芸術祭賞新人賞などW受賞の劇作家・長田育恵が劇団1カ月公演へ

インタビュー
舞台
2016.2.26

劇団として目指すは「考えられるエンターテインメント」

・てがみ座の『地を渡る舟』で文化庁芸術祭演劇部門新人賞、グループる・ばるの『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』鶴屋南北戯曲賞と、脚本家としての連続受賞おめでとうございます。まずは、今の思いからお願いします。
 
 ありがとうございます。まず感じたのは共に舞台を創ってきた人たちへの感謝でした。戯曲が上演台本に至るまでには、演出家や俳優、スタッフ陣と何度もディスカッションを重ねます。またお客様の目によっても磨かれていきます。ですから、たくさんの方に支えていただいてここまで来たことを強く感じました。それから、私は演出や俳優を兼ねずに、劇作だけに取り組んで劇団を主宰してきたんですが、実はそれがコンプレックスでもありました。演出や舞台に立つことは偉大な別の才能だと思っていて、その部分が弱い私が面白い演劇を創るにはどうしたらいいんだろうと、一作ごとにもがいていたんですが……今回、賞をいただいたことで背中を押していただいたような気がしました。これから賞に恥じない作家となれるよう頑張っていかなくてはと思います。
 
「蜜柑とユウウツ」 撮影/宮川舞子

「蜜柑とユウウツ」 撮影/宮川舞子

 
「地を渡る舟」 撮影/田中亜紀

「地を渡る舟」 撮影/田中亜紀

 
・期せずしてというか、受賞を予想していたかのように(笑)、1カ月公演が控えています。シアター風姿花伝のプロミシングカンパニーということですが、1カ月という実感はいかがですか?
 
 私たちにとってはものすごい挑戦だと思います。1カ月公演、26ステージ。これまでの倍以上のステージ数です。心も身体もタフでないと乗り切れない。私も劇団員もビルドアップしていかないと。1カ月の間にいろいろなことがあるだろうと思います。うれしいことも辛いことも。でもそれらすべてが初めての体験なので、何を感じるか、どんな思いを抱くか、とても楽しみです。座組もすごく風通しがいいので、千秋楽まで進化を続けていけるのではないかと思います。演出の上村聡史さんからは、ロングラン公演に耐えうる強度ある舞台を創ろうと言われています。
 
 
個人とは? 国家とは? 郷愁や希望、さまざまな問いが包括された
「亡命者」は劇作家としての私には大切なモティーフ
 
・今度の作品は、ヨシフ・ブロツキーの評伝劇ということでしょうか。ソ連から追放された詩人ですが、どんなきっかけから興味を抱いたのですか?
 
 ヨシフ・ブロツキーという存在は、2015年にかかわった『夜想曲集』(脚本:長田、演出:小川絵梨子、制作:ホリプロ)という舞台で資料を調べる中で出会ったんですが、今回は評伝ではありません(笑)。「亡命詩人と祖国」という関係性だけを借りて、そこからインスパイアされた物語となっています。もともと亡命者というモティーフに興味があって。祖国から切り離されることで、逆説的に、永遠に祖国と繋がる。そんな部分にずっと惹かれていました。18歳で初めて書いた脚本も同樣のテーマだったんですが、これまでも数年に一度、そのテーマで作品を創っているんです。
 亡命者の旅には、個人とは何か、国家とは何か、郷愁や希望、さまざまな問いが包括されています。それは日本の日常を見ているだけでは出会えないもので、私たちの視界を広くしてくれる問いではないかと思っています。
 今回は人間の深層に潜んでいる闇や言葉にできない皮膚感覚を書いてみたいと思ったので、旧レニングラード、現在はサンクトペテルブルクと呼ばれている共産圏の都市を舞台装置に選び、亡命者である父と祖国に残された娘の心の繋がりを描く物語となりました。
 
・彼の人生を描くのに、手紙がキーワードというか仕掛けになっていそうな気がします?
 
 そうですね。父親と娘を繋ぐのが「送れなかった手紙の数々」です。その手紙が、時と大陸を隔てて届けられる。そこから物語が始まり、止まったままの時間が動き始めます。
 
・先ほどもお名前が出ましたが、今作品の演出家は文学座の上村さんですね。彼を起用した意図はありますか?
 
 これまで上村さんが手がけられてきた舞台を拝見していて、脚本を深く読み込み、時を超える建造物のような作品を立ち上げていらっしゃると感じてきました。たぶん日本に流れる歴史だけではなく、この星に流れる歴史を取り込んだ作品創作をしていらっしゃると。同世代でそんな視野を獲得されていることに鮮烈な驚きを感じ、いつかご一緒してみたいと思っていました。それに今回上演させていただくシアター風姿花伝では、ここ最近、支配人の那須佐代子さん(女優でもあります)のプロデュースで意欲的な海外作品を上演してきていらっしゃいます。劇場と演出家の親和性でも、上村さんにぜひお願いしたいと思いました。
 上村さんは、文化庁の在外研修でベルリンにも滞在されていて旧共産圏の景色をご自分の中に取り込まれている。旧共産圏への興味や郷愁など、ディスカッションの時から作品の世界観を共有することができました。
 

 
・次のステップとして目指していきたいところはいかがでしょう。劇作家として、劇団として。
 
 より深い人間性を豊かな物語の枠組みで書けるようになりたいなぁ。それに尽きるんですけど、今後は劇作家として、国内だけではなく、海外のアーティストとのクリエイションにも飛び込んでいけるようになりたいです。ですから作家としての意識はできるだけ視野の広いところに置いておきたい。そのためにいろいろ吸収していきたいですね。
 劇団としては、劇団員一人一人が個として強くなって、より広く深くお届けできる作品を創れるようになりたいです。東京以外でも、いろいろな地域と積極的に結びついて出会いを広げたい。お客様の心に響いて記憶に留めていただける「考えられるエンターテイメント」、そんな作品を創っていきたいですね。
 
 
おさだいくえ
日本劇作家協会戯曲セミナー研修課にて井上ひさしに師事。2009年に「演劇ユニットてがみ座」を旗揚げし、全公演の脚本を手がける。『青のはて -銀河鉄道前奏曲-』が鶴屋南北戯曲賞に、『地を渡る舟-1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち-』が岸田國士戯曲賞と鶴屋南北戯曲賞にノミネート。近年は、文学座アトリエの会『終の楽園』(演出:鵜山仁)、市川海老蔵自主公演「ABKAI 2014」の新作舞踊劇『SOU~創~』(演出:藤間勘十郎)、ホリプロ『夜想曲集』(演出:小川絵梨子)、る・ばる『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』(演出:マキノノゾミ)などを手がけた。
 
公演情報
てがみ座第12回公演『対岸の永遠』
 
■公演日程:2016年3月4日(金)~3月30日(水)
■会場:シアター風姿花伝
■脚本:長田育恵(てがみ座)  演出:上村聡史
■出演:半海一晃 みやなおこ 亀田佳明(文学座) 西田夏奈子/石村みか 福田温子 箱田暁史 今泉舞 岸野健太(以上、てがみ座)
■演奏:高橋ピエール
■料金:全席指定 前売4,000円/当日4,200円、25歳以下3,000円(プリエールのみ扱い、入場時身分証提示)※リピーター割引あり/未就学時入場不可
■開演時間:8・16・23・29日・金曜19:00、木・土曜14:00/19:00(5日14:00)、9・15・30日・日・祝日14:00、22日・月曜(祝日除く)休演
■お問合せ:プリエール Tel.03-5942-9025
■公式サイト:
http://tegamiza.net/
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