名古屋のお隣、長久手市の市民劇団がオモシロイ! 演出・佃典彦に聞く
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座⭐︎NAGAKUTE『MOON』チラシ表
佃典彦指導のもと15年。年々進化し続ける、座☆NAGAKUTEとは?
「長久手市文化の家」を拠点に活動する座☆NAGAKUTEは、1998年に旗揚げ。2001年からは佃典彦(劇団B級遊撃隊主宰・劇作家・演出家・役者)が指導を務め、本公演としては年に一度の活動(短編番外公演もあり)ながら年々実力をつけ、10代から70代まで所属するメンバーの個性もキラリと輝く、注目の市民劇団なのだ。
当初から既存の台本を用い、佃が用意した北村想や清水邦夫、別役実らの戯曲を上演してきたが、2010年からは劇団員が選んだ作品を上演。これまで多彩な作品に挑んできた彼らが今回選んだのは、80年代小劇場ブームを牽引したひとり、如月小春の『MOON』である。今週末19日(土)からの公演を間近に控える稽古場にお邪魔し、本作や15年にわたる指導の経緯などについて佃典彦から話を聞いた。
出演メンバー一同と佃典彦(後列中央)
── 数年前から座員の皆さんで話し合って台本選びを決めているということですが、そういうスタイルにしたのは、何かきっかけがあったんでしょうか?
2008年の『天狼騎士団』(作:高取英)まで僕が用意していて、次は劇団員の青山恵が『物怪東西掩蔵噺』を書いたので、第20回公演『クラブ・オブ・アリス』(作:高泉淳子)からみんなが選んでます。みんなで選ぶことにしたのは、そうしないと、戯曲を読まないから。だから「自分たちで読んで討論して決めてください」っていう風にやったら読むようになったんです。で、それを続けてる。
── 全員が持ち寄る形ですか。
結構みんな「あれ演りたい、これ演りたい」と持ってきて、毎回20冊くらい集まって、それぞれ回して読んだり読み合わせしたりしてますね。多数決で票の少ないものから外していって、最終的に残ったものを上演します。
── そこに佃さんはタッチしないんですか?
タッチしない。「好きなの選んで」って。「そのかわり、どんなのでも演出するから」と。
── これまで演出されてきて、一番面白かったものや意外な展開になった作品などはありましたか?
みんなどれも面白いなぁ、それぞれ。毎回、どんなのを選ぶのかなと楽しみですよ。
── 佃さんの既存台本でも上演されていますが、書き下ろしをされないのは?
書き下ろし台本って、鮮度が勝負だったりするじゃない。でも(座⭐︎NAGAKUTEは)稽古期間が長いんですよ。夏ぐらいから稽古を始めて、3月に公演だから。週に1回しか稽古しない時期が11月ぐらいまで続いて、12月から週3になっていくんですけど、稽古してるうちに鮮度がなくなっちゃう。(2011年上演の)『ほろほろと、海賊』は、別の劇団のためにその2年くらい前に書いたものかな。でもそれは別に構わない。既成の台本と同じだから。もし書き下ろすとなると、可能性があるのは座員の有志が「こういうホンやりたいです」って言って日程決めて、稽古期間ももっと短くて上演するということはあるかもしれないけど、本公演としてはあんまりそういうのはないかな。
稽古風景より
── 今作は如月小春さんの戯曲が選ばれたということで、佃さんご自身も「僕が学生時代にあこがれた演劇人」とチラシに書かれていますが。
僕が芝居を始めた大学の時、’80年代に第一線でキラキラやってた人だから。(今回の上演に向けて『MOON』の)台本を読んだ時も、やっぱり80年代の演劇の匂いがするなぁと思って。如月さんのホンは、世相の中で物事を捉えてる感じがしますよね、女性の視点で。
── 80年代の匂いというのは、どんな風に受け止めていらっしゃるんでしょう。上演にあたっての時代考証など。
古い感じはしないですね。時代背景は台本のまま変えていないので、携帯電話もパソコンも出てきません。奥さんがずっと帰ってこない旦那を待つ場面でも、今だったら携帯に電話かければいいんだけど、そういうシーンはないもんね。
── 初見ではどんな印象を受けましたか?
夫が帰ってこなくなった部屋に男が入り込んで、夫になってしまう。妻もその男を夫だと思って。安部公房の『友達』みたいに、最初は“乗っ取られた夫の話”だと思ってたんだけど、あっそうじゃないなと。愛を欲しがっている妻の話、そういう風にしか生きていけない妻の話なんだと思って。そこがね、面白くて。で、会社もクビになり、家庭も取られた夫が決闘しに行くっていう。一番動きがあるのは夫だから、夫が主役になるはずなんですよ、普通は。にも関わらず、そうなってないことが一番面白かったし、「えーっ、こんな書き方もできるんだ!」と思った。
── 読み方で主人公が変わって見える?
でもね、読むと明らかに妻が主役なんだよね。妻が主役として読まないと成立しないんだけど、パッと見は夫が主人公に見える。なので、普通に僕が演出すると夫がどうしても主役になっちゃうなと思ったので、そうしないように、これは妻がずーっと居て妻の話だっていうことにしないと、このままやったんでは無理だと思った。言葉のニュアンスとかで組み立てるのは無理で、視覚的に妻がずっとど真ん中に居る、ということにしておかないと、どうしても夫の方に話が引きずられちゃうなと。
稽古風景より
── そうすると、演出的な仕掛けや舞台美術などはどのように?
