宝塚花組公演『ME AND MY GIRL』制作発表会見レポート
宝塚花組『ME AND MY GIRL』パフォーマンス
数多い宝塚歌劇団の海外ミュージカルレパートリーの中でも、屈指と言えるハートウォーミングなロンドンミュージカル、UCCミュージカル『ME AND MY GIRL』が、明日海りお&花乃まりあトップコンビ率いる花組で上演されることになった(4月29日~6月6日宝塚大劇場、6月24日~7月31日東京宝塚劇場で上演)。
『ME AND MY GIRL』は1937年にロンドンで初演され、1646回のロングランを記録した大ヒットミュージカル。1930年代のロンドンを舞台に、そうとは知らぬまま下町で育った名門貴族の落とし種である青年ウィリアム(ビル)が、名家の世継ぎに相応しい紳士として教育されながらも、恋人サリーとの愛を貫く姿が、心躍るミュージカルナンバーに乗せて描かれていく。
宝塚では1987年に剣幸&こだま愛主演による日本初演が大好評を博し、同年に再び上演されるという宝塚としては異例のロングラン公演を成し遂げたのを皮切りに、1995年には天海祐希&麻乃佳世率いる月組で、2008年には瀬奈じゅん&彩乃かなみ率いる月組で上演された他、中日劇場、博多座、梅田芸術劇場での再演を重ねて、累計観客動員数118万人を誇る大人気作品となっている。
そんな作品が、久しぶりに大劇場に帰ってくることとなり、1月22日、都内で制作発表会見が華やかに行われた。
会見はまず出演者によるパフォーマンスからスタート。ビルを演じる明日海りお、サリーを演じる花乃まりあが主題歌「ME AND MY GIRL」を披露。おなじみの衣装に身を包んだ新鮮なコンビが、明るく伸びやかにデュエットを歌い上げた。
続いて、「愛が世界を回らせる」を明日海のビルと、公爵家の遺言執行人であるジョン卿をダブルキャストで演じる芹香斗亜が軽やかに掛け合う。互いに酔っ払いながら信頼を深めていく男同士のナンバーが耳に心地よく広がる。
そして、第1幕のラストを飾る「ランべス・ウォーク」へ。現在各チームに分かれて公演準備に入っている花組の中から、第7回『マグノリア・コンサート・ドゥ・タカラヅカ』出演メンバーである、華雅りりか、羽立光来、朝月希和も加わって、本番さながらに客席降りもある賑やかなパフォーマンスが繰り広げられ、会見場はすっかり『ME AND MY GIRL』の世界に。取材陣からも手拍子がわき、本番への期待が高まった。
続いて、檀上に宝塚歌劇団理事長小川友次、本作品の脚色・演出を担当する三木章雄、明日海、花乃、芹香、そして作品の協賛会社であるUCC上島珈琲代表取締役会長の上島達司が登壇。制作発表会見となった。
まず小川友次理事長から、『ME AND MY GIRL』初演からの協賛会社であり、宝塚初の冠公演の実現ともなった歴史を担うUCC上島珈琲株式会社への謝辞が述べられ、そうした歴史ある作品を、台湾公演また『新源氏物語』再演の大成功を担った、成長著しい花組で上演できることを嬉しく思う。明日海りおが引っ張る花組は、ひとりひとり個々の力がどんどん上がって、まさに花が開いている。また初演の主演者である剣幸さんが今年「宝塚歌劇の殿堂」に入り、そのセレモニーに明日海が多忙な中駆けつけ、花束を渡してくれた姿に、先輩と後輩の絆がまたこの作品でつながるのを感じた。花組で『ME AND MY GIRL』をやらせていただけることが本当にありがたい、4月8日には剣さん、こだま愛さん(初演サリー役)をはじめとした歴代の出演者が参加しての「前夜祭」も開かれるので、新たに花開く『ME AND MY GIRL』にご期待頂きたい、という挨拶があった。
続いて、協賛会社であるUCC上島珈琲株式会社上島達司会長から、100周年を迎え、更に101年目に観客動員数が過去最高を記録した宝塚歌劇にまた協賛させて頂くことが嬉しい。この102年目の『ME AND MY GIRL』で更に記録を更新できるように、男性だけの歌舞伎に並んで女性だけの宝塚が隆盛することは、日本の文化が隆盛することでもあるので、是非後押しがしたい。『ME AND MY GIRL』とは1987年以来30年近くの付き合いとなるが、ミュージカルナンバーがすべて楽しく、珈琲を飲んでいる時と同じような弾んだ気持ちになれるミュージカル、曲を聞く度に珈琲が飲みたくなる作品の成功を祈念している、というウィットに富んだ挨拶があった。
そこから、スタッフ、キャストそれぞれが挨拶。まず作品への意気込みを語り、質疑応答へと引き継がれた。
