『PORTAL』山中崇×林慎一郎インタビュー
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(左から)山中崇、林慎一郎 撮影:吉永美和子(このページすべて)
どういうとらえられ方をするのかが楽しみだし、逆に聞いてみたい。(山中)
人間が主体になりがちな現代演劇の世界の中で、「都市」や「風景」が主役になるような演劇を作り続けている表現者が、大阪には2人いる。日本を代表する野外劇集団「維新派」の松本雄吉と、「極東退屈道場」主宰で、「OMS戯曲賞」の大賞&特別賞を立て続けに受賞した気鋭の作家・林慎一郎だ。この2人がガッツリと手を組んで、しかも「地図」をテーマにしたという舞台が、刺激的にならないはずがない! というわけで、今回の主演(京都公演除く)で、NHK朝ドラ『ごちそうさん』や舞台『いやおうなしに』などで多彩な顔を見せる俳優の山中崇と、脚本を担当した林に話を聞いた。
■Ingressや神話を通して、実際の地図の上に架空の地図を広げてみようと。(林)
──この芝居は、年内にオープン予定の[豊中市立文化芸術センター]のプレ事業として企画された公演ですが、豊中を舞台にしたのはそれが理由ですか?
林いや、むしろ豊中市からは「豊中にこだわらず、何でも好きなものを書いてください」と言われたんです。でも僕はずっと最近、都市の風景というか、街を歩き回って書くみたいな芝居を続けているので、その方法で豊中という街をとらえてみようかと。それで「庄内」という、大阪市と豊中市(の中心部)の間に挟まれた磁場みたいな場所を見つけたので、ここから都市論的なものを広げていったら面白いんじゃないかと思いました。割とそういう大きな都市エリアでは、どこでも共感できる感覚があるんじゃないかなあと。大都市と大都市の間にはさまれた、衛星都市の代表として選んだという感じはあります。
山中 庄内はこれまで2回行きましたけど、あの街“ならでは”っていうのはすごく感じました。僕は東京に住んでますが、あんな(住宅地の)近くまで飛行機が飛ぶ場所を知らない。さびれた商店街があるその反対側に、割と盛んな市場があったりとか、こんなにいろんなものが混在している街は、東京では…僕が知らないだけかもしれないですけど、あまり見たことがないです。
林 でも多分、もう10年ぐらいしたら変わりそうな風景という気がするんですね。昔の時代と今の時代のちょうど間ぐらいのモノが、今はいい感じで残っている。その混ざり合いが、すごく面白い場所ではあります。
──そうやって街を語る手段として、現実の街を舞台にした携帯ゲーム「Ingress」を組み込んできたのがユニークですね。
林 Ingressって、スマフォのアプリを開くと、普通に(街を)見ている状態ではわからない「PORTAL(入口)」が表示されるので、それを手がかりにして陣取りをする…というゲームなんです。画面上だけでやるのではなく、自分が普段暮らしている場所に架空の地図を重ねて、そのPORTALの場所まで実際に行かねばならないというのが、すごく面白い。さらにそこに、庄内発祥の架空の神話も重なってくるんです。そんな風にいろいろな地図を実際の地図の上に重ねて、それらをトレーシングペーパー的に透かしてみたら、街がどう見えるのか? という体験が生まれたら面白いかなあと思いました。それと僕は、ずっと「舞台上に地図を作る」ということをやりたかったんですけど、自分じゃできない感じがあったんです。それで松本さんと一緒にやるなら、この機会にこういう地図に地図を重ねる芝居をやりたい…と言ったら「それええやないか」という話になりました。
変拍子のリズムに乗せて単語をリズミカルに発する、維新派スタイルが多用されている。
──松本さんは、他の人の新作戯曲の演出では、維新派の「ヂャンヂャン☆オペラ」風の演出は封印していましたが、今回は結構使うようですね。
林 松本さんが、僕が昔書いた本を読んで「リズムみたいなのがあるから、音楽劇にしよう」と言われたんです。それで松本さんにやってもらうのなら、歌手が出てきて歌い上げるようなものより、維新派が作り上げた変拍子の音楽の方がありだな、と。ただ歌の部分の台詞を譜面に落とすのは、松本さんにお願いしました。情報の量や盛り付け方がすごく難しくて、松本さんに「できません」と言ったら「そうか。簡単やと思ったんやけどなあ」って(一同笑)。でも新作の書き下ろし作品で、維新派的な要素を入れるというのは、多分これが初ですね。あと僕の本が関西弁ではないので、関西弁のイントネーションじゃないヂャンヂャン☆オペラも、結構珍しいんじゃないかと思います。
■僕が演じる「クラウド」は、いろんな所にいろんな顔で現れる神様。(山中)
──山中さんは、舞台『石のような水』(2013年)で松本さんの演出を経験されていますが、その時はどんな印象を持たれましたか?
