇をイメージしていたところを、おじさん二人にフォーカスした話へ寄せていきました。
役者も心動かされる、人間味のある脚本の味わい
ーー石住さんとや乃さんは、数々の舞台でキャリアを重ねてこられたベテラン。今作に参加されることになった決め手や、台本を読んだ率直な感想を教えてください。
や乃:一昨年に、竹田さんのご出身でチャーハンくんにも縁のある、高知県の土佐清水でお芝居をさせていただいたんです。僕は、水族館のちょっとヘンテコな館長役だったんですけど、そのときに訪れた土佐清水の町が本当に素敵で。中村もその近所で、僕は通過しただけですが本当にいい町でした。で、土佐清水は魚がうまくて……。
竹田:何の話だっけ?
一同:(笑)
や乃:今回もその公演と同じ幡多弁ですが、最初に脚本を読ませてもらった時点で、もうダメでした。泣いてしまって。メッセージも送ったと思います。「この天才、天才、天才」って。とにかくラストでボロボロ泣いて、「なんで僕は脚本を読んで泣いてるんだろう」と思うくらいでした。セリフを読んでいると、土佐清水の町にいそうな顔が浮かんでくるんです。今日の稽古で少しずつ固まってきた感じもあって、嬉しく思いながらやらせていただいています。
ばぶれるりぐる 第7回公演 『ほとびる屋上』稽古の様子
ばぶれるりぐる 第7回公演 『ほとびる屋上』稽古の様子
ばぶれるりぐる 第7回公演 『ほとびる屋上』稽古の様子
ーー石住さんは前回公演『なるべく大きな水槽を』の後に、竹田さんからオファーを受けたそうですね。
石住:竹田さんが書く作品も、チャーハンさんがそれを演出するのも、奇跡的に面白いんです。去年の今頃に初めて役者として呼んでいただいて、そのときは40年ほど在籍していた劇団を辞めるかどうか迷っていたのですが、そういう話も全部聞いてもらいました。ちょっと大きな節目の時期に、一緒にお芝居をやらせてもらったんです。今年もまた呼んでいただけて、無職のおじさんになるところだった身としては、本当にありがたいと思います。
ーー『ほとびる屋上』の脚本を読んでみて、いかがでしたか。
石住:最初に読んだときは、つい自分の役を中心に捉えてしまいました。詳しくはネタバレになってしまいますが、頑張ってやらなきゃいけない気がして、「ちょっと恥ずかしいです」と言ってしまったんです。でも、全体を何度も読み返してみたら、「すごく失礼なことを言っちゃったな」と思い直して。自分がどう演じるかばかり考えていましたが、読者として何回も読むと、ここにいる人間たちが面白くて生き生きしていればいいんだなと感じられて、これは結構作りがいがあるなと思いました。
(左から)石住昭彦、や乃えいじ、竹田モモコ、チャーハン・ラモーン
屋上で繰り広げられるリアルなドラマ
──今回、ご自身が演じる役柄の「ここを観てほしい」と思うポイントや共感する部分など、それぞれの役についてお聞かせいただけますか。
竹田:私は今45歳なんですが、「もし地元に残っていたら、45歳の今、どんな性格になっていたんだろう?」みたいな想像を表現に取り入れています。いわゆる“田舎の45歳あるある”みたいな感覚ですね。そのあたりの、ちょっとした駄弁りというか雑談っぽい部分が、聞いていて面白いところになればいいなと思っています。
や乃:脚本を読むと、世の中で実際にいる人のセリフというか、声が聞こえた気がしたんですよね。芝居を見た後に「この人、どこかにいそう」「親戚のおっちゃんに近い」みたいに、身近な誰かに重なる印象を受けてもらえたら、一番嬉しいかなと思っています。生々しく存在する役というか、人を人として認識してもらえるような、そんなお芝居になったらいいなという気がしますね。
石住:僕は「こう観てもらいたい」といった強いこだわりは、あまりないんです。ただ、ちょっと欲張りで、いろんなネタを仕込んでしまうんですよね(笑)ただやっぱり、なるべく欲張らずにその場にいられるような人になれればいいなと思っています。多分、そうなっていくんじゃないかな。たとえば親父や親戚に対して思うように、自分に実感がないと口にできないセリフが多いんですよね。
石住昭彦
ーー今回はよく似たビルや会社があり、2人の社長がいる点がユニークだと感じました。脚本・演出の面で、それぞれのキャラクターを描き分けるためにこだわった点や工夫した点はありますか?
竹田:二人とも本当に大先輩なんですけど、私はかわいらしさがある方々だなと思ってるんですね。人としての包容力がにじみ出ているというか。だから、役として誇張することはなくて、二人の人物像からそんなに遠くないキャラクターや関係性を書いています。
チャーハン:僕はちょっとヘンテコな演出をするんですよ。言っているセリフと違う動きを要求したり、仕草をシンクロさせたり、ふざけた動きとかを求めたりする。それを先輩に伝えるのはヘンテコなのでちょっと怯えたりするのですが……お二人には笑顔でやっていただけるので、とても助かっております(笑)。
ーーお二人を含めて登場人物が7人いますが、実際に稽古場で対面しての手応えはどうですか?