三木章雄 1987年に小原弘稔先生が脚色・演出された時からずっと作品に関わってきました。『ME AND MY GIRL』は楽しい、楽しいミュージカルであり、主人公のビルが自分を発見していくという側面もとても大切なミュージカルなので、それをわかりやすく伝えたいということをこれまでずっとやってきましたから、今回もそれを続けたいというのと同時に、明日海りおという今絶好調の(スターが演じる)ビルが登場するということで、大変期待しています。僕が演出を引き受けたのは、天海祐希が主演した再演の時(1995年月組)からです。その時は、阪神淡路大震災の直後、秋頃の公演でした。宝塚歌劇も『国境のない地図』で大劇場を再開して頑張っていましたが、ロビーではまだまだお客様は、震災ルックと言いますか、まだリュックを背負っていたりという姿でした。そんな中、天海以下の月組が本当に明るく明るく、この作品の大切なテーマのひとつでもある「信じていくことが大事」というものを、全員が全力で出来たことがすごく記憶に残っています。今年も年初から株が落ちてしまったり、また海外を含め、色々と大変なことがある中で「明日の海」と書く明日海が主演ですから、輝く明るさをお客さまにぶつける舞台を、原点に帰って作っていきたい。剣さん主演の富山での公演や、また昨年はOG公演でも抜粋でやったのですが、やる側のエネルギーが要求される作品でもありますが、その意味でも今日3人が代表で来ていますが、全員で全力投球をしたいと思います。
以前の公演の時に僕は「いっそ2人でシンデレラ」というキャッチコピーをつけたことがあったのですが、今はこの作品は「シンデレラ」というよりは頑張った結果幸せをつかむ人の物語だという気持ちが強くなっていて、アンデルセンの「みにくいあひるの子」を思い出しています。本当は白鳥なんだけれど、あひるの家に産み落とされた為に皆と違うということで迫害されるのだけれども、懸命に生きていって白鳥としてのアイデンティティーを見つけて飛び立って行くという物語です。この作品の主人公のビルも、ランべスの下町に産み落とされて、お屋敷に初めて行った時にはこれでお金がもらえる、ブティックが開けるなど思うのだけれども、だんだんにお金ではなく、自分のルーツに目覚めていく。また恋人のサリーはそんな彼の為に1度は身を引いても助けようとする、そんな2人の物語が結果としてハッピーエンドになる、2人だけでなくジョン卿や他の出演者も互いに思い合うことが大切になるミュージカルです。先日もこの作品に向き合っている僕は、電車の中で白髪の老婦人に席を譲っていて。僕も結構いい年なんですけど(笑)、この作品を通じて前向きに人のことを考えていくことが大事だということが伝わるはずで、それを伝えることがこのミュージカルの肝だと思うので、それを楽しく作っていくことをこれからやっていきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。
明日海りお 私は『ME AND MY GIRL』に出演させていただくのは2回目になります。前回出演させて頂いた時に(2008年月組)、新人公演でビル役を演じさせていただきましたが、とてもとても楽しかった思い出があります。本公演では役替わりで、ジャッキーと、女性役のアンサンブルに参加しておりましたので、新人公演では「男役だ!」と発散できて楽しかったというのもあると思うのですが、やはりビルという人がとても素敵で、今まで演じてきた役の中で一番理想に近いのではないかと。とても温かくて、自分の芯がまっすぐで、そしてサリーへの愛がすべてという、彼のふざけているようでいて、でもとても誠実なところが大好きだったので、その役にこうしてまた出会えることをすごく幸せに思います。今回の公演は役替わり公演でございまして、主要なキャストが入れ替わるような仕組みになっております。そういう意味でもお客様に何度でも足をお運び頂けたらいいなと思っております。
花乃まりあ 『ME AND MY GIRL』という作品は、劇場でも観劇させて頂きましたし、映像も、宝塚に入る前から何度も見返すくらい本当に大好きで、憧れの作品でしたので、夢のような機会を頂き本当に幸せに思っております。作品のこと、そして今まで先輩方が演じてこられたサリーという素敵な女性のことを一生懸命お勉強して、この素晴らしい作品に携わらせて頂く幸せを噛み締めて頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します。
芹香斗亜 今回は役替わり好演でジョン卿とジェラルドの二役をさせて頂きます。私は『ME AND MY GIRL』に出演させて頂くのは初めてなので、今日少しパフォーマンスをさせて頂いただけでも、どのナンバーも楽しく、袖から見ているのも楽しかったです。お稽古がはじまるのを楽しみにしています。皆さんもたくさん観にいらしてください。
【質疑応答】
──錚々たるメンバーが演じてこられた作品ですが、今回特にここを大切に演じたいという想いは?