山中 まず視覚的な効果に対する演出が素晴らしいし、誰にも真似できないと思います。『石の…』の稽古の時も、脚本には何も書いてない所で5・6人ぐらいの役者を呼んで「ちょっとそこを歩いてみて」って言ったんですよ。そうしたら、心があるかないかわからないゾンビみたいな人が、街を浮遊しているかのように見えたんです。ただそれだけで、そこまで舞台を深められるのかと。あとは総合力というか、全体としてどう見せていくかを考える方だと思うんです。野外劇は特にそうですけど、その作品が役者だけに委ねられてなくて、周りの景色も全部作品になるという。そのバランスの良さも、僕は好きです。
──ただ今回は音楽劇ということで、全然違う感じの演出になっていると思うのですが。
山中 でも前回も「せっかく松本さんとやるなら、五拍子とかやりたかったなあ」なんて思ってたんですよ。今回も最初は、僕には変拍子のパートはないと聞いてたんですけど、松本さんに「ちょっと一曲やってもらえる?」と言われて、急に譜面を渡されました。でも本当、見ている分にはカッコいいんですけど、いざ自分がやるとなったら大変ですねえ。今泊まってるマンスリーマンションで、朝の4時までノイローゼみたいに、iPod聞きながらずっとこう(足踏み)しています(笑)。
──下の階の人ビビってるでしょうねえ。
山中 多分。うるさいし、しかもリズムがおかしい、みたいな(一同笑)。
林 変拍子だぞっていうのが(笑)。
山中 でも変拍子って、ある種松本さんの醍醐味というか、松本さんならではのものですからね。前回も得た物がたくさんあったけど、今回もすごく刺激を受けてます。
松本演出の醍醐味である変拍子の演技に挑戦中の山中。朝4時までに及ぶ特訓の成果はいかに?
──山中さんが演じる「クラウド」は、舞台のナビゲーターであると同時に、この世界の鍵を握っている感じもある、非常に謎めいたキャラクターですね。
山中 ある種この世界の創造主というか、神様みたいな存在でしょうね。でも人の上にいるというのではなくて、人間の目線に降りてきて、いろんな所にいろんな顔で現れる神様という風には思っています。でもクラウドだけじゃなくて、実はこの戯曲自体が、本当にいろんな解釈ができるんですよ。だから今はまだそんなに役を固めてなくて、林さんとどんな可能性があるかを話し合って、松本さんが見た時にそれをどう判断するか、という段階です。
林 結構ねえ、クラウドがこの作品の中でどう居るか? みたいなことは、一つテーマになってるんで。僕はもともとこの役を「誰にどういう風に演じてもらいたい」というイメージを持って書いてなかったんです、全然。だから逆に、山中さんと(京都公演主演の)志人さんが演じるということを、一つの手がかりにして作ってるという感じです。
■世界の見え方みたいなものを遊ぶような感覚になれたら、一番いいかなと。(林)
──京都公演のみ、クラウドをラッパーの志人さんが演じることになっていますが、この2人の面白さの違いはどこにありますか?