戯曲自体はそうはなってないんだけど、センターにマンションの一室を設えて、その中にずっと妻が居ます。で、その部屋が回転する。人力回り舞台です。その周りでいろいろ事件が起きたり、男が侵入してきたり。さらにその後ろに、街の人とかマンションの管理組合の人も居るんです。
── 別空間として同時に存在していると。
そうです。戯曲の中で<白い男>という、それがまぁ月なのか何なのか、とにかくずっと見ている抽象的な人物がいるんですけど、妻の様子だったり起こってる出来事を見ている人たちがほしい。それで、街の人や管理組合の人たちが“ずっと見ている”という意味合いもかぶせて居させてます。
<ストーリー> マンションの一室には夫の帰りを待つ妻がいる。ある日のこと、親切な男が道に迷った姑をマンションまで送ってきてくれた。どうやら男は妻のことを知っているようだ。しかし、妻は男のことがどうしても思い出せない。その男の出現により妻と夫の関係性に大きな変化が…。そのころ、妻の知らぬ間にマンションは取り壊しの計画が進んでいた。
── チラシにある「「勢いがあって静か」「明るくて暗い」「笑えて怖い」」そんな芝居です」というのは?
これが僕の80年代のお芝居に対する印象なんです。北村想さんもそうだし、鴻上尚史さんも川村毅さんもそうだけど、相反することが同時にあるみたいな。それがこの『MOON』にも感じるので、そこはちゃんとそうしたいなと思って創ってます。
── これまで15年間指導されて変遷をご覧になってきて、座⭐︎NAGAKUTE全体や座員の方の魅力はどんなところですか?
僕が大好きな藤井満洲子さん(今作では部長役)とか、最初からずっといる人も何人かいるんだけど、藤井さんを筆頭にみんなお芝居自体が上手になったと思うのと、一から十まで言わなくて良くなった。それはもう数年前からで、僕のやり口をわかってるっていうのも大きいんだけども。
── 座☆NAGAKUTEの皆さんはもちろん、佃さんに指導や演出を受けた役者さんは、より良く変化されている印象を受けますが、何かセオリーがあるのかなと。
セオリーは、あれですよ。距離と位置とセリフの音量の組み合わせ。それでほぼできると思ってるから、お芝居は。
── それはご自身の発見で?
竹内銃一郎に叩き込まれた(笑)。
── それをずっと実践されてきて、間違いはないなと。
うん、それは間違いない。たぶんね。やりがちなのは、セリフに想いやニュアンスをどうやって込めてやるかっていう。そんなことしてもしょうがないと思ってるから、僕は。だったら、そのニュアンスが出る距離と位置と、位置には身体の形も入るんだけど、それと声の大きさがあって。発想の仕方がまず、“気持ちは考えない”っていうことですよね。
── それは役者としてはやりやすいんですか?
やりやすいですよ。だって何パターンも考えつくから。気持ちとかってパターンが少ないけど、それをどうやって動きに変換するかと考えたら、この人が立っててこの人が座ってるとか、この人がここに来るとか、何百通りでもできる。そのうちの、どれかひとつをチョイスするだけだから。
稽古風景より
── そのやり方を、座員の方もだんだんわかってきたと。
ある程度わかってると思う。「それ、形変えてみよ」って言うと、考えてやるようになってる人は増えてる。形を先に作っちゃえば、そこにセリフのニュアンスが乗るっていうことなんです。それは竹内さんの教えもあるし、僕が児童劇を何本か作ってきて覚えたことでもある。
── 子どもたちに伝えるには、動きで示すのが一番伝えやすい?
そうそう。子どもはニュアンスとかなんとか、あんまり見てないからね。劇場は子どもにとっても特別な空間だから観るんだけど、体育館で上演する場合は自分らの庭だから。つまんないと観やしないんだよ、連中(笑)。それをどうやって1時間半とか気持ちを引っ張っていくかというと、アクションに繋いでいくしかない。アクションっていうのは、ワーッて動くことじゃなくて、動いてたものがピタって止まったり、大きい声でしゃべってたことがコソコソコソってなったり。そういうことで集中する、っていうのも勉強になった。
── それが子どもだけじゃなくて、大人の場合もそうだったということですね。
そうそう。全部が全部じゃないと思うんだけど。振り返ってみると、竹内さんが「芝居はアクションで繋いで創るもんだ」と言われたことが最初はわからなかったんだけど、児童劇をやってみて、あぁ、なるほどこういうことか。距離と位置とボリュームの組み合わせって、こういうことなんだなと。
劇団として年々強固な集団に成長していく様が見られるのと同時に、毎回キャスティングの妙も楽しみな座⭐︎NAGAKUTE公演。大胆な解釈でよみがえる’80年代演劇と佃セオリーが駆使された『MOON』はいったいどんな作品になるのか。19日(土)と20日(日)の両日14:00公演終了後には、アフターイベントとしてミニコンサートも開催予定なので、こちらもお楽しみに。
■作:如月小春
■演出:佃典彦
■出演:下島ユリ、碓井秀爾、吉本陽子、伊藤靖徳、藤井満洲子、桃原隆介、谷内範子、青山恵、西尾寿江、山田めぐみ、しずはたまこと、榊原みどり、増田ゆか、鬼頭一誠、Steve、多嘉山秀一、長川亜弥
■日時:2016年3月19日(土)14:00・19:00、20日(日)14:00
■会場:長久手市文化の家 風のホール(愛知県長久手市野田農201)
■料金:前売一般1,200円、高校生以下800円 当日一般1,500円、高校生以下1,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「藤が丘」駅下車、リニモに乗り換え「はなみずき通」駅下車、徒歩7分
■問い合わせ:長久手市文化の家 0561-61-3411
■座☆NAGAKUTE 公式サイト:http://thenagakute.gozaru.jp/index.html
■長久手市文化の家 HP:http://www.city.nagakute.lg.jp/bunka/ct_bunka_ie.html