明日海 とにかく思い切り舞台の上を駆け回りたいと思っております。そして私がビルのことを素敵だと思う点は温かさ、なんともいえない包容力、自由なところがとってもカッコいいと思うので、その空気感を見て頂きたいと思います。
花乃 私も今回『ME AND MY GIRL』をさせて頂けるということで、様々な方の映像を改めて拝見させて頂いて、また今日パフォーマンスをさせて頂いた時に、主題歌の「ME AND MY GIRL」の歌詞にある「2人の愛、ハッピー」というところが、印象的で素敵な歌詞だなと思ったので、「2人の愛、ハッピー」を大切に演じていけたらと思います。
芹香 私はジョン卿とジェラルドという全然違う二役をさせて頂くので、ジョン卿では2人を見守っている温かさ、またジェラルドは可愛さが魅力だと思うので、その二つを頑張っていきたいと思います。
──髭の付け心地はいかがですか?
芹香 私は全場を通じて髭をつけるというのは初めての経験なので、経験者に聞いて学んでいきたいなと思っています。
──宝塚を代表する名作に出演するということに対しては?
明日海 初演、再演、再々演、私も一ファンとして観ていましたから、『ME AND MY GIRL』といったら、夢の世界。お客さまにも、「ミーマイも新しくなってしまったんだな」ではなく、「やはり『ME AND MY GIRL』には変わらない、『ME AND MY GIRL』らしいハッピーがある、ハートが飛んでいる」と感じて頂けたらいいですね。それをお稽古の中で皆と一緒に作っていきたいです。
花乃 私も今明日海さんがおっしゃったように、一ファンとして自分が作品から頂いた幸せというものをお客様に感じて頂けるように、改めてお勉強し直したいなと思いますし、お客さまが思い描く「サリーといえば」というポージングだったり、私自身がとても印象に残っているポケットに手を入れたりとか、ちょっとしたしぐさで「サリーだな」と思っていただけるように、そういったところも勉強していけたらなと思っております。
芹香 今までたくさんの上級生が演じられてきた役ですが、それをあまりプレッシャーに感じず、ハッピーなミュージカルですので、楽しんで取り組んでいきたいなと思っております。
──初演のビル役、剣幸さんと対面されたエピソードは?
明日海 まず「殿堂入りおめでとうございます」とお伝えしました。ちゃんとお話させて頂くのは初めてだったのですが、お喋りされる声からまずとっても美しくて、引きこまれてしまうというか、今も忘れずに余韻に浸っております。ビルに関しても「私でよければ力になるし、何でも教えるから言ってね」と言って頂いたので、また本番が開く前に「前夜祭」などもありますので、ご指導して頂きたいなと思っています。
──今回の新メンバーへの期待と、それを受けて出演者の皆さんから意気込みを。
三木 みりお(明日海)は、下級生の時からよく見てきていますが、特に花組に移ってからの成長・飛躍は素晴らしいと思っています。ビルはとてつもなく懐が深い。ビルにはサリーという恋人もいるし、自分のことをビシバシしつけてくるマリアという怖いおばさんや、おっちょこちょいのジェラルドや、怖いおじさんのジョン卿など色々な人がいる。その中で、人間関係の作り方が、先天的にとっても賢いんです。ずるいというのではなく、マリアが絶対にこの子の中にある血筋がものを言う、この子に跡を継がせると言っていることに、応えようとする善良さがあります。そして僕は『Hold My Hand(私の手を握って)』という曲がこの作品の中で一番好きなんですが、サリーがふてくされている時に、ビルが色々な冗談を言って、最後にサリーも思わず吹き出してしまう。そこで「誰かが君を見なきゃ それは僕の仕事さ」というんですが、その温かさ、率直さがすごく良くて。更にそこの箇所、英語では「You require a lot of looking after.(あなたは私にたくさんの面倒を要求する)That's one job in which I take a pride.(それが僕の仕事で、僕はそれにプライドを持っている)」というんです。日本語では「誰かが君を見なきゃ それは僕の仕事さ」という2行なのですが、その裏にここまで含まれている。日本語ではどうしても短くなって言い尽くせないのですが、でもやる側としては「in which I take a pride.」を演技で言えるようにしなくてはならない。そこを代々のビルは、ウタコ(剣幸)も天海(祐希)もあさこ(瀬奈じゅん)も埋めてきたと思います。みりおにも「誰かが君を見なきゃ それは僕の仕事さ」の中に、「それに僕は誇りを持っている」というところがリアルに伝わる歌い方、喋り方ができるところまで演じてほしい。今のみりおなら出来ると思いますので、期待しています。
