新国立劇場「サロメ」を聴くべき三つの理由

2016.3.5
コラム
クラシック
舞台

新国立劇場「サロメ」(2011年公演より) 撮影:三枝 近志/提供:新国立劇場

先月末に開幕した「イェヌーファ」が話題の新国立劇場で、3月6日(日)には次なる演目「サロメ」が開幕する。アウグスト・エファーディングのオーソドックスな美術による、具象と本質とのバランスのとれた演出による舞台は、新国立劇場開場直後から長く愛されてきた舞台だ。これまでも数年ごとに上演されてきたプロダクションだ。開幕を前に私から、今回の「サロメ」を聴くべき三つの理由をあげよう。

(新国立劇場オペラ「サロメ」ダイジェスト映像 ~2011年公演/新国立劇場 YouTubeチャンネルより)
 

まず一つめのポイントとして、めったに見られないマエストロとオーケストラの共演に注目したい。
今回の「サロメ」を指揮するダン・エッティンガーは2004年に「ファルスタッフ」で日本デビュー、そして前回の「トーキョー・リング」を指揮するなど、新国立劇場の数多くの名演の記憶と結びつく、このオペラハウスには欠かせないマエストロだ。オーケストラ指揮者としての彼は、現在では桂冠指揮者を務める「東京フィルハーモニー交響楽団のマエストロ」として認知されている方が多いだろう。しかし今回の「サロメ」では東京交響楽団との共演となり、普段なら考えられない顔合わせが実現するのだ。
先日はアンドレア・バッティストーニと東京都交響楽団が東京二期会「イル・トロヴァトーレ」で共演したばかりだが、オーケストラ・ピットではときどきこうしたポストを超えての共演が実現する。新鮮な顔合わせで創りだされるシュトラウス、それだけでも聴く価値がある。

そして次の理由は、現在新国立劇場で上演中の作品が「イェヌーファ」である、というめぐりあわせの妙をぜひ楽しんでほしい、というものだ。
日本では「イェヌーファ」が、ヤナーチェクの音楽がまだその価値ほどには知られていないので、この二作を並べる意味が感じられない方もいらっしゃるだろうけれど、この二作は意外なほどに近い関係にあるのだ。
ほぼ同時期、20世紀初頭に成立したこの二作は、韻文ではなく戯曲(散文)をほぼそのまま台本としてオペラ化された、オペラの時代を画する作品なのだ(この並びにあえてもう一作加えるなら、メーテルリンクの戯曲によるドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」が入るだろう。いずれ劣らぬ、画期的な作品群だ)。
加えて、「イェヌーファ」がウィーンで上演されるようになるにはシュトラウスがプラハでの再演を見たことも契機になった、そんな縁もある。作曲に対するアプローチがまったく異なる二人が、ほぼ同時期にそれぞれの道を突き詰めた結果として近い発想のオペラを創りあげた。そんな歴史の偶然を、実際の舞台で感じることができるこのラインアップの妙には拍手を贈りたい。この二作の上演を近い時期に経験することで、間違いなくオペラの、クラシック音楽が持つ可能性の幅広さを感じることができるだろう。

そして最後の理由として、「よくぞ揃った」と申し上げたくなるキャスト勢をあげよう。
サロメを演じるカミッラ・ニールントはドイツ各地、そして世界のオペラハウスで活躍する名ソプラノだ。2007年に「薔薇の騎士」で元帥夫人を演じて以来の新国立劇場への登場となる。ヘロデ王にはクリスティアン・フランツ、彼もまた前回の「トーキョー・リング」で、そして2014年の「パルジファル」で名唱を聴かせた、現在を代表するヘルデンテノールだ。そしてヨハナーン役には、新国立劇場で現在進行中の「ニーベルングの指環」でヴォータン(さすらい人)を演じるグリア・グリムスレイが登場するという豪華さだ。

有名な「七つのヴェールの踊り」を聴くためだけにでもいい、ぜひオペラパレスに足を運んでみてほしい。指揮にキャストに、これだけのメンバーが揃う「サロメ」があなたの期待を裏切ることはないだろうから。

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そして当サイトでも既報の通り、ヘロディアス役が急遽ロザリンド・プロウライトからハンナ・シュヴァルツに変更されることとなった。2011年の同プロダクションにも出演した彼女だからできる急な代役ではあるが、大ヴェテランの離れ業というしかない。「イェヌーファ」でのブリヤ家の女主人役も変更なく務める彼女は、「イェヌーファ」の初日から「サロメ」の千秋楽まで、半月にわたってその至芸で魅せてくれることとなった。聴きどころがさらに増えた新国立劇場の「サロメ」、再演ながら注目しない訳にはいかない。

前回2011年公演でのハンナ・シュヴァルツ(ヘロディアス役) 撮影:三枝 近志/提供:新国立劇場


 
公演情報
新国立劇場2015/2016シーズン R.シュトラウス《サロメ》全1幕〈ドイツ語上演/字幕付〉
 
​■日程:2016年3月6日(日)14:00、9日(水)19:00 、12日(土)14:00、15日(火)14:00
■新国立劇場オペラパレス
(予定上演時間:約1時間45分・休憩なし)
 
■指揮:ダン・エッティンガー
演出:アウグスト・エファーディング
美術・衣裳:ヨルク・ツィンマーマン
振付:石井清子
管弦楽:東京交響楽団
キャスト:
サロメ:カミッラ・ニールント
ヘロデ:クリスティアン・フランツ
ヘロディアス:ハンナ・シュヴァルツ
ヨハナーン:グリア・グリムスレイ
ナラボート:望月哲也
ヘロディアスの小姓:加納悦子
ほか