林 志人さんはミュージシャンで、自分の言葉を自分で紡ぐってことをしていて、山中さんは人とテキストと出会うということをしている。あと山中さんは東京で暮らしているけど、志人さんは京都の山奥で、林業をしながら活動をしているという。だから今回のテーマの一つである「自分にとって“真ん中”とはどこか」という考え方や、「故郷とは何だ」とかの解釈が、お互い全然違うんですよ。あと山中さんは俳優だから、舞台の“真ん中”みたいなことを、どうとらえようかということにすごくこだわって考えている所がある。その2人のアプローチの違いみたいなのが、稽古の段階ですでに面白いですね。
山中 でもそれは「それぞれ違ってていいよね?」という話はしたんです。同じ役を演じるからって、お互いすり合わせる必要は、実はないんじゃないかって。だから多分、見え方は全然変わると思います。志人さんはやっぱりミュージシャンだから、発する言葉の力がものすごくて、あれは僕にはできない。でも志人さんも、僕のやっているようなことをやってくださいと言われても、多分困ると思うんです。相手役の人たちは合わせるのが大変だと思うけど(笑)、僕らは僕らなりの解釈でやっていいと思ってます。でも仮にこれが、俳優さんでWキャストだったら、多分違ってたでしょうね。
──逆に近づけようとしてしまうんじゃないかとか?
山中 そうです。俳優同士と違って、志人さんは若干土俵が違うというか。だから変なライバル意識みたいなのが、働いてない感じがするんですよね。「違う」っていうことを僕も受け入れられるし、逆にその違いがすごく新鮮なんです。
林 だから京都と他の場所では、作品自体から受け取られる印象や、地図の手触りみたいなものが変わると思いますね。むしろ変わった方が作品としては正しいというか、上手くいってるような印象があります。
クラウド(山中)は時にラジオDJ、時にパチンコ屋店員として人々をあおっていく。
──観る人によって本当に解釈が違ってくる舞台になりそうですが、ここに注目したら面白いとか、ここに期待してほしいということはありますか?
林 まさにチラシのキャッチコピーの「踊ろう、朝まで。その地図で」っていう感じの世界になりそうですよね。それぞれの世界の見え方や切り取り方について戯れるというか、遊ぶような感覚になれたら一番いいかなと思います。あとすごく匿名性の強い世界ではあるんですけど、匿名を突き詰めるがゆえに、返ってそれぞれの人物像が見えてくる芝居になりそうな気がするんです。正体は隠しているけど、その一人ひとりの生きている存在が、ちょっと見えてくるような作品になるかなと思います。
山中 この芝居は高知と沖縄でも上演するんですけど、観る人たちの生きてきた環境によって、作品のとらえ方がきっと変わると思うんですよ。たとえば空港のシーンが出てきますけど、もしかしたら沖縄の人はそれを基地ととらえるかもしれない、とか。自分にとっての真ん中とか、今の立ち位置とか、移り変わる時代とか、そういうことをいろいろ感じて、考えてくれたら嬉しいと思います。どういうとらえられ方をするかがすごく楽しみな舞台だし、観た方々がそれぞれどうとらえたのか、逆にすごく聞いてみたいです。
■日時:2月11日(木・祝)~14日(日) 14:00~ ※12日=19:00~、13日=14:00~/19:00~
■場所:豊中市立ローズ文化ホール
■料金:前売=一般2,500円 学生1,500円 当日=各500円増
■日時:2月27日(土) 15:00~
■場所:沖縄市民劇場あしびなー
■料金:前売=一般2,500円 学生1,500円 当日=各500円増
■日時:3月12日(土)・13日(日) 12日=19:00~、13日=15:00~ ※13日はポストパフォーマンストークあり。
■場所:ロームシアター京都 サウスホール
■料金:前売=一般3,500円 学生・25歳以下&65歳以上3,000円 高校生以下1,000円 ペア6,500円 当日=各500円増 ※ペア券は前売のみ取扱
■日時:3月20日(日) 14:00~
■場所:高知市文化プラザかるぽーと
■料金:前売2,500円 当日3,000円
■演出:松本雄吉(維新派)
■音楽・演奏:内橋和久
■出演:山中崇(京都公演除く)・志人(京都公演のみ)/大石英史、後藤七重、鈴木麻美、武田暁、夛田茜、福田雄一、増田美佳、松井壮大、松田翔、森正吏
■公式サイト:https://portal-2016.wix.com/portal