花乃は何しろ「かの」なので、可能性を持っていますが(笑)、僕は文化祭の時の印象が強くて、何をやったかは覚えていないのですが、「ドスンバタン、ドンドン」みたいな子で(笑)。今や、天下の二枚目であるみりおの相手役なので、とっても頑張っていますし、とってもエレガントに美しいんですが、今回のサリーという役は、花乃が本来持っているドッカンぶりがぴったりの役ではないかと。サリーはランベスで働いている、魚さばいて「持ってきな!」と売っている、そういうバイタリティのある、生活を持っている下町の女の子が、たまたま伯爵家のご落胤と似合いのカップルになっている、そこがすごく話として面白い。最初、こだま愛が演じた時に、歩き方をめちゃくちゃ怒られていました。普通娘役は足を揃えてしなしな歩くのですが、サリーはとにかくバタバタ大またで歩けと、娘役セオリーに反することを要求されるんですね。それはサリーの出自、魚かっさばいているお姉ちゃんというところを演出家が欲しかったからです。花乃は、これは褒め言葉ですが(笑)、その可能性をすごく感じています。両面を持っている人だと思うのですごく期待しているし、ユニークなことができる子なので、最後に美しく美しく変身して欲しいと思います。
芹香君にはジョン卿をやってもらいますが、いま二番手で頑張ってる人なので、大人の役をやって欲しいなと思いました。若い頃から妙に落ち着いたところがある人で、そこが良いところだと思うので、それを舞台上の芸として出していけたら。髭が似合う、付け髭じゃなくて生えてるんじゃないかと思えるところまで(笑)やって欲しいと思います。ビルに対して友情だけでなく、先ほどの「愛は世界を回らせる」でもジョン卿はマリアを思っている、ビルはサリーが出て行っちゃった、男同士が互いの思い人のことを酔っぱらって言っているというのは、男役としてはかなり高度なことだと思うのだけれど、美男子役だけでなく、もう一歩踏み込んだところで演じられるようになればと。そういう意味では芹香はまだまだ若いですが、それを乗り越えてやることでもう一回り大きく、逞しい骨太な男役になって欲しいと思います。もうひとつのジェラルドは、等身大の役だと思います。おっちょこちょいで、甘えん坊で、モテまくる。芹香そのものだと思いますが、これから先、こういう役はもう回ってこないと思うので、卒業のつもりで最大限に魅力的にやって欲しい。自分が若いから若い役をやって、というのではなく、若さを卒業しつつある段階で、客観的に、若さゆえの危うさをふらついている部分を掴んだ上で演じてくれればいいなと思います。
そして3人には、ミュージカルなので、ここぞというところはセリフじゃなく歌になる。そこでいかにお客様を陶酔させるか。花組のみんなには、多少芝居がガタついていても、歌をきいただけで「納得」というところまでお客さまを陶酔させられるように、歌を磨いてやって欲しいなと思います。すごく素晴らしいものになると思うので、是非是非1人でも多くの方にご覧頂きたいなと思います。
明日海 先生のおっしゃるように歌は今から鍛練に鍛練を重ねたいと思います。そして「誰かが君を見なきゃ それは僕の仕事さ」の歌詞に込められたビルの決意だったり、懐の大きいところが、その歌詞だけでなくて色々なところに散りばめられているので、それがにじみ出るように表現して舞台に立てたらいいなと思いますし、そういうホットな気持ちを、表面的には「何言ってるんだ」みたいな、軽いというと違うのですが、そんな風に言ってくれるビルというのがすごく素敵だと思うので、その素敵さを自分で上手に按配して作っていきたいなと思います。
花乃 魚市場で働いていて、ランべスで育ってというサリーという人を深く底から作った上で、演じられたらいいなと思います。精一杯頑張りたいと思います。
芹香 三木先生がすべておっしゃってくださったので、私はお稽古に入ったら先生について頑張っていきたいなと思います。
【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】
〈公演情報〉