花澤香菜、ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』再演に挑む心境を語る
ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』花澤香菜
2016年に韓国で初演され、昨年、ブロードウェイ公演がトニー賞で作品賞、主演男優賞、演出賞、脚本賞、作曲賞、舞台デザイン賞の6部門受賞を成し遂げたミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』。日本では2020年に上演され、ヘルパーボットたちが繰り広げるせつない物語が好評を博した。その待望の再演が11月に行なわれる。初演時に引き続きヘルパーボットのクレアを演じる花澤香菜に舞台への意気込みを聞いた。
――再演が決まってのお気持ちは?
6年前に出演させていただいて、この作品が大好きになって。ミュージカルを観る経験がそこまでなかったのですが、とてもいいお話ですごく入りやすいと感じました。絶対に再演する、しかも私ではない人のクレアで、と思っていて(笑)、絶対観に行こうと。なので、再演の舞台のお話をいただいてすごくうれしかったです。再演までの間にトニー賞も受賞されて、「私、やっていいんですか?」みたいな。初演のときはコロナ禍で、人とのつながりを密に描くこの作品に関わっている時間がすごく幸せで。またオリバーやクレアに会えると思うと本当にうれしい気持ちになりました。
――作品にどんな魅力を感じていらっしゃいますか。
オリバーもクレアもすごく純粋なんです。クレアは人を信じられなかったりするんですけれども、オリバーのおかげで心がどんどんほぐれていって。ロボットのことを描いているけれども、そこに人間を見ているというか。人間もいずれは死ぬけれども、ロボットが故障したり止まってしまったりというところと似ているし。深刻な物語ではあると思うんですけれども、オリバーとクレアを通すとかわいらしいものとして見られる。ハッピーエンディングなのかもしれないと感じさせるところがすごくすてきだなと思っています。
――お好きなシーンは?
オリバーとクレアでホタルの入った瓶を見つめて歌うシーンがあるんです。6年経ちましたが、初演のときのその光景が今でも鮮明に思い出せるぐらい大好きなシーンで。ロボット二体が光る生き物をただじっと見つめて、愛しいなと思う、大事なものを守っているみたいなところが人間みたいですごくいいなと思います。
――クレアという役柄についてはいかがですか。
オリバーはヘルパーボット3でクレアはヘルパーボット5なんです。オリバーより技術的に進歩していてスムーズに動くというハイテク感もあるんですが、気持ちは少女というか、いろいろなものに対してすごく知的好奇心がある。オリバーは割と内省的というか、何かしたくてうずうずしていても行動できないようなもどかしいところがあるんですが、クレアは何かしたいと思ったらすぐ行動するタイプで、法律とか軽く破っちゃうみたいな(笑)、そういうアグレッシブなところがある前向きな女の子で、見ていてわくわくしちゃうようなところが彼女の魅力だなと思います。初演から6年経って、お仕事でもプライベートでもいろいろなことがあり、二人芝居も経験したりしましたので、その経験を生かせるのがすごくうれしいなと思っています。初演のときはミュージカルに出演するのが二度目で、しかもがっちり三人のミュージカルで、お稽古からずっと緊張してたんです。でも、経験と、あと年齢ですかね、たぶんちょっとふてぶてしくなって(笑)、今、別に何と思われてもいいやみたいな気持ちでお稽古場にいられるんです。
――共演者の皆さんについてはいかがですか。
浦井健治さんはもう、性別とか年齢とか関係なく浦井さんというキャラクターというか、6年前から何も変わらない明るさとかわいさでそこにいてくださっていて、すごく安心しています。しかもオリバーとの相性がとてもよくて。オリバーは本当に少年のようで、思わず突っ込みたくなるようなことをいっぱいするんですけれども、それがすごく純粋で。私が演じようとしたらどこかあざとくなっちゃって、「僕、かわいいでしょ」ってなっちゃうような気がするんですけれども、浦井さんは地で行けるっていうか、ずっとかわいい。それが6年経っても変わらないところが本当にすごいなと思いますね。木下晴香ちゃんは初めてお会いしました。オリバーは絶対クレアのこと好きになっちゃうよって思わせる可憐さと歌のすばらしさがあって、彼女を見ていると本当にキュンキュンしちゃう。ダブルキャストの相手が晴香ちゃんと聞いたとき、「どうしよう、私のできなさが露呈してしまう」と思ったんですけれども、稽古に入って晴香ちゃんを見て、全然違う! と思って。晴香ちゃんは自分のクレアをどんどん作り上げていっているので、私は私のクレアを作っていけばいいんだ、と。全然違うクレアになっているので、両方観ていただく方には楽しんでいただけるかなと思いつつ、頑張らなきゃなと思っています。飯田洋輔さんも初めてお会いしたんですが、「何だ、声優がミュージカルやるのか」みたいに怖い方だったらどうしようと思っていたのが、全然そんな方じゃなくて、本当にお優しくてチャーミングなんです。いろいろな役をされるんですけれども、ジョンというヘルパーボットを演じているときのちょっと変な人感が、いろいろな引き出しを見つけているというか、毎回違うことをされていて。ジョンのお芝居を見てちょっと緊張がほぐれて、飯田さんにすごく話しかけに行くようになりました(笑)。