チャーハン:何度か僕の演出で舞台を作ったことのある方々しかいませんので、「ひとまず泳がせておこうかな」と見物しております。みなさん本当におもしろですよ。僕が変に演出とかしない方がいいかもしれないぐらい、演出席でずっと笑ってます。そろそろ「ごめん、あれはなしにして」とお願いする場面は出てくるかもしれませんが(笑)。
ーーばぶれるりぐるの代名詞ともいえる、幡多弁のお芝居も楽しみですね。
竹田:高知県の幡多地区に行くには、東京からは新幹線で片道3万円くらいかかるんです。移動には丸1日かかりますし、なかなか訪れる機会がない場所だと思っています。だからこそ、東京や大阪の方は観に来ていただけたら、幡多の魅力を手軽に味わえると思います。
チャーハン:幡多弁はあまり馴染みがないかもしれませんが、石住さんとや乃さんはナレーションや声優の仕事もされているので、イントネーションに関してはプロ中のプロなので心配はしておりません。
石住:でも、まだまだセリフが入ってこないですね。
や乃:喋りながら「あ、違う!」ってなるときもまだありますね。今から何とかやっつけていくところです。
や乃えいじ
観ればきっと、ちょっと心が楽になる作品
ーー最後に、これから公演を観る予定の人や、興味を持っている皆さんへのメッセージをお願いします。
チャーハン:大阪と東京で知り合った役者さんたちが入り混じっての公演です。大阪のメンバーにはわざわざ東京に来てもらい稽古に参加してくださっています。これを僕は現場でドリームチームと呼んでいるのですが、こんな贅沢な芝居の作り方は当分できないです。ぜひ、みなさんにこのごちゃごちゃを観ていただきたい。
石住:同じ演劇でも、きらびやかで非日常的な舞台もあれば、どん底を見せられて「自分より下にこんな奴がいるのか」と、自分の暮らす現実味に引き寄せて見てしまう作品もあると思います。でも、どちらにも芝居を作った人たちが確かにいるんです。嘘の世界が立ち上がっていくからこそ面白いし、それが面白いと思ってもらえたら、「なんだ、私たちと同じじゃん」と感じられると思うので、今回の公演もそう思っていただけたら嬉しいです。
や乃:田舎という舞台設定は、今の時代に失われかけているものや、自分も含めて見失いかけているものが、どこかにちらりと見える気がするんです。今作ではそれをただ大事だと言うのではなく、突き付けられたときにどうするのか、決定的な答えが示されているようでいて、見る側に宿題として残されている部分も多いと思っています。だからこそ、真正面からの積極策として語るのではなく、一つのエンターテインメントとして、ふと身近な人の顔や声など自分の記憶に重ねながら考えてもらえる、そんな作品になるんだろうなと思います。
竹田:私は今の日本で、「一度失敗したら終わり」みたいな空気がすごく苦手なんです。会社で一度でも泣いてしまったら終わり、みたいな感覚があるのが嫌で。もっと「私はここが弱いです」と素直に出しても受け止めてもらえる会社や社会になったらいいなと思っていますが、政治家でもないので、私には脚本を書くことしかできないんです。ファンタジーでもいいから「こんな世界を目指しませんか」とそっと提示できたらと思います。今が息苦しくて、会社で叫びたくなってしまう人に観てもらえたら、ちょっと楽になるんじゃないかなと思います。
ーーありがとうございました!
(上段左から)石住昭彦、や乃えいじ(下段左から)チャーハン・ラモーン、竹田モモコ
取材・文=さつま瑠璃 撮影=山崎ユミ
公演情報
『ほとびる屋上』
<東京公演> MITAKA”Next”Selection 27th参加作品
2026年10月2日(金)~12日(月祝)
三鷹市芸術文化センター星のホール(MITAKA”Next”Selection 27th)
<大阪公演>
2026年10月15日(木)~18日(日)
インディペンデントシアター2nd
【脚本】
竹田モモコ
【演出】
チャーハン・ラモーン
【出演】
石住昭彦
や乃えいじ(PM/飛ぶ教室)
内藤裕志
東千紗都(匿名劇壇)
窪田道聡(劇団5454)
高橋映美子
竹田モモコ(ばぶれるりぐる)
舞台監督:久保克司(スタッフステーション)
舞台美術:柴田隆弘
照明プラン:葛西健一
照明オペ:葛西健一、海老澤美幸(Licka)
音響:大谷健太郎(S.H.Sound/BS-Ⅱ)
演出助手:坂井初音
映像撮影・編集:武信貴行(U.M.I Film makers)
イラストとチラシと音楽:チャーハン・ラモーン
制作:安井和恵(クロムモリブデン)、寺井ゆうこ
配信情報
https://www.youtube.com/watch?v=__L8s3i-5-M