花澤香菜
――楽曲の魅力についてはいかがですか。
曲、とてもいいんです。すごくリズミカルでノリノリな曲もあればバラードもあって、全体的に明るくて、ヘルパーボットの人間じゃないさっぱりとした感じ、感情をあまり引きずらずにトントン進んでいく感じが表現されているのかなと。でも歌詞は、例えばクレアだったら、オリバーと出会って自分の中身が変わっていっちゃっているかもという不思議な感覚のようなものが繊細に表現されていて、すごく奥深い楽曲だなと思います。音域が広かったりリズムが難しかったり、ハモリもけっこうあるので、浦井さんの音圧、表現に負けないものを出さなきゃいけないと、ドキドキ頑張っています。
――2025年にはブロードウェイ版がトニー賞を6部門で受賞しています。
韓国版しか観たことがなかったので、演出の上田一豪さんにブロードウェイ版がどんな感じだったのか聞いたら、自分の希望、かなえたいものをつかみとっていくぞというものに変わっていて、全然違う雰囲気だったようで、でも、それとはまた違うものにしたいよねという話をしてくださって。日本版は、どこかさみしい感じ、終わりが見えているというところは意識しながらやろうとは言っています。オリバーとクレアがガツガツではなくてちょっとずつ恋を進めていく感じが日本版のよさなのかなと思いますね。ちっちゃい子がいろいろなことを知っていく感じというか。
――声優のとき、歌手のとき、ミュージカルの舞台に立つときで、モードが変わったり、違う自分が出たりすることはありますか。
声優のお仕事は今まで積み重ねてきたものを存分に発揮できる場所なので、すごく楽しくて、いつもわくわくしていて。監督が表現したいものを表現する、あわよくばそれ以上のものが出せたらいいなというところを目指していつもやっていますね。歌手はそのままの自分、私の人生そのものをみんなに見てもらって、みんなで一緒に過ごすというところがある。誰かにこうしてと言われるわけではないので、自分がやりたいことを試せる場所でもあり、皆さんに感謝を伝えられる場所でもある。ミュージカルは私にとっては挑戦ですね。今までやっていないこと、例えばこの作品でいえばロボットであることを意識して演じるということがある。声優の場合は台本があってそれを読むわけですが、ミュージカルは全部をしっかり自分の中に入れて、身体の表現もつけて、みんなで作り上げていく違いがありますね。今回で言うと、ベテランの方たちに囲まれているので、すばらしいな、これはどう盗めばいいのかなとひたすら観察している感じです。ダブルキャストの晴香ちゃんの動き、立ち姿が本当にすてきで。晴香ちゃんはまばたきを意識して演じようかなと言っていて、そういう着眼点があるんだ、と。いろいろな舞台に立ってきて、こうしたらいいんじゃないかというのがどんどんふくらんでくる方なんだろうなと思っていて、晴香ちゃんを見ながら、私もこうしようとかすごく影響を受けています。どれだけアフレコをやっていても、お客さんの前で見せる機会はなかなかなかったりするので、舞台ではお客さんの反応が見られるというのも大きいですよね。歌もアーティストとしての歌い方とも違うところがある。ミュージカルだと母音をちゃんと意識して出した方が歌がくっきりしていいよと言われたりするんです。そういうところはもちろんアーティスト活動でも使える部分ですし、『メイビー、ハッピーエンディング』を経験した後にライブをやったら、何だか歌が変わったねと言われたりして。
自信はないんですけど、ミュージカル、めちゃめちゃ楽しいです。この作品でいうと、人間の心はすぐ変わっちゃうんだよと歌うシーン、そのあたりの流れがすごくせつなくて。楽しい中にいろいろせつないポイントがあって、本当にこの作品が大好きです。生きることの尊さや、誰かと関わるということが自分を変えてくれる、人生を豊かにしてくれるということを教えてくれる。シンプルだけど、誰にでも通じるすてきなお話だと思います。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
公演情報
場所:日比谷・シアタークリエ
翻訳・訳詞・演出:上田一豪
製作:東宝
オリバー:浦井健治
クレア:花澤香菜/木下晴香・W キャスト
ジェームズ:飯田洋輔
問合せ:東宝テレザーブ 0570-00-7777(ナビダイヤル)
公式サイト:https://www.tohostage.com/maybe/
本作品は「MAYBE HAPPY ENDING」ブロードウェイプロダクションのプロデューサー、ジェフリー・リチャーズ氏とハンター・アーノルド氏、およびエグゼクティブプロデューサー、アラン・ウィリアムズ氏の支援により制作が実